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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第一章 七原実桜編
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双子


 教室を出ると、そこには優奈が立っていた。


「七原実桜は部室に向かってるようね」


 優奈が言う。

 麻里奈が七原の後を追っていて、その報告が優奈にテレパシーで伝えられているのだ。


「そうだろうな。そんな気がしてたよ」


 七原は一人になれる、あの場所に足を向けるだろう。

 そう思っていた。

 それは、ほぼ確信に近いものだった。


「わたし達が来る必要性は、無かった気がするんだけど」

「いや、いざという時のための保険だよ。七原は結構なダメージを受けていた。そういう時は考えられない行動をしたりするもんだ」


 そう言いながら、俺たちは部室へ向かい、歩き出す。


「わたしは感心しない」


 優奈が、ぽつりと呟いた。


「何の事だ?」

「自己犠牲とか馬鹿だと思う」

「七原を嫌いだと言った事か?」


 優奈は頷く。

 優奈は、さっきの教室でのやり取りを聞いていたようだ。


「あんな言い方をすれば、戸山望と七原実桜の関係を勘繰る人はいなくなる。クラスの連中が七原実桜に抱いた反感も、あれで無かった事になる。でも、あんな事しなくても、七原実桜が、ちゃんと自分で説明すれば良いだけでしょ」

「そうだな」

「元に戻れるまで少し時間は掛かるだろうけど、あれだけの事で七原実桜は嫌われ者になんかならない。一方、あの発言によって戸山望は、さらに嫌われていく」

「そうだな」


 でも、例えそうだとしても、七原の負担は少ない方がいい。

 だから、あれで良かったのだ。


「お前だって、自分を犠牲にして嫌われ役をやっただろ? 七原への悪態とか」

「別に七原実桜に嫌われたところで、わたしは痛くもかゆくもないから」

「俺もクラスメートに嫌われたところで痛くも(かゆ)くもないんだよ。せめてもの罪滅ぼしだ。俺は七原を騙しているんだからな」

「今回の事には、ちゃんとした理由があるでしょ。七原さんの能力を排除する為という、やむを得ない理由が」

「そうだな。でも、これでいいんだよ」

「愚か者に何を言っても無駄ね」


 優奈は呆れ顔で言った。


「まあ、ここまでやったんだから、七原実桜は確実に呪縛から解放してあげないといけないね」

「呪縛か……確かに能力なんて呪縛みたいなもんだな。あの呪いの手紙ってセンスは、どうかと思ったけどな」

「悪かったわね」

「しかも、ほぼ『お祝い』の手紙だったぞ」

「それは麻里奈に言って」


 最初の四行は優奈が書いて、それ以降は麻里奈が書いたという事なのだろう。

 だから、あのクレイジーな呪いの手紙が出来上がったのだ。


 ――そんな事を話している内に、特別棟の近くまで来ていた。

 麻里奈が俺達を待っている。


「七原先輩、泣いてるよ」


 何も出来なくて、もどかしいのだろう。

 麻里奈の顔からは、いつもの笑みが消えていた。

 その笑顔が消えてしまうと、双子は、どちらがどちらか分からなくなる。


 今、双子を識別する方法は、麻里奈の肩に提げられた円筒状の鞄だ。

 それは、野球部などが使っているバットを入れる専用の鞄である。


 麻里奈は、その鞄を俺に差し出した。


「まったく……悪夢だよな。このバットが能力を消す為の道具だなんて」


 双子は俺の目を見ると、ぴたりと同時に頷く。


「じゃあ、行って来るよ」


 俺がそう言うと、優奈も口を開いた。


「絶対に失敗しないで。これは、たぶん最初で最後のチャンスだから」

「ああ、わかってるよ」




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