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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第七章
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学校


 寝癖を直した三津家と連れ立って歩く。

 道路を一つ渡れば学校なので、もう別行動をしても良いのだが、三津家が優奈達と遭遇してしまうのが矢張やはり恐い。


「昼飯を買うから、コンビニに行くけど、三津家は何か持って来てるか?」

「私はお弁当があります」

「へー。自分で作ったのか?」

「いえ。施設の看護師の松永さんという方が、『自分のを作るついでに』と言って作ってくれました。『せっかく学校に行くんだから、お弁当が良いでしょ』って」


 霧林もだが、その松永という人も、三津家が社会復帰に不安を抱かないように、色々と気を回してくれているのだろう。


「いい人だな。施設暮らしだと、学校に行く機会なんて無いもんな」

「ご厚意はありがたいのですけど、遠足じゃないんだからと思いました。私はコンビニで十分です」

「そんな事を言うなよ。わかった。じゃあ、おやつを買ってやるよ、三百円までな」

「遠足じゃないんです!」


 三津家が不満げに声を上げた。


「遠足だよ。高校ってものや、他の生徒達を見るのも大事な勉強だ。そういうものを見てたら、能力云々うんぬんから足を洗いたいって気持ちになるかもしれないだろ? それが排除につながるんだ」

「私は排除されるつもりは無いんですけど」

「色々なものを見聞きして、経験した上で、それでも排除能力者でありたいって言うならあきらめる――ってな感じのこと、昨日も話しただろ?」

「わかってます。それをおっしゃるとは思ってましたよ」

「俺が諦めるまではやる。その時が来るまでは付き合って貰うつもりだから」

「わかりました……」


 三津家が長い溜め息を吐く。

 そんなこんなの内に、コンビニに着いた。


「じゃあ、三百円までな」

「本気の話だったんですか」

「ああ、排除ってのは金になるんだ。十分にペイ出来るから心配しなくていい」

「はあ……先輩の軽口には、きっといつまでも慣れないんでしょうね」


 ささっと買い物を終えると、さっさと学校に向かった。

 校舎に入ると特別棟で三階まで上がり、渡り廊下を通って教室の前へと到着する。


「三津家、先に教室に入っておいてくれ」

「先輩は?」

「俺と一緒に行動してたら、クラスで浮くだろ。あと、先輩って呼び方は学校内では禁止な」

「では、何と?」

「普通に『戸山君』でいい。それが無難だ」

「わかりました」



 三津家が入っていった後、少し時間を空けてから教室に入る。

 それでも早い時間なので、教室は人もまばらだ。


 三津家は誰かにかまって貰ってるだろうか……。

 そう思って辺りを見回してみると、ぽつりと自分の席で机に突っ伏して寝ていた。


 俺は一つ息を吐くと、その隣の自分の席まで行き、鞄を置いて横を見る。

 机での眠り方を知らないのだろう。腕を枕にする事もなく、顔面を直に机に付けて寝ている。


 七原がいたら、上手くやってくれていただろうか。

 上手くやってたんだろうな……。

 そう思うが、休んでいるので仕方ない。


 それでも誰かと話をさせたい。

 ここは、やっぱり七原の友人から選ぶべきだろう。

 それを考えて、すぐに思い浮かぶのは、割とマトモに会話が出来る佐藤さとう千里ちさとのことだ。

 佐藤の方へ顔を向けようとすると、逢野おうの亞梨沙ありさと佐藤が小声で、ひそひそ話しているのが聞こえてきた。


「亞梨沙は、そういうけどさ……そこまで、悪い人かな?」

「何を今更。昨日も、お姉ちゃんが、ずっと携帯をイジっててね。『相手誰?』って聞いたら、あいつだったの。で、『内容は何?』って聞いたんだけど教えてくれなかった。何? 何なの? 何で、うちのお姉ちゃんと繋がってんの? どんな会話してんの?」

「知らないよ。でも、誰が誰と話してても自由でしょ」

「他人を傷付けてまで許される自由ってある?」

「もしかして、それが理由で実桜が今日休んでるってこと?」

「だと思う」


 ああ、逢野に邪魔されるに決まってるな。

 七原さえいれば……。


 そう思って考え込んでいると、前の方の席で藤堂の子分A・Bこと笹井と柿本が、こそこそ話しているのが聞こえてきた。


「昨日の放課後、急にいなくなったけど、あれ何? 紗耶、結構怒ってたよ」


 と、柿本。


「あいつと話してみたいと思って」

「あいつ?」

「あいつって言ったら、あいつしかいないでしょ?」

「は? あんな嫌われ者とからんで、どうすんの?」

「何ていうか……何て言って良いか分からないけどさ。昨日、あいつが夢の中に出て来たの。それで、激励げきれいされたというか、一番欲しかった言葉を言ってくれたというか……そんな感じだから、もうこの件は何も言わないで」

「何言ってんの? 保健室行く?」


 この二人は、まず選択肢から外すべきだろう。

 まあ、こいつらでも七原さえいれば……。


 そんな事を考えていると、後ろの方の席で、三津家が転校して来た事で後ろに追いやられた高梨が、他のクラスメートとこそこそ話している。


「あの子って、なんか同級生とは思えないよな」

「だな。教室に入って来た時、中学生かと思ったよ」

「あいつとの関係とか、他にも何か色々と変だよな。今日も、あいつと学校一緒に来てたし、教室前で別行動とか怪しすぎる」

「もしかして、あれじゃね? 最近問題になってるSNSで知り合って誘拐するみたいなやつ」

「たしかに、あいつなら、そういう無茶苦茶あり得るわ」


 どいつもこいつも、本人がここいるのに陰口かげぐち言いすぎだろ。

 てか、全員が全員、こそこそ話しているので、全ての会話が聞こえて来るという逆転現象が起きている。


 もう俺には、どうにも出来そうにない。

 救世主にしてコミュ力の王・七原実桜の帰還を待つしかないようだ。


 唯一失敗だったと思うのは、七原が休むなら、俺も休めば良かったというところである。

 だるい。眠い。頭が動かない。


 俺も授業まで寝るか……。

 そう思って、机に突っ伏した。


 そして、何の収穫も無いまま、時間は流れ、昼休憩を迎える。

 まあ、まだ三津家が来てから二日目だ。空気も分からないままで、無理させるのも良くない。


 夏木の話によると、三津家は小学生の頃から一人だったようだし、元々そういう性質なのかもしれない。


「戸山君……ちょっといいですか?」


 横で弁当のフタを開いた三津家が呟く。


「何だ? 」

「このお弁当、私の好きな物ばかり入っているんです。松永さん、知っていてくれてたんですよ」


 嬉しそうな三津家の顔……それだけが印象に残った。



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