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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第七章
208/232

七原


「そうかな。必ずしも早計とは言えないと思うけど」


 七原は、霧林にも気を遣っているのだろう。携帯の画面の中、遠慮がちに視線を外し、そう言った。


「まあ、考えてみればそうだな。霧林さんが市立病院を辞めてから八年と考えると、霧林さんの子供はちょうど――」

「ちょうど、今の三津家さんくらいの年齢になるって事よね」


 こういう展開になってくるのか。

 確かに、三津家を養子にするという話は、失った親子関係を元に戻したかったからと考えれば納得がいく。


 後部座席を振り返る。

 霧林は俺の目をじっと見て、静かに首を横に振った。

 真に迫る演技ではあるが、この期に及んで、それに騙される事は無い。

 もし偶然だとするなら、霧林の家族はどこに消えてしまったのかという話になる。


「親子か……考えてもみなかった事だな」

「そうかな。霧林さんが三津家さんに向ける目には、執着心に近いものがあった。妙に過保護だったし、あんな風に一人一人の能力者と向き合っているとは思えない。私としては、『やっと繋がったな』って感じだったよ」

「そうだったのか……なるほど」


 今日は折に触れて七原の存在の大きさを実感する日だなと思う。


「霧林さんと三津家さんが親子なら、何故、その事実が今まで露見しなかったのかってのが問題になるけど――それも、剛村たけむらさんが答えをくれた」

「それは?」

「霧林さんと付き合っていた看護師さんの話なんだけど、彼女は霧林さんとの関係が不倫だったって事に相当ショックを受けていたらしいの。彼女の周囲も霧林さんに強い反感を持って騒ぎ立て、霧林さんの噂は瞬く間に広まっていった――でも、それから一週間もしない内に、綺麗さっぱり、誰もその話題を持ち出さなくなったそうよ」

「それを能力によるものと解釈したって事だな……」

「そう。もしかしたら霧林さんは洗脳系の力を持ってるんじゃないかって思ったの。その力があれば、噂が広まるのを抑えたり、三津家さんと親子であるという事実を隠し通したり――わりと何でも出来るでしょ?」

「なるほど。そして俺も、霧林さんの都合で動かされていたって事だな」

「そうね。そういう事だと思う。だから、すぐにでも動かないと戸山君が危ないと思った。本当に洗脳系の能力だったら、いざとなれば排除能力者を操つって、戸山君の記憶を消すなんて事も出来るだろうし」


 俺と発想が同じだ。

 そう思いながら頷く。


「その話をすぐに戸山君に伝えようと思ったんだけど、時間はもう放課後だった。霧林さんと行動しているとするなら、私が連絡することで、霧林さんを警戒させてしまうかもしれない――それで、どうしようかって考えていたら、亞梨沙から電話が掛かって来て」


 放課後に逢野おうの亞梨沙か……おそらく、特別棟での一悶着ひともんちゃくが関係しているのだろう。


「逢野は何て?」

「亞梨沙、すごい剣幕でね。戸山君が麻衣とコソコソ特別棟に行くのを見たって。あれは絶対、怪しい関係だって」


 その後の茶番を話さないのはズルくねえか――と思うが、まあ、それはそれでいいかなとも思う。

 俺にも、あの出来事を言葉で説明する自信が無い。

 今、考えても何なんだよ、あれ。


「分かってると思うけど、俺が柿本に会ったのは柿本理事官に電話を繋げて貰うためだよ」

「うん。分かってるよ。なんとか亞梨沙をなだめて電話を切った後、すぐに麻衣に電話してみたの。麻衣は戸山君に頼まれて叔母さんに電話を繋いだと言っていた。そのとき、戸山君が楓さんがとか何とか言っていたと聞いて」

「なるほどな。それで、一気に楓と繋がったわけか……」


 あの面倒事が、そんな恩恵をもたらしてくれているとは思わなかった。

 お星様になった守川と委員長の事は忘れないでおこう。


「ほんと、ミオには頭が上がらないよ」


 楓が、ぽつりと呟く。

 視線をあげると、いつの間にか海岸通りまで出ていた。

 この通りを道なりに進めば、十分ほどで砂見病院に到着する。


「あたし達は八年も騙され続けていたんだ。マコトにとって都合の良いように動かされていた。それをミオは、いとも簡単に……」

「今回は霧林さんが私や剛村さんをマークしてなかった事も含めて、色々と良い条件が揃ったってだけですよ」

「それにしてもって話だ――なあ、ノゾミ。先週に言った通りになっただろ、ミオの事」


 七原は興味深げに、こちらを見る。


「え。先週、私の事、何か話したの?」

「ああ。楓に、七原実桜って能力者に苦戦してるって話をしたんだよ。そうしたら楓は、『そういう難敵こそ、心強い味方になるもんだぞ』とか言って――で、実際、紆余曲折ありつつも、何だかんだで、こんな事になったって話だよ」

「難敵って、まあタチの悪い能力だったとは自覚してるけど……」

「いやいや、七原は過去一番に苦労した能力者だからな。ラスボスとか、そういうポップな感じじゃない――七原は魔王だったよ」

「すごい嫌な言われ方なんだけど」


 七原が、じとっとした目で俺を見る。

 それに心を奪われていると、楓が、ぽんと俺の肩に手を置いた。


「先週も言った通り――ノゾミにとってマオウとの出会いは、大きなプラスだったわけだし」

「楓さん! ナチュラルに、私をそう呼ぶのは、やめて下さい!」


 七原が抗議の声を上げた。


「了解。じゃあ、話を戻すけど――もう、ノゾミの排除というものを語る上で、マオを外して考える事は出来ないと思うんだ」

「実桜です! それ、魔王に引っ張られてますから!」


 七原の突っ込みを意に介する様子もなく、楓は続けて口を開く。


「本当に、ミオには心から感謝してるんだよ。人と人との繋がりこそが、ノゾミを排除能力者として成長させていく。これからもノゾミを支えてやってくれたら嬉しいよ」

「それは……私も好きでやってますから」


 七原が顔を赤くしながら答えた。


「そっか。安心したよ。ミオとノゾミは本当に良いコンビだ」


 ふざけたいのだか、そうではないのか――楓と話していたら、何が何だか分からなくなって来る。

 それでも、付き合わなければいけないのが、俺達の辛いところだ。


「で、ノゾミの方はどうだったんだ? エイイチと会ってたんだろ?」


 三津家から話を聞いたのだろう。今度は陸浦の話題を振ってきた。


「エイイチ……? って、もしかして、あの陸浦栄一さんと会ってたの?」


 七原が目を丸くする。


「ああ。栄一さんからは、放火事件の当日、上月さんに会っていたという話が聞けたよ。でも、その代わりって言うのもなんだけど、栄一さんの能力で、それなりに酷い目に遭わされた」

「栄一さんの能力って?」

「他人の記憶を奪うってものだ――これが、めちゃくちゃタチが悪い能力でな。能力と結びつく記憶を奪えば、その能力者の能力まで奪えるんだ」

「って事は……」

「陸浦栄一は複数の力を持つ能力者って事だよ」

「完全なチートキャラってわけだね」

「まあ、そうだな。でも、不思議なのは何故、栄一さんが俺の記憶を奪わなかったかって事だ。俺は栄一さんの本当の能力も知った。事件当日の上月孝次との事は栄一さんにとっても知られたくない事のはずだ」


 この情報が本部まで上がれば、収賄事件の時と同様に、信用を失ってしまう事になるだろう。罪に問われる可能性もある。


「エイイチの理屈は、あたしたちの思考が及びもしないところって事さ。清廉潔白でもないし、悪の権化でもない。あたし達だって結局のところ、自分の都合で動いているだけだろ?」


 確かに、楓も陸浦隆一と繋がって、能力者の数をコントロールしていた。

 楓もまた、目的のためには手段を選ばない。裏で、幾つものルール破りをしているはずだ。


「この街には一人も真人間が居ないって事だな」

「ああ。そうだな。マチコには、決して話せない話だけどな」


 理事官に裏の活動の事をゲロるなよと、さりげなく釘を刺してきたというところだろう。


「だな」

「あ、それとマチコの前では、あたしは彼女を理事官と呼んでる。だが、それも気にしないでくれ」


 さすがの楓も直属の上司には弱いんだな。

 そんな事を考えていると、木々の隙間から砂見病院が見えて来る。


 いよいよだ……。


 昨日と今日。

 まったく違う状況で、この場所に戻ってきた。

 だが、そんな事に戸惑ってはいられない。

 俺は進み続けなければならない。


「到着だよ、ノゾミ。さあ、排除の時間だ」



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