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本物の価値

「もう、いいだろ。別れてくれ」

 俺は、今目の前にいる女に言った。女はもちろん彼女だ。俺が大学二年の時から四年付き合って、さらに同棲して三年が経っていた。正直もうこの女に飽き飽きしていた。

 話がある、なんて俺が切り出したもんだから彼女は目をキラキラさせて俺からのプロポーズを期待してたんだろうな。

「えっ、、うん、、。」

 彼女はキラキラさせていた目に涙をたっぷり含ませ、肩まで震えていた。

 そう、それなんだよ。俺が苛つくのは。何か言うとすぐ泣く。

「お互い幸せになろう」

 俺だって血の通った人間だ。流石に傷付けない言葉は選んだ。


 俺はスーツ姿から着替える為に、ネクタイを緩める。彼女が震える手でそれを受け取り、ショーケースに俺のスーツを脱いだ順に綺麗にしまう。

 それも今日でおしまいだ。別に一人で着替えくらい出来る。多少、寂しい気持ちももちろんあったが、俺だって踏ん切りつけて言ったんだ。後悔もなるべくしないように目をそむけさせて頂くさ。

 俺は腕にしたロレックスを外し、いつもの場所に置く。そのままシャワーを浴びバスローブに着替えた。

 彼女はソファで泣いている。それはそれをなるべく見ようとせずにPCに向かっていた。つまらないネットサーフィン中だが、女の泣き声がいちいち聞こえて来る。これで良いんだよ。あんな地味な泣き虫女。家で家事だけして、俺にはもっといい女が寄って来てるんだ。今じゃ会社で営業成績も断トツだ。そんな俺にあんな女釣り合わない。 

 彼女もさっさと気持ち切り替えて、どうせすぐ丁度いい次の男作るさ。人間の恋愛なんてそんなもんよ。


 彼女は自分の荷物をすべてまとめ、出て行くまでたった二日だった。流石にガラッとしてしまった部屋は少し寂しくて、なんとなく部屋の整理を始めた。

 次に女出来たらいずれ住ませるんだ。変な物残ってたら困るし、そんな気持ちを無理矢理作って部屋中を片していった。


 そんな中、部屋のクローゼットに小さいダンボールが置いてあった。これは学生時代に自分が使っていた安いアクセサリーだのネックレスをしまっていたものだ。もう使うことも無いし、この際捨ててしまおうと中身を漁っていた。


 その中に安っぽい今じゃ玩具みたいな黒いデジタル時計があった。

 それは俺がまだ就職活動中で時計が無いと言ったら、彼女がくれた物だった。

「私、高校卒業して服屋でバイトしてたの。でも腕時計を絶対着けなきゃいけなくて、安いんだけどしっかりしてるしょ。これならスーツでも大丈夫だよ」

 

 俺はその時計を見て、思い出した。

 

 大変だった就職活動でずっと着けてた、ただの黒い時計。当たり前の様に彼女が毎日着けてた物を俺が毎日着けて。俺が就職決まった時、彼女は俺よりも喜んでくれた。

 仕事が順調で、給料も歩合制でぐんぐん上がって、気付いたらその黒い時計はロレックスに変わってて。

 彼女に見せびらかすように時計を見せたら、なぜか少し寂しそうな顔の彼女を思い出した。


 そうか。

 俺は天狗になっていたんだ。仕事が順調なのも、思い返せば全部彼女が居たから、そして支えてくれたからだ。俺の部屋に住む?なんて都内にマンションなんか買って、女を住ませた自分に酔っていたんだ。


俺はロレックスの隣に黒い時計を置いた。


なんだ。俺は大馬鹿野郎だ。



この二つの時計の価値は比べれる物じゃ無いじゃないか。



俺の涙は黒い時計にこぼれ落ちた。




 自分から追い出した手前、変なプライドが邪魔をして、数日は連絡をこちらから取る事が出来なかった。

それから間を置いて俺は彼女によりを戻そうと連絡をした。


誠心誠意謝罪しよう。何度も何度も頭の中で気持ちを伝える事ばかり考えてた。





そう意を決して連絡取ったとき、


彼女はもうすでにこの世にはいなかった。


彼女は自分の役目を終えた、そのような文面の遺書を残し逝ってしまっていた。




全てを俺に捧げてくれた彼女



何を等価にしてももう戻って来ないのだ。。。



一生この黒い時計をつけて生きよう。

十字架を背負い、自分の罪を忘れないように。

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