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可愛くてたまらない

続編です。よろしくお願いします。


彼女には最後の乗り換え前にメールを送ったら、改札を出てすぐ傍に喫茶店があるから、そこの角の席で待ってると返事が戻ってきた。

何度も乗換えをし、4時間ちょっとかけてやっと到着した初めて訪れる地。駅を出ると冷たい風に首筋を撫でられ肩をすくめる。俺が住む・・と言ってもまもなく関西に引っ越すわけだが、アパートのある関東南部よりもコチラのほうが少し寒い気がするのは気のせいだろうか。

肩をすくめて早足で歩き、彼女が指定した店のドアを開ける。彼女は本当に来てくれるだろうかと少々不安を抱いていた俺は、暖かい空気とコーヒーの香りに出迎えられた。


「いらっしゃいませ」


広くはない、白とメープルカラーを基調にした落ち着いた雰囲気の店内には、五十絡みの眼鏡をかけたマスターと、ウェイトレスと言うよりは手伝いといった感じの高校生くらいの女の子。声の主は彼女だろう。


「お一人様ですか?」


「いえ、連れが先に来ているはずなので・・」


案内を断りながら店内をぐるりと見渡し、彼女が指定した席を見つけた。

ドキンと心臓が鳴る。

窓際の席に座るショートカットの横顔の女性。外からの日差しを受けている頬は、緊張のせいか僅かに赤らんでいるように感じる。

逸る気持ちを押し隠しゆっくりと席に近づいてゆくと、こちらに気がついたらしく彼女は目をパチパチと瞬いて近くに立った俺を見上げた。


「持田 逸美さん・・ですか?」


くるんと見開いた目元が、小さな子供みたいで可愛い。惚けた様に俺を見ている彼女に、間違いはないと確信しながらも本人かを確認する。


「逸美さん?」


「はっ・はいっ! エッと、はじめまして!」


慌てて立ち上がってペコリと会釈した彼女の、うっすらと桜色だった頬は一気に朱に染まり、耳たぶまでサクランボのようになっている。上に着ているものが紫がかった紺色のタートルニットだからなのか、元々色白らしい彼女の顔がほのかに上気しているのが際立った。

並び立ったカンジからして背はあんまり高くない。俺が高いほうだから俯いた彼女のつむじが見えて、ウッカリ髪に触れてみたくなって困った。


「はじめまして。佐藤です。・・って、立ち話もないかな。とりあえず座りませんか?」


「はい・・」


あがってしまってガチガチの彼女を促し座らせると、コートを脱いで向かい合いの席に着く。丁度・・と言うよりは多分落ち着くのを待っててくれたんだと思うケド、店員の女の子がオーダーを取りに来た。


「コーヒーを。逸美さんは・・ミルクティーですか? 同じもの頼みます」


先に来ていた彼女の前にカップが置かれているのを見つけて訊ね、こくんと頷いたのを認めると同じものを頼んだ。


「・・改めまして、佐藤 洋祐です。今日は急に押し掛けてしまって、すみません」


予定を台無しにしてしまいましたか?と訊くと、ふるふると頭を振る。


「あ、いえ。大丈夫です。・・佐藤さんこそこんな遠くまで大変だったでしょ?」


訊き返されて苦笑がもれる。


「そうですね・・大変じゃない・・と言ったら嘘になりますね。実はここまで4時間とちょっとかかりました。直線距離でいったらそんなに離れている気がしなかったんですが」


「よっ、4時間ちょっと・・っ!」


ビックリしすぎてちょっぴり声が上ずっている。思わずクスリと笑ってしまった。


「え・・えと、あの、ご苦労様です?」


なんと言っていいかわからなくなって出たらしい労いの言葉に、今度は思いっきり笑った。


「佐藤さん?」


突然笑い出した俺を不思議そうに見ている彼女に、砕けた口調で「ごめん」と謝った。


「・・・っ。すまない。あまりにも可愛くて・・」


「! かっ・・かわっ・・」


タイミングよくテーブルに置かれたカップに手を伸ばし、コーヒーでのどを潤す。笑ったおかげで肩から力が抜け、気持ちに余裕ができた。

彼女にもどうぞとミルクティーのカップを勧める。今しがたまで畏まって背筋を伸ばしていた目の前の男の変化を感じ取ったのだろう、僅かに小首を傾げていた。


「見合いの席ってわけじゃないんだから、お互い敬語は無しにしよう。 ・・逸美さん」


「はい・・?」


彼女がカップをソーサーに置くのを確かめてから、腕を伸ばし彼女の手を包み込むように握る。小柄な彼女は指先まで細くて、桜貝のような小さなピンクの爪が可愛いらしい。

うろたえる彼女の様子を堪能しつつも、ズバリと本題の一番肝心のところから切り出した。


「逸美さん、俺と結婚して欲しい」


「っ!」


声も出ないくらいに驚いている彼女に、さらに追い討ち。


「約束したモノ、時間がなくて用意して来れなかったんだ。もしよかったらこれから一緒に選びに行かないか?」


「約束したものって・・?」


すぐにぴんとは来ないようだ。

なめらかで触り心地の良い手の甲を親指の腹でゆっくりと撫で、意図するものを示すように薬指の付け根に辿り着いた。


「忘れちゃった? サイズを訊いたら教えてくれただろ? 『9号』って」


「! あ、や、忘れてない・・けど、あの・・・今から?」


そう、今から。ダメかと訊く。


「全然ダメとかじゃないけど・・」


「ないけど?」


「・・・・・・」


何に引っ掛かって首を縦に振ってくれないのか、彼女は痛みをこらえるようにギュッと唇をかんだ。


「逸美さん?」


「・・・・・・」


再度呼びかけると、俺の視線から逃げるように窓の外へと目を移し、やっと聞き取れるぐらいのささやき声で胸のうちを明かしてくれた。


「ホントに・・・あたしでいいんですか?」


今にも泣き出しそうな表情。俺が身勝手にちょっと急ぎすぎてしまい、彼女を不安にさせてしまったかと反省する。安心させたくて・・・いや、頻繁に会えないからと、拘束して安心したかったのは俺のほうかもしれない。

急いた自分に呆れ、苦笑とともにため息が漏れる。

アイテムは所詮アイテムだ。想いを伝えたい、伝えて安心して欲しいのなら、まずは言葉にして示すべきだろう。


「逸美さん、俺はあなた()いいのではなく、あなた()いいんだ。俺は・・佐藤 洋祐は、持田 逸美と結婚したい」


「・・ふ・・ぅっ」


彼女は俯いて嗚咽を漏らす。

空いていたほうの手をもう片方の手を握ったままの俺の手の上に重ね、うん、うん、と頷いた。


「好きだ」


彼女は再び頷く。テーブルの上にポタリと雫が落ちた。


「ふぇ・・っ、あ、あたしも・・っ。あたしも佐藤さんが好き・・」


涙でビショビショの頬も、しゃくりあげる子供みたいな涙声も、全てがたまらなく可愛い。愛しさが次から次へと溢れ出てくる。

俺はどうしてこのヒトがこんなに好きなのだろうと自問し、どうしてもこのヒトでなきゃダメなんだと、答えになってない答えをはじき出す。


空いてるほうの手で、下を向いたままの彼女の頬に触れて顔を上げさせると、真正面からその瞳を覗き込み、思いの丈を口にした。


「あなたを愛してる」


誰よりも。これから先も、ずっと。

永遠に・・・





実は現在、スピンオフも書いてます。主役は「ベッド~」に登場したXXとXX。

コチラも頑張りますので、もう少々お待ちいただけたら幸いです。

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