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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第六章
162/232

別室

「取り敢えず応接室に帰ろうか」


 霧林の言葉に頷いて、誰もいない廊下を戻った。

 部屋に入り、ソファに腰掛けると、三津家がせきを切ったように喋り出す。


「これは成功だったと言っていいんじゃないですか? 我々が半日かかった尋問を、戸山さんはたった五分で成し遂げました。しかも、玖墨さんを感情的にしてしまうどころか、信頼関係を築き上げることも出来た。これは凄いことだと思います」

「どうしたんだよ、急に手の平を返して。さっきまでぐずぐず言ってただろ」

「いや、そんな事は……」


 目をらし、明らかに言いよどむ三津家。


「そんな事あるだろ。玖墨さんとの話が円満に終わったのは別に大した事じゃない。玖墨さんが喋ったのは既に霧林さんに話していた事だし、何より玖墨さんが一華さんに好意を持っていたからだよ。それだけの事だ」

「そこですよ。それを見抜く観察眼が凄いんです。私には分かりませんでした。今でも気になってますよ、なぜ玖墨さんは一華さんに対して好意を持っていた事を忘れていなかったんでしょう?」

「能力云々うんぬん以前に一人の同級生として好意を持ってたからだと思うよ。一華さんだって玖墨さんの事を『何となく気になる存在』って言ってただろ」

「なるほど。私は単に玖墨さんが異質だから『気になってた』と言ったと思っていました」

「まあ、その可能性もあるけどな。本当のところは知りようがない。当てずっぽうでも当たったんだから幸運だったってだけの話だよ」

「いえ、それでも上手くいったのは師匠の交渉力があってこその話だと思います」


 そこで三津家の意図を理解する。


「そういう事か。さっき俺に反対した分の埋め合わせをしておこうって事だな」

「いや、そんな事は……」

「そんな事あるだろ。まあ、それは自体は別に良いけど、どさくさにまぎれて師匠って呼ぶのはやめろよ」

「まあまあ、戸山君。そんなに責め立てないであげてくれないかな」


 霧林が口を挟んでくる。


「――三津家さんにも色々あるんだよ。彼女には身寄りが無いし、友達も作れない。任務を遂行するだけの毎日だ。その中でより深い人間関係を求めているんだよ」

「それが師匠と弟子だというんですか?」

「まあ、少し無理があるよね。しかし、それが無い訳じゃないと思う。僕の私見だけどね」


 三津家に視線を向ける。

 三津家の複雑な表情からは気持ちを読み取る事が出来なかった。


 ――俺は考える。

 三津家に師匠と呼ばれるのは本来なら別に構わない。

 勝手にすれば良いと思う。

 問題は三津家と距離を近づけすぎて、個別行動が出来なくなる事だ。

 俺は三津家と馴れ合うつもりがないという意思表示をしておかなければならない……。


 そこで、ふと思う。

 いや、もしかすると多少の馴れ合いはむしろ必要な事なのかもしれない、と。

 というのも、この街に三津家が呼び出されたのは、おそらく楓と岩淵の主導にるものだからだ。

 楓が、数いる排除能力者の中で三津家を選んだのは俺に試練を与える為、三津家の力を排除させる為であると考えられる。

 その可能性は割と高いんじゃないだろうか。

 だとすると、三津家と距離を取るのは得策とは言えない。むしろ、来たるべき時の為に、ある程度の信頼関係は築いておかないといけないだろう。


 ただそうなると、さっきは勝手にすれば良いと思っていた『師匠』というフレーズだけはどうにかしたいと思うものである。

 今更だが……師匠って何だよ。


 俺は一つ溜め息をついてみせる。


「とにかく今は『戸山さん』とでも呼んでくれ。師匠とか弟子とか、そういう話は楓が帰って来てからにしよう」

「何故ですか?」

「何故って関係性的には俺の師匠が楓だろ。俺の意志とか云々の前に楓の許可が無ければ俺は弟子を取る事が出来ない」


 今はそう言ってしのいでおこう。


「ですが、『戸山さん』という呼び方は他人行儀に感じます」

「『戸山君』は?」

「恐れ多いです」

「『戸山様』は?」

「変じゃないですかね?」

「師匠の方がよっぽど変だろ。教室で周りの連中がぎょっとした目で見てたよな」

「他に候補は『戸山先生』とか『戸山選手』とかですかね」

「ああ、そういう候補から選んでたんだな」

「ですが、戸山さんのことは尊敬してますし、師事したいというのも本心です」

「ねえ、それだったら普通に戸山先輩って呼べばいいんじゃない?」


 と、七原。


「その手があったか」「その手がありましたね」


 三津家とハモる。

 お互い薄弱な人間関係の中に身を置いていたので、その発想がなかった。

 一人だけ俺を『戸山先輩』と呼ぶのがいるが、麻里奈のそれはネタでやってるようなものだ。


「いいですね。なんか、その響き……何かしっくり来ます。今から戸山先輩と呼ばして頂きますね」

「それもクラスの連中が戸惑うと思うけどな」


 まあ、クラス以外なら、この幼い容姿だし不自然なものでもない。

 それでいいって事にするか。


「ってか、どうでもいい話に時間を使ったな」

「すみません。話を戻しましょう」

「だな」

「ちなみに戸山さんは、玖墨さんの話をどう見ますか?」

「唐突な質問だな」

「是非お聞かせ下さい」


 かなりアバウトな聞き方である。

 しかし、殊更ことさらにそういう聞き方をしてくる意図は理解できた。

 玖墨の話の裏側について答え合わせをしようという事なのだろう。


「玖墨の力が金で買われてたって可能性は高いだろうな」

「やはり戸山先輩もそう考えますか」

「お金で買われたってのは?」


 七原が首を傾げる。


「玖墨の親は、玖墨の力を使って稼いでいたんだろう。あの能力はかなり便利な能力だよ。それでも、借金を返して家を買うほどまとまった金を一気に手にする事が出来るとは思えない。という事は、それなりの資金を持った個人もしくは団体と契約を交わしてるって事も考えられるな」

「そうですね。私達もその線が濃厚だと考えててます」

「下手をすれば、もっと酷い事も行われたかもしれないな」

「もっと酷い事というのは?」


 今度は三津家が首を傾げる。


「能力者を作るのに洗脳なんて使う必要は無い。潜在能力者にストレスを与えて精神的に追い詰めれば、勝手に能力者が出来あがる」

「まさか玖墨さんの親が故意に玖墨さんを能力者にしたと言うんですか? そんな事をする親がいますか?」

「それだけ生活に困っていたのだろう。世の中には殺し合う親子だっているんだ。無い事だとは言えないだろ?」

「確かに、それはそうですが……」

「実際、玖墨さんは家族を家から追い出している。それは積年せきねんの恨みを晴らしたという事で十分に説明が付く……まあ、玖墨さんの事は今どうでも良いよ。どうせ調べるのには時間が掛かるだろうし」

「何故ですか?」

「単純だよ。玖墨さんの場合は、家族を探すところから始めないといけない――まあ、そうじゃなくても俺は先に一華さんを排除しようとしたと思う。症状が重いのは一華さんの方だからな」




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