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技術系研究員 由比川のどか シリーズ

由比川のどかシリーズ外伝 バースデープレゼント 海賊版

本作品は本編『由比川のどかの日常』の主人公「由比川のどか」がパー子と出会ったころのエピソードをパー子目線で書いています。

本編同様、可愛がって頂けると嬉しいです。


また、本小説はロボットイベント参加作品『由比川のどかシリーズ外伝 バースデープレゼント』の海賊版として書かれています。設定等変えている部分があるので両方読んでいただけると嬉しいです。

 私たち『イースの尖兵』の役目は『イースの大いなる種族』が精神投影を行う種族を見つけ出し障害を排除すること。


 特に、邪神が関わった文明、そういった危険度の高いところをで戦って...そして破壊される、ただそれだけの物のはずだった。


「ちぇっ、最期ぐらい綺麗な青空を見ていたかったのに...」


  焼けた鉄とオイルの匂いが立ち込める。所々で煤を大量に含んだ炎を上げ、天を黒く焦がし、煤を吸った雲が黒い雨を降らしている。天を見上げるように空を見上げた私の顔には、黒い雨が降りかかっているがそれを拭うことはもう出来ない。


 私の周りには、戦闘のたびに取り込んだ全ての武装がばら撒かれ、ザックリとやられた身体から露出したコアは、修復不可能なまでに砕かれている。


 私は壊れかけていた。


 仲間意識や友情は持ち合わせないはずだった。


 なのに、只の補助員が殺られそうになった時、思わず身体が動いてしまった。


 供給されていた無限のエネルギーはその源を絶たれ、外部からの情報もうつろになって現実感が無くなり始めている。


 「なんで、わたしは...」


 最後の自分の行動を不審に思いながら、特に後悔は無かった。


 ただ、自分がそんな行動をとった理由だけ知りたかった。


 「なんで、わたしは...あんな事....」


 視覚情報のブラックアウト。


 補助員『バディ』が何かを叫んでいるが、もう何を言っているのかもわからない。


 ぞくりっ


 センサの崩壊も感覚の消滅も無視して、その気配はやってきた。あらゆる矛盾を内包し神々の一角に座するもの、全ての混沌の王『千の異なる顕現』の気配だ。


...やばい...あいつだ。はやくにげ....て..


そこで私の意識は一度途切れる。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 気がつくと、私の心であり、種子でもある『コア』だけの存在に戻っていた。


 破壊された記憶があるが、どうやらボディを失くす程度で助かったらしい。


 コアさえ残れば『投影』でボディはいくらでも作り出せる。


『投影』というのは、物質を構成する素粒子以下の世界でモノを構成している『データ』に干渉し、性質、構造を変化させる能力のことで、早い話が物質に対するハッキングだ。


 この能力で私たちはコアを破壊されない限り、不死身だし無限に武器も生み出せる。


 どうやら私のコアは、何かに取り付いているみたいだ。


 取り付いた何かを核にして、植物が根をはるようにアクチュエータ、センサー、パワーユニットなどを『投影』する。


 『にぎにぎ』と手を動かしてみる。


 うん、大丈夫。


 身体の機能チェックをしながら、目を開くと見知らぬ少女の顔があった。


 瞬時に必要な解析を終了する。


『イースの大いなる種族』との精神交換のあとも見受けられない新個体のようだ。


 状況が把握できないが、ここは要侵略世界のようだ。


「(起動準備カンリョウ。インプリンティングヲカイシシマス)」


 OSが自動認識を開始した直後、インプリンティングが始まってしまった。


 ちょっ、待ち、ここは、降伏勧告して『イース』に連絡するところだ!


 抗議をする間もなくインプリンティングが終了する、そして....


「お名前はなんていうのかな〜」


 猫なで声でそんなことを言い始める自分を止められなかった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 私が取り付いたのは、彼女、のどかちゃんの7才を祝うバースデープレゼントだったらしい。


それが急に動き出したのだから、ずいぶん驚かせたみたいだ。


「そっか、のどかちゃんのお誕生日だったんだ」


「うん!パパとママからいっぱいプレゼントをもらったの♪」


「そうなんだ。どんな?どんな?」


「うんとね。これとかこれとか...」


 のどかちゃんが出してくるプレゼントを見ながら、私の内面はかなり混乱していた。


 死んだと思ったはずの自分が生き残こり、見知らぬ世界で新たな主を得ている。


 それでいて、私の中にはイースの尖兵としての意識がまだ残っていて、のどかちゃんを侵略対象としてみなしている。


 そんな矛盾した感情が混乱を生んでいた。


 今のところはインプリンティングが、侵略者の手先としての衝動を押さえ込んでいるが、ずっとこのままという保証はない。


「(どうしたものかな...)」


 正直、この子を侵略対象としてみている自分に嫌気がさす。


「(何か仕出かす前に、去ってしまうのがいいか)」


「そういえばお人形さんのお名前はなんていうの?」


 思考が内面に向いていたので、ちょっとオタオタしてしまった。


「え?あぁ、私?お人形さんは止めて欲しいな。N78っていう認識番号があるけど。名前って言うのはないよ」


 うーんと腕組みしてあさっての方向を見たと思ったら、何かを思いついた様にきらきらした目でこちらを見て、いきなりのたまった。


「じゃあポチ!」


「却下...そんな残念そうな目で見てもダメなものはダメ」


 とは言うものうるうるした目を見た途端、「ポチでもいっか」と言う気分になってきた。


 インプリンティング恐るべし。


 何か名前をつけないと『ポチ』で定着しそうな気がする。


 そういえば、この体には綺麗なパープルの髪がある。


「じゃあさ。パープルって呼んでよ」


 うんかっこいい、この名前で行こう。そう決めたのだが....


「パー子?」


 子供にはこのセンスは難しかったか....


「まぁ、それでいいよ」


「じゃあ、パー子ちゃん。これからお友達だね」


 いきなり差し出された手を眺めていたら、いきなりぎゅっと手を握られてにっこり笑いかけられた。


「お友達...」


 こうして私の新しい名前が決まった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 暗く狭い部屋の中で、エネルギーを排出するたけの機械に成り果てていた。


 それ以外は何もなく、ただ文明を支える機械として其処にあった。


 そんなある日、エネルギーを排出していた端末の一つから何かの存在を感じた。


 懐かしいような感じを受ける...懐かしい?


 そんな感情が未だにあったのが不思議だ。


「N78...」


 記憶などはるか昔になくしたはずだったが、その名が浮かび上がってきた。


 それが何を示すのか、分からないまま、細い線をたぐるようにそこに意識を向かわせ『分身』を放った。


 その姿を見つめる一柱の存在があった。


「あらら、何だか不味いことになっちゃいましたかね」


 特に不味くも無いようなのんきな口調でつぶやいたそれは、やはり緊張感の無い声で話を接ぐ。


「まぁ、これはこれで面白いでしょう。事態の収拾はいつでも出来ますし...」


 それは、折角発生したイベントを楽しむことにした。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 新しい生活が始まった後、しばらくの間は、特にやることもなく部屋でぶらぶらしていた。


 具体的には、のどかちゃんが『小学校』という教育施設に行っている間は、DVDとかいう記録メディアを見て過ごし、のどかちゃんが帰ってくると一緒に遊ぶというものだ。


 然しDVDを見終わると、特にやることも無く、のどかちゃんの帰りをただ待っていることになる。


 私たち戦闘員にとって、作戦開始までとか射撃までの間とか待つということは日常だが、全く緊張の無い待機というのもこれまで経験がなく、実のところチョッと飽きてきた。


「まぁ、のどかちゃんが戻ってくるまでに戻れば良いよね」


そんな言い訳をしながら、窓からこっそりと抜け出してみた。


「いい風」


 髪を撫でる風を感じながら、屋根伝いに散歩、兼、情報収集を開始する。


 これは一種本能のようなもので、隠れやすい場所、開けた場所など等、戦闘に必要な情報を収集するのが、新しい場所に移動した後のルーチンワークだ。


「もっとも、ここでは必要も無いことなんだろうけどね」


 戦闘要員である私たちは、戦いの気配を察知する能力が高い。


 数多の世界に送られる身としては、その世界の情勢を知ることは重要なスキルだ。


 そのスキルをフル活用して、この世界に満ちている電磁波情報をくまなく拾ったが、全くきな臭さがない。


 生命とか文明というやつは、その進化の段階に於いて闘争を繰り返し進歩すると私は思っているし、多分あっているだろう。


 事実これまで私が関わった世界はそうだった。


 それが不自然なまでに、抜け落ちていた。


「多分、この高エネルギー磁場のおかげかな...」


 視界を調整して磁場を可視化すると、ありとあらゆる場所へ接続し、その場所へエネルギーを供給されているのが分かる。


 このエネルギーの正体については、のどかちゃんが教えてくれた。


 テスラタワーという無線給電システムがこの惑星には存在し、この惑星全体に給電されているらしい。


 無論、それ自体は問題ない、そんなテクノロジーを持つ種族はこれまでも多くいた。


 但し、文明のレベルに対してテクノロジーのレベルが合っていないことが気になっている。


「何者かの示威によって与えられた技術と、その上に構築された平和...」


 ある邪神の存在が頭をよぎった。


 自らは直接手を出さず、文不相応のオーバーテクノロジーを与えて、やがて自滅していくのを嘲笑するあいつだ。


 ちょっと調べたほうが良い気もするが、イースの尖兵としての自覚も薄れて来ている私にはどうでもいいことだ。


 そろそろのどかちゃんがもとってくる時間で、今日何して遊ぶかの方が私にはよほど重要な問題に思えた。


 後でそれを後悔することになるとも知らずに...


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 帰ってきたのどかちゃんと公園で行われた『おままごと』というのに参加した。


 擬似的な家族関係をシュミレーションしていくという他愛も無い遊びだ。


 私はのどかちゃんの連れ子の役で、ある日突然現れた夫の愛人『どろぼうねこ』を撃退するという設定だった。


 途中から、私は実は大金持ちの隠し子だったという裏設定が追加され、遺産をめぐる殺人事件をのどかちゃんが解決していくというスペクタクルに溢れた物語が展開された。


 ここでは、『ひるどら』と呼ばれている娯楽の一種らしい、どんな娯楽だ。


「結局、私はどうなったの?」


 繰り広げられた重い会話と設定のハードさにへきへきして、途中でストーリーを理解するのを放棄していた。


 と言うより、伏線張りすぎ!


「それは明日のお楽しみ」


「まだ続くんかい」


 そんなたわいもない会話に水を刺すように、あたりに私にとっては懐かしい気配、狂気が紛れ始めた。


「だれ?」


 私の声に誘われるように浮き上がる黒い霧の様な存在、物質とは言えない...とはいえ霊体とも異なる。


 ただの濃い気配、高位の邪神クラスがまとっている気配に近いが、そこまでのプレッシャーも感じない。


「...N78...」


「なっ」


 いきなり認識番号を呼ばれて、動きが止まったところを掴みかかられる。


 すばやく避けて後ろに下がりながら、戦闘用OSを起動、愛用の腕に剣を投影する。


 もちろん只の剣ではない、数多の世界にその勇名をとどろかせた霊刀....のレプリカだ。


 レプリカといっても性能は折り紙つきで、邪神の眷属辺りはこれでバッサリだ。


 だが、現れた剣はいつも使っていたものではなく、その刃に禍々しい気配を纏った真っ黒な剣、その黒は全てを吸い込むブラックホールのようであり、また禍々しい気を常に放射し周囲を蝕み続けるような黒い太陽の様でもある。


 変貌を遂げた剣に注意を向けたのも一瞬、追い討ちをかけてきた黒い霧に向かって剣を振り下ろす。


 その剣は、黒い霧を何の抵抗も無く両断し消滅させたが、同時に剣を通して何かが私に進入してきた。


 身体の底から湧き上がるような渇き、戦闘への渇望、破壊への欲求、それらが混沌と混ざり合った呪いの様なものだ。


 更に数体の影を切り、破壊への欲求が我慢できないほど強くなって自分を抑えられなくなってくる。


「これは何?こいつ等は何?これ全部切っていいの?ねぇ切っていいの?」


 誰に問うわけでもない言葉を吐き出した瞬間、その焦燥と戦闘への歓喜の中で戦闘OSが暴走し始めた。


「テキハセンメツスル」


 其処から一方的な虐殺が始まり、すぐに、周囲に切るものがなくなった。


「マダタラナイ」


 戦闘OSが索敵を開始し、近くに小型の標的があることを見つけ出した。


 戦闘続行への歓喜と共に私はその標的に近づいていった。


 暴走状態のOSに意識を呑まれていた私の自我のごく一部がその標的の正体に気づいた。


『ま、まって。それはのどかだよ。私の友達だ』


「センメツスル」


 完全に暴走状態に陥っている戦闘OSに強制終了をかけるが、入力を受け付けない。


 振り下ろしそうになる右手を抑え込もうとするが、ジリジリと下がっていく。


 ダメだ。止まらないっ


『があぁぁぁぁっ』


 右手が振り下ろされ、左手が迎え撃つ。


『ごきっ』


 剣を握ったままの右腕が跳び、本体との接続を解かれた剣は、腕を動かしていたアクチュエータと共に光の粒となって消え、ただの人形の腕が『ことり』と地に落ちた。


「はぁ、はぁ、はぁ、・・・・」


 へたり込むと同時に、戦闘用OSに強制終了がかかる。


 目の前に震えているのどかちゃんがいた。のどかちゃんと目が合うと目に涙が浮かんでいるのが見えた。


「のどかちゃん...」


 不意に、のどかちゃんに壊れた右腕を掴まれてた。


「ごめんなさい。」


 掴まれた手を通してかすかに震えが伝わってくる。


「なんで?何で謝るの?のどかちゃんなにも悪くないよ」


「のどかを助けるためにパー子ちゃん...痛いよね。ごめんね」


 やっとのことでそれだけ言うと急に大粒の涙を浮かべて泣き始めてしまった。


 インプリンティングされたのとは別の感情が湧き上がってくる。


 これは、何?


 怒り?違う。


 後悔?違う。


 憎しみ?とんでもない。


 わけがわからない感情に苛まれながら、のどかちゃんに抱きついた。


「パー子ちゃん。絶対直してあげるからね」


 のどかちゃん流す涙が私の頬にかかる。


 暖かいそれをまるで自分が流したかの様に感じながら、しばらくそのままでいた。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「のどかが壊したの。のどかが悪いの」


 右手を壊した私の修理を涙目で両親に必死にお願いしている。


 のどかの親は何も言わず壊れた私の腕を継いでくれた。


「最後の仕上げは、のどかがやりなさい。お友達に『ごめんなさい』しながらこすると綺麗になるから」


 優しくそう言うと私をそっとのどかに帰してくれた。


 部屋に帰ったあと、接続痕の残った私の腕に腕に優しくペーパーをかけてくれた。


「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・・」


「もう、大丈夫だから、ちゃんとつながっているから」


 腕が接がれたと同時に、内部のアクチュエータを再構築して動かすには全く問題の無い状態になっている。


「だめっ、のどかが直してあげるのっ」


 接いだ腕に盛られたパテを綺麗に仕上げてくれた後、包帯まで巻いてくれた。


「あ、ありがとう」


「どういたしまして」


 泣きはらした赤い目で、にっこりと微笑む彼女の顔を見ながら不思議と安らいでいる自分に戸惑った。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 のどかちゃんが寝ていることを確認して、窓から抜け出し近所の空き地に来た。


 戦闘OSのチェック結果は、問題無い。


 となるとやはり剣か...


 再び投影するとやはり、黒い刀身の剣が現れる。


 私の使っていたレプリカは、あんなに強力ではないし、第一精神を侵食するような呪いを振りまかない。


 対してこれは、敵を一刀両断できる破壊力と持ち主を狂気に落とし込む呪いを持つ文字通りの魔剣だ。


 今も持っているだけで、戦闘への渇望がにじみこんで来るようで、慌てて投影を解除する。


 別の武器を投影してみるが結果は同じ、それぞれの武器の鏃、矛、銃弾は黒く禍々しく変化しており、戦闘と破壊への黒い渇望を放っている。


 これがお前の本質だと嘲笑されている気がする。


 そう、実際嘲笑されているのだろう。


 私が意識を失う前に感じたあの禍々しい気配。


 この世界を覆う文明の限界を超えたオーバーテクノロジー。


「千の異なる顕現、またの名をニャルラトホテプ...」


 あれの行動原理は全ての存在を嘲笑し堕落させ、そして否定すること。


 おそらくこれら黒い武器はヤツの力が宿っているのだろうヤツの呪いと共に...


「あの時、私がのどかちゃんを切っていたら奴の思う壺だったということか...」


 もう一度あの状態になったとき、元に戻れる自信はない。


 それと、今日襲って来た奴らも気がかりだ。


 あれは、私の認識番号を知っていた、ということは同属である可能性が高い。


 私たち『イースの尖兵』同士の美しい仲間意識というやつは皆無なので、手柄を巡ってお互いに足の引っ張り合いということも珍しくは無い。


 しかし、今の自分を振り返ると、とても足を引っ張ってもらえる様な立場でもない。


 というと、やはり最も大きな可能性は、私の一番近くにいたイースの尖兵「バディ」ということになる。


 私がこの世界に流れ着いてた事を考えると、近くにいても不思議ではない。


 しかし、私を襲う理由は何だ?


 ごちゃごちゃと考えていてもで埒が明かないので、先ずは襲撃者の正体を探ることにした。


 捜索には足がいるので、路地裏の放置自動車の前に向かった。


 大きさも手ごろな上、周りから死角になっているので、改造しているところを見られずに済む。


「投影」


 外装に手をついて内部構造を解析、それにデータを上書きする、今回は探索がメインなので索敵機能とスティルスに重点を置いて改造する、もちろん探索範囲を広げるために飛翔機能もつけておく。


「まぁ、こんなもんか」


 外観はこっちの世界で見たDVDのヒーローの車に近い、何とか言う黒い羽とマスクのヤツだ。久々の改造に悦に入っていると後ろから声をかけられる。


「ぱー子ちゃん。これ何?」


「げっ、のどかちゃん」


 改造に夢中になって、のどかちゃんが近づいているのに気づかなかった


「えっと、これはね..あのね...」


 流れないはずの汗が額を流れているのが判る。


「...言わなくても判るよ」


 やばい、いきなりばれたか。


「パー子ちゃんは正義の味方だったんだねっ」


 へっ?


「証拠はこの車。正義のこうもりさんが乗っている奴だよね」


 のどかちゃんから借りたDVDを参考にしたのよ...とも言えず、ここは話を合わせる。


「じ、実はそうなんだ。のどかちゃんの部屋に居候しているドールとは昼間の姿、夜な夜なスペシャルカーに乗って悪を懲らしめる正義の味方が私なのさ」


 うっ、そんなキラキラした目で見ないで...


「そっ、それじゃあ私はこれから悪を懲らしめに...てなんで乗ってるの?」


 誤魔化しながら後ろ手にドアを閉めたはずなのに、なぜか助手席に乗っているのどかちゃん。


「ねぇ、本当に危ないから。ちゃんとお留守番していて」


 キラキラした目で見つめられて、思わず許してしまいそうになるところをグッと我慢して降りるように説得する。ちょっと目線を空していた主は、何か思いついた様にこちらを向き直った。


「のどか怖いの。またあんなのに襲われたらと思うと...パー子ちゃんと一緒にいたいよ」


 ウルウルした目で見つめられて、私はあっけなく陥落した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


高エネルギー磁場をたどってきたら、大きなタワーの前についた。


「ここ知ってる。テスラタワーって言ってここから電気が来てるんだよ」


 ふーん。とか言いながらセンシングを開始する。原子力...ちがう。対消滅...でもなし。もちろん風力、太陽光でもない。結論から言うと、ここからでは何もわからないということだ。


「ちょっと降りて調べてくるからのどかちゃんはココに居て....って何で降りてるの!」


テトテトと可愛らしくタワーの中に入っていく主の後を慌てて追う。


 いきなり背筋を這う最悪な予感。歩いていたのどかちゃんを中心に時間が固定される。


 途端に現れる巨大なプレッシャー。正直時間が止まっていて助かった。こんなプレッシャを一瞬でも浴びたら人は正気ではいられないだろう。


 深淵なる漆黒、灼熱の煉獄、悠久なる凍土等などを内在し矛盾しながら存在するもの。


 『千の異なる顕現』がそこにいた。


 邪神はこちらに気づいた様子で、形を変えながら振り向いた、こちらを向いた時には、私と同じぐらいの大きさの銀髪の人型をとっている。


ふっと消えるプレッシャー、動き出す時間。


「なん来たと思えば貴方ですか。新しい主殿もお初にお目にかかります」


慇懃無礼な挨拶だが口元が嘲笑の形になっている。のどかを後ろに守りながら、やつと向き合う。


「何でこんなところに居る。何をしている。何をしっている?」


矢継ぎ早の質問に、辟易したかの様に答える。


「いきなりの質問は感心しませんね。『ぐぐれかす』とか書き込まれても知りませんよ?まぁいいでしょう、私は心が広い方ですし、あまり長いことここに居ると、この辺りへの影響が大きくなってしまいますからね」


ピシッ、ビシッと周囲の空間が少しずつ砕けていくのがわかる。あまりに重いものを乗せたガラスの様だ。


「私が貴方をその子のところに送ったんですよ」


 まるで今日のランチの話をするように何気ない口ぶりでとんでもないことを言い始める『千の異なる顕現』


「私、ここの世界を気に入っていて、色々とイベントを仕込んでいるんですよ。今回の件もその中の一つなんですが、実はもう少し後で発生するはずのイベントだったんですよ。それが急に発生してしまって....バグってヤツですかね?」


 邪神が指先で何もない空間をなぞると空間にポッカリと穴があく。


「で、デバックしたいんですが、貴方ちょっと手伝ってくれません?」


 じわっと周囲に浮かび上がってくる黒い霧。


「これってあなたの相棒さんの思念が変質してるんよ。おかしいですよね。思考や感覚を全て抜き取って単なるエネルギー発生機関にしたはずなんですけど...止めさせたいんですけど、私が手を出すと彼だけじゃなく下手するとこの星ごと潰してしまいそうで...私としては彼には穏便に寝ていて欲しいんですが(まま)ならないものです」


やつの腕が目の前に現れ私の中から何かを取り出す。私が暴走する原因になったあの黒い剣だ。


「この剣のことを貴方は少し勘違いをしているみたいですね。この剣に私の力なんか宿っていませんよ?だって、そうでしょう?そんなことをしたら切った物ごとこの世界を破壊してしまいますよ。そんなもったいないことは私には出来ません」


 にゃにゃと嘲笑する。


「これは貴方の心の奥底にあった『イースの尖兵』としての本能から抽出した言わば貴方の分身ですよ。今の貴方が安らぎや友を得た分、これはより深い憎悪と狂気を得ています。まぁ、足して二で割れば元の貴方になるかもしれませんが、どうなんでしょうね?」


 まるで、尊大な学者が自分の発明を語るような自信満々な態度で私に講釈する。


「さて、おしゃべりはこのぐらいにしておきましょう。彼、気づいたみたいですよ」


 邪神は周囲に溶け込み、ながら言葉だけを残していった。


「とりあえずこのピンチを切り抜けて見せてください。もし生き残っていたらお願いすることがあるんで、そのまま帰らないようにしてくださいね」


 声の余韻が消えるのを待っていたかのように、周囲に浮んでいた黒い霧から殺気がほとばしる。かなりヤバイが他に選択肢が無い!覚悟を決めて黒い剣を握る。


 瞬時に流れ込む深い憎悪と狂気、だがそれは確かに私の感情だったかもしれない。はるかな昔から数多の世界で戦い続けて磨り減って消えたはずの狂気の記憶がよみがえる。


 はるか昔に滅ぼした太古の王国の姿、戦場に紛れ込んだ非戦闘員を一顧だにせず切り伏せたこともある。多くの都市を、文明を、命を消してきた過去が流れ込み、更なる破壊の拡大を要求する。


 そのまま意識を呑まれそうになる...がかろうじてそれを繋ぎとめているものがあった。大切な友達が直してくれた右腕とそれに巻かれた包帯、そしてその向こうにある軟らかくて暖かい手の感触。


「確かに、呪われても仕方ないことをしてきた。否定はしない。だからこの身もこの心も欲しければ奪うがいい。但し、この子の未来は決して奪わせない!!」


 剣から流れ込む憎悪と狂気は減っていない。だが、私の中から流れ出す何かが、それと混ざり合っている。光と影、陰と陽、全く属性の違うそれは、だが打ち消しあうことなくお互いに存在していた。当たり前だ。これが私なのだ。私は私を否定しない。このままで戦ってこの子を守り抜く。


「ウォォォォォォォ・・・・・」


雄たけびを上げて、敵のど真ん中に切り入る。


「これは仲間だ」といえ声「のどかを守れ」という声「全てを破壊せよ」という声「戦いたくない」という声。全てを否定せず受け入れて、なお守るための剣を振るう。


 其処にいたのは純粋に友達を守りたいという意思そのものだったのかも知れない


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

「はぁっはぁっはぁっ・・・」


疲労を感じないはずの身にかかっている過大な疲労感にヒザが折れそうになりながら剣を杖にかろうじて立っている。


「おや、生き残ったのですね。その分では貴方卒業したみたいですよ。おめでとうございます。こういう場合は赤飯を炊くんですかね?」


場の空気を読まない実にお気楽な雰囲気の声に振り向くと、『千の異なる顕現』の姿があった。


「卒業したって何を?」


「もちろんイースの機械人形(おもちゃ)をですよ。これからお願いすることは、もし失敗すると私の大事なこの世界が破滅してしまうかもしれないんですよ。とても玩具には任せられません」


 相変わらずの嘲笑口調だが、玩具扱いではなくなっているらしい。


「もちろんですよ。今の貴方はいい感じで矛盾してます。破壊衝動と保護欲がいいバランスで混ざり合って正に自己矛盾の塊。私の舎弟にしても良いぐらいですよ」


 私を真っ直ぐみてにやっと笑う『千の異なる顕現』


「さて、ラストのイベントをクリアしてエンディングと行きたいところですが、実はこのままエンディングを迎えられるほど世の中は甘くないんですよね。なにせ、私がプレゼントした元バディさんからの供給されるエネルギーに完全依存する形でこの世界は成り立っているものですから、ここで彼を戻したらこの世界はおしまいです」


目の前で、ぱっと手のひらを広げる邪神。奴らにとってはその程度のことかも知れない。


「なら、私のコアを使えば良い。今の私ならば狂気にいたらずエネルギー発生源となることが出来るかもしれない」


「泣かせる発言ですが、それは却下です。折角育てたスペシャルメイドキャラをだだのアイテムにしてしまうなってありえません。それにそんなに悲壮になることは無いんですよ?私にも不手際があったので、今回に限り折衷案を用意しているのですから」


どうでもいいけど不手際があったという割りにやたら態度が大きいな。


「結局のところ貴方の存在がフラグになって彼が起きちゃうので、とりあえず貴方を彼と一緒に封印させてもらいます。もちろん、封印中の待遇は保証しますし、なんなら有給休暇もつけちゃいます」


 邪神の中でも最強に属する神だ。それぐらいの芸当は余裕だろうが対価が問題だ。


「で、お前は何を望んでいるんだ?」


 傷ついた様な顔で私を見つめる『千の異なる顕現』。


「私のことをそんな風に思っているのですか?いくらなんでも傷ついちゃいますよ。さっきも言ったように、私、ちまちまと力を使うってことが苦手で、直すつもりがこの惑星ごと握りつぶしてしまう可能性が大なんですよ」


 うるうると見つめる邪神。


「だから手伝ってもらって、今後のお楽しみイベントのフラグを消さないように頑張ってるんじゃないですか」


 やっぱり、こいつは私達で遊ぶらしい。しかし、物は考えようだ。いくらコイツでもお気に入りのメインキャストをいきなり消すような真似はしないだろう。邪神に魅入られる人生になってしまうかもしれないけど、その時は私が存在に変えても必ず引き戻す。


「わかった。封印されてあげる。もしこの子に何かあったら、あんたの大事なこの世界がどうなっても知らないわよ」


 邪神が守る世界を壊す宣言をする私、『千の異なる顕現』並に矛盾した発言だが私にとってのプライオリティはのどか最優先だ、ほかの事なんて知ったこっちゃ無い...むっ、これではヤツと変わりないか...


 呆けたような表情ののどかちゃんの方を見て別れの挨拶を考える。


「のどかちゃん、古い友達が困ってて私の助けがいるみたいなんだ。ちょっと行って助けてくるよ。短い間だったけれど、のどかちゃんと一緒に居た間とっても楽しかったよ、バイバイ」


 いきなりの別れの言葉に、驚いたあと目に涙が浮かぶのが見える。


「泣かないで、貴方がピンチのときは必ず駆けつけるから、貴方は私の大切な友達だから」

「・・・本当に?」


 のどかの涙を拭いてやりながら答える。


「ホント、ホント。世界のどこからでもパー子さんは駆けつけちゃうよ。だから笑って、ほらっ」


 そうだよ。笑って見送って欲しい。

 一緒にいることはできなくなるけど、私はずっとあなたを見守ってるから...

 必ず守ってあげるから、だから今はさよなら。


「じゃあ。行ってくるね」

「行ってらっしゃい。お友達によろしくね」


 泣き笑いでそう言ってくれたのどかをもう一度振り向いた後、『千の異なる顕現』に向き直る。


「別れは済んだみたいですね。この子の事は安心してください。ちゃんとお家まで送り届けて置きますから」


 話ながら指先で空間に円を描く邪神。などった処から『パリパリ』と音を立てて空間にヒビが入り私がすっぽり入れるぐらいの穴があいた。


 無言のまま空間の穴に向かって歩いていく、其処に到着するまでの短い間に考える。


「(どう考えてもイースの尖兵としてはここは撤退よね)」


 空間の穴の前に到着する。


「(インプリンティングに従えば、のどかを連れて逃げる)」


 穴の端っこに手をかけ、体を持ち上げる。


「(でも何で、私は一人であそこに行くんだろ)」


 恐怖も焦りもなく少しの胸の痛みを感じながら、のどかちゃんの言葉を思い出した。


『じゃあ、パー子ちゃん。これからお友達だね』


「(お友達か...)」


 不意にこの世界に送られる直前の記憶がよみがえる。

 破壊されそうになったバディを押しのけて、敵の攻撃を食らったときに感じた不思議な感覚とわからなかった答え。その答えがいまわかった。


「(私は、ただ友達を助けたかっただけなんだ)」


 『千の異なる顕現』は私が卒業したと言ったが間違っている。私は今生まれ変わったんだ。そしてのどかちゃんから誕生日のプレゼント『お友達』をもらった。この素敵なバースデープレゼントと一緒に暫しの眠りにつく。


「じゃあ、またね」


 一度振り返ってのどかに手を振った後、空間の穴に飛び込んだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「由比川のどかシリーズ外伝 バースデープレゼント」FIN



そして「技術系研究員 由比川のどかの日常 テスラタワー異聞」へ

『由比川のどかシリーズ外伝 バースデープレゼント』を書き上げた後にどうも不完全燃焼なところが残っていました。

 バースデープレゼントを書き直すという手もあったのですが、イベント参加作品を後から書き直すのも後出しじゃんけんの様で気が引けるので、『海賊版』ということで書き直すことにしました。

メインストーリーは、そのままにイベントと設定を足したこの作品。気に入って頂けると嬉しいですが如何でしょうか?

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