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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第五章
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文化祭後


「そんなこんなの内に、文化祭はあっという間に過ぎて行ったよ――で、その次の週、転校の前日に沼澤に呼び出されたんだ」



 放課後、俺が一人教室で待っていると、慌てた様子の沼澤が入って来た。


「ごめんね、遅くなって。みんなが送別会してくれるって言うから、また行かないといけないんだけど」

「そっか。良かったな」

「戸山君も来ない?」

「予定があるから無理だよ」

「残念……まあ、断られるとは思ってたけどね」

「悪いな」


 予定が有ろうと無かろうと、俺がそういう場に顔を出す事は無い。それは沼澤も分かっているだろう。


「ねえ、戸山君……」

「何だ?」

「文化祭、終わったよ」

「悪かったよ。そんな嫌味も言いたくなるくらいに、最後まで任せっきりだったな」

「ああ、違う違う。そういうんじゃなくて。結局、瑠華と仲直り出来ないまま転校だな……って。瑠華には本当に悪い事したと思う。事情を話して謝りたかった」

「何度も言ってるけど、能力の事は他言するなよ」

「分かってるよ。能力の事を話しても、たぶん馬鹿にしてると思われるだけだろうし」

「まあ、そうだな」

「それに……戸山君との約束は絶対守るから」


 沼澤はそう言った後、一呼吸置いて姿勢を正した。


「――戸山君、今まで本当にありがとね。戸山君には感謝しかないよ。戸山君のお陰で、私は変われたから」

「笹井と言い合いになった時にも言ったけど、沼澤はそんなに変わってないと思うよ。沼澤の問題点は勝手に自分で限界を決めて自己否定していた事だ」

「そうなのかな」

「まあ、それも今となってはどうでもいい事だ。沼澤のコミュ力は上がったんだからな。新しい学校に行ったら、ちゃんとした友達作れよ。次からが本番だ」

「そうだね……次は戸山君もいないし、能力も無い。ゼロからの出発で不安だったけど、そう言われると何とかなりそうな気がしてきたよ」

「それは良かった。じゃあ俺は、この辺で帰るから」

「うん……バイバイ。ありがとう」


 手を振る沼澤に背を向け、俺は歩き出す。

 沼澤がいつものように俯いていないので、その柔らかい微笑みが脳裏に焼き付いたのだった。



「ってな感じで、沼澤は転校していったんだ」

「で?」


 七原が不服そうに俺を見る。


「『で?』って何だよ。これで沼澤の話は終わりだよ」

「信じられないんだけど……」」

「信じられないって何だよ。終わりは終わりだろ?」

「夕日に染まる教室で二人きりだよ。沼澤さんも、これだけ散々世話を焼いてもらって、あっさりバイバイって気持ちにはなれないはず。まだ何かあったでしょ?」

「何もねえよ。俺は嫌われ者だぞ」

「戸山君はすぐにそれを言うけどさ、それじゃあ納得できない。まだ何かあったはずだよ……ほら、今の表情を見れば、戸山君が嘘を吐いてるのは、すぐに分かるから」


 七原は真っ直ぐに俺を見つめる。

 やはり、その目には弱いのである。


「そう言えば、もう少しだけ話をしたような気がするな」



「あっ。ちょっと待って、戸山君」

「何だよ」

「もう一つ大事な事を忘れてた――前に私が『戸山君にお礼がしたい』って言った時、『文化祭で何かおごってくれ』って言ってたよね」

「ああ、そういえば、そんな事も言ったな。忘れてたよ」

「戸山君、文化祭が始まると同時にいなくなるんだもん……」


 俺の目を見て話す沼澤――そういう事も無かったので、少しだけ胸が高鳴る。

 いや、もう力は無いはずなのだが……。


「ねえ、戸山君。聞いてる?」

「ああ、聞いてるよ」

「私は戸山君にどうしてもお礼がしたいの。だから、何でも言って。戸山君の望む事なら何でもするから」


 夕日に染まる教室……二人きり……何でもする。

 そのうるんだ瞳に、飲み込まれそうだ。


 ――いやいや駄目だ駄目だ。

 俺は慌てて、よこしまな思いを断ち切った。


「じゃあ、来年でいいよ」

「来年?」

「ああ。来年、この学校の文化祭に来て奢ってくれ。それで気が済むならな」

「なるほど。それいいね。そうしよう……じゃあ、その日は一緒に文化祭回ってくれる?」

「ああ、気が向いたらな」

「……あ、でも戸山君に彼女が出来てるかもしれないね。そうなってたら辞退するよ。だから早めに連絡して」

「わかったよ」


 俺には浮かれてる時間なんて無い。彼女なんて有り得ないと思ったが、適当に流した。


「でも、戸山君って意外に肝心なところで奥手になる気がするね。周りはみんな、二人が好き同士だって気付いてるのに、当人達だけが気付いてなくてさ、最後には最悪の雰囲気の中で告白する――みたいな事になりそう」


 ズバリと言う沼澤。

 今思えば、沼澤の方が余程よほど予言者だと思う。


「勝手なこと言うなよ」

「ごめんごめん――じゃあ来年、楽しみにしてるね」

「ああ。それじゃあな」

「うん。戸山君、バイバイ」



「……聞くんじゃなかった」


 七原が耳まで赤くしてる。


「いや、一番恥ずかしいのは俺だからな」

「ってか、こんなアドバイス受けてたなら、何とかならなかったの?」

「わかってても、避けられない事って一杯あるだろ」

「そうだけど……」

痴話喧嘩ちわげんかはいいですから、話を進めません?」


 と、三津家。


「……そうだな」


 こういう事でいさめられるのは非常に悔しいものだなと思う。


「これで沼澤さんとの話は完全に終わりって事で良いですか?」

「ああ、予定通り転校していったからな」

「そうですか……もう繋がりは無いという事ですか?」

「あー、SNSで時々メッセージが来てたりしたけど」

「本当ですか? どんな内容ですか?」

「リア充報告がウザいからブロックしたよ」

「ブロック……?」


 三津家はブロックの意味を理解できてないようだ。

 代わりに七原が口を開く。


「何でブロックしてんのよ。いやブロックしても良いけど、ブロックはダメでしょ」

「言ってる事が支離滅裂しりめつれつだな」

「分かってるけどさ……まあ、それでいいのか……それが戸山君らしさって事なのかもね」


 色んな葛藤かっとうを経て、肯定されたようだ。


「三津家、ブロックってのは特定の相手からのメッセージを拒否するって感じの機能だよ」

「そうなんですか。そのブロックってのは解除できないんですか?」

「出来るよ。もちろん、現実に戻ってからの話だけどな」




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