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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第六章
169/232

別のアプローチ


「で、何の話だっけ?」

「もう少しだけ、ここで粘ってみようって話だろ」

「そうそう。それ。もうちょっとだけでも……」


 次の瞬間に何か起きるかもしれない――そう思っていると中々動き出せないものだ。

 ある程度は七原の気が済むのを待つべきだと考える柔軟じゅうなんな俺である。


「話は変わるけどさ。今、双子の家で晩御飯をご馳走になってきた所なんだよ」

「そうなの?」


 七原が驚いた顔を向けて来る。

 俺が食事に呼ばれた事も、それにのこのこ行った事にも意外さを感じているのだろう。


「双子の母親の蓮子さんってのが頑固な性格でな。一度言い出したら聞かないんだよ。だから仕方なく行ったんだけど……ああ、そういえば、その蓮子さんが俺の事を頑固だって言い張るんだ。俺ってそんなに頑固かな? 自分的には割と柔軟に生きてるつもりなんだけど」

「頑固だよ。頑固さの塊って感じ。そんなの今更って話だから」


 七原は考える間もなく即答した。

 思い返してみれば、それを言う七原だって相当に頑固な性格だと思う。

 七原に聞いても仕方ないことだったなと考える柔軟な俺である。


「で、どうだったの。何か気になる事でもあった?」

「双子の父親の話をしたよ。楓には『双子が怪しむから探りをいれるな』なんて言われてるんだけど、蓮子さんが自分から喋り出した感じだったからな」

「優奈ちゃん達のお父さんって……?」

「六年前に亡くなってるよ。そして、蓮子さんはそのタカツグって人の事をほとんど覚えてないらしい」

「それって……」

「ああ、おそらく排除されてるってことだと思うよ。楓に出会ったのもタカツグさんが亡くなってから割とすぐだったらしいし」

「そっか。楓さんとのつながりは六年にもなるんだ……そう考えると、本当に長いよね」


 七原は感傷のもった声で、そう言った。


「確かに。符滝の持っていた写真でも分かるように、排除能力者の陸浦市長との繋がりも八年以上前からだ――楓は早い段階から色々な所に関わってる」

「もどかしい思いをしてたんだろうね」

「だな。楓の性格からして、それを漫然まんぜんと放置していたはずはない。解決への準備を進め、虎視眈々こしたんたんとその時を待っていたはずだ」

「そして、ようやく古手の戸山君を見つけ出して、好機が訪れた」

「ああ。楓がどんな計画を練っているかはわからない。だけど、それは執拗しつようなほど綿密に練られた計画だということは間違いないよ。あくまで予想でしかないけど、岩淵も最初から楓の指示通りに動いていたんだと思う」

「そうなの?」

「だってそうだろ。あの楓が早瀬も俺もいる学校に手を入れてないはずがない」

「でも、だとしたら岩淵先生が早瀬先生の問題を楓さんに報告しなかったのは何故? その所為で早瀬先生が再度能力者化してしまったんだよね」

「それは想定外だったんだろう。楓は秘密主義で岩淵に早瀬のことを伝えてなかった。妹の変化には気付けるという自負もあったんだろうな。そのことで、あんな事態になってしまったんだと思う」

「楓さんのミスって事?」

「ミスと言うのは厳しすぎるよ。あんなこと想定できなくて当然だ。楓は様々な選択肢を天秤てんびんに掛けて合理的に行動している。岩淵から情報が漏れて、早瀬が身内だと知られることのリスクの方が大きいと判断したんだろう」

「あと、岩淵先生の報告で三津家さんが来た所為で、楓さんが姿を消さざるを得なくなったって事実もあるよ?」

「ああ、そっちは想定内だったと思うよ。そのデメリットを負ってでも、三津家を呼び寄せなくてはいけなかった。つまり、三津家もまたキーパーソンの一人なんだと思う」

「そっか。そういう事か。でも、ウチのクラスに転校させて来るのはさすがにやりす――」


 七原の表情が止まる。

 同時に、俺の表情も止まっているだろう。

 頭の中でかすみがかって、もやもやしていた事がゆっくりと晴れていく。そんな感覚だった。


「ウチのクラスに能力者やその関係者が多いのは、そういう事だったんだな」

「三津家さんをねじ込めるくらいだから、クラス決めの段階から楓さんの意思が反映されているって事ね」

「そう。楓は能力者の疑いがある人間を出来るだけ詰め込んで、俺に排除させる為にあのクラスを作ったんだと思う。俺達のクラスは坩堝るつぼだの何だの、そういう言葉で誤魔化しても考えられないくらいに能力者がいるのはその所為だ」

「私もそれで選ばれたって事?」

「まあ、能力者っぽい兆候ちょうこうがあったのかもしれないし、身内に能力者がいたのかもしれない。能力者だけのクラスだけも良くないという事で入れられたダミーって可能性もある」

「そっか。今度会ったら聞いてみないとね――まあ、それはいいとして、これはかなり重要な話だよね。つまりは一華さんの件にしても、栄一さんの件にしても、ウチのクラスにはそれを解き明かす為の鍵となる人物がいるかもしれない。私が楓さんとして、そんな人を知ってたら確実に戸山君と関わらせておこうと思うはず。だからクラスメートについて考えていけば、何かが分かるかもしれない」

小狡こずるいやり方だな」

「小狡くても良いよ。楓さんは戸山君がそれに気付くことも分かってるはずだと思う」

「それでその鍵となる人物ってのは誰だと思う?」

「そうだね。まずは考えやすいところから始めてみよう。たとえば栄一さんの事件に関しては賄賂わいろを渡した人と告発した人ってのがいる訳でしょ?」

「今、有馬に告発した人を探して貰ってるな」

「うん。告発者本人はさすがに年齢的に違うと思うから、ウチのクラスにはそれに近しい人物を配置しているかもしれないって事だね」

「だな」

「そう考えていくと、私達が最近関わった人の中で該当しそうなのは……委員長と、そのお父さんかな」

「そういえば、委員長の父親を探した時、CSFCが会社名を言ってたよな。たしか牛岡建設とか――」


 俺達は携帯を出して、会社名と市長の名前で検索を始める――すると、答えは呆気ないほど簡単に出た。


「あった」


 すぐに七原が声を上げた。


「あったな」


 ニュース記事とかではないが、賄賂を渡したのは委員長父の勤める建設会社の社長という話が見つかった。


 ――そこで唐突に携帯が振動を始める。

 有馬からの電話だ。

 通話ボタンを押して携帯を耳に当てる。


「戸山君か?」


 電話口の声は符滝のようだ。

 そういえば、符滝とは連絡先を交換してなかったな。


「はい。戸山です。符滝さんですか?」

「ああ。有馬君がもう告発者を見つけ出してくれてね。今、ウチに連れてきて貰っているんだ」

「そうなんですか。で、有馬さんは?」

「取り調……いや、話をしている最中だから、俺が代わりに掛けてるんだよ」

「そうですか。符滝さん、一つ聞きたいんですけど、もしかしてその告発者って寺内って名前じゃないですか?」

「知ってたのか?」

「いえ。今、七原と話していて、もしかしたらそうじゃないかという話になったんです。寺内さんとは以前に面識があって」

「そんな偶然があるのか?」

「でも、ただの偶然ですよ。寺内さんは同級生の父親なんです」

「なるほどな。そのくらいの年齢だ」

「寺内さんは素直に話してくれているんですか?」

「有馬君の話だと、会社の同僚の複数人から彼が告発者だという証言を貰ってるそうなんだが……」

「本人は否定してる――って事ですね」

「ああ、そうだよ。有馬君も手を焼いてるようだし、そろそろ俺の出番かなって思っていてな。意外だと思うだろうが、こういう事は俺の得意分野なんだ。少々手荒だが、手段を選ばなければ確実に吐かせる事が出来るだろう――そう思って、その策を有馬君に話したら、先に戸山君が来れないか聞いてくださいと言われてね。それで、君達に電話したって訳だ」

「なるほど。で、策というのは?」

「くすぐる」

「くすぐるって」

「オジサンに取り押さえられたオジサンがオジサンにくすぐられる。これほどの屈辱が他にあるかい? 寺内は秒で追い詰められるだろう」

「すぐ向かいます。その拷問ごうもんは後にして下さい」



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