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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第六章
176/232

一華

 そして、諸々もろもろの準備を整えて、今夜二度目の砂見すなみ病院である。

 面会室で、俺と七原が待機していると、霧林の付き添いで陸浦一華が入って来た。

 戸惑とまどっている表情の一華と目を合わせ、頭を下げる。


「陸浦さん、遅くにすいません。聞いて欲しい話があって」

「聞いて欲しい話……ですか」


 そんな差し迫った問題なんてあるだろうか――そう思っているのだろう。

 ここはまどろっこしい事を言っても、一華に不信感をつのらせるだけだ。

 シンプルに進めよう。


「今から陸浦さんの力を排除しようと思ってるんです」

「え? ……ちょっと待って下さい。私の力って排除されたんですよね? だから、私はここにいるんだと説明されましたけど」

「そうですね。陸浦さんの力は確かに排除されました。ですが、実を言うと、能力の排除には二種類あるんです。一つは、能力が記憶と結びついているという性質から、記憶を消す事で能力を排除する『新式』――これが陸浦さんに行われた排除です。そして、もう一つは、記憶を消さず能力のみを取り除く『古式』です。あくまで僕の個人的な見解ですが、この古式こそが本来の排除で、排除能力の有るべき姿だと思ってます」

「本来の排除……ですか」

「はい。古式では完全に能力が消えるので、排除された能力者も施設に入る必要が無いんです」

「では、なぜ新式というものがあるんですか?」

「古式が希少な力で、それだけでは能力者の数に対応できないからです。しかも、古式は排除のプロセスが複雑です。能力者本人に能力と決別する強い意志を持たせなければなりません。その点で新式は単純で、簡単に済ませられます。能力者に立ち向かうには危険も多い。どちらの方式も必要なものなんです」

「なるほど。戸山さんは、その古式の力を持っているって事ですね」

「そうです。だから僕には陸浦さんの力を排除する事が出来るんです。そして、その為に必要な情報をそろえてきました。という事で、まずは陸浦さんの身に何が起こったかを話させてください」


 一華は俺に向けていた顔をかすかにらした。


「正直なところを言っていいですか?」

「はい」

「知りたくない……です。もちろん、現実と向き合わなければいけない時が来るのは分かってます。でも今は、目の前の事だけで困惑していて、真実を知るのが恐いんです」


 うつむいて涙声で話す一華。

 だが、ここで引き下がる訳にはいかない。


「変えて見せますよ」

「え?」

「希望が無いなら――排除の見込みが無いのなら、わざわざこんな事はしません。最後には必ず納得して貰える話だと思ってます」


 顔を上げる一華に、まっすぐに視線を向けて確信がある事を示す。

 だが、いまいち信用できないのか、再び視線を外された。

 それでも、その視線の先――俺の隣には七原がいる。

 視界の端で七原が頷くのが見えた。他人の心の声を聞く能力で作り上げられた、慈愛に満ちた表情である。

 それに応えて、一華も小さく頷く。

 やはり七原は偉大である。


「……わかりました。話だけは聞かせてください。期待を裏切ってしまったら、すみません」

「ありがとうございます――では本題に入りますね」


 決心が揺らぐ前にと、間を置かず話し始める。


「――まず最初に陸浦さんに謝っておかないといけない事があるんです」

「何ですか?」

「さっき言っていた栄一さんの収賄しゅうわいの話、あれは冤罪えんざいだったんです」

「冤罪? どういう事……ですか?」

「栄一さんを告発したという人物に話を聞く機会を持てまして」

「この短時間の間に?」

「はい。運が良かったんですよ。その方は寺内昌則さんという方なんですけど……」


 そこで一度話を切り、言おうか言うまいか考えているという表情を作った。

 一華が「寺内さんという方がどうしたんですか?」とたずねて来る。


「その前に一つ聞かせて下さい。陸浦さんはかねてから御両親に強い不信感を抱いていたという話を聞いたんですけど、それは本当ですか?」

「そんな話をどこから?」

「陸浦さんの同級生の逢野おうの芽以めいさんです」

「私は彼女にそんな事を言ったんですか?」

「いえ。逢野さんに頼んで、色々な人に話を聞いて貰ったんですよ」


 玖墨の家に行く途中、逢野姉にも連絡したのである。

 逢野姉は快く引き受けてくれた。


「そんな事まで……」

「で、御両親に余り良い感情を持ってなかったってのは本当ですか?」

「確かに、そうですね。はっきりと覚えている事は少ないですけど、その感情は残ってます。私は、どうにもあの人達と折り合いが悪かった」

「安心しました」

「え」

「これで、この話をしても大丈夫だと思って」

「どういう事ですか?」

「寺内さんいわく、彼は百合さんにそそのかされて虚偽の証言をしたという事らしいんです。その裏で隆一さんが糸を引いていたという事も話してくれました。もちろん、陸浦さんが御両親と不仲だったからといって素直に受け入れられる話では無いと思います。ですが、丸っきりの嘘だと断じる事は出来ない話ですよね?」


 一華は俯きながらも、首を縦に振った。


「そうですね。そんな事を仕出しでかしても不思議では無い空気が、我が家にはありました。特に母が祖父の事を強く嫌悪していた。それどころかおびえてる向きさえ感じていました。小さい頃、母に何で祖父の事を怖がってるのかと聞いたら、物凄い剣幕で怒鳴られたのを覚えています。友達の話を聞いても、そんな家は無かった。何故ウチの家族だけがこんな感じなのかなと、ずっと思っていました」

「何故だと思いますか?」

「え」

「何故、憎しみ合わなければならなかったのか――いえ、正しくは何故、百合さんが一方的に嫌悪して、一方的に怯えなければならなかったかって話ですが」

「分かりません。何故ですか?」

「百合さんが能力者で、栄一さんが排除能力者だったからですよ。往々にして、能力者は力を排除される事を恐れ、排除能力者へ敵意を抱く。陸浦さんと玖墨さんは、それに巻き込まれたって訳ですよ」

「玖墨君……?」

「はい。玖墨さんは、ずっと以前から陸浦家と深く関わっていましたから」

「本当ですか?」

「ええ、それに関しても色々と調べました。玖墨さんが能力者になったともくされるのは約十年前なんですが、その頃、隆一さんが栄一さんから引き継いだ会社は年々業績を落とし続けていたんです。しかし、玖墨さんが能力者となったその時期を転機として、会社は右肩上がりの急激な成長を始めます。そこに玖墨さんの力が貢献したんじゃないかと思ってます」

「玖墨君の力って?」

「広範囲において人の声を聞き取れる能力です。使い方次第で非常に有用な能力ですよ。幾らでも重要な情報を手に入れる事が出来るんですから」

「玖墨君はこの十年間、父に利用されていた……って事ですか?」

「そういう事です。栄一さんの冤罪の件もそうですよ。あの事件は贈収賄ぞうしゅうわいの現場の音声データが警察に持ち込まれた事によって発覚したんですが、その音声データは捏造ねつぞうされたものだったんです。そんな捏造を為し得たのは、玖墨さんの力があったからこそだと思います」

「それは確かな事ですか?」

「僕達は玖墨さんが同じような手口で能力を使っていた事を知ってます。証拠というものは無いですが、十分に有り得る話だと思いますよ」

「そうですか……」


 一華は少し考え込んでから、口を開く。


「子供の頃、外を歩くと大人達が寄ってきました。彼らはニコニコ笑いながら祖父の話をしていた。祖父が子供達を救う活動や教育、医療に力を入れ、様々な分野の人達から尊敬されていた事を知っています。ですが、家では祖父の悪口ばかり。どちらが悪いか――どちらに非があるかなんて事は分かりきっていました。玖墨君の事は分かりませんが、両親の事については戸山さんの考えは間違っていないと思います。あの二人なら間違いなく、それくらいのひどい事はしてると思います」



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