依頼
「そこで有馬さんに一つ依頼があるんです。おかしな依頼だと思うかもしれませんが、引き受けて貰えませんか?」
「内容によるな。聞かせてみろよ」
「ある能力者の家を調べて欲しいんです。有馬さんなら何かを見つけられるかもしれない」
「何だよ、その依頼は」
「そこには能力者の男女が同棲していました。その一人が一華さんで、もう一人は玖墨柚人さんといいます。二人は昨晩排除され、今は保護されてます」
「排除で記憶を無くしたって事か?」
「そうです。二人は能力に関する記憶を失いました。当局による家宅捜索も行われたんですが、大したものは見つかってません。今は出来るだけ多くの情報を必要としてるんです」
「そういう仕事は畑違いだ」
「不倫調査で家捜しする事は?」
「まあ、あるにはあるが、それほどスキルがあるって訳でもない。ってかそれ以前に、俺みたいな部外者がそんな事して許されるのか?」
「……そうですね。ちょっと確認してみます」
携帯を取りだし、霧林の連絡先をタップする。
砂見病院からの帰りに電話番号を聞いておいて良かった。
三津家だと間違いなく全否定してくるだろうから。
「もしもし、霧林さん」
「ああ戸山君」
「先程はありがとうございました」
「いやいや、いいんだよ。で、何か用かな?」
「こんな時間で悪いんですけど、今から玖墨さんの家を調べたいんです」
「今から?」
「すみません。突然、こんな事を言って」
「明日じゃ駄目なのかい?」
「証拠品が持ち出されたら困りますし、明日になったら状況が変わってるかもしれません」
「しかしなあ……」
「楓も言ってましたよ、こういうのはやれる時にやっておかないと後悔する事になるって」
「そうだね。楓ちゃんには、いつもそうやって振り回されてるよ」
「楓はそれを徒労に終わらせた事がありましたか?」
「その余裕……もしかして、今日中に片を付けるつもりかい?」
「情報は集まってきてはいるんですけど、いまいち決め手に欠けるって感じです。玖墨さんの家で決定的な何かが見つかれば、今日にでも排除が出来るはずです」
「わかった。手配するよ」
「あと、知り合いの探偵に同行して貰っていいですか?」
「その人は能力に関する知識は?」
「あります」
「そっか。わかった。担当者には助手が付いてると伝えておくから」
「助手が二人付いてると伝えて下さい」
「ああ、七原さんもだね」
「はい。じゃあ、今すぐ向かうんで、よろしくお願いします」
「うん、了解」
「それと、もう一つ霧林さんに頼みたい事があるんですが――取り敢えず移動したいんで、後で掛け直していいですか?」
「うん。わかった。待ってるよ」
「ありがとうございます」
通話終了のボタンをタップすると、七原が訝しげな目で見つめて来る。
「戸山君――今、決め手に欠けるって言ってたけど」
「ああ、あと一歩で一華さんの一件は解決するよ」
「本当に?」
「ああ、本当だよ」
そう言って頷くと、有馬へ視線を向けた。
「許可が下りました。問題なしです」
「ったく、憎たらしいほど口が立つな」
有馬はドアの方へ歩いて行き、立ち止まり振り返る。
「どうした。早く行くぞ。急ぎなんだろ?」




