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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第六章
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符滝とアリマ


「で、依頼内容は何だよ。浮気調査か?」

「いえ、違います。一言では説明しづらい話なんですけど――」

「何だよ。違うのかよ」

「浮気調査じゃないと駄目ですか?」

「いや、駄目では無いけどさ。あれが一番効率が良いし、楽で良いんだよな――まあ、いいや。聞くよ。エリカちゃんの頼みだし」


 アリマは心底嫌そうに言う。

 電話を切りたいという衝動に駆られるが、ようやく本題に移れるのだ。

 諦める訳にはいけない。


「アリマさんは符滝さんって方をご存じですか?」

「ああ、符滝さんか。知ってるよ、符滝正信だろ? 市立病院の」


 やはり符滝とアリマには繋がりがあったようだ。


「今は開業されて、個人の病院をやってます」

「そっか。それは知らなかったよ。で、その符滝さんが何なんだ?」

「符滝さんはアリマさんに依頼をしてましたよね? その時の事について、少し聞かせて頂きたいんです」

「はあ? 馬鹿かよ。俺達には守秘義務ってもんがあるんだ。誰がどんな依頼をしたかなんて話せる訳ねえだろ」


 声に強い怒気が混じる。

 一瞬で沸点に達してしまったようだ。

 まあ、そこは譲れない所なのだろう。


「いえ、違います。そういう事じゃなくて、この場には符滝さんもいるんです。符滝さんに話して頂きたいんですよ」

「符滝さんに符滝さんの依頼の事を話せって? 何を言ってんだよ。イタズラか。イタズラだったんだな。だったら切るぞ」


 確かに、考えてみれば物凄くおかしな話である。

 それでもアリマが電話を切らなかったのは、雪嶋のコネのお陰だろう。

 雪嶋様々である。

 とはいっても、そのコネだけでは乗り切れそうに無い。

 どうしたものか……。

 符滝が記憶喪失と言って、納得して貰えるだろうか。

 いや、無理だろうな。

 それこそ、電話口ではごとにしか聞こえないような話だと思う。


「待って下さい。イタズラなんかじゃないです。なんなら、符滝さんに電話を代わりますよ。それなら納得して貰えますよね」

「まあ、そうだな」


 符滝に視線を向けると、『無理だ無理だ』と言うように手をぶんぶんと振っている。

 なんで拒否するんだよとは思うが、確かにアリマに関する記憶も無く、俺達の会話もよく分かっていない状態で話すのは難しいだろう。


「名乗るだけで良いんで」


 そう言って携帯を手渡した。


「符滝だ。符滝正信だよ。全ては戸山君に一任している。あとは彼と話してくれ」


 それだけ言うと、返事も聞かず携帯を突き返してくる。

 せめて二言三言でも会話を交わして貰いたかったが、仕方ない。


「お聞きの通り、符滝さんもいますよ」

「お前、符滝さんを誘拐でもしてるのか? 緊張感のある声だったぞ」

「そんな事してる訳ないじゃないですか」

「もしくは何かをこらえるような声だったか……俺と話してる間に符滝さんの脇の下をくすぐってたか?」


 どんな想像だよ。


「だから違います。もしそうなら、これは何の電話ですか」

「確かにそうだな」

「符滝さんにも色々と事情があるんです」

「事情ねえ……」

「とにかく、符滝さんはアリマさんに詳しい話を聞きたいと言ってます。報酬は必ず支払うので、今から来て頂けませんか? そうすれば、事情も話せますよ」


 方針転換だ。

 手軽に電話で済ませようとするのでは無く、面と向かって話そう。

 そうすれば、ある程度の事情は飲み込んで貰えるはずだ。


「当時の事で、語るような事は何も無いと思うけどな――まあ、いいよ。行ってやってもいい。何より、今更あんな事を掘り返そうとするの理由が知りたいしな」


 良かった。

 何はともあれ、話は出来そうだ。


「じゃあ、場所は符滝医院といって……」

「わかった。調べて、すぐに向かうから」

「お願いします」


 電話を切った俺は、ふーと長い溜め息をついた。

 アリマは、本来なら絶対に関わり合いになりたくないタイプの人間である。


「どういう話になったんだ?」


 と、符滝。


「すぐに来てくれるそうです」

「そうか。良かったよ。取り敢えずは良かった。だけど、俺に話を振らないでくれ。俺がとんでもない大失態をやらかす可能性もあるんだからな」


 本当に、強気なのか弱気なのか分からない人である。


「まあ、ここに来て貰えれば、こちらのものです。符滝さんと会って、符滝さんの事実を知れば、依頼の件は話してくれると思います。アリマさんも『何であんな些細ささいな事にこだわってるんだ』ってくらいの感じでしたから」

「そうだと良いけどな……しかし、君には本当に驚ろかされるよ。長い間、何の進展も無かったことが、こんなにもあっさりと動き始めるなんて」

「幸運だったってだけの事です」

「いや、幸運だけじゃないだろ。こんなにスムーズに話が運んでいるんだからな」


 確かに、『ただ運が良かっただけ』という話では無い。

 おそらく、潜在能力者のアリマが潜在能力者の雪嶋にかれた――そういう事なのだろうと思う。

 潜在能力者かどうかを確かめるすべは無いが、アリマは身内に能力者がいて、雪嶋は能力者の司崎に強い好意を持っている。二人が潜在能力者だとするならば、すんなりと納得のいく話なのである。

 しかし、それを一から説明するのも面倒だ。この場では流す事にする。


「糸口をつかめば、そんなものですよ――で、これからアリマさんが来る訳ですけど、そこでは僕に話を合わせてほしいんです。いいですかね?」

「ああ、いいよ。それでいい。だけど、一つ疑問があるんだ。何故アリマに俺が記憶喪失だと言わなかったんだ? それを言ってしまえば、もっと簡単な話だったと思うんだが」

「それはアリマさんともう少し話してからにしようと思ってました。今の段階では信じて貰えるかどうかも怪しいですし、無闇に言ってしまうのは良くないと思います。排除によって記憶を消されても健康被害は無いと言われていますが、符滝さんが記憶喪失だという噂が流れると、この病院にとってマイナスです」

「なるほど。そんな風に考えていてくれたのか――だが、俺にとっては真実を追究する事の方が重要だ。最低限、気をつけてくれればそれでいいよ」

「そうですか。じゃあ、次は遠慮無く……とはいっても、その話は符滝さんの口から言った方がいいかもしれませんね」

「じゃあ、そのタイミングになったら教えてくれ」

「わかりました」

「俺にも、そのアリマという男の記憶が少しでも残ってれば良かったんだけどな……それこそ糸口さえ掴めば思い出すんだろうか?」

「それは無理だと思いますよ。能力に関する記憶というものは完全に抹消されてしまうものらしいですから」

「そうか……」

「アリマさんに関して全く思い出せないという事は、アリマさんの件が符滝さんの『能力に関する記憶』と深く関係していたという事です――そして、アリマさんは符滝さんの事を覚えている。これはアリマさんが重要な証言者となる可能性が高いという事の証明でもあります」

「なるほど。そういう事か」

「これは逃しちゃいけない魚ですよ」

「わかった。俺も慎重に行動しよう――あと、一つ良いか?」

「はい」

「さっきも少し話したけど、俺がアリマに『市長を調べろ』と依頼したという話――あれは何の為のものだと思う? それさえ予想できれば、話も合わせやすい」

「アリマさんの得意分野は浮気調査らしいです。それを考慮に入れれば、市長の奥さんに頼まれて代わりに浮気調査の依頼をしたってのはどうですかね?」

「聞いておいてなんだけど、それは違うと思う。ってか、それだけは有り得ないよ。浮気も何も市長の奥さんは何十年も前に亡くなってるって話だから」

「なるほど。まあ、それならストレートに市長の身辺調査だったって事ですか……」


 そこで、ふと閃く。

 確か陸浦栄一は収賄事件で逮捕されたという話だったはずだ。

 もしかしたら、その告発に関わっていた可能性も――。


 そこへ机の上の固定電話が鳴り出した。

 符滝が受話器を取る。


「先生、また患者でもない人が来ましたよ。アリマさんとおっしゃる方です。頭が痛いとでも言ってくれればいいんですけどね!」


 電話口からではなく、受付の方から直接声が届いて来る。

 内線を使った意味があっただろうか。


「こっちに通してくれ」

「は? 聞こえないです。もっと大きな声で」

「こっちに通してくれっ」

「もっと大きな声で」

「こっちに通してくれっ!」

「わかりました」


 受付の方からでは無く、ドアの向こうから剛村の声がする。


 だから、内線の意味よ。



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