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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第一章 七原実桜編
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自宅

「疲れた」


 俺は一人、呟いた。

 今日は本当に大変な一日だった。


 疲労感で一杯の俺は、自宅に帰ってすぐに、一眠りする事にした。


 いや、疲れてなくても寝るんですけどね。

 寝る事くらいしか楽しみないんですけどね。


 そこへ玄関のチャイムが鳴る。

 誰だよ。こんな時間に。常識がないにも程がある。


 俺は苛立ちながら玄関の鍵を開ける。


「こんな時間って、夕方でしょ! 常識無いって何?」


 ドアを開けるなり、七原が抗議してくる。

 どうやらドアという遮蔽物(しゃへいぶつ)があっても盗聴は可能なようだ。


「盗聴じゃないから!」


 七原の突っ込みが冴え渡る。


「そもそも何で俺ん家を知ってるんだ? ストーカー? 引くんですけど」

「昨日話したでしょ!? 引かないって言ったでしょ!?」

「ああ、尾行の話な!」

「大きな声出さないでよ! ……あと、授業中のアレ、何なのよ!?」

「いや七原に元気出して貰おうかと思って」

「セ、ク、ハ、ラ!」

「だとしても、七原はどうやって訴えるんだ? 心の声を聞いたって言うのか」


 七原が悔しそうな顔をする。


「まあ、何でもいいから、とにかく家に入れてよ」

「いやいや、他人に怪しまれるような事はやめるべきだろ。家に押し掛けるとか怪しい行動以外の何ものでも無いぞ」

「大丈夫。バスやタクシーを使って遠回りして来たから、尾行がついてたとしても、まいたはずだよ」

「七原は何と戦ってるんだよ。俺は忙しいんだ。暇人に付き合っている暇は無い」

「やだ! 入れてくれるまで、ここに居座るからね。ご近所で、変な噂が立っても知らないよ」

「残念ながら、もうすでに双子が変な噂を幾つも広めてるんだよ。俺からすれば、今さらって話だ」

「戸山君の人生、ハードすぎ」

「言われなくても分かってるよ」


 そんな事を言ってると、七原の表情が悲しげなものに変わっていく。


「お願い。入れて。午後から、沢山の人の心の声を聞いたけど、私達を目撃したのが誰かは分からなかった。その人物に辿り着けそうな情報も全然無いし……もう、私、どうしたらいいか分からなくて」

「同情はするけど、俺に言っても仕方ないだろ。俺に泣きついたって、答えを知っているわけじゃないんだぞ」

「分かってる。だけど、一人じゃ不安なの。戸山君以外に頼れる人がいないの」


 それは、本音で相談出来る友達を作ってこなかった七原の責任だろ?

 まあ、俺も似たようなもんだが、もし仮に同じ立場になっても、七原のように行動することはないだろう。

 素直に諦めて、苦難を受け入れる。


「そんなこと言わないでよ――それにさ、戸山君と私って、もう友達じゃないの?」

「はあ?」

「私は守川君の友達で、戸山君は守川君の友達だよね。友達の友達は友達でしょ?」

「まず俺は守川の友達でいられてるんだろうか……で、論破でいいか?」

「重い!」

「大体、七原は藤堂から目を離したら駄目だろ」

「だって、紗耶達は、もう帰ったんだもん。あれだけの騒ぎになって、しれっと一緒に行動するなんて出来ないでしょ?」

「でも、授業中、放課後には会わないって約束しただろ?」

「たしかにそうだけど。あのやり方には、私が意見を言う方法が無かったでしょ」

「それが七原の能力だ」

「そうだけどさ……ってか何で、そこまで邪険にするの?」

「俺にだって、色々あるんだよ。色々と」


 ただ寝たいだけだ。


「ただ寝たいだけなの!? こっちは大変なの。また新しい嫌がらせをされたし」


 新しい嫌がらせ……か。

 それを聞くと、少し興味が湧かないでもない。


「でしょ?」


 七原は少し得意げになる。

 得意げになるような事なのか?


「違うけど、戸山君の好奇心を満たす事は出来ると思うの。証拠も持ってきてる。中に入れてくれたら見せるから」

「ここで見せればいいだろ」

「外で見せるようなものじゃないから」


 さらに興味を引くような事を言ってくるところが憎らしい。

 まあ、そこまで言うのなら仕方がない。

 睡眠時間は少しだけ減らす方向で検討しよう――なんて事を考えると、七原の顔がパッと明るくなった。


「戸山君、ありがとう!」

「いや、俺は、まだ『いい』とは言ってないよ。ちゃんと、そういう手順は踏んでくれ。心が読めているとしても」

「あーもう、戸山君って面倒――」


 バン。

 思考を読まれるよりも速く、ドアを閉めた。


「ごめん、戸山君! 口が滑ったんだって!」


 無視する。


「開けてよ!」


 無視する。


「入れて! 戸山君だけが頼りなの!」


 七原の声が、どんどん大きくなってきた。

 俺は仕方なくドアを開ける。


「もっと早く開けてよ。こんな事してたら、本当に悪い評判が立つよ。ここ、住めなくなるよ」

「今さら、このレベルじゃ痛くもかゆくもない」

「どれだけ酷い噂を流されてるの? それは同情するけど――」


 そんな事を言いながら、いつの間にかドアの間に体をねじ込み、ドアを閉められないようにしている七原。

 意外と(したた)かだ。


「家に入るだけで、手こずらせないでよ」


 七原はクタクタな顔で、そう言ったのだった。


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