5話
「……きて」
「うぅ」
「…きて。セイ起きなさい!」
「はっ?え?」
「おはよーセイ。魘されてたみたいだけど大丈夫?」
「おはよーサクラ。……ふぅー随分と昔の夢を見ていたよ」
見ていた夢はここに来る前までの薄っすらとした記憶だった
転向し高校へ入学しサクラと仲良くなった。夢ではハッキリと覚えていたはずなのに今では殆ど思い出せない
……そして気がつけばこんな場所にもう10年いる
こっちに来た時の僕とサクラは5歳位で明日は来てから11年目の日であり僕達の冒険が始まる日でもある
「サクラ~セイ起きた?」
「起きましたーモエ師匠」
「じゃあ朝食にしましょう。降りてらっしゃい」
「「はーい」」
こっちで目を覚ました僕達はモエという20代位の女性に面倒を見てもらっていた
目を覚ましたときに「ようこそ新世界【グルンダル】へ」と言って手を引いてくれたのがこのモエという女性だった
この世界グランダルは様々な種族が繁栄し街や村にも色々な種族が入り混じって生活している。統一されているのは子供が生まれたら街の神殿で祝福を受ける事で魔法が使用できるようになる。肉体強化や回復が可能になる魔法は祝福を受ければ誰でも使用できるが魔力量は個人によってバラバラでそれに伴い一日の使用回数が変動した。
しかし、魔力はモンスターを倒し喰らう事で強化出来る事が判明している
また、神殿では祝福と同時に身分証を作成してくれる。これは特殊な魔法が込められており魂のランクと覚えたスキル、倒したモンスターが記載される
魂のランクはS~Fで分かれており色々な経験を積む事で上がって行くとされている。現在のSランクは勇者と呼ばれているらしい
スキルは頭で理解し体で使うことで始めて刻み込まれる
僕達はモエから色々な事を教わり、武器の持ち方からモンスターとの戦い方、魔法の使い方からアイテムの作り方まで、僕達が出来るようになるまで根気良く付き合ってくれた。そして出来るたびにそれはスキルとして僕達に刻まれた
そういった経緯から僕達はモエ師匠と呼んでいた
現在、僕とサクラは
・大剣術
・太刀術
・短剣術
・双剣術
・大槌術
・槍術
・弓術
・格闘術
・調合術
・罠術
以上のこの世界での基本スキルを覚えているが大剣術と槍術と大槌術は筋力が足らず常に肉体強化をして使用する為にまだ完全に使いこなす事ができない。というよりこれはヒューマンである僕達には使いこなすのは難しいと思われた
ちなみに職業は僕が忍者でサクラが弓士だ
結果、僕は片手剣にシールドを装備しサクラは弓とナイフを装備している
そして現在は朝食を摂っている訳だが……
「お前達もここへ来て明日で11年になる。
この世界では16歳で成人とされる。よって明日はギルドへ登録し、モンスターとの戦いなどがお前達の生きる為の仕事になるのは分かっているな?」
「「はい」」
「よろしい。だが、このまま実践へ投入では不安が残るだろう。だから今日は実際に私とお前達でモンスターを倒しに行こうと思う。武器はもう渡してあるから、少し早いがこれが私からお前達へ成人の祝いだ」
「「ありがとうございます!」」
「ねーセイ似合う?」
「女の子とは少しデザインが違うんだね。でもサクラ似合ってるよ」
「セイも変じゃない。大丈夫!」
モエ師匠はそういって僕達にギルド推奨の初心者用の装備を一式渡してくれた。火に強く寒さにも強い。どちらかといえば寒冷地方で好まれる装備の為に暑い地方では使用が難しいがありがたく頂いた
準備が出来てモエ師匠と街のギルドへ一緒に行った
「あらモエちちゃんにセイ君とサクラちゃんも皆さんでどうしたんですか?」
声をかけて来たのはギルドに依頼されるクエストを斡旋してくれる受付のミライさんだった。モエ師匠と同い年らしくもう30歳を超えている筈なのだがふたり共、年を取らない様でまだ20代前半に見える
「こいつらが明日成人だから卒業試験ってところだ。討伐クエストは何かあるか?」
「ちょっと待っててね~っと。あるわね」
ミライさんは革表紙のファイルを捲りクエストを調べている
「ちなみにモエちゃんは中型と小型どっち希望なの?」
「中型で頼む」
「は~い。え~っと、この辺はどうかしら?」
【灰大熊猫の討伐】
グレイパンダは全長3m程のパンダで雪山や密林に生息している。冬眠はせず春から夏にかけて繁殖する。武器は爪と牙で弱点は柔らかい腹。腹以外は毛が硬く斬撃も通り難いとされている
今は夏で丁度子育て真っ最中のパンダは神経質で荒くなっており人を襲うことが増えた結果ギルドに依頼が来たようだった
「これで構わない。ミライ手続きを頼む」
「承りました。では、皆さんのカードをお出しください」
僕達は身分証を渡すとミライさんはカウンターにおいてある球体の機械の中へ身分証を通した。これで身分証に情報を入れるようだった
「ほえ~」
と興味深々で見てたサクラがこっそり話しかけてくる
「ソラ緊張してる?」
「ちょっとね、サクラは?」
「緊張もだけど、ちょっとワクワクしてきた!」
「実は僕も!」
そんな話をしていたら受け付けは終了したようだ
「はい。お返し致します。それでは移動はどの様になさいますか?」
「馬車を頼む」
「かしこまりました」
「準備が出来次第お呼び致しますので少々お待ちください」
今回は街から40km程離れた密林の集落からの依頼で一度依頼主と話た上でクエストが開始となる。移動費や滞在費は依頼主持ちになるが最低限の物が暗黙の了解となっている
椅子に座り周囲を3mを超える巨体で所々欠けた鎧や武器を装備する獣人や神々しいオーラを纏い弓を装備したエルフなど人間とは別の種族も多く見られる
モエ師匠に「あまりキョロキョロするな」と軽く注意を受けたため僕とサクラは静かにする
30分程してミライさんから準備が出来たと言われギルド専用の馬車乗り場へ向かい集落へ向かった
街を出て休憩も挟みつつ5時間程で集落へ辿り着き長と話をし完全にクエストの受注が終わった時にはもう日が暮れようとしていた
モエ師匠の判断で明日の朝から討伐を開始する事に決まり、僕達は用意してもらった家でくつろぐ事にした
野菜中心の夕飯を食べ終えてミーティングを行う
「さて、馬車でも話した通り明日の討伐は基本はお前達だけで行ってもらう」
「「はい」」
「でだ、お前達の作戦を聞こうと思う、まずセイから」
「はい、グレイパンダは腹が弱点ですが、基本は四足歩行でお腹を見せません。怒らせ周囲を見れなくなった時に立ち上がり威嚇する事で弱点のお腹を攻撃することが可能になります。しかし、攻撃も激しくなる為に、リスクも上がります」
「それで?」
「ここに来るまで馬車から見ていたらこの周辺には眠茸を見かけました。なので最初に眠茸を採取し液状に加工し、餌である大笹に塗り込み寝かせた後に止めを刺すのはどうでしょう?」
「60点だな。次はサクラどうだ?」
「はい、風上からはセイが風下からは私が攻めます。セイとの戦いの最中に私がグレイパンダの嫌いな臭い袋を矢の先に付け顔に向けて撃ち怯ませたところをセイがお腹に攻撃するのはどうでしょう?」
「60点だな。野生のモンスターを相手にする際はまず作戦を120点で立てる必要がある。本番になれば相手も生き残るために予想外の行動もするしプレッシャーで自分が思うように動けなくなる。それも踏まえてふたりで作戦を立てろ」
「「はい」」
結局モエ師匠に合格を貰えるまで10回以上のダメだしを受け、眠りに着いたのは集落の人々がとっくに寝静まった後だった
朝になり目を覚ます。持って行く水を準備しサクラを起こし少しの朝食を摂る
モエ師匠は日課の朝のトレーニングを終えて家に戻ってきた
「準備は出来たか?」
「「はい!」」
「じゃあ行こう」
そうして僕達のクエストは始まった