入学式 前編
入学式前編です。
西暦2450年、4月1日の江ノ島のとある家は朝からバタバタしていた。時間的にまだ朝の7時くらいだろう。 「兄さん。朝ごはんの準備ができました。」妹の沙紀はこの家にもう一人住む兄、直哉に呼びかけた。何故妹の沙紀が朝ごはんの準備をしていたかというと、この家には親はいないからである。「わかった!今いく。」直哉は制服に着替え終わったので食事が並ぶテーブルに向かった。ちなみに入学式は10時からなので時間にはまだまだ間に合う。ここから直哉と沙紀が通う鎌倉大魔術学院は徒歩20分くらいなので9時半に出てもギリギリ間に合うのである。「今日も美味しそうだな!では、いただきます。」直哉は沙紀が作った料理を次々へとたいらげていく。沙紀はそんな直哉を見てにやけた顔で自分も朝ごはんを食べていた。「そういえば兄さん。今日の入学式で魔術確認テストが行われるのですけど・・・」沙紀の言う通り今日は入学式である。鎌倉大魔術学院では実技と筆記試験は入学前に行っている。では沙紀はなんで入学式の日に魔術確認テストが行われると言ったのか。それは入学式前の筆記テストの後、直哉は学院長の計らいで今日になったのだ。妹の沙紀は火の魔術を得意とする。他にも水、風、土といった属性も使えるのだが、それでも火だけはずば抜けていた。この学院はS、A、B、C、D、Eとクラス分けされており、沙紀はSクラスで決まっている。直哉は今日魔術確認テストを行うのでまだわからない。「大丈夫だ。入学はもう決まっている訳だしEクラスには入れるよ。」「だといいのですけど・・・」沙紀はこの魔術確認テストに不満を持っていた。何故学院長は同じ日ではなく兄だけ今日にしたのか。「まさか、学院長は兄さんのことを知っている?」沙紀は一人ごとのようにボソッと言った。「何かいったか?」「いっいえ、何も。」直哉は疑問を抱いたが何でもないと言い張る妹を見て気にしてもしょうがないと感じてそれ以上は何も言わなかった。
あれから時間がたち、今兄弟たちは鎌倉大魔術学院に来ていた。沙紀は入学式のためまずは教室へ。直哉は学院長室に来ていた。「失礼します!」直哉は学院長室のドアをノックした。「入りたまえ。」学院長は直哉に入るように促した。直哉が中に入ると学院長と呼ぶにはまだ若い青年が椅子に座っていた。学院長は直哉に椅子に座るよう言った。直哉は辺りを見渡して意外にも図書館とも間違えそうな本棚の数に圧倒されていた。学院長室はそんなに広いわけではない。部屋の両サイドに本棚がずっしりと並んでいるだけである。「直哉くん?」「は、はい!」直哉は呼ばれて意識を取り戻した。「まぁいい!誰でもこの部屋に来たものは緊張するものだ。そういえば自己紹介がまだだったね。私は君の魔術確認テストを今日にした張本人、鎌倉大魔術学院学院長のラース・カノンだ!よろしく頼むよ。」ラースは笑顔で直哉を出迎えた。「はい!天道直哉です。よろしくお願いします!」ラースはもう知っているが直哉も自己紹介をした。「それで一つお伺いしたいのですが。」直哉は一つだけ疑問に思っていることを聞いてみることにした。「何だね?」「はい!何故学院長は自分だけ魔術確認テストを今日にしたのですか?」学院長はこの質問を受けることが当然のように分かっていたためすぐに返答した。「天道直哉。当学院の筆記テストは満点合格。親は3歳の時にいなくなり、そこから妹と二人暮らし。そのためお金がなく奨学金で学費は免除。お金を稼ぐために正規魔術ギルド、アースに所属!」学院長は直哉の自己PRを見て笑みをくずすことなくうんうんとうなずいた。「あの・・・」直哉は一向に質問の答えを言ってくれない学院長に戸惑っていた。「では、天道直哉君、いや、第20回大魔術世界大会チャンピオン兼正規魔術ギルド、アースのランクSSS級をはるかに越えるランクZ級の最強魔術師、神の化身と呼ばれた十道直哉君!」学院長の言った言葉に直哉は衝撃を受けた。何故ならギルドに所属していること以外は妹以外誰にもしゃべったことがないからである。そこで直哉は改まった。「何故そのことを?返答次第だとギルドの敵とみなし、あんたを潰すが!」直哉は顔に表情こそ出てないがこの学院長室には今にでも命を刈り取らんとするプレッシャーが満ちていた。さすがのラースもこの空気に呑まれそうになるがぐっとこらえた。「いやー、参った!参った!別に私は君の敵でもギルドの敵でもないよ!」ラースは笑いながら言った。「では何故俺のことを?」直哉は警戒しながら聞いてみた。「君のギルドマスターとは旧知の仲でね!君のことを知っているのは当然だよ!」「そういうことでしたか!」直哉はアースのギルドマスターの知り合いなら問題ないと感じた。ところで、と直哉は思っていたことを質問してみた。「魔術確認テストはどのようなことを?」直哉は魔術確認テストをしに来たことを思い出した。「それなんだが私も他のギルドだが元ギルドマスターを勤めていたことがあってね!Z級の君に勝てるかは分からんが君のテストは私と戦うことだよ!」直哉はマジか!という顔で聞いてみた。「いったいどこでやるんですか?ここの他の生徒には俺のことをばらしたくはないんですけど。」直哉はあまり自分のことを他の人にばらしたくないのでどうするか聞いてみた。「それなら心配はない。ここの本棚たちはちょっと特殊でね。秘密の部屋への扉なんだ!」突然いくつもあった本棚が元から一つだったように重なり始めた。「幻術ですか。」「よくわかったね!」直哉はすぐにこれが幻術であると見破った。「ということは闇と水の魔術師ということですか。」直哉は幻術の魔術は基本的に闇属性が得意とするのでこういう幻術を長期に渡ってかけ続けれるのは闇の魔術師しかいないと思っていた。水は基本的に闇属性が使える魔術師は対称の属性しか使えないためそうきいた。「さすがは直哉くん。私の属性がいとも簡単に見破られるとは。そう、私は闇の属性を得意とする闇と水の魔術師!アースの昔からの仲にあったギルド、マーズの元ギルドマスター、ラース・カノンだ!」直哉は今もマーズとは仲良くやっていて知り合いもたくさんいるギルドの元マスターが学院長をやっていることに驚いたが意識を取り戻した。本棚が一つになり、一つの本を動かすと本棚が動き、下から階段が現れた。「ここが秘密の部屋への扉ですか。」「そういうことだ。では行こうか。」直哉は薄暗い階段を警戒しながら降りていった。二人が階段を降りて一つの扉を開けた先にはものすごく広い部屋があった。部屋の中に物などはなく、ただ空間だけが存在している部屋があった。「こんな広いとこでやるんですか?」直哉は学院にこんな広い部屋があることに驚いていた。確かに学院はそれなりにでかいが、学院の地下に巨大な部屋があるということは誰でも驚く。「そうだよ。この地下室は少しばかり変わった部屋でね。どれだけ暴れても大丈夫なように作られているんだ。そういえば一つ聞きたいんだが、いいかい?」ラースはいきなり直哉に質問をしてみた。「何ですか?」直哉は自分がいきなり質問されたのでなんだ?と思い、返答した。「私は君のことをマスターから聞いてはいるが君の魔術は何も聞いてないんだ。よければ教えてくれないか?」直哉はなるほど、と思った。確かに直哉はラースの魔術の属性を見破り、知っている。だが、ラースは直哉の魔術の属性を知らない。これだと自分が不利すぎるために聞いたのだった。「俺の魔術の属性はマスターにさへ、うち明かしたことはない。というより聞いたところで対抗することなどできない。」直哉はそう言って戦闘準備に取り掛かった。ていっても集中するために目を閉じてるだけだが。「仕方ない。では私は本気でいかせてもらう。闇の魔眼-ブラック・パンデモニウム発動!」これが裏の魔術を使うのに必要な条件の一つで特殊な眼である。基本的に裏の魔術を使うものはこの眼を持っている。この眼には媒体と同じ効果があり、眼を発動している間は媒体なしで魔術を使うことができるのだ。だがこの眼を維持するのにも莫大な魔力が必要である。そのために眼を発動しても媒体を使い、魔術を使うほうが魔力消費を抑えるからこっちが普通なのである。「さぁ君も魔眼を発動したまえ。」ラースは直哉に早く魔眼を発動しろと促した。「魔眼を使うことはないです。あなたは俺が何をしたのか知る術もなく負けるのですから。」直哉は誰が聞いても挑発にしか聞こえないことをラースにいった。「ほぉう、ずいぶんなめられたものだな。君は噂だと表の魔術は一切使えないと聞く。裏の魔術を使うとしたら魔眼はあるのは当然。その魔眼を使わないということは格闘術で私を倒すということか?」ラースが言っていることは正論だった。魔眼を使わないということは裏の魔術は使えないからである。「さぁね。もう始めましょう。どっかからでも来ていいですよ。」直哉は構えることなく淡々と言った。「後悔するなよ!闇の魔術、虚構!」ラースは暗黒物質を媒体に闇の魔術を使用した。ラースが放ったこの魔術は直哉に向かって闇をとばして闇の中で幻術を発動して肉体と精神にダメージを与える魔術である。普通この魔術をくらえば精神はほぼ死に、肉体は再生不可能な状態になる。つまり2度と外を歩くことは出来なくなる。ラースが放った闇は直哉を飲み込んだ。「まさか・・・直撃か?」ラースのいうとおり、黒の虚構は直哉に直撃していた。だが・・・「なかなかいい闇でした。」突如として直哉の周りにあった闇が、いや、空間にヒビが入った。そのヒビはどんどん広まりやがてラースの目の前までやってきた。「なんだこれは?・・・くそ、闇の魔術、魔弾。」ラースは無数の魔弾をそのヒビに撃ったがまったく効果がなくラースはそのヒビに飲み込まれた。ヒビ割れた空間の中でラースが見たのは、まさに地獄だった。それは世界だった。だが、人間が支配している世界ではなく悪魔みたいな魔物が人間をペットとして飼っている世界であった。ラースは自分がこの世界に送り込まれていることに気づいた。ラースはすぐに幻術だと思い、幻術を打ち破ろうと魔力を開放してみたが無理だった。ラースの存在に気づいた魔物。いや、魔物を束ねているかのような黒い竜が向かってきた。ラースはこれが幻術ではないと思い始めていた。なぜなら幻術であれば自分の周りだけでも魔力を開放すれば空間に歪みが発生するからである。だが、発生しなかった。それに、黒い竜がどんどんこっちに迫ってくる。ラースは勝てないと思いすべてを諦めた。「まさか、アースのギルドの者に殺されるとはな・・・これも運命か。それに、彼のいうとおり、何の魔術を使っているのかもわからなかった。」迫ってくる竜は大きく口を開けてラースを飲み込んだ。




