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落ちこぼれ少女の災難7


「では、試験を始めるとしましょうか」


 お天気の良い、日曜日の昼下り。


 昼食を終え、シェダに指定された場所へ赴くなり、にっこりと告げられる。


 ここはシェダの邸の敷地内にある、小さな別邸。

 別邸というより、小部屋と呼んだ方がいいかもしれない。


 扉を開けたらそこがもうひとつの部屋で、五方を囲むのは大きな窓だけ。扉と呼べるものは、今入ってきた所以外は見当たらない。


 六角形の、小さな部屋。


「……こんな所があったんですね」


 可愛らしい小さな部屋に魅入りながら、感嘆の声を上げるシア。


 手入れの行き届いた広大な庭の中にあるその小さな部屋は、こじんまりとしているというのに大自然と共にあるかのような開放感で、そこだけがまるで、自由でいられる唯一の国であるかのよう。


「まるで、秘密基地みたい…」


 新しいものを見つけた時のように、キラキラした瞳をして呟くシアに、


「へぇ。そういうの、女でもわかるもんなんだな」


 感心したようにアルドが告げる。


「え?ホントにそうなんだっ?」


 アルドのその返答に驚いて聞き返すシアに、


「本当ですよ。小さい頃からそうでしたが、今でもここは、私達二人の秘密基地なんです。──そして今日からは、シア、貴女を入れて三人での、秘密基地になるのでしょうね」


 にっこりと、シェダが告げる。


「えぇ!?私もっ!?」 


 まさか、秘密基地要員にされるとは思っていなかったので、大きな瞳をまん丸にするシア。


「たりめーだろ〜?秘密基地に、お前を招き入れたんだからな!」


 そんなシアの頭にぽんと手を置きつつ、ニヤリと告げるアルド。


「〜〜〜っ!あ、あのその、……よ、よろしくお願いしますっ!」


 二人の好意が、嬉しいのか恥ずかしいのか、どちらかなのかは分からなかったけれど、くすぐったいようなその感覚が思いの外心地好くて、あっと思った時にはもう、口から言葉が溢れてペコリと頭を下げていた。


「おー宜しくな!」


 それにわしゃわしゃとシアの頭をかき回しながらアルドが告げ、


「ええ。こちらこそ、よろしくお願いしますね、シア」


 にっこりと微笑み、アルドに続けるシェダ。


(はぅ〜〜っ!くすぐったいよ〜っ)


 きっと顔が赤いだろうと自分でも分かるくらい身体が熱くて、しばらく下げた頭を上げることが出来なかったが、恐る恐る頭を上げ、シアがぎこちなく苦笑を返すと、当然のように笑顔を向けてくるアルドとシェダ。


 返されたその笑顔にほんわり、胸の内が温かくなった気がして、自然と頬が緩まる。


「っ!」

「………(にっこり)」


 その途端、アルドは口元に手をあてて、くるりと後ろを向いてしまう。


「………?」


 その反応の意図がわからなくて、小首を傾げるシアに、


「なんでもないですから、気にしないでください。少々脱線しましたが、そろそろ、試験を始めるとしましょうか」


 にっこりしたままシェダがそう言って、シアを席へと促す。


「あ!は、はいっ!」


 その言葉にこの場所に何をしに来たのかを思い出し、シャキッと背筋を伸ばすシア。


 こちらに背を向けたまま、ふるふると震えているアルドの事は取り合えず置いておいて、シェダに勧められた丸テーブルの下に置かれている三脚の椅子のひとつにシアが腰を下ろすと、


「……何時までそうしているつもりなんですか、アルド?始めますよ!」


 自身も椅子に腰掛け、ちらりとアルドを見やって、ため息混じりに告げるシェダ。


「!あぁ、悪りぃ悪りぃ」


 それにはっとしたと思えば、へらっと笑ってそう告げ、テーブルの下からガタガタと椅子を引き出してどかっと座るアルド。


「──では、三人揃った所で試験を始めたいと思うのですが、その前にひとつ」


 神妙な顔で切り出したシェダだったが、すっと一本指を立て、にっこりと告げる。


「シア。この建物に、結界を張ってくれませんか?」

「はい──ってえっ!?なんでですかっ??」


 思わずそれに頷いてから、ついで驚いたように聞き返すシア。


「戻ってますよ、敬語。一応、個々の家には覗きや盗聴防止の結界が張られてはいますが、念のために、です」


 それにくすくす笑って、にっこりとシェダが告げる。


「あ!すみま……じゃなかった、ごめんなさい。えぇと、じゃあ……」


 慌てて謝り、シェダの言葉を特に深く考えずに、スッと瞳を閉じるシア。


 するとふわりと、シアを中心に柔らかな風が流れる。


「……『其れ』は狭間に在りし存在(もの)。有と無、どちらも此れに属さず、届かずして触れられず、捉えられもせず(たゆた)う幻想。しかして其れは此処にあり、確立され断絶される──…簡易固定結界、幻狭空庭」


 静かに、シアの唇から呪文が発せられる度、その小さな身体は薄紫色に発光し、呪文が完成した所で光は一旦収縮し、再び発光したかと思えば砕け散って四散し──結界が完成したことを示す。



「………ふぅ」


 久々にこんなに長い呪文を唱え、ほっと息をついてからシアがそっと瞳を開けると、



「な………」

「………………」



 ぽかん、とした顔のままの、二人と目が合って。


(え……えっ!?な、なんでそんな顔してるの二人とも!?……も、もしかして私っ……何か間違ったのかなぁっ!?)


 二人の反応に焦り、あたふたと慌てるシア。


「あのっ!な、何か間違っちゃった、かなぁ……?」


 眉根を下げ、上目遣いでぽつりと告げるシアに、


「っ!あぁ、いえ……。貴女の魔法を初めて見たものですから……」


 まだ衝撃から覚めていない、というような顔でぽつりとシェダが告げ、


「──さっきのって、お前のオリジナル、だよな……?」


 ぱちくりと目をしばたき、ぽけっとした顔で訊ねるアルド。


「あ、えぇと……一応?そう、ですけど……?」


 しどろもどろ答えるシアに、


「っ!すっげぇっ!なぁなぁ!これ、構築とかってどうなってんだ!?分解形成とか出来たりするかっ!?」


 初めて見たシアの魔法に対する驚きと、今まで見たことも聞いたこともないような新種の登場に瞳を輝かせ、興味津々のアルド。


「幻惑系のが組み込まれてんのか?いや、だとしたら……」

「え!?えぇと、あの」


 次々疑問が浮かび、アルドがシアを質問攻めにしかけるが、


「──また、脱線してどうするんですかっ!」


 アルドが興味津々なのを全開にしてくれたおかげで、意識を持ってかれずに済んだシェダが冷静さを取り戻し、すかさず突っ込む。


「あ………」

「っと!そーだったそーだった。試験しなきゃなんねぇんだったよな〜」


 それにはっとし、苦笑するシアとアルド。


「兎に角、色々訊きたいことは山々ですが、質問等は後にして、本当に試験、始めますからねっ!」


 今度こそビシッと言い切ったシェダに、


「は、はいっ!」

「へいへい」


 各々、返事を返すのだった。





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