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嫌われ者と能力者  作者: あめさか
第五章
118/232

ミツヤ

 じっと俺を見つめる少女の視線で、我に返る。

 どうやら考えにふけり過ぎていたようだ。


 たしか、彼女の質問は『司崎の排除は終わったか?』って感じだったな。


 俺は遅ればせながら少女の質問に返答する。


「今、排除して来た所だよ」

「そうですか。良かったです。言いよどんだから、何か問題でもあったのかと思いましたよ」

「何もないよ。通常営業の何の面白みも無い排除だったくらいだ」

「司崎さんはアウトローな生活を送ってる方だと聞いていたので心配だったんですよ。でも、玖墨さんや陸浦さんを放って置くと、横やりを入れかねないと思ったので、こちらを私の方で分担させてもらいました」


 少女は当然の事と言った感じで淡々と話した。


「色々事情を知ってるみたいだけど、どこからその情報を仕入れたんだよ」

「情報源は言えません」

「岩淵か?」

「言えません。そういう決まりですから」

「それとも他の誰かか?」

「言えませんから」


 きっぱりと言い切った少女を改めて見る。

 目鼻立ちが整っている事を除けば、普通の中学生といった風貌ふうぼうだ。塾帰りに、うっかり迷い込んで来たのではないかと思ってしまう。

 とても排除能力者だとは思えなかった。


「俺に言わせれば、これこそ横やりだよ。こいつらは俺の獲物だったんだ。突然現れて美味しいところだけっさらっていくなんてひどいと思わないか?」

「いいじゃないですか。助け合いましょうよ。同じ志を持つ仲間なんですから」

「俺と協力する必要なんてあるのか? 君に」


 俺がそう言うと、少女ははっとした顔をした。


「……あ、すいません。申し遅れました。私はミツヤヒナタと申します。あなたが戸山望さんって事で良いんですよね?」

「ああ」

「私、駄目ですね。古手の方と話すのは初めてなので緊張して先走ってしまいました――ところで、そちらの方は?」


 ミツヤは七原の方に目をやった。


「七原実桜って名前だよ」

「七原さん、初めまして」

「初めまして、ミツヤさん」

「さすがですね、戸山さん。古手の方は助手を雇ってらっしゃるんですか?」

「助手じゃないよ。ただの友人だ」

「ああ、お友達なんですか。って事は、戸山さんは排除に一般人を巻き込んでるんですか?」


 矢継ぎ早に質問を投げかけてくるミツヤへ少々の苛立ちを感じるが、それを隠しながら口を開く。


「いや、七原は俺が力を排除した元能力者だよ。ミツヤの言う一般人の範疇はんちゅうからは出てると思うけど」

「ああ、なるほど。古手の方の排除では記憶が残るんですよね」

「そういう事だよ。俺達だって、一般人を巻き込むのは常――」

「あの、戸山さん。一つ聞いて良いですか?」


 俺の言葉をさえぎったミツヤは、七原の顔をじっと覗き込んでいる。

 俺は仕方なくミツヤに答えを返した。


「何だよ? 何が聞きたいんだよ?」

「今、七原さんの顔から一瞬だけ困惑が見て取れました。彼女に、そういう話はしてないんですか?」


 ミツヤは『そういう話』の部分を強調した。


「そうだな。あんまり詳しい事情は話してないよ。別に知る必要がない事だと思って」

「じゃあ七原さんは、これを見るのも初めてなんですか?」


 ミツヤはポケットからスタンガンを取り出して火花を散らしてみせた。


「あんまりウチの助手の好奇心を刺激しないでくれよ」

「やっぱり助手って言ってるじゃないですか」

「戸山君。ミツヤさんは何の事を言ってるの?」


 七原が俺に問い掛ける。


「あいつは俺とは違うタイプの排除能力者なんだよ」

「違うタイプ?」

「ああ。あのスタンガンを使って能力者の力を排除するんだ」

「結構荒っぽい事するんだね」

「まあ、俺がやってる事も相当に荒っぽいからな」

「そっか。そうだね。でもそれ以上に絵的な面白さに目がいくから」

「絵的な面白さって」


 俺と七原の会話の間にも、ミツヤの目は俺に向けられている。

 推し量るような目だ。

 いや、実際に推し量っているのだろう。

 俺がどこまでの知識を持っているのか。

 まともに話が出来る相手なのか。

 ここで排除能力者としての知識が不足していると判断される訳にはいかない。そうなればミツヤはこの街での排除に、しゃしゃり出てくるつもりなのかもしれないからである。


 あまりこういう話を七原にしたくないと思っていたが、まあ仕方ないだろう。今は覚悟を決めなければならない時なのだ。


「俺とミツヤ達の排除能力の一番大きな違いは、ミツヤ達はあのスタンガンのみで排除が出来るって事だ。ミツヤ達の排除には、『能力者が能力と決別するように説得する』みたいなわずらわしいプロセスが不必要なんだよ」

「そうなの?」

「前に、手を触れただけで排除が出来る排除能力者の話をした事があるだろ?」

「うん」


 楓の事である。

 楓は獣化した能力者さえ、一瞬で排除を行った。


「厳密に言えば、その排除能力者の手にはスタンガンが握られていて、それを押し当てて排除してたって事だよ」

「それ、厳密に言ってるというか、かなり思いっ切った嘘だよね」

「そうだな。そういうとらえ方も出来るな」

「いや、そういう捉え方しか出来ないから」

「あの時は、俺達の事をスタンガンなんて使う集団だと思って欲しくなかった。だから、そう言うしかなかったんだよ。スタンガンを持ってたり、バットを持って能力者のケツを追い回している奴らだなんて知ってたら、七原は素直に排除されてたか?」

「確かにそうだけどさ……まあ、その話は今はいいや。とにかくスタンガンだけで排除出来るなんて、そんな事があるの? じゃあ、戸山君の苦労は何なのって話だよ」

「七原さん、古手の方の排除には、それなりのメリットがあるんですよ」

「ミツヤさん、さっきから気になってたんだけど、その『古手』って何? 確かに戸山君はミツヤさんより年上だと思うけど、古手と呼ばれるほどは歳を取ってないと思う」

「戸山さんのような古式の排除能力を使う排除能力者を、私達は古手と呼んでるんです」


 そう言いながら、ミツヤは俺の方を見た。

 続きを話せという事なのだろう。


「俺の力はミツヤ達の力とは根本的なものが違うんだよ。俺達が古手や古式と呼ばれるのに対し、ミツヤ達は新手とか新式とか呼ばれる」

「何故そんな風に分けられてるの?」

「古式の排除能力は自然発生的なものなんだ。その素質が無いと、その力は持ち得ない。そして、俺達『古手』は能力者に対して数が少なすぎる。だからミツヤ達の『新式』が作られたんだ」

「なるほど。それで、その新式ってどんなものなの?」

「簡単に言うと、ミツヤ達は言わば普通の能力者なんだ」

「え?」

「能力者の素質を生まれ持ち、まだ力を発現させてない奴らの事を潜在能力者って呼ぶんだけど、その潜在能力者を洗脳して、ある力を与えれば、それが排除能力となるんだよ」


 七原は、小深山兄の洗脳で小深山弟が能力者になった事を知っている。

 だから多くを説明しなくても伝わるだろう。


「なるほど」

「毒を以て毒を制するってことだよ。能力というものを逆に利用してやろうという発想だ。人類から能力者への逆襲だよ」

「いや能力者も人類だから……でも、そんな事が出来るんだね。どんな能力を持てば、排除なんて事が出来るの?」

「能力は激しい感情の揺れ動きなどから生まれるものだって話はしただろ?」

「うん。そうだね」

「能力は感情の変化とその記憶によって形成される。だとすれば、これも簡単な話だよ。その記憶を消してしまえばいい。そうすれば無かった事に出来るのは自然な話だろ」

「記憶喪失にするって事?」

「単なる記憶喪失では無理だよ。暗示や洗脳から科学的な処方まで、『思い出す』という事を抑える方法は幾つもある。でも、忘れているだけ、思い出せないだけというのでは、能力を抑える事は出来ない。記憶を『抹消』しないといけないんだ」

「そこで記憶を消す力を持つ能力者が登場って事だね」

「ああ。そういう事だよ。ミツヤ達は能力者の『能力に関する記憶』だけを焼き切るなんて事が出来るんだ」

「なるほどね……でも、そんなに簡単に能力者を作れるものなの?」

「簡単だよ。潜在能力者を一人連れてくればいいだけだ。そいつを洗脳の能力者が延々と洗脳する。失敗も成功も無い。能力者になるまでそれを続ければ良いんだ」

「そっか」

「その潜在能力者の適性によって、同時に洗脳能力者も作っておけばいい。そうすれば、排除能力者を無尽蔵に増やす事が出来る」

「そんなに能力者を作って大丈夫なの?」

「もちろん、危険な奴には能力を与えないし、そもそも洗脳によって生まれる能力者は、自然に生まれる能力者より圧倒的に力が弱いんだ。だから、昔は強い潜在力を持つ能力者しか排除能力といえるレベルの力を持つ事は出来なかったんだが、最近では身体の中の微弱な電流を増幅するあのスタンガン型の装置によって、潜在能力者なら誰でも排除の力を持つ事が出来るようになった。そうやって排除能力者は、能力者への実力行使の歴史を終わらせたんだ」

「そっか……そういうことだよね。普通の人が能力者を相手にするには、武器くらい持たないと対抗出来ない」

「ここに至るまで様々な試行錯誤が繰り返され、作られた手法だ。これがなければ今の能力者対策は立ち行かない。最近では世界的に能力者の増加と凶悪化が進んでいるからな」

「戸山さんは私達の力を認めてくれてるんですか?」


 仏頂面で聞いていたミツヤだが、少し感慨深げといった感じで口を開いた。


「ああ。今は新式の方が主流派だろ。認めるも何も無いと思うけど」

「そうですか。古手の方と話すのは初めてですが、私達に理解を示してくれるとは思いませんでした。失礼な言い方ですが、古手の方は何でも文句を付ける説教オヤジ……みたいなイメージがあって――ああ、ごめんなさい。こんな事は言うつもりはなくて。つい安心してしまったというか」


 慌てているミツヤ。

 彼女のその言い方に少しカチンと来たが、それも表情に出さないように抑えた。確かに俺達の排除は、まるで説教だなという自覚はあるし、さっきミツヤが緊張すると言っていたのが気難しい説教オヤジと対面するつもりだったからで、ミツヤが仲間に『お前、説教オヤジ係な』と、損な役回りを押しつけられて来たんだと想像すると同情しない事もないのである。


「それぞれの排除能力で利点欠点がある。俺に新式は出来ないし、ミツヤも古式は使えない。自分の出来る事をするしかないんだよ」

「そういうご意見なんですね。本当に良かったです。ここでいがみ合うつもりは無かったんで」

「俺も最初から啀み合うつもりなんて無いからな」

「でも、古手と新手は意見が対立する事が多いと聞きます。彼らのほとんどは、私達の力を排除能力だとさえ認めてくれないらしいので……」

「どういう事?」


 七原が問い掛けた。


「じゃあ、お話しましょうか。実はですね――」


 我慢出来なくなったのか自分が喋り始めるミツヤ。

 ここから先の話は、ますます七原に伝えたくない内容になるのだが仕方ない。

 割って入る訳にもいかないのである。



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