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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第八章
218/232

登校2


 予想だにしない言葉に、思わず奇声を上げてしまった。

 そんな俺を見て、七原は笑みを浮かべる。


「まあ、気が付いてなくても不思議は無いけどね。戸山君って鈍感主人公体質だから」

「いやいやいや。気づくも気づかないも、有り得ない事だろ。麻里奈の『あざとさ』は、ただのノリだよ。じゃないと、あんな風に取って付けたようなキャラにならないはずだ」


 あれが本当の麻里奈であるとするならば、俺は麻里奈の性格……というか人格を大きく取り違えているという事になる。

 そんなはずは無いだろう。


「取って付けたかは別として、私も麻里奈ちゃんのそれを見て、麻里奈ちゃんが戸山君を好きだと言ったわけじゃないよ」

「じゃあ、何を根拠に?」

「根拠か……説明しづらい話なんだけどね……戸山君と麻里奈ちゃんの関係性を見てれば分かるって感じかな」

「関係性って言ってもな。麻里奈とは兄妹みたいなもんだし」

「はいはい、いもうといもうと。ありがちなやつね」

「まあ、確かに兄妹ってのは鈍感主人公体質の常套句(じょうとうく)だけど」


 七原がジトっとした目を向けて来る。

 今日の七原は少し厄介だ。

 厄介さん四号と名付けよう。


「戸山君。それはね。戸山君に安心感とか、包容力とか、そういうものを求めているって事だよ。別に本当の兄妹ってわけじゃないんだし」

「そんなこと言われてもな。有り得ない事は、やっぱり有り得ないよ。双子とは長い付き合いだけど、あいつらは他人の事なんて、まったく興味が無いんだ。二人だけで完結する二人だけの世界で生きている」

「そうね。能力者としての観点で優奈ちゃん達を見ると、そうなると思う。だからこそ、二人はテレパシーという能力を得たんだし、テレパシーを得たからこそ、更に他人というものを必要としなくなってる。悪循環ね」

「ああ」

「ちょっと前までは、戸山君の言う通り、本当にそういう状態だったんだと思うよ。でも、ヒトって変わるものでしょ?」


 人は変わる――それに関しては、俺と七原で意見の食い違いがある。


「そうかな。外面(そとづら)は変わっても、余程(よほど)の事がなければ中身は変わらないって思うけどな」

「でも、戸山君は、この一年間、沢山の能力者を排除してきたわけでしょ? 戸山君の力は、その性質上、誤魔化しが聞かない。絶望の淵にある能力者を改心させるだけの理屈を用意しなければ、解決は叶わない。それがどれだけ大変な事か――それでも、戸山君は結果を出し続けて来た。結果を出すだけの実力を身につけてきた。戸山君は変わったんだよ」

「変わったのは俺かよ」

「そうね。対外的にも内面的にも一番変わったのは戸山君なんだと思う。私が戸山君を評価するのは烏滸(おこ)がましいけど、これ以上、適切な言葉が無いから言わせて貰うね――戸山君は成長したんだよ」


 真剣な眼差(まなざ)しを向けてくる七原に、仕方なく頷きを返した。

 そんな気はまったくしないが、七原が言うなら、そうなのかもしれない。


「戸山君を見る優奈ちゃん達の感情にも変化があったはずだよ。二人の間で戸山君の存在は、より大きなものになっていった。そして、そんな中、戸山君が二人を(だま)しすかして、脅しまわし、俺が必要だろ、俺が守ってやると言い続けた。反論しようにも、出来ないよね。戸山君の排除が能力者達を改心させてるという現実があるんだから」

「双子の視点で見ると、そんな話になるんだな。楓の指示があったとは言え、結構なハラスメントだ」


 他人の口で語られて、初めて気づく発見だ。

 やはり一人で全てを実行するのも問題があったって事だな。


「でも、麻里奈ちゃん達は戸山君を嫌悪するまでには至らなかった。それどころか、二人の戸山君に対する信頼は更に大きくなっていっているんだと思う」

「いやいや、優奈の態度は全く変わってないけどな」

「それも見た目だけの話だよ。優奈ちゃんと麻里奈ちゃんの中で情報は共有されているもん。戸山君に対する思いが大きく違って来る事は無いと思う」

「じゃあ、優奈のあの感じは何なんだよ?」

「戸山君への信頼感より、能力を奪われる恐怖が少しだけ先立ってるって事でしょうね。その(わず)かな違いが、二人の態度をまったく別のものにしている。優奈ちゃんに戸山君を信じたいという気持ちがあるって事は、私にも伝わって来てるよ」


 信じたいか……。

 これも罪悪感でチクリチクリと胸が痛む話である。

 まあ、言っても仕方が無い事なのだが。


「そっか。双子の心境は理解したよ。七原の言う通り、俺は意外と信頼されているのかもしれない――でも、それが即、俺への好意に結びつくとは思えないけどな」


 決して、麻里奈からの好意の確証を欲しがってるわけじゃない。

 そこら辺の事実をはっきりさせておきたいだけだ。

 だけだ……!


「でも、間違いないよ。じゃないと、何で今回、麻里奈ちゃんが排除に参加したいって言い出したのかって話になる」

「それって、そんなに不思議な事かな? 俺にばっかり仕事を押しつけてるのが忍びないって気分になったんだよ、たぶん」

「でも、戸山君は、わざわざ念を押して、目立つような事はすべきじゃないって言ったんでしょ?」

「まあ、そうだけど」

「戸山君が、そう言うなら、あの二人は逆らわない。余程の事が無い限りね」

「そんなもんかな?」

「そうだよ。あと、経験談からだけど――そもそも能力者が自らの能力を危険に(さら)すのは最後の手段ってくらい慎重になるはずの事だから」

「じゃあ、何で麻里奈は自分で名乗り出てきたんだ?」

「本人と話してないから確証とは言えないけど、私の考えでは、プリミティブな感情の発露(はつろ)があったんじゃないかなって」

「プリミティブ? 発露?」


 俺が問いかけると、七原は一つ頷きを返して口を開いた。


「麻里奈ちゃんは嫉妬してるんだよ、私に」

「七原に嫉妬?」

「私が戸山君の隣に居るのが許せなくなってるって事。私を押しのけてでも、自分が隣に居たいと思ってるの」

「さっきも言ったけど、麻里奈は俺に協力する理由を『七原に追い付きたいから』って言ってたんだけどな」

「嫉妬してるからって、嫉妬してると宣言する人は少ないと思うよ」

「そっか……だけどなあ……」


 と言いつつ、立ち止まり、思い直す。

 能力者の言葉を額面(がくめん)通りに受け取ってはいけない。

 麻里奈が本気で騙す気になれば、俺に看破する事は出来ないだろう。

 七原の説にも十分に可能性はある。


「麻里奈ちゃんは、きっと安心して油断していたんだよ」

「安心? 油断?」

「以前まで、戸山君は嫌われ者だったし、戸山君が誰かに盗られるなんて想像も出来なかった。だけど、この一週間で戸山君の周りの状況は、全く異なるものになっている。麻里奈ちゃんは、戸山君というオタサーの姫が自分達のサークルから――」

「もう分かったよ。その例えは、やめてくれ。七原の見方は正しいと思う」

「それならいいけど」


 ここまで詰められたら、同意するしかない。

 七原の言ってる事が(もっと)もだと思えてくる。


「そうだな。委員長の所為で嫌われてたって件も片付いたし、七原の存在もある。状況は変わってるんだ」

「でしょ?」

「だけど、一つ気になるのは――今まで俺が散々『優奈に好意がある』って言って来た事だよ。それには嫉妬しなかったのか?」

「そうね。優奈ちゃんは嫉妬の対象には成り得ないんだよ」

「何故?」

「優奈ちゃんと戸山君が付き合っても、麻里奈ちゃんと戸山君との距離は離れない――お兄ちゃんと妹という繋がりが残るからね。麻里奈ちゃんの目的は戸山君との繋がりを維持する事だから」

「なるほど」

「麻里奈ちゃんにとって戸山君は沼なんだよ、足掻(あが)けば足掻(あが)くほど、奥底へと引きずり込まれていく泥沼。のぞいてもないのに、こちらをのぞいて来る深淵」


 さっきから七原の例えに悪意しか感じないのだが。


「それって結局、俺に依存してるってだけの話だよな」

「だとしても、同じだよ。戸山君を純粋に慕ってるって事実は変わらない」

「純粋か……」


 このげっそり感に、自分が意外と色めき立っていた事に気がついた。まあ、麻里奈は可愛いからなあ。


「七原、ありがとう。重要な話を聞けて良かったよ。これからは、そういう事を含めて、双子にどう対処するかを考えていかないといけないな」

「待って、戸山君。まだ、この話には続きがあるんだよ」

「続き?」

「そう。こういう風に麻里奈ちゃん達が排除に参加する事になったのは、裏で糸を引く黒幕がいたんだよ」

「楓か?」


 七原がニヤリと笑う。


「一応、勿体(もったい)ぶってみたけど、戸山君なら分かるよね――そう。楓さんは麻里奈ちゃんの隠している気持ちを理解した上で、麻里奈ちゃんが戸山君の排除に参加したいと言い出すように仕向けたの」

「確かに、楓は双子のカウンセラーだったし、双子がどう振る舞うかってのも予測できると思うけど」


 しかし、楓が何故そんな事を……。


「楓さんの行動一つ一つ全てに理屈がある――戸山君は疑問に思わなかった?」

「何がだ?」

「楓さんが何故、私が戸山君の隣に居る事を許したのか。何故、楓さんは初対面の時、私に『ノゾミを頼むよ』なんて言ったのか」

「ああ。そういえば、そんな事もあったな……」


 確かに、楓のその言動には少し違和感があった。

 俺が頼りないから、七原の加勢は心強いという事で納得していたが、おかしいと言えばおかしい話である。


「私みたいな何も分かってないズブの素人が戸山君の隣に居たら、楓さんが何年もかけて来た計画を無茶苦茶にしかねない。普通だったら、歓迎なんて出来ないはずだよね」

「そっか。そうだな。楓は、兄の早瀬ユウが首を突っ込んで来たら、刺し違えてでも止めるって言ってたわけだし」

「楓さんなら私が諸々の件に関わらないように手を回すのも簡単だったはず」

「でも、それをしなかったのは――」

「私が居れば、優奈ちゃん達を自然な形で巻き込む事が出来ると思ったから――ってのは十分に考えられる事だと思うよ。楓さんは、優奈ちゃん達が、あくまでも自発的に参加する事を優先したかったんじゃないかな」

「なるほど」


 確かに七原の言う通りだ。

 楓ならば、そのくらいの事は当然のようにして来るはずだ。


「考えれば考えるほど、よく出来てるんだよね。陽向ちゃんを排除能力者として呼んだのは――」

「双子が勝手に排除されないようにって事だな」

「そう。楓さんの策って手間は多いけど、案外シンプルに出来てる」

「しかも、物凄い力技なんだよ。そこら辺の強引さとか執念は、本当に尊敬するよな」


 七原と目を合わせて、笑い合う。

 同じく楓に振り回される者としての共感である。


 と、そこで一つ気になる事が出てきた。

 俺は再び真面目な顔に戻して、口を開く。


「って事になると、陸浦栄一の行方不明も、楓が裏で糸を引いてるって可能性はあるのかな?」


 俺の問いかけに七原は首を(ひね)った。


「それは……どうなのかな。今までとは違って、楓さんが自分で連絡してきたのよね? 少なくとも、そうやって焦るだけの想定外はあったんだと思う」

「まあ、そっか。今回の件は『三日』っていう期限があるし、楓の思うように進んでない可能性が高いって事かな」

「私達が、そう考える事も含めて、全部計算通りって可能性もあるよね。楓さんなら」

「ああ。それも考えておかないとな」


 七原は一つ溜息を吐き、俺の目を見た。


「どのみち、私達の考えなんて全て結果論だよ。これからの事なんて分からない」

「そうだな。そうかもしれない」

「ただ一つ、絶対的に確かな事は、楓さんの言う通り、戸山君が栄一さんを排除しないといけないって事ね。栄一さんは鍵となる人物で間違いないはずだから」



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