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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第六章
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情報の整理


 その後、謝罪と礼を繰り返す寺内を何とかなだめ、念のために連絡先を交換してから、なかば無理矢理に送り出した。



「じゃあ、情報の整理でもするか」


 寺内の背中を見ながら開口一番、符滝がそう言った。

 まったく何も喋らなかったのに、なぜ急に仕切れるのか。


「その前に一ついいですか。さっき言ってた不思議な力ってもの――有馬さんはそれをどの程度知ってるんですか?」

「世の中には不可思議な力があるってのは仕事が上手く行かない時の常套句じょうとうくだ。能力者の事なんて、ほとんど何も知らねえよ」


 有馬の口から『能力者』という言葉が出てくる。

 そこで俺は一つの確信を持った。


「符滝さん、有馬さんに喋りましたね?」


 符滝がギクリとした顔をする。


「ギクリ」


 口にも出した。


「能力の事を一般の人に喋ってしまうのは余り良い事じゃないですよね?」

「そ、そんなこと言う訳ないだろ。言い掛かりも大概たいがいにしてくれ」

「じゃあ、何で今、有馬さんの口から能力者という言葉が出てくるんですか?」

「すまん。喋ってしまった」


 二秒で認めるんかい。


「おい、戸山。符滝先生にあんまり面倒な事を言うんじゃないぞ」


 と、有馬が間に入ってくる。


「有馬さんも話を聞いたのなら分かりますよね。これはベラベラ喋って良い話じゃない」

「確かにそれは思う。だが、符滝先生も軽はずみに喋ったわけじゃないよ」

「本当ですか?」

「ああ、本当だ。寺内に話を聞いてた時、符滝先生が『戸山君を呼ぼう』『戸山君を呼ばないと話を進められない』って主張したんだよ。それが余りにかたくななのが何故かって思ってな、不倫調査でつちかった交渉術で強引に聞き出したんだ」


 確かに有馬の鋭い眼光を向けられたら、言い逃れする自信はない。


「そうだったんですか」

「それに、符滝先生が俺に喋ったのも、それなりの意図があっての事だろう」


 有馬が視線を向けると、符滝がさっきとは打って変わった渋い顔で頷く。


「戸山君、幾ら君が頭がキレるからといって、高校生が出来る事には限界があるだろ。有馬君は有能な探偵だ。彼に力を借りれば結果が180度変わる場面さえあるのは自明な事。本来なら君自身が決断して、話すべきなんじゃないのかね?」


 結局、符滝のキャラはつかめないままなのだが、符滝の言う事には一理ある。

 あの短時間で寺内を見つけ出し連れてきた事、寺内の説得の時のさりげない加勢、それらを考えると強力な味方である事は間違いない。

 しかも探偵というのが、それ自体存在価値が高い。あれこれと他人の秘密を嗅ぎ回っていても不思議ではない職業だからだ。


 楓からもずっと言われて来た事がある。

 ノゾミは人間関係に関してはいつもくずしだ、と。

 アヤネにしても、ミオにしても結局は自ら引き入れた訳ではない、と。


 限られた時間を有効活用するには、有馬の手が必要だ。

 もたもたしてしまったが、ここで決断しておかないといけないだろう。


「確かにそうですね。その通りだと思います。符滝さん、すみませんでした。色々と気を回して頂いて、ありがとうございます」

「ああ、いいよいいよ。俺も軽はずみに喋ったのはすまなかった」


 やっぱり軽はずみだったんかい。


 俺は気を取り直して、有馬へと視線を向ける。


「有馬さん、僕が能力を排除する力を持っている事も聞かれましたか?」

「ああ、聞いたよ。そういうのを排除能力って言うんだってな」

「はい」

「しかし、戸山。お前がこれだけ必死こいて調べてるって事は相当に儲かってんだろうな。告発者を探すくらいで俺に外注を出すくらいだし」

「まあ、ぼちぼちですかね」

「一件毎にどこからどれくらいの金が動くんだ?」

「……いや、それはちょっと教えられないですけど」

「俺も出来るか? 不倫であくせく稼ぐってのにも限界を感じてるんだよ。調査費の単価を上げていくのにも限界があるし」


 ここで真っ先にお金の話になるのが有馬らしい。

 価値基準がはっきりしているのは良い事だ。

 全財産を吸い取られないかは心配だが、楓から受け取ってる報酬がプラマイゼロになる分には構わない。


「どうですかね。能力者と同じで誰もが出来るという訳ではない。だからこそ、僕みたいな高校生が、こんな事をやってるんです」

「そっか。残念だ」

「でも、分かりませんよ。隠されていた力に気付くという事は十分に有り得る事です」


 そう言っておけば、幾らかは俺達への協力に対する動機付けにもなるだろう。


「いや、多分ないな。最初から、お前らはどうみても普通だとは思えなかった」

「私は普通です。私には排除は出来ませんから」


 と、七原。


「いや、さっきも言ったけど、曲者くせものなのは実桜ちゃんの方だよ」


 そこを見抜く有馬の観察眼はやはり凄いと思う。


「じゃあ、話を戻しましょう、情報の整理に」

「ああ。聞きたい事も沢山があるが、無闇に依頼人の詮索せんさくをしないのが俺の流儀だ」

「助かります」


 思いっ切り詮索しようとしていたが。


「寺内の話を聞いた限りだと、陸浦隆一が陸浦栄一をおとしいれたってのは間違いないんだろうな。問題は栄一には賄賂わいろを受け取る意思なんて無かっただろうに、どうしてそんな事になったかってところだな。やはり、それも百合の暗示の力によるものだったって事か?」

「だとすると、音声データを録ってまで事件にするなんて回りくどい事をする必要はなかったと思いますよ」

「そっか。確かにそうだな。ってか、そもそも百合の力ってどういうものなんだ?」

「あくまでも想像ですけど」

「ああ、それでもいいよ。聞かせてくれ」

「以前に目を合わせるだけで相手に強い好意を抱かせるという力を持った能力者と出会った事があります。百合さんの力もそれと同種のものだったんじゃないでしょうか」

「目を合わせる代わりのキスって事か」

「はい。多分そうですね。その力によって百合さんは寺内さんに強い支配力を持った。寺内さんが自身が不倫していたと勘違いしたのは、それの副次的な産物だったんだと思います」

「なるほど。そういう事なら、栄一に力を使うことは出来ないな」

「それもあるでしょうね。しかし、それだけじゃない。百合さんが力を使えなかったのは、栄一さんが排除能力者だったからだと思います」

「栄一が排除能力者?」

「はい。僕もさっき知った情報なんですが」

「……そっか」

「驚きましたか?」

「いや、むしろに落ちたよ。市長にもまた普通じゃないものを感じてたから。栄一が人格者かそうじゃないかは置いておくとして、あんなちんけな金で動くような小者ではないと思ったのは間違いじゃなかった」

「そうですね」

「こうしてみれば、これは能力者と排除能力者の争いだったんだな。能力者側の逆襲と言ってもいい……となると、他にも無数の能力者が関わってるかもしれない」

「そうなんです。そこなんですよ」

「戸山は他にも情報をつかんでるのか?」

「いえ。ですが、さきほど寺内さんが自身の記憶喪失の話をしてましたよね」

「ああ、そうだな」

「能力というものは記憶によって形作られているんです。記憶を消せば、その力も無くなる」

「記憶喪失ってのは排除をされたって事か。しかし、どうやって記憶を消すんだ?」

「記憶を消せる能力者がいるんですよ。それが栄一さんです」

「なるほど。つまり、寺内は百合の力によって栄一にけしかけられて、返り討ちに遭って排除されたんだな」

「そういう事だと思います」


 七原が頷きながら口を開く。


「寺内さんより嘘が上手い人は幾らでもいる。それでも寺内さんでなくてはならなかった理由は寺内さんが能力者だったからなのね」

「寺内はどういう能力だったんだろう」


 と、有馬。


「それは分かりません。当時の寺内さんの事を調べれば分かるかもしれませんけどね」

「そっか。俺にそれを調べろって事か?」

「いや、今はいいです。寺内さんの能力は恐らく足止めになる程度のものだったんでしょう。たとえば、相手を眠らせてしまうとか」


 それを思い浮かんだのは今日の午後の授業の事があったからだろう。

 我ながら良い線を付いていると思う。


「何の為に足止めが必要だったんだ?」

捏造ねつぞうした音声データと帳尻ちょうじりを合わせる為の時間稼ぎです」

「捏造した?」

「はい。おそらく、事前に寺内さんと牛岡さん、それに栄一さんと声が似た偽物で音声データを作ってたんですよ。単純な捏造です」

「は? そんな馬鹿な」

「僕達はそれを可能にする能力を持つ能力者を知っているんです。なあ、七原」

「……そっか。なるほど。そういう事か」


 玖墨の事である。

 玖墨が能力者になったのは十年以上前だ。

 玖墨本人が関わっていた可能性も十分に考えられる。


「どういう能力なんだ?」


 有馬が七原に問い掛ける。


「広範囲の声を聞ける鋭い聴覚です。その能力者は声が似た赤の他人を使って、人をだますなんて事をやったんです」


 騙されたのが青星なのだが、それは有馬に言うべきではないだろう。

 有馬が本気を出せば、洗いざらい話させられる事になるはずだ。


「そっか。よく似た声の人だとする……でも、そんな捏造が通用するのか? 警察の捜査では科学的に検証するだろ」

「例えば十万人に一人の一致率と言っても、その十万人から探し出せばいいんです。ちゃんと証拠として通用するか検証してから、実行に移した事も考えられますね」

「栄一は何故容疑を否認しなかったんだ? こんなのは捏造だと言ってしまえたはずだ。あいつは排除能力者なんだろ」

「排除能力者だからこそですよ。排除能力者だからこそ、隆一さんの狙いが栄一さんの権威の失墜しっついのみにある事に気が付いた」

「隆一にとっては有罪になろうが無罪になろうがどうでも良かったって事か?」

「そうです。世間を騒がして、市長に醜態しゅうたいを演じさせ、影響力や発言力をぐ事が隆一さんの目的でした」

「証拠となる音声データをマスコミに流せば、テレビでもガンガン取り上げられるだろうしな」

「はい。その点では市長がいさぎよ退しりぞいた事で中途半端になったと言えますね。罪を認めて謝ってしまえば、世間はすぐに次のことに興味が移る」

「そうだな。栄一の周囲も騒ぎ出すことは無かった」

「栄一さんは人脈を維持できたし、もとから近くに引退を考えていたと聞きます。世間の評判とか名誉とかを切り捨てられるなら、栄一さんの選択は最善だったと思います」

「どちらにしろ。隆一にとっては大勝利だったって事だな」

「はい。そして、事件は綺麗に収束した。まあ、これはあくまで推測に過ぎませんけどね」



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