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始まりのその場所で9




 緩やかに崩壊し、再生する周囲を、光の粒子が鮮やかに彩る。


 そんな不思議な光景を見つめながら、シアが落ち着くのを静かに待って。

 アルドは一つ呟く。


「……そろそろヤベェ、かなぁ……」

「えっ!?」


 呟くと共に傾いだアルドに驚きつつ、シアは慌ててアルドの身体を支え。

 その時の自身の手の違和感に、


「……っあ……」


 今の状況を思い出して、ガタガタとその身体を震わせるシア。そんなシアを落ち着かせるかのように、アルドは緋と黄の混じる頭をよしよしと撫で。


「……大丈夫だっての。何もしなけりゃ゛発動″しねぇよ。ま、ずっとこのままって訳にゃ、いかねーけどな〜」


 サラリと告げるアルドだが、当のシアはそれ所ではない。青ざめた顔で、震える口をなんとか動かし声を出す。


「そそ、そんなっ、どっ……どうしっ……わ、わたっ……ここ、れっ、……ぬ、抜いっ……」

「ダーメだって。゛抜いたら″発動しちまうんだってぇの」


 慌てるシアに落ち着けとばかりに、いつも通りの口調で話すアルド。

 しかし状況が状況だけに、落ち着けという方が到底無理な話なのだが、アルドのその飄々とした顔を見ていると、不思議と安心感に包まれるから驚きだ。


「……っなんで、そんなに落ち着いてるのっ!? そ、それにっ……抜いたら発動するって、どういう……」

「あのガキが、自分がしくったとしても術は発動するようにって、仕込んでいきやがったんだよ。シア(お前)が俺様の身体を貫いたらスイッチが入って、引き抜いたら即術が発動するっつーシロモンを、な」

「……そん、な……」


 アルドの言葉に声を無くすシア。そんなシアに苦笑して。


「悪趣味なヤツ。……ま、分からなくもねーけどな〜。どっちも邪魔なら、俺だってそーする。――っと。悠長にくちゃべってる暇ねーんだった。このままじゃ、シェダがもたねぇな」

「えっ? ど、どういう事っ!?」


 驚くシアにアルドはニヤリと笑って。


「治癒かかってるから中途半端にもってるが、俺とシェダは、一蓮托生なんだってぇの。入れ替え(これ)を始めた時、互いの命と魔力を繋いだ。でなけりゃ出来なかったってのもあるが、外部に色々と漏らさない為ってのもあったし、(きた)る時まで、あの国を゛代わりに″守る為に、ってな」

「……か、わり……?」


 瞳を瞬くシアに、アルドはその黒の瞳をしっかりと合わせ。


「……本来なら、シェリティードの大魔導師ってのは、アイリの事だったんだよ。個じゃなく体として存在(いる)のは解ってたから、なんとかして帰ってくるんだと、思ってたんだがなぁ。流石に、そこまでは許しちゃくんなかったらしい」

「……まさか……、でも、それじゃ……」


 呟くシアにアルドは、ニヤリとしたままサラリと告げた。


「シリウスの再来だぜ? ちょっと考えりゃわかるって。……でもま、俺様的には良〜い置き土産に感謝、ってトコだけどな」

「……置き土産って……ま、まさか……っ!?」


 驚き顔のシアにご名答〜、とアルドは笑って。


「シア(お前)は分からねぇだろうが、片方、目の色゛戻って″んぞ。アイリと同じ蒼の色彩(いろ)、だ。あー、これでやっと……゛返せる″」


 呟いて、穏やかに笑み。


「やっと、゛シア(お前)″に返せる。ティアとアイリから゛預かった魔力″(モノ)を。……アイツ等の為にってのも、悪かなかったんだけどなぁ。――あまりに永く、生き過ぎちまってるからな〜、俺様ってば」

「やっ……」


 やめて、なんてシアの言葉は、その指先一つで制される。


「俺は、シア(お前)が消える、なんて絶対に嫌だからな。この状況なら、俺様が消えるのが筋ってモンだろ。それに――……、今初めて、゛人″じゃなかったって事に俺は、感謝してるトコなんだから」

「……っ……!」


 首を振るシアの瞳から、涙が溢れて零れる。そんなシアに苦笑して。


「折角貰ったんだ。だから今度こそ゛ちゃんと生きろ″。アイツ等の想いと、お前を助けに来たヤツ等の想いを、無駄にすんな」

「……そんな、そんなの……っ」


 ずるい、なんて言えなかった。

 涙で霞む、その視界に、いっそ清々しいまでの笑顔があって。


 そんな表情を見せられたら、もう何も言えなくなってしまう。


「……っ……!」

「……泣くなよ。俺は、シア(お前)の為に逝けるだなんて、この上なく本望だってのに」


 涙で濡れるシアの頬に手を添えて、アルドは柔らかに笑う。それに、言葉を投げ付けるかのようにシアは告げる。


「……どうしてっ……、どうして゛二人とも″私に……っ」


 それにふっと笑ってアルドは言った。


「なんだよ、分からなかったのか? ――シア(お前)を好きだからだよ。愛してるからだ。だから生きててほしいし、幸せになってほしい。例え、自身の命を投げ出してでも。シア(お前)だって、゛シアリート″の為に、差し出そうとしてただろうが」

「!?」


 アルドのその言葉に、ぱちくりと目を瞬くシア。

 その顔に、本当にわかっていなかったのかと苦笑して。


「゛与えられるだけ″が嫌なら……シア(お前)の証を、俺にくれ。それなら互いに互角(イーブン)、だろ?」

「えっ……」


 それに、シアが何か言うより先に。アルドはニヤリと笑って告げる。


「俺の全部をシア(お前)にやる(還す)から。……だから、だからシア(お前)も――……」


 シア(お前)の全部を俺にくれ。


 それは、言葉になってはいなかったけれど。


 シアにはわかった。

 わかって、しまった。


「……っ……」


 泣き濡れて艶やめく(あか)(あお)の瞳から、宝石のような雫が(こぼ)れ。

 それは頬を滑り、落ちていく。

 そうして地に吸い込まれ、たちまちの内に消えていく。


「……なら、どうして……離れるの……っ」


 口をついて出た言葉は、止まることを知らぬかのように、勝手に溢れ出していく。


「……き、ならっ……! それならただっ……」


 傍にいてくれた方が――……


 その言葉は、最後まで紡がれる事はなく。


 添えられた手に、惹かれるかのように近付く、互いの距離。


 ふわり、光の粒子が躍り舞う中、新たな色彩が漂い溢れ。



 ――そっと重なる、二つの唇。


 途端に、周囲の光の密度が増す。



「……思ってる、だけでいい。そんな言葉聞いちまったら、嬉しくて……、逝くのが惜しくなっちまうからな」


 唇を離して、悪戯っぽくアルドは笑い。


「誰かを゛想える″なら、シア(お前)はもう、大丈夫だよ。それに、シェダやリド、カラミスにエレミアだっているんだ。シア(お前)は、一人なんかじゃねぇんだから」


 自身から溢れる光に、彩られ徐々に霞んでいく身体を見つめ、頬を濡らし続けるシアを愛おしげに見つめながら、アルドは呟く。


「……そんな顔するなよ。゛これ″は、別れなんかじゃねぇ。世界は絶えず廻り、巡ってんだから……何処かでまた、必ず会えるさ」

「……っ……!」


 涙で、視界が揺らぐ。拭っても拭っても、止めどなく溢れる涙はなかなか止まらない。その間に、シアの手の違和感が消失し。


 わっ、と広がる光の洪水。


「!」


 それに驚いて目を開くと、そこにアルドの姿はなく。


「……――っ!」


 辺りを光が覆う中、シアは声を殺して泣き。


 やっと黒壁が消え、そこから飛び出すかのようにして駆けてきたエレミアと、カラミスに肩を貸されてなんとか歩いてきたシェダが、光に包まれているシアを発見し。


 駆けてくる足音を聞きながらシアは、遠い空、羽ばたく龍の羽根音を聞いた――……





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