奇跡をこの手に
初作品やっつめです。つたない文章ですが、書きたかったので満足です。
朝早くに目が覚めた。横で眠る彼女の寝顔を見る。彼女とはもう4年の付き合いだ。彼女はとても俺に優しい。
「おはよう、もう起きる時間だよ」
「うーん、もうちょっと…」
「5分経ったよ、仕事に遅れてしまうよ?」
「あー、起きなきゃ!」
良かった、彼女が目覚めてくれた。昨日も夜遅くまで仕事だったから疲れているのだろう。彼女と俺はキッチンに行き、彼女は朝御飯を作って食べるために席についた。俺も彼女の前に座って彼女を眺める。今日も綺麗だな。おや?もうこんな時間か、彼女に知らせないと。
「7時だ、出る時間だよ」
「あー、もう出なきゃ。ここんとこハードで疲れるなー」
「帰ったら癒してあげるからな、さぁ行こう」
彼女と俺は連れたって会社に向かった。彼女が俺にスケジュールの確認をする。
「さて、今日は…と」
「今日は○×会社で営業と明日締め切りの資料作成、プロジェクトの臨時会議だよ」
「あー、○×会社の担当の松村さん、やたら近いんだよねぇ距離が」
あいつか。あの松村とかいう男は彼女に気があるのか資料を覗きこむ距離が近いし、打ち合わせだとか言って彼女を食事に誘う腹立たしい男だ。
今日もいつも通り彼女のサポートをしながら、仕事を終える。夜遅くまで彼女に合わせて仕事を頑張ってしまい、少し疲れた。家に帰ったら彼女が眠る顔を見ながら俺もエネルギーを充電しよう。
だが、いつも通りなのはここまでだった。彼女の後ろから足音が聞こえる。彼女の歩くスピードよりやや速い。俺が彼女に知らせるよりはやくに不審者が彼女に近づいた。彼女が気づいた時には、不審者が男だとわかる距離にまで接近されていて手には包丁が握られていた。
「やめろ!彼女に触れるな!」
幸運にも彼女の胸元を刺そうとした通り魔の前に出ることができた俺が刺された。だが、通り魔は包丁が彼女に刺さらなかったことに気付き、もう一度振りかざした。俺は何もできないのか、無力な俺では彼女を守れないのか、誰か!神様!どうか彼女を助けてくれ!
ビーーーーーーーーーー!!!!
彼女が引き抜いた防犯ブザーが鳴る。通り魔は驚いて逃げ出した。これで彼女は大丈夫だ。あぁ、だが、俺はこれまでのようだ。
彼女が刺された俺を見る。絶望的な顔をしている。そんな顔をしないでくれ、最期は君の笑顔がいいんだ。
「こ、わかった…携帯のおかげて刺されなかったけど、壊れちゃった。大切に使ってたのに、思い出とか仕事の予定入ってたのに。携帯ないと警察にも電話できないよ。はぁ、ショック…」
そう。俺は彼女の携帯電話。叶うはずのない願いを抱きながらずっと彼女に恋してた。でも、もう終わり。彼女を守るのは同じ人間の男だろう。新しいパートナーを買いかえれば俺のことなんて忘れてしまうだろう。だが、俺は彼女を守れた。それだけで幸せだ。願わくは彼女の今後が幸せであればいいな。本当は俺が守りたかったけど…
あぁ、どうして俺は携帯電話なんだろうか。彼女のそばに…い、た…かったな……愛、して…る
俺の意識は暗くなった。
(その純粋な願いに力を与えよう)
空耳が聞こえた気がした。
「佳歩さん!良かったらこの後、食事でもどうですか?」
後ろからかけられた声に振り返る彼女。
「ごめんなさい松村さん、この後は彼氏と久しぶりのデートなんです。次の打ち合わせよろしくお願いいたしますね」
「えっ、彼氏…」
男を振りきってこちらに歩いてくる彼女に手を振る。
「佳歩!すまない、会議が長引いて少し遅れた。大丈夫か?」
彼女が俺を見つけて幸せそうに笑う。
「大丈夫よ!祐司さんに会えたから疲れも吹っ飛んだわ」
「そうか、俺も佳歩に会えて嬉しいよ。長年の恋が実ったからね」
彼女の髪を撫でながら瞳を見つめる。
「ふふふ、何言ってるのよ祐司さん。私達が出会ってまだ一年よ?」
「そう…だね。さぁ明日は休みだし夜のドライブでもするか」
「ふふ、変な祐司さん」
何の奇跡か、俺の願いが叶った。気づいた時には、祐司としての記憶と携帯電話としての記憶を持った俺は彼女の取引先の会社の社員だった。彼女を守りたくて、なにより近くにいたくて彼女に出逢う機会をもぎとり彼女にアタックし続けた。前は彼女が幸せなだけで嬉しかったけど、今は彼女のそばに俺がいることが嬉しい。あぁ、幸せな人生だ。
「祐司さんってなんだかすごく懐かしくて前から知り合いだったような感覚になるわ」
「実は俺もだよ。きっとぴったりな二人だからって神様が会わせてくれたのさ」
「ふふふ、もう祐司さんったら」
携帯電話だった頃には叶わなかった願いが叶い、俺は幸せだ。
でもたまに彼女の持つ新しい携帯電話に嫉妬してしまうのはどうしたらいいんだろうか。
お読みいただきありがとうございました。




