推理3
「戸山君に聞きたいんだけど、昼に噂を流した犯人は、どうやって私達を目撃したんだと思う?」
七原が俺に問いかけた。
「どうやってって何だよ。べつに他人に見られないようにコソコソしてたわけじゃないだろ? 普通に目撃されたんだと思うよ」
「そうかな。そうは思えないけど」
「どういう事だ?」
「戸山君は部室まで、どういう経路で行った?」
「どういう経路って、渡り廊下を通って特別棟に行って、四階まで上がったよ」
「特別棟で誰か見た? 知り合いでも、知り合いでなくても」
「いや、誰もいなかったと思う。特別棟で、人を見かけてたら覚えてるはずだ」
「そうね。特別棟は、あまり人がいないからね」
俺は頷く。
「私の場合は鍵を借りてから部室に行ったから、一階の職員室まで降りて、廊下を通って特別棟に行ってから、四階まで上がったの。私も特別棟では人を見てない」
「何が言いたいんだ?」
「私は授業が終わった後、すぐに行動して、戸山君は昼を食べた後だったから、多少の時間差があるにしても、私達は全然違う経路で特別棟に行ってるの。誰か一人の人物が、私達の両方を目撃するって可能性は低いんじゃないかな」
なるほど、そういう事か。
「この件でも、犯人が複数人いるって事だな」
真剣な顔で七原が頷く。
「もちろん、私は守川君の件で注目されていたし、私の行動を気にしている人も少なからずいたと思う。でも、戸山君は別に注目されていたわけじゃないでしょ?」
俺は息を呑んだ。
なるほど……考えてみれば、至極単純な話だ。
「確かにそうだな。俺が、どういう行動をするかなんて誰も注目していない――そんな中で、犯人は俺を監視していた」
「そうね。だから、犯人は戸山君の関係者である可能性が高いの」
「俺の関係者で複数人で……」
勘の悪い俺でも、そこまで言われれば気が付く。
「双子って事だな」
「そうね。そう考えるのが妥当だと思う」
何故、双子が七原にそんな事をするのかと思うが、それも考えれば不思議な話ではない。
「そう言えば、双子と会った時に、双子が七原の能力に嫌悪感を示してたって話をしてたよな」
「うん……思い返せば、あの時、彼女が私の力を呪われた力と言ってたのよ」
「そんな重要な事を何で今まで思い出さなかったんだよ」
「優奈さんの心の声には、他にも多種多様な罵詈雑言が含まれてたから」
「あ、ああ……なるほどな」
それはそれはご愁傷様である。
「上月さん達が紗耶達と繋がってるかどうかは分からないけど、私が能力者だと知っている上月さんなら、私の能力を回避するように紗耶達を誘導する事も簡単に出来るんだと思う」
「犯人は双子で確定だな」
「そうね。そう思う。ただ……」
「ただ?」
「ただ、上月さん達だとしたら、動機は何って話になるのよ。たとえ私の能力を嫌悪しているにしても、こんな事までするのかな?」
七原は、そう言って考え込んだ。
動機か……。
「だったら、確かめてみよう」
「どうやって?」
「双子に直接聞くんだよ。七原なら双子がいくら嘘を並べ立てても、真実を取りこぼす事はないだろ」
俺の言葉に、七原は難しい顔をした。
「それは上手い方法だと思えないよ」
「何故?」
「上月さん達は私の能力を知っているでしょ?」
「俺も七原の力を知ってたけど、追求を逃れる事は出来なかったよな」
「それは戸山君が、ちゃんと話をしてくれる人だからだよ。最初から話すのを拒否されたら何にもならない」
「ああ、確かに」
「できれば、私達が上月さん達を疑っている事を知られる前にケリをつけたいの」
「そうか。じゃあ上手い方法を考えないといけな――」
――そこで突然、玄関のチャイムが鳴り響く。
俺の心臓もドクリと大きな音を立てた。
ピンポンピンポンと何度も何度も鳴り続け、鳴り止まない。
これでもかというくらいに連打しているのだろう。
「なんてタイミングだよ」
と、俺は言う。
これは頭を抱えるしかない案件である。
「戸山君、誰が来たか分かってるの?」
「ああ、このチャイムの鳴らし方は間違いないよ――上月優奈だ」
このタイミングで上月優奈の登場だ。
何かを感じずには、いられないのである。




