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姉ちゃんの告白

今回は直樹Viewです。

シーンは2話のあと。短めでお送りします。


姉ちゃんに「結婚したいヒトがいる」と聞かされた時は、一瞬頭の中が真っ白になった。どんくらいかと言えば、大好物の豚の生姜焼きの味がわからなくなるくらい、だ。


「今日ね、プロポーズされたの」


そういって見せられた薬指の指輪。宝石とか貴金属とか全然わかんないけど、中学生のオレから見てもすっげー奮発したんじゃねーって思うくらいの存在感を放っていた。


夕飯の時間。ダイニングで立ったまま突然話し始めたものだから、とにかく座ってご飯を食べながらにしようと父さんに促され、姉ちゃんは席についた。

隣に座った姉ちゃんをマジマジと見やると、なによ?と睨まれた。


「姉ちゃんと結婚しようなんて強者、いたんだ・・・」


「それ、どういう意味?」


さっきまでは必死の形相って感じだったのに、腰を下ろしたらちょっと落ち着いたらしく、いつもの姉ちゃんに戻った。


「逸美。相手は誰なんだ?」


そのままいつも通りに姉弟ゲンカに突入しそうな雰囲気を察したのか、父さんの落ち着いた声が二人をさえぎる。


「そうよ。逸美、今付き合ってるヒトいないと思ってたわ。いつからなの?」


放心していた母さんもやっと帰ってきて(・・・・・)、手にしていた茶碗をテーブルに置き、改まった姿勢で訊ねた。


「えっと・・相手は佐藤 洋祐さんってヒトで、25歳、今はK県に住んでるの」


「今はって・・」


「もうすぐね関西に転勤で引っ越すのよ。あ、短期だからすぐに戻ってくるんだって。でももしかしたら少し伸びるかもしれないけど」


「じゃあ結婚って言ってもすぐってワケじゃないのね?」


「うん」


突然の娘の結婚話に余程緊張してたのか、母さんはホゥッと息を吐いて近くにあった急須を手に取ると、立ち上がってお湯を入れに行く。キッチンのほうからカチャカチャと陶器のあたる音がして、少しすると母さんはお盆にお茶を注いだ湯呑みをのせて戻ってきた。


「はい、お父さん。直樹も」


「サンキュー」


我が家では一年中お茶だ。さすがに夏場は麦茶になるけど。


「はい、逸美も。・・で?どんな感じの人なの?」


この質問を待ってました!とばかりに姉ちゃんの瞳がキラキラと光る。受け取った湯呑みをテーブルに置くなり、身を乗り出すように"佐藤 洋祐"を語りだした。


「あのねっ、すっっっ・・ごくカッコイイの!背が高くて細身だけどヒョロッてカンジじゃなくてモデルみたいなの。顔もね、ヤダ、どうしようって思うくらいイケメンで、若手俳優の〇〇 〇〇〇に似てるの!」


「! 〇〇?最近よくドラマに出てる?」


コクコクと頷く娘に、母さんは頬を赤らめて訊き返した。


「あらま!やだ、カッコイイじゃないの~。見たかったわぁ・・」


結構ミーハーな母さんの横で、父さんは微笑んで二人を見ている。う~ん、余裕だ。


「どうして連れてきてくれなかったの~?」


「時間がなかったの。彼の所からここまで片道4時間以上かかるのよ。プロポーズしてくれて、ジュエリーショップで一緒に指輪を選んでるうちに帰らなきゃならない時間になっちゃって。ほんとギリギリだったんだから」


自分の左手をうっとりと眺めながら、本当に残念そうな口調で説明した。


「4時間以上・・・。わざわざプロポーズのためにそんな時間をかけて来てくれたのか・・・」


相手の本気を感じ取り、父さんはしみじみといった風に呟く。話を聞きながらもしっかりと箸は動いていたようで、空になった茶碗を重ねると、少々ぬるくなったお茶を満足そうに啜った。


「彼もね、お父さんたちに挨拶もできず帰っちゃってッて気にしてた。でも引越しとか、慣れない場所での仕事とかで暫く忙しくなっちゃうし、なんかキチンとした挨拶はG・Wになっちゃうだろうって」


「そうか」


「まだ結構先なのねぇ。早く会ってみたいわ」


なんだかすっかり姉ちゃんの結婚・・いや、まだ早いか。婚約について父さんたちは了承してしまったらしく、和気あいあいと近い将来家族になる人の話で盛り上がっている。

なんか、オレだけ蚊帳の外みたいな気がしてムカついたから、意地悪して「でもさっ!」と会話に割って入った。


「そんな超イケメンがなんで姉ちゃんを選んだんだろう?姉ちゃん、別に美人じゃ無いじゃん。ブスってワケじゃないけど、それこそメチャメチャフツーじゃん?」


でもこの質問をしたことをすぐに後悔するハメになる。なぜなら、


「だよね。あたしもそう思うんだけど、彼は「可愛くて仕方が無い」ってアマ~い声で言うんだもん。もー蕩けそうなくらいの笑顔つきで!」


「キャーッ!」


語尾にハートマークをつけた悲鳴を上げたのは母さんだ。

オレは結局敗北感に白旗を揚げ、スゴスゴと立ち上がった。


「ゴ・チ・ソ・ウ・サ・マ!」


捨てゼリフみたいな一言を残して。



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