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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第六章
172/232

回想

「よくもノコノコとウチまで来られたもんだな」


 伝手つて辿たどって正式なアポイントメントを取ったのに、社長は会うなり僕にそう言いました。

 ちなみに言い忘れてましたが、社長の名前はウシオカテツハルと言います。牧場の牛に岡山県の岡、哲学の哲に治療の治と書いて牛岡うしおか哲治てつはるです。


「すっ、すみません。僕は――」

「慌てるなよ。ただの冗談だってのが分からないのか」

「すみません」

「で、何の用だ?」

「えー。私は寺内昌則と申します。この度は過日かじつの事件に関して、お話をうかがいたく――」

「馬鹿にしてんのか。名前なんか知ってるよ。お前は俺を告発したんだぞ」

「すみません。本当にすみません。ですが、告発に関しては間違った事では……」

「そうだな。それは別にいいんだ」

「……え?」

「俺としてはお前に感謝さえしてるよ。どうせ何をしたって潰れるはずの会社だったんだ。それを陸浦の息子が自尊心を満たすだけの為に買い取ってくれた。こちらとしては万々歳だよ。ウチのバカ息子に会社を譲ってやれなかったのは心残りだがな」

「社長……あの日、何が起きていたんでしょうか?」

「何が起きてたって言われても、ただの親子喧嘩だよ。俺達はそれに巻き込まれただけだ。息子が賢いってのも、それはそれで面倒なもんなんだろう」

「親子喧嘩ですか……」

「ああ。親子喧嘩だ。俺達はその被害者でもあり、加害者でもあるって事だな」


 社長はそう言ってニヤリと笑みを浮かべました。

 僕はそこでやっと社長と陸浦さん達が結託けったくしていた事を理解しました。

 社長はおおやけにする事を隆一さんと確約した上で、栄一さんに贈賄を持ち掛けたんだと思います。


「全てとどこおりなく収まったのはお前のお陰だ。本当にありがたいよ。お前の能力がなければ、どうなってた事か……」

「僕の能力?」

「ああ、そっか。鈍くさい事ばかり言ってると思ってたら、お前は記憶を無くしたんだったな。今の話は忘れてくれ」

「僕が記憶を無くしたのを知っていたんですか?」

「あの女に聞いたんだよ」

「……陸浦百合さんですか?」

「そうだ」

「僕は陸浦さんと不倫をしてたんですよね?」

「随分な質問だな」

「すみません」

「わかった。正直者のお前に教えてやる――全ては陸浦隆一の策謀だ。お前は陸浦百合にたらし込まれていただけなんだよ」

「陸浦隆一さんと百合さんのお二人によるでっち上げだったという事ですか?」

「だから、そう言ってるだろ。あれはそういう話だったんだ。この事は掘り返したって何の得にもならない。俺にとっても、お前にとってもな」

「ですが、社長。まだ気になる事が沢山……」

「いいか。今まで言った事は功労者のお前に対する俺なりのサービスだ。これ以上は知る必要は無い。知るべきじゃない」

「ですが、本当にあれで良かったんでしょうか?」

「だから良いって言ってるだろ。収まるべき所に収まったんだから」

「陸浦栄一さんも、それで良かったというのでしょうか?」

「ああ。栄一もだ」

「社長は市長とお話されたんですか?」

「あいつとは古くからの友人だ。会えば話もする」

「……市長とはどんな話を?」

「俺は栄一に言ったんだ、『条件次第ではお前についてもいい。全てがでっち上げだと証言する』ってな」

「そうしたら?」

「突っぱねられたよ。色々と面倒な事を言ってたが、要は――音声データという証拠がある以上、真っ向からぶつかったところで泥仕合になるから、り合うつもりは無いって事だった。確かに、こんな面白いネタ、世間が騒ぐに決まってる」

「でも、市長はあの事件の所為で地位も名誉も失いました」

「悲しいね。俺もお前と発想が同じだ。それもあいつに聞いたよ。それでもいいのかってね。そしたら、また色々と面倒な事を言っていた。要約すると――名誉なんて必要ない。世の中にはもっと必要なものがある。それさえ失わなければ後はどうでもいい――って感じだな」

「その必要なものって何ですか」

「知る訳ねえだろ」

「すみません」

「まあ、あいつはそういう奴なんだよ。もちろん、見栄もプライドもあるんだろうが、栄一に寝返ると言った時のあいつの面倒腐そうな顔を見たら、間違いなく栄一は望んでいなかったと言い切れるよ。何だかんだで今の市長も、あいつが市長だった時の副市長だからな。あの男は栄一に逆らえないし、栄一は失っているようで何も失ってないんだよ。雑務をやる必要がなくなって清々してるくらいなんじゃないか? 隆一も含めて俺達はあいつの手の平の上で転がされたんじゃないかと思うほどだ。まあ、それにしては刑事裁判ってやつは面倒だったけどな」

「……そうですか」

「俺の事が信じられないと言うなら、連絡を取ってやっても良いぞ。どうする?」

「社長がそこまでおっしゃるのなら信じます」

「そっか。わかってくれたなら、それでいい。寺内、一つ重要な事を覚えておけ」

「はい」

「もし真実を追究したいのなら、お前は一人で戦うことになる。それは茨の道だよ――まず第一に裁判で虚偽の証言をしたことになる。そこで、ただでは済まない。陸浦隆一だって黙ってはいないだろう――それに、不倫の事を家族に知られたら困るだろ? お前は信用を失い、家族を失い、仕事を失う。いいか、寺内。納得いかないってのは分かる。だが、それをぐっと抑えて、墓場まで持っていけ。これはお前がどうこう出来る問題じゃない」

「……そうですね」

「わかったら、もう二度と記憶が無いなんて事を口にするなよ。それだけで他人の好奇心を刺激するものだ。それを聞きつけてやって来た奴がいても何も喋らないのが身の為だぞ」

「……わかりました」





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