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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第六章
177/232

玖墨について


「あくまでも推測ですが、当時の陸浦さんは、御両親が栄一さんをおとしいれた事に気付いていたのかもしれませんね」

「そうですね。家族が、そんな事をやっていて気付かないはずが無い……なのに、私は何をやっていたんでしょう」

「陸浦さんは当時小学生だったんです。声を上げたところで、何かが変えられたとは思えません。それに、そんな事をすれば、御両親の怒りの矛先ほこさきが陸浦さんに向いていたかもしれない。黙っておくのが正解でしたよ」

「確かにそうかもしれませんが……あまりにも不甲斐ないです」

「それは今、陸浦さんが当事者じゃないから言える事ですよ。実際、陸浦さんは、そんな事を考えていられる状況では無かったんだと思います」

「というのは?」

「陸浦さんは栄一さんの逮捕当日から三日間学校を休み、登校してきた日も半日で帰宅しました。転校した学校でもれ物に触るような扱いを受けていたと聞きます」

「そんな事まで調べているんですか?」

「これも逢野さんの人脈で調べてもらった情報ですよ。やはりコミュ力ってのは凶猛きょうもうな武器ですよね。今も次々にメッセージが届いてます」


 俺は携帯を取りだし、逢野姉とのり取りを見せた。

 その情報量に一華も少し引いているようである。


「この人達の方が能力者より余程恐いと思う時がありますよ」

「ですね」

「話を戻しますね――栄一さんの事件による周囲の環境の変化は、陸浦さんにとって耐えがたいものでした。その上、御両親の事にも気付いていたとするならば、無力感、罪悪感、絶望感……考えただけでも息が詰まります。その『どこに行ったって逃げ場が無い』という実感こそが、誰にも認識されなくなるという陸浦さんの能力を作り出したんだと思います。今回調べた限りでは、陸浦さんが実際、いつ能力者になったのかは分かりませんでした。ですが、能力者になった理由に関しては間違いなく的を射てると思います」

「そう……ですね」


 一華が目を伏せた。

 ここまでは救いようが無い話である。


「そしてその半年後、陸浦さんは中学生になり、玖墨さんと同じ学校に通い始めます」

「玖墨君……」


 小声で、その名前を復唱する一華。


「お二人が、どういう形で出会ったかは分かりません。陸浦さんも玖墨さんも覚えていないという事は、お互いが能力者と知っていたか、その時、能力者と気付いたかのどちらかだと思います」

「玖墨君が私の力を知っていたかもしれないって事ですか?」

「それも今となっては知りようが無い話です。まあ、玖墨さんは隆一さんの云々うんぬんに巻き込まれてから、すでに三年も経っていたんです。隆一さんの家の事情を気にしていたでしょうし、知っていてもおかしくないですよ」

「なるほど」

「逢野さんに依れば、当初お二人が近づいていたという可能性は低いとのことです」

「その理由は?」

「彼女の情報網に目撃例が引っ掛かってこなかったからだそうです。すごい自信ですよね――まあ、でも、これに関しては実際の所は分かりません。陸浦さんは透明になる能力を持っていたんですから」

「私が力を使っていたとしたら、何故そんな事をする必要があったんでしょう?」

「御両親がお二人が近づくのを快く思わないと分かっていたからだと思います。お二人は最近まで隆一さんと頻繁に連絡を取っていたんですが、その事は隆一さんがお二人に対してある程度の影響力を維持していた事を示している。お二人にとって、その障壁は想像以上に大きかったんだと思いますよ」

「それを聞くと、私と玖墨君が一緒に住んでいたって話も疑いたくなります。たまたま居合わせただけってのは考えられないんですか?」

「それは無いと思います。陸浦さんは先日、同窓会に参加されましたよね?」

「はい」

「その時、陸浦さんは自ら同棲しているという発言をしているんです」

「本当ですか?」

「ええ。逢野さんだけでは無く、同席した複数人の証言です。陸浦さんは、その場では逢野さん達の追求をかわしましたが、その後、元クラスメートの一人、田中さんに同棲相手との事を話したそうなんです。田中さんは実際に陸浦さん達しか知り得ない事も話してくれたので、間違いないと思いますよ」

「……本当に全く実感が湧きません。さっきも言った事ですが、丘の上の家で暮らしていたという事くらいしか……」

「まあ、実感は難しいでしょうね。残念ながら、どう足掻あがいたって記憶は戻って来ませんから。でも、こうやって情報をき集めて、知ろうとすれば、ある程度の事は知れるんです」

「確かに」

「玖墨さんとの時間は陸浦さんにとって大切なものだったはずです。陸浦さんが大学入学時に、この街を出る決断をしなかったのも、玖墨さんがいたからじゃないでしょうか」

「玖墨君は何で街を出なかったんですか? 玖墨君だって、父から解放されたかったはずですよね。それも父が手を回して、余所よそに行かさないようにしてたって事ですか?」

「玖墨さんの力があれば、隆一さんから逃れる事が、それほど難しかったとは思えません」

「では、何故?」

「この街が勝手知ったるというか、能力を使いやすい環境だったのもあるでしょうし――玖墨さんは外見的に大きな変化をしていた。だから、引っ越しとか、そういう事が面倒だったという事もあるかもしれません」

「外見的な変化とは?」

「耳が大きくなっちゃってたんです。担当した排除能力者によると、通常の五倍はあったそうですよ。ちなみに、陸浦さんは田中さんの追求に対し、彼の好きなところは福耳だと答えて、彼女に首をひねらせたそうです。どうでもいい話ですが」


 今となっては、その発言が、あの日二人が大喧嘩になった原因の一つなんじゃないかと思ったりもする。

 ……って、喧嘩は昨日の事か。

 まったくもって昨日の事だとは思えない。


「とにかく、お二人はこの街に留まる決断をした。御両親がお二人の同棲を認めざるを得なかったのは、手出ししようにも出来なかったからだと思います。玖墨さんの力もありますし、陸浦さんの力もありました。お二人が協力すれば、隙の無い能力ですよ。そういう面でも非常に相性が良かったんだと思います」

「相性が良かったんですか? 私と玖墨君は」

「そうですね。お互い能力者という境遇だったからだけじゃなく、お二人はきちんと分かり合っていました」

「何故言い切れるんですか?」

「ああ、これは僕の意見じゃないです」

「では誰の?」

「田中さんです。彼女の感想をそのまま言うなら――彼氏の事、愚痴ったり、惚気のろけたり、ちゃんと好きなんだなって思ったよ、との事です」

「本当ですか?」

「本当です。折角ですから、逢野さんから送られてきた田中さんのメッセージを読み上げましょうか」


 一華は戸惑いながら小さく首を縦に振った。


「一華ちゃんは最初、彼氏の事を愚痴ってたよ。彼は在宅ワーカーで、どこにも行きたがらないし、どこにも連れて行ってくれない、とか。大切な事は何も教えてくれない、とか。あと、彼氏は仕事が忙しい時、部屋にもって、何日もお風呂に入ってくれないんだって――そんな時は新しい服をパンツから靴下から全部用意して無理矢理に着替えさせて、その服を洗濯するらしい。そして、洗濯機の中で回る洗濯物を見ながら――こんな人を好きになるのは自分しかいない。彼の隣には私の居場所があるから、それでいい。そう思うんだって言ってた」


 俺が携帯の画面から顔を上げて一華を見ると、彼女は再び目をらした。


「まあ、実感が難しいってのは分かってますよ」

「ごめんなさい……別に戸山君を疑ってるわけじゃないんです。一生懸命調べてくれたのも分かります。それでも何か遠くの景色を眺めているような感覚で……」

「プレッシャーに感じることは無いですよ。これで無理なのは分かってましたから」

「え?」

「ここまでは第一段階という事です」

「第一段階……ですか?」

「はい。まず概要を説明したところです。次は一華さんに、とある人物と会って貰います。その人の話を聞けば分かる事もあるでしょう」

「…………」


 それは誰ですかと聞きたげな一華の表情に気付かないふりをする。

 会わせてから衝撃を与えた方が良いだろう。


「それじゃあ移動しましょうか」

「どこかに行くんですか?」

「ああ、そうじゃなくて。この施設にはもう一つ別のタイプの面会室があるんですよ。その人は、そこで待って貰ってます」



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