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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第五章
128/232

昼休み


 三津家に関しては取りえず無視を決め込む事にした。

 授業間の休憩を、あさっての方を見てり過ごしている。

 三津家も移動教室だった一時間を除いて席から動かず、ずっと横で俺の様子をうかがっているようだ。


 教室の真ん中で異物感を放つ俺と三津家――それをクラスの連中が何事かと遠巻きに眺めている。


 非常に息苦しい状態だ。


 排除能力者が目立っても良い事は無いと思うのだが、それは古手の理屈で、新手には関係ないのだろう。


 そんな中、昼休みを迎えた。

 俺が席を立つと、三津家は当然のようにスタスタと後を付いてくる。


 何なんだよ。本当に。


 俺は渡り廊下を歩き、誰もいない場所まで行ってから口を開いた。


「追いかけて来んなよ」

「どこに行かれるんですか?」

「今は昼休みだよ。休憩って言葉を知ってるか?」

「知ってますよ」

「監視されてたら気が休まらないだろ」

「でも、監視に同意してくれたじゃないですか」

「協力に同意しただけだよ。一日中、付いて回るつもりか?」

「ええ。それが目的で転校して来た訳ですから。やましい事がないならば問題ないですよね」

「疚しい事なんてなくても、あんなに注目されたら息苦しいだろ」

「そのうち、周りも慣れますよ。こういうもんだって」

「やめる気は無いんだな」

「それが私の役目ですから」

「とにかく昼休みくらいは放って置いてくれ」


 少しだけ強めに言葉を発し、早足で歩き出すが、「待って下さいよ」と言って食い下がってくる。


 逃げる事は……出来ないんだろうな。


「部室で昼飯を食うだけだ。別に監視なんて必要ないだろ」」

「へー。お昼は部室で食べてるんですか?」


 三津家は白々しく問い掛ける。


「ってか、いきなり転校なんて事をするくらいだから、七原が昼休みに職員室で鍵を借りてる事も調べてるんだろ?」

「……そうですね。マスターキーも預かってます」

「それなら先に言えよ。七原が職員室に行く必要なかっただろ」

「それを説明する事も出来ませんでした。戸山君がずっとそっぽを向いてるので」

「ってか、本当に付きまとうのは勘弁してくれよ。あんまり目立ってると、排除に支障が出る」

「ですが、戸山君は最近クラスで目立つ行動ばかり取ってるらしいじゃないですか」

「たまたま運悪く、そうなってるだけだよ。普段は、どこからどうみても普通の生徒だ」

「いや、クラスの方に聞いた話とは違いますね。戸山君、あなたは相当に嫌われてるようです――なんでも女子生徒の体操服を盗んだとか」

「してねえよ! 根も葉もねえよ! そんなこと言ったのは誰だよ?」

「情報提供者のプライバシーを守ります」

「そいつは情報提供者じゃなくて、ただの嘘つきだ。ってか、いつの間にそんな話をしてたんだよ」

「私が戸山君の知り合いというので心配してくれたみたいで、移動教室の時に向こうから話しかけて来てくれました」

「なるほど、そういう事か」

「戸山君は先週から七原さんと付き合い始めたそうですね。クラスの方々は、それにザワザワしている。弱みを握られて脅迫されてるんじゃ無いかと心配する声も多数あがってるようです」

「逢野から聞いた情報だな」

「プライバシーです。言えませんよ」

「その情報提供者は他に何か言ってたか?」

「あのバイオストーカーは、私にも手を出そうとしている。と」

「そのバイオってのは何だよ。意味がありそうで全くねえよ。ってか、プライバシーが全然守られてないぞ」

「誰がとは言ってないので問題はないはずです」


 何でそこだけガバガバなんだよ。


「そもそも何で転校なんて暴挙に出たんだよ。昨日、三津家は『戸山さん』って呼んでただろ。って事は、俺より年下だよな?」

「いえ、同学年です。生徒手帳を見ますか?」

「文書偽造だろ」

「排除能力者には特別な権限があります」

「じゃあ、中学生って事でいいんだな?」

「戸山君と同い年です」


 頑固だな。

 年下だとバレてめられるのが嫌なのだろう。


「そんな事より、戸山君にお伝えしなければならない事があります」


 形勢が不利なので、別の話を振ってきたようだ。


「何だよ?」


 別に年齢の話を続ける事に意味もないので、そう返した。


「ようやく、玖墨さんと陸浦さんが目を覚ましましたようです」

「ああ、やっとか。随分ずいぶん長かったな……で、会える状態なのか?」

「それは少し先の事になります――ただ、昨日も言いましたが、話を聞いても無駄ですよ。能力に関する記憶が戻る事はありません。戸山君は焼き切ると表現しましたが、その通りです。何をしたって永遠に戻らないものですから」

「そっか……まあ、能力以外で聞きたい話も出てくるかもしれない。その時は三津家に頼むよ」


 そんな事を話していると、七原がやって来た。


「三津家さん、やっぱり来てたんだね」

「はい。私も、お昼ご一緒していいですか?」

「うん、もちろん」


 七原が頷くと、三津家はこちらを振り返った。


「戸山君。七原さんは同意してくれましたよ」

「わかったよ。部長の許可が下りたのなら」


 七原は三津家に見えないタイミングで、俺に目を合わせて頷いた……まあ確かに、誰もいない場所で話をつけておく良い機会なのかもしれない。


 そして、三人で部室に入った。


 七原は昼食をりながら、三津家に色々と話を振る。


 前に通ってた学校はどうだったか、とか。

 この学校はどうか、だとか。

 毒にも薬にもならないような話である。


 もちろん、俺が三津家の追求に困っているという空気を読んでの怒濤どとうの雑談だ。


 この安心感よ!

 やはり七原がいると心強い。


 しかし、学校まで三津家に付きまとわれるという事態は本当に深刻だ。

 三津家がいることで全ての行動が取りづらくなる――三津家にバレて良い事なんて何一つも無いのだから。


 何とかして三津家の付き纏い行為を回避する方法は無いだろうか。


 いくら頭をひねっても、何の答えも出せなかった。



「――だからこそ、気になるんですよ。何が戸山君を排除能力にり立てたのか」


 不意に三津家の言葉が耳に入ってきた。

 いつの間にか、そんな話題になっていたようである。


「話してくれませんか、戸山さん」


 三津家は俺の顔を見て問い掛ける。


「わかったよ」

「本当ですか?」

「ああ……でも、それは七原に頼んでくれ」

「え?」

「後は七原に任せるから」

「どういう事ですか?」

「俺が排除能力者になったのは七原の力を排除する為なんだよ。昨日帰りに七原と話したら、三津家にその話をしても良いって言ったんだ。だから、七原に聞いてくれ。それでも不足だったら俺に聞けばいい」


 そして俺は席を立った。


「どこに行くんですか?」

「ちょっと、岩淵と話してくるよ。情報提供者なんだろ?」

「それは言えません」

「だから、直接本人に聞いてみるよ」

「そうですか……どうぞ、ご自由に」


 三津家がそう言うので、後の事は七原に任せ、部室を出る事にした。



 職員室に着くと、岩淵のデスクに向かう。

 岩淵は難しい顔をして何かの書類に目を通している所だった。


「岩淵先生。質問があるんですけど、いいですか?」

「ああ、戸山か」


 岩淵の反応に不審な所は見られない。

 まあ、これくらいでボロが出るのだったら、だまされる事は無かっただろう。


「じゃあ、指導室に」

「わかりました」


 指導室に入りパイプイスに座ると、すぐに岩淵は口を開いた。


「悪かったよ、戸山。だけど、これが俺の役目なんだ」


 状況的に情報提供についての事だと判断したのだろう。

 もしくは、三津家から連絡が入ったのかもしれない。


「やっぱり岩淵先生だったんですか。確認できて良かったです」

「別に困る事では無いだろ?」

「そうですね。困る事では無いです――」


 いや、困り果ててるのだが、こっち側の人間ではない岩淵にそんな事を言う訳にはいかない。


「――ただ、事前に聞かせて頂きたかったです」

「君が能力者側の人間である可能性もあった。そうじゃなくて、ほっとしているよ」

「なるほど、そういう事ですか……」

「俺には能力者が現れたら報告する責任があるんだ。一般の生徒達を危険にさらしてはいけないからな」

「だったら、何故ですか?」

「何が?」

「岩淵先生は司崎さんや玖墨さんを能力者の疑いがあると報告した。一方で、発火事件の事は報告してませんよね」


 発火能力は非常に強い力である。その情報を三津家達に提供したのなら、三津家は俺にも詳細をたずねて来たはずだ。

 その点において、岩淵は責任を果たさなかった。

 それが何故かを知る為に、ここに来たのである。


「あの件に関しては犯人も分かってないし。ただの勘違いかもしれないだろ」


 岩淵は苦々しい表情を浮かべ、腕を組む。

 どうやら触れられたくない事のようだ。


「勘違いだと思うような事でも、能力が絡んでいる可能性があれば報告をする義務があるんじゃないですか? 実際、玖墨さんの件は能力に関する事だという確証は無かったと思いますが、それでも情報提供された訳ですし」

「確かに、そうだが」

「発火事件に早瀬先生がからんでるかもしれないからですか? ってか、それ以外考えられないですよね」


 岩淵は何度か視線を巡らせた後、覚悟を決めたように口を開く。


「……樋口先生に言われたんだよ。早瀬先生の事を内々に処理したいのなら発火事件の事は口外するな、と」

「なるほど」

「で、その後に戸山が来て、小深山や玖墨の話をした。それで思ったんだよ――これも能力者の話なのかもしれない。能力者の大量発生により何か大変な事が起ころうとしているのかもしれない――で、悩んだ結果、情報提供する事にしたんだよ。取り返しの付かない事になってからでは遅いだろ。それによって早瀬先生の件を隠そうしていた事がバレても、それはそれで仕方ないと思った。だが、早瀬先生の事に関してまだ触れられてないという事は、関連は無かったという事なんだよな?」

「そうですね。そうだと思いますよ」


 なるほど。

 岩淵の動機は早瀬を守る為か……。


 それなら楓も早瀬の事だけじゃなく、完全に口止めしておけば良かったのに……とは思うが、どれだけ言い含めたとしても、いつか楓に疑念が湧いて報告はしただろう。


 いや、それとも楓は岩淵が報告する事を意図していたのかもしれない。そうやって俺達を手駒のように操って、楓の描くシナリオを進めているという事も考えられる。

 楓とは一度その辺りの話をしておくべきだろう。


 俺はいかめしい岩淵の顔をもう一度見る。


 取り敢えず、この件に関してはこのまま放置という事にしておこう。

 俺としても今、発火事件を蒸し返されるのは面倒くさい。

 

「わかりました。岩淵先生、ありがとうござました」


 これ以上、らぬ質問をして岩淵に疑念を持たれるのも良くない――そう思って、早々に引き上げた。



 昼休みも終わりが近いので、直接教室へ向かいながら考えを巡らせる。


 岩淵の件は片付いた。

 さて、次は何をするべきだろうか。


 …………。


 本当に停滞感が出て来てしまった。

 今までは数珠じゅずつなぎのように次から次へと能力者が現れていた。

 つくづく玖墨さえ排除されていなければと思う。


 あと気になる事といえば、符滝ふたきの件くらいである。

 符滝は俺達に『司崎と会ったのは初めてだ』と言ったが、本当は二度目だった事が司崎の証言で分かってる。

 それが何故だったのかを聞いておきたい。


 放課後、符滝医院に寄ってみるか……いや、三津家に監視されている状態というのが面倒だ。

 符滝が隠している事が何か分からない以上、三津家とは会わせたくない。

 どうにか逃げる事が出来たら良いのだが……いや、逃げれば逃げたで、何故逃げたか説明しなくてはいけなくなる。

 そうやって、どんどんと動きづらくなっていくのだ。


 本当にどうするべきなのだろう。



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