双子
教室を出ると、そこには優奈が立っていた。
「七原実桜は部室に向かってるようね」
優奈が言う。
麻里奈が七原の後を追っていて、その報告が優奈にテレパシーで伝えられているのだ。
「そうだろうな。そんな気がしてたよ」
七原は一人になれる、あの場所に足を向けるだろう。
そう思っていた。
それは、ほぼ確信に近いものだった。
「わたし達が来る必要性は、無かった気がするんだけど」
「いや、いざという時のための保険だよ。七原は結構なダメージを受けていた。そういう時は考えられない行動をしたりするもんだ」
そう言いながら、俺たちは部室へ向かい、歩き出す。
「わたしは感心しない」
優奈が、ぽつりと呟いた。
「何の事だ?」
「自己犠牲とか馬鹿だと思う」
「七原を嫌いだと言った事か?」
優奈は頷く。
優奈は、さっきの教室でのやり取りを聞いていたようだ。
「あんな言い方をすれば、戸山望と七原実桜の関係を勘繰る人はいなくなる。クラスの連中が七原実桜に抱いた反感も、あれで無かった事になる。でも、あんな事しなくても、七原実桜が、ちゃんと自分で説明すれば良いだけでしょ」
「そうだな」
「元に戻れるまで少し時間は掛かるだろうけど、あれだけの事で七原実桜は嫌われ者になんかならない。一方、あの発言によって戸山望は、さらに嫌われていく」
「そうだな」
でも、例えそうだとしても、七原の負担は少ない方がいい。
だから、あれで良かったのだ。
「お前だって、自分を犠牲にして嫌われ役をやっただろ? 七原への悪態とか」
「別に七原実桜に嫌われたところで、わたしは痛くもかゆくもないから」
「俺もクラスメートに嫌われたところで痛くも痒くもないんだよ。せめてもの罪滅ぼしだ。俺は七原を騙しているんだからな」
「今回の事には、ちゃんとした理由があるでしょ。七原さんの能力を排除する為という、やむを得ない理由が」
「そうだな。でも、これでいいんだよ」
「愚か者に何を言っても無駄ね」
優奈は呆れ顔で言った。
「まあ、ここまでやったんだから、七原実桜は確実に呪縛から解放してあげないといけないね」
「呪縛か……確かに能力なんて呪縛みたいなもんだな。あの呪いの手紙ってセンスは、どうかと思ったけどな」
「悪かったわね」
「しかも、ほぼ『お祝い』の手紙だったぞ」
「それは麻里奈に言って」
最初の四行は優奈が書いて、それ以降は麻里奈が書いたという事なのだろう。
だから、あのクレイジーな呪いの手紙が出来上がったのだ。
――そんな事を話している内に、特別棟の近くまで来ていた。
麻里奈が俺達を待っている。
「七原先輩、泣いてるよ」
何も出来なくて、もどかしいのだろう。
麻里奈の顔からは、いつもの笑みが消えていた。
その笑顔が消えてしまうと、双子は、どちらがどちらか分からなくなる。
今、双子を識別する方法は、麻里奈の肩に提げられた円筒状の鞄だ。
それは、野球部などが使っているバットを入れる専用の鞄である。
麻里奈は、その鞄を俺に差し出した。
「まったく……悪夢だよな。このバットが能力を消す為の道具だなんて」
双子は俺の目を見ると、ぴたりと同時に頷く。
「じゃあ、行って来るよ」
俺がそう言うと、優奈も口を開いた。
「絶対に失敗しないで。これは、たぶん最初で最後のチャンスだから」
「ああ、わかってるよ」




