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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第六章
179/232

証言者2

「やはり首謀者は百合さんでしたか」

「ああ。そうだよ。百合にとって、父は許容しがたい邪魔な存在だったんだ。まあ、百合の気持ちも分からなくもない。この街に住む限りにおいて、陸浦栄一の名前から逃れる事は出来ないからな」

「市長でしたからね」

「そうだな。でも、それだけじゃない。父は経営者としても偉大すぎたんだ。会社を譲り受けて二十年近く経つが、当初の私は、父と比較される事で不当なまでに低い評価を下されていた。周囲から優秀な人材が離れていき、あちらこちらで揉め事が起こり、機能停止を起こしていた。会社は徐々に傾いていったよ。もちろん、すぐにどうこうなるような状況では無かったが、それが続くなら倒産は見えていた。百合からすれば、折角せっかく金持ちを捕まえたのに話が違う、という感じだっただろう」

「それで隆一さんに能力の事を話したってわけですね?」

「そういう事だろうな。私は元能力者だが、父に排除されて記憶を失っていた。百合から能力の事を聞かされるまで、能力なんてものの存在は知りもしなかったんだよ」

「どういうり取りがあったんですか?」

「遣り取りまで言えっていうのか」

「僕はその場面に居合わせた訳じゃないので、隆一さんが仰って頂けないのなら、一華さんに憶測で語らないといけない事になります」

「ったく、外道が。わかったよ。話すよ」

「お願いします」

「百合はな、私が父に強いコンプレックスを持っていたのを知っていたんだ。だから、こう言った――世の中には様々な種類の能力者がいる。それを上手く使えば、あの男を見返す事なんて簡単だよ、って。私はその話に戸惑うばかりだった」

「隆一さんが、その話を受け入れる決め手になったのは?」

「それが、まあ……百合の力ってところだよ」

「百合さんの力って、実際はどんなものだったんですか?」


 隆一はぎろりと俺を睨み、警戒心を見せる。

 それだけ触れて欲しくない話なのだろう。


「人の心を掌握しょうあくする力だ。その強制力は本当に強かったよ。今でも、どこまでが私の本心で、どこまでが百合の力だったかが分からない。その時の私は、百合に見切りをつけられない為には何をすれば良いかという事しか考えてなかった。考えられなかったんだ」


 やはり沼澤美礼と同種の力のようだ。


「百合さんは、ご自分の力をどういうものだと?」

「自分こそが能力者の頂点に立てる存在なんだと言っていたよ。意味も無いから、そんな事をしようと思ったことは無いが、とも」

「そうですね。能力者を集めるほど、排除能力者に嗅ぎ付けられるリスクが高まる」

「ああ。だから、百合は有用な能力者だけを集めていた。そして、会社の経営は少しずつ好転し始めたんだ。しかし、それでもやはり父に勝つのは無理だろうと思ったよ。能力を使い始めた事で、父の排除能力におびえる生活が始まった。排除されれば、野望も生活も一気についえてしまう。もう一度、私達の人生を台無しにされてしまう。その恐怖があった。やはり父には敵わなかったんだ」

「その頃、玖墨さんも能力者にしたんですね」

「玖墨も、能力者にした……?」

「はい。僕達は玖墨さんにも色々と話を聞いているんですよ。その証言から、彼の力が恣意的しいてきに作り出されたものじゃないかと思ってます。玖墨さんの力は栄一さんの行動を監視するのにも最適ですし」

「そうだったのか……知らなかったよ。玖墨は、百合が突然連れてきたんだ。今までの能力者の中で一番使える力を持っている、と」

「そうですか……」


 ということは、百合が排除されている今、真相は闇の中って事だ。


「百合さんの周りに協力者の陰とかはありませんでしたか」

「分からない……全く分からないよ。私は、そういう事に関わりたくとも、関わらせて貰えなかったからな……私は百合の手駒の一つでしかなかったんだ」


 唐突に放ちだした小者臭。

 そのおどおどした話しぶりからは、七原に確認するまでもなく、彼が真実を語っていると伝わって来た。

 一華がコクリと頷き、口を開く。


「父の言ってる事は嘘ではないと思います。まさにこれが私の中での父と母の関係です」


 近しい人が語ることで実感が湧いて来たのだろう。

 ご本人登場の効果が目に見えてきている。


「収賄事件に関しても全て百合さんが考えたものって事ですか?」

「ああ。あれに関しての私の仕事は『余計なことをしないこと』だけだったんだよ。百合の計画は周到なものだった。あんな風に呆気あっけなく終わるとは思っていなかったが、それでも私達は大喜びした。父が排除能力者を辞めたという情報まで入って来た時は、さすがに警戒したがな。全ては私達を油断させる為の嘘で、何らかのアクションを起こしてくるかもしれないと思った。だが、そんな事はなかったよ。今はひっそりと隠居しているらしい」

「栄一さんは、まったく動かなかったんですか?」

「そうだよ」

「でも、百合さんは排除されているわけですよね?」

「それも知っていたのか?」

「あの様子を見れば分かります。で、百合さんは誰に排除されたんですか?」

「それは私だよ」


 今の今まで、自信なさげに語っていた隆一の表情が、ふっと引き締まる。


「え? そうなんですか?」

「ああ。だが、私にそんな力はない。排除能力者に依頼を出したんだ」

「それが楓って事ですか?」

「まさに、その通りだよ」

「でも、隆一さんは百合さんの力の支配下に置かれていたんですよね?」

「ああ。だが、私はその強制力が彼女の力だと知っていた。それを話してしまっていた事が、彼女の落ち度だったんだろうな」

「なるほど。でも、何で急に排除を?」

「百合が、秀一と一華を能力者にすると言い出したからだ。彼女は言った――確かに能力ってものにはリスクがある、それでも、この特別な才能を与えられたのだから、力を手に入れるべきだ、と。能力に囚われていたからこそ、能力に呪われていたからこそ、それが幸せだと思い込んでしまったんだろうな。だが、私はそのリスクの部分を見過ごせなかった。それを許せなかった。だから、排除したんだよ。それが妻の影響下で下せた私の唯一の判断だった」

「どうやって楓に依頼を?」

「父の裁判の時、取り巻きの中に一際ひときわ若い女性がいてな。彼女は私と目が合うと、つかつかと歩いて来て、名刺を押しつけて、急ぎ足で去って行ったんだ」

「その名刺には?」

「『だいすき。また来てね』と書かれていた」

「裁判所に……また来て?」


 困惑した表情を浮かべた一華の方に向き、口を開く。


「おそらく、キャバクラ嬢か何かの名刺を装ったものだったんだと思います。百合さんに発見されても夫婦間の揉め事だけで済むように、と」

「そういう事だよ。よく分かったな」

「楓のやりそうな事です」

「私も何でこんなもの渡されたのかを考えに考えて、ようやくピンと来たんだ。彼女は排除能力者じゃないかってね。それで、その名刺の連絡先にメッセージを送った。玖墨の耳がある以上、電話は出来なかったからな」

「楓には何と?」

「ストレートに伝えたよ。百合の力を排除して欲しい、と。樋口楓も、私が何で急に排除を依頼したのかって疑問に思ってたようだ」

「百合さんの企みを話しましたか?」

「ああ。話したよ。樋口楓も、危うく取り返しがつかない事になるところだったと言っていた。なんでも私の持っていた力はパイロキネシスだったらしい。秀一や一華が能力者になれば、同じように手に負えない強い力を持ってしまう可能性が高い、と」

「楓は、そんな事まで知ってたんですね」

「自分はエイイチの部下だから、色々と聞いているんだと言っていた」

「なるほど」

「樋口楓は『あなたはこちら側に寝返って下さい。これからも協力体制を維持していきましょう』と続けた。私が同意すると、『では、今夜は警備システムを解除して寝て下さい。朝には解決していますよ』と送って来た。そして翌朝、妻の寝室へと行くと、彼女は見たこともないような穏やかな表情で眠っていたよ。肩を揺らして起こし、会話をすると、いつもの百合だが少しだけ毒気が抜けている気がした。そして、能力に関する一切の記憶を無くしていたんだ」





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