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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第五章
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ミツヤの目的

「しかし、お見それ致しました。よくご存じなんですね」

「いや、ミツヤが結構喋ってただろ」

「戸山さんの反応で分かりましたよ。私の話した事は全部知ってましたよね? 驚きました。古手の方はあまり私達の事情に明るくないというイメージがあったので」

「知り合いに詳しい奴がいてな。そいつは聞いてもないのに、そういう事をベラベラ喋って来るんだよ」


 もちろん楓のことである。


「そんな嫌な顔をしないで下さい。悪い事じゃないですよ。知識は重要なものです」

「そうだな。感謝もしてるよ」

「……でも良かったです」

「何が?」

「戸山さんがこういう方で。……実はここに来るまで不安だったんですよ。情報通り戸山さんが古手なら、まともに取り合ってくれないだろうな、と――古手の方はおかしな力を使うおかしな人達だという認識でしたから」


 確かにミツヤは最初より少しけんの取れた顔である。

 それに軽くイラッと来た。

 無視できるものなら無視したい。ミツヤに勝手な動きをされては困るから話を合わせているだけだ。

 だが、そんな事を正直に言える訳でも無く……。


「さっきから言ってるように古手に勝手なイメージを持ちすぎだろ」

「そうですね。戸山さんと会って話してみて、少し考え方が変わりましたよ。ただ、古手に偏屈な人が多いというのは厳然たる事実ですし、意見を変えるつもりはありません……だからこそ、より気になるところではありますね、戸山さんがどうして古手の排除能力者に成り得たのかって事は」


 まあ、ミツヤがそこに興味を持つのは当然か……。

 こちらとしては答えにくい質問である。


「どうしてって言われてもな……」

「私にとっては能力者の方が余程よほど分かり易いです。絶望やら心の揺れ動き、そこから生じる強い渇望が能力を生み出す――では、排除能力者は何で排除能力者になるんでしょうか? どうして排除なんて特殊な力を身に付ける事が出来るんでしょうか? ってか、そもそも排除の力ってのは何なんでしょう?」

「一気に質問してくるなよ」

「一つでも良いです。答えて下さい」

「全部まとめて返答するけどさ、そんなものはいまだに誰も答えを出せてない謎だろ。俺に聞いても無駄だよ」

「そうですね。古手の排除能力は能力と同じものなのか――そんな根本的な事でさえ、解明がされてません」

「だろ。答えが分かってるなら、聞くなよ」

「ですが、戸山さんに聞いてみたいんです。当事者としてのざっくりとした感想でもいいので、お聞かせ下さい」


 圧が強い。諦める気は無いのだろう。


「説得というプロセスから考えれば排除の力は洗脳能力の一種だろう……とは思うよ。俺は、いつだって『洗脳してやる』くらいのつもりで説得してるしな」

「しかし、洗脳の力を持つ能力者が幾ら洗脳を施したところで、能力が消える事は無いと言われてます。それに、軽い洗脳ならまだしも、深い洗脳になるほど時間が掛かるものです。そんな短時間で洗脳が済むとは思えないです」

「洗脳に何かプラスアルファの力が乗っかってるんだろうな。実際に能力者を説得出来なかったら排除は出来ないという事実がある以上、洗脳以外では考え難いんだよ」

「プラスアルファの力とは何ですか?」

「例えば『深層心理にアクセスする声』とかはどうだろう。この力は、通常の洗脳では変えられない領域まで変える事が出来る――そんな力なら、納得もいくだろ? ……まあ、もちろん、この力が能力だったらの話だけどな」

「なるほど。それが真実なら大発見ですね」

「いや、本当のところは分からないよ。解明する手段も無いし、方法論も持ち合わせてない。古手は説得の為に能力者の力を分析するが、それも言ってみればただの決めつけだ。全部の情報を知る事なんて出来ないからな。この結果が現れているという事は原因はこれだという風に、経験則で判断してるに過ぎない。だから、こんなのはただの浅知恵で、答えとして役に立つとも思えないよ」

「そうなんですか」

「そういうもんだ。答えが出ているのなら、自分の中だけで留めておくつもりはない」

「……じゃあ、代わりに聞かせて貰えませんか。戸山さんはいつ、どんなタイミングで、ご自身の力を自覚されたんですか?」


 また面倒な事を……。


「自覚とか、そういう感じでもなかったからな……」

「じゃあ、誰かに教えて貰ったという事ですか?」

「長い話になるが聞いてくれるか?」

「はい」

「ある日、道を歩いてたらト――」

「嘘はやめて下さい」

「せめて、トラ――までは言わせろよ。何の事か分からないだろ」

「排除能力はそういうものじゃないですから」

「まあ、そうだけどさ」

「正直に話してくれませんか?」


 誤魔化せないようだ。いや、誤魔化せるとも思ってないが。


「大切な人を救いたかった。それだけだよ」

「大切な人とは? その人は能力者ですか? いつどこで知り合った人ですか?」

「一度に質問する癖は良くないぞ」

「すみません」

「一つだけなら答えてやる――そいつは能力者だったよ」

「その能力者を救う為に排除能力を身に付けたって事ですか?」

「そうだよ」

「つまり、戸山さんが力を持ち得たのは愛の力という事ですか?」

「否定はしないよ。肯定もしないけどな」

「その大切な方とは、どういう経緯があったんですか?」

「いや、この話はここまでだ。そこまで詳しく話す道理はないだろ。もう話したくない」

「何故ですか?」

「その事は俺にとっても、その人にとっても、蒸し返したくない話なんだ。分かってくれよ」

「そうなんですか……」


 ミツヤは俺の顔をじっと見ると、短く溜息をついた。


「じゃあ、この話はここまでとしておきます」


 『今日のところはここまでという事ですけどね』

 ミツヤが心の中でそう呟いているのは、心の声が聞こえない俺にも、ありありと分かった。

 どうしてこうも面倒な事ばかり起きるのか。その偶然を恨まずにはいられない。


「その代わりに、もう一つ質問していいですか?」

「代わりばっかりだな」

「戸山さんの気持ちをんだんですからね」

「わかった。質問次第で答えてやらないこともないよ」

「ありがとうございます。では、戸山さんがどうやって自分の力に気付いたかについて、改めて聞きたいです。大切な方の話ははぶいても良いので、そこのところを教えて下さい」

「ある排除能力者が俺の中に芽生え始めた古手の力を見出してくれたんだよ。その力を実戦に使えるレベルまで伸ばす手助けをしてくれたのも、その排除能力者だ」

「その方は何者なんですか? やはりその方も古手なんですか?」


 ミツヤにデタラメを言ったところで通用しないだろうし、後で話がこじれると面倒だ。ここは正直に答えるしかないだろう。


「いや、新手だよ。スタンガンも持ってたし」

「せめて名前だけでも分かりませんか? 外見の特徴でもいいです」

「樋口楓って赤い髪の女だよ」


 それを聞くと、ミツヤは瞬時に苦い顔になった。


「よりにもよって、楓さんですか……」

「楓を知っているのか?」

「はい。会った事があります。私は受け付けないタイプですね」

「心配するな。俺もだよ。こんな込み入った事情さえ無かったら、スネでも蹴ってサヨウナラだ」

「そうですね。私も全く同じ事を考えた事があります。あの人が師匠ですか……苦労されてるんですね。それに関しては深く同情します」


 ミツヤと初めて心から分かり合えた瞬間である。


「楓さんについては、知ってる知らない以前に割と有名人ですよ。悪い意味で、ですけどね」

「悪い意味?」

「能力者をかくまってるとか、その能力者を使って人体実験をしているとか、様々な噂があります」

「そんな事、何の為にするんだよ?」

「さあ。彼女の考えてる事なんてわかる訳ないじゃないですか」

「そっか……そうだな」

「他にも排除能力者の倫理規定に違反する事を幾つもやってるんじゃないかと。まあ、私の勝手な想像ですけどね」

「あいつなら何となく納得できるよ」

「しかし、楓さんが古手の力を見出せるとは思いませんでした。彼女は博学なので、全く信じられないという話では無いのですけど」

「まあ、詳しい話が聞きたいというなら、楓に聞いてくれ。俺は楓の言う通りに動いて来ただけだからな」

「気は乗りませんね。楓さんに話を聞くなんて無理です。言うべき事は言わずに、言うべきじゃない事ばかりを語る――そんな会話になるに決まってますから」

「わかるだろ? 俺の苦労が。さっき話した『新手の事をベラベラ喋る奴』ってのも楓の事だよ。必要な事を聞いても、あさっての返答ばかりだ。だから俺は出来るだけ楓に関わりたくない。聞きたい話があるんなら自分で聞いてくれ」

「うーん。こればっかりは……」


 ミツヤの顔が苦悩に満ちていってる事だし、ここらで話にカタを付けよう。


「まあ、楓の事を知ってるなら話が早いよ。この街の排除能力者は俺だけじゃない。楓もいる。ミツヤに出る幕は無いからな」


 すると、ミツヤは言いづらそうにしながら口を開く。


「戸山さんは少しだけ勘違いされてるようです。私は単に能力者の情報を聞きつけて排除に来た、という訳ではないんですよ」

「……そうなのか?」

「はい。私は一つの使命を背負って、ここに来たんです」

「使命?」

「そうです。私は戸山さんが十分な実力を備えているのかを確認しなければならない」

「何でだよ?」

「古手は希少な存在である以上、みすみす命を落とされたら困るんです。必要とあらば、戸山さんをお守りするのも私の使命の一つです――つまり、私の事は便利に使って良いという事ですよ」


 ……なるほど。そういう事か。


「そんなもの、必要ないよ」

「戸山さんも能力者の危険性は重々承知されてますよね。それなら断る理由は無いと思いますよ。私は戸山さんの邪魔しようと思ってる訳じゃない。むしろ、戸山さんが排除能力を磨く為のお手伝いをしたいんです」

「それだって、楓がいるんだよ。ミツヤの手を借りるつもりはない」

「駄目ですね。楓さんは全く信用できないですから」

「だけど、俺を排除能力者にしたのはあいつなんだぞ」

「楓さんなら、遊ぶのに飽きたおもちゃを壊すなんて事をやりかねません」


 そこまで嫌われてるのかよ、楓。


「さすがにそれは言い過ぎだろ」

「どちらにせよ、楓さんは戸山さんの力を見出しただけで、その力は戸山さんのものなんです」

「まあ、そうだけどさ」

「楓さんが自分のテリトリーに入ってくるなと言うのなら、そこからは話し合いですね。私は取り敢えず戸山さんの実力を見極めるという任務を果たさなければなりません。そこを譲るつもりはありませんよ。楓さんも文句があるなら怒鳴り込んでくるでしょう。私はそれを待つだけです」


 頑固だな。責任感も強い。

 そして分かったのは、この目の前にいるミツヤという少女――見た目が中学生だからといって甘く見てはいけないという事だ。何があるか分からないという状況の中で、こんな使命を背負わされて派遣されて来たからには、それなりに実力のある排除能力者であるという事は間違いないのである。



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