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落ちこぼれ少女の災難5


「さて、お腹も一杯になったことですし、本題に入るとしましょうか」


 夕食を終え、食後のお茶でほっとひと息ついてから、にっこりとシェダが告げる。


 ブラウンとベージュの、落ち着いた色調の部屋でのことだ。


「……本題って、なんなんですか?」


 カップをソーサーに戻し、コクンと唾を飲み込んでから、静かな口調でシアが訊ねる。


「……おや?アルドから聞いていないのですか?」


 シアのその様子にはて?と首を傾げ、


「──どうなんですか?アルド?」


 くるりと後ろを振り返り、にっこりと笑顔で告げる。


(……うぅ……冷気でほっぺがイタいよぅ……っ)


 シェダの゛絶対零度の怒り″を敏感に感じ取ったシアは首を竦めてソファの端による。


(……アルド様には、なんでこれがわかんないんだろ……)


 ブラウスの襟を立て、顔を埋めながらシェダが見やるその先──ぐるぐる巻きにされたアルドが、逆さに吊るされている窓──を見やって、シアはため息を付く。


 先程の゛シアリート逃走事件″は、全面的にアルドが悪いと言うことに強制決定され、只今お仕置き絶賛続行中なのである。


「わーるかったってば!忘れてたんだから仕方ねぇだろっ!?それにもう、お前が説明した方が早いじゃねーかよ!だから、頼むよ……俺にもメシを、……くれ……もぅ、腹ペコで死にそー……」


 初めはぎゃんぎゃん喚いていたが、次第にその力も無くなってきたのか、吊られるままに任せているアルド。

 と。


 ぐうぅぅぅ〜〜……


 今のアルドの心情を語るには充分すぎる程の、腹の虫の大合唱が響き渡る。


「…………………」


 その音にぱちくりと目をしばたいたシアだったが、あまりの切ない(メロディ)に、


「……っ、も……やだぁ、あははははっ!アルドってば……ふふっ」


 くすくすと笑い出してしまう。


「………………」

「………………」


 しばしポカンと笑い続けるシアを見つめる二人。


「……やれやれ。仕方ないですね。今回は彼女に免じて、許してやるとしましょうか」 肩を竦め、苦笑混じりにシェダがそう告げ、


「っしゃあっ!シェダ、メシだメシっ!!」


 それに嬉々として叫ぶと、アルドはあっさり縄を解いてシアの隣に腰を下ろし、ベシベシとテーブルを叩くいて催促をする。


「…………。取り合えず、そこにあるお菓子でも食べてて下さい。何か持ってきますから」


 アルドの変わり身の早さに呆れつつ、そう言い残して部屋を出ていくシェダ。


「えっ!?ちょっ、クルノ様!?」


「いーっていーって」


 それに笑っていたのを引っ込め、慌ててシアが後を追おうとするが、テーブル上のお菓子を頬張りつつ、片手でアルドかシアを制する。


「何がいいんですかっ!クルノ様に用意をさせるだなんて」


「いーんだって。アレは好きでやってんだから」


 尚も食って掛かるシアをやはり片手で抱え込んで座らせ、平気な顔でとんでもない事を告げるアルド。


「大体、お前が食った夕食だって、あいつお手製だったんだぜ?」


 気付かなかったろ、というアルドのしたり顔を、ぽかんとした顔で見つめるしかないシア。


(えええええ〜〜〜〜っっ!?全部完璧なのに、その上お料理まで出来るって……。シェダ様っていったい……)


 なんかもの凄い人と一緒にいるんではないか、とシアがぐるぐる考えている間に、


「お待たせしました」


 ガラガラとワゴンを引いて、シェダが部屋へと入ってくる。


 途端にクリーム系の良い香りに部屋中が包まれる。


「時間がもう遅いですから、消化の良いものを用意したんですが」


 ことんと置かれた土鍋の蓋を開けつつ、にっこりと告げるシェダ。


 中から出てきたのは、魚介類たっぷりのリゾットだった。


「アルドひとりで食べるのは味気ないでしょうし、シアリート、貴方も召し上がられますよね?」

「えっ!?……えぇと……それでは、少しだけ」


 まさか、付き合わされるとは思っていなかったので迷ったが、先程食べたディナーの味を思い出し、結局こくりと頷くシア。


「シェダのクリームリゾットは、こりゃまたうめぇんだよな〜〜♪」


 言うが早いか、アルドは自分の分をさっさとよそっては豪快に掻き込んでいる。


「あちっあちっ、っはぁ〜〜!もぅ最高っ!!」

「……………(ごくり)」


 アルドのその顔があまりにも幸せそうで、思わず唾を飲み込むシア。


「はいどうぞ」


 と、丁度良いタイミングでリゾットが入れられた小椀をシェダに差し出され、


「あ、ありがとうございます……」


 きちんと礼を言ってから、受け取ろうとシアが手を伸ばすが、


「その前にひとつ、お願いが」

「えっ?」


 にっこりとシェダにそう告げられ、ひょいっと小椀を遠ざけられてしまう。


(……なんか、物凄くデジャヴ(既視感)を感じるんだけど……)


 両の手を出したまま、ぱちくりと目をしばたき、


「……お願い、ですか?」


 そのままコテンと、小首を傾げてシアが聞き返すと、


「はい。──出来ましたら゛それ″を、止めて頂きたいと思いまして」


 にっこりとシェダが告げる。


「?それ、ですか???」


 どれの事なのか、いまいち掴めていないシアはきょとんと聞き返す。

 と。


「ぶははははっ!あーもー、お前ら面白すぎっ」

「っ!?」


 いきなりアルドが腹を抱えて笑い出した。

 余程面白いのか、身体をくの字に曲げて爆笑している。


「………………」


 その様子を見やり、ふぅーっとシェダは長いため息を吐き、


「えぇー?ちょっ、もぅ、一体なんなんですか??」


 ますます訳がわからないって顔をするシア。


「お前ら二人じゃラチが開かねーって。くくっ。ったくよ。だからな、シェダはお前に、敬語を止めてほしーんだよ」


 そんなシアに、ぶくくっと笑いながらアルドが告げる。


「…………。敬語を、ですか?」


 はぁ、ときょとんとした顔のままシアは聞き返し、


(──さすがに、それはまずいよね。シェダ様は王族だし……。アルド様にだって、本当は敬語使ってなきゃいけな……)


 胸中でそこまで呟いてから、


「あ、あの……もしかしたら、凄く、今更なことかもしれませんが……」


 ダラダラ汗を流しながら、しどろもどろ、シアが問う。


「はい?」


 それに今度は、シェダが小首を傾げる。


「……アルド様との(言葉遣いの)こと……もしかしなくても、バレているのでしょうか……」


 冷や汗を垂らしつつ、恐る恐る訊ねるシアに、


「ええ、とっくに」


 言葉の最後にハートマークが付いてそうな笑顔で、きっぱりとシェダが告げる。


(き、やあぁあぁぁぁっ!!もぅダメ、絶対卒倒する────っ!!(伯父上が!)


 それにふぅっと一瞬意識を飛ばしそうになるシアだったが、なんとか踏み留まり、


「……………か……」


 伸ばしていた手を下ろし、俯いてぼそりと呟く。


「なんですか?」


 小首を傾げて聞き返してくるシェダに、


「(伯父上には)黙っていて貰えませんかっ!」


 ぎゅっと拳を握りしめてすっと頭を上げ、真っ直ぐシェダの瞳を見つめ返して答えるシア。


 夜の闇のように真っ黒な長髪に、(あか)と紫紺の瞳が強い力を受けてキラリと瞬く。


 見つめているとまるでそこに、吸い込まれてしまいそうな錯覚に陥る。

 不思議な輝きを宿すその瞳を見つめながら、シェダはふっと緑翠の瞳を細め、


「言葉遣い(そんなこと)くらいで、私達は咎めたりなんかしませんよ?ただ貴女に、早く打ち解けて貰えたら、と思ってのことですし」


 にっこりと告げる。


「公共の場でちゃんとしていれば、それでいいと思いますしね。それに私は貴女に役柄や立場としてだけで、共に居たいのではありませんから」


「えっ……?」


 そこで一旦言葉を切り、持っていた小椀をテーブルに置いて席を立ち、シアの側まで歩み寄ったシェダは、


「……私も貴女の、゛お友達″にしてはいただけないでしょうか?」


 膝を折ってシアと目線を合わせると、シアの手を取って満全の笑みを向ける。


「………え、えぇっと……………」

(……うぅっ、眩しい……眩しすぎるよシェダ様……っ!!)


 身体はちゃんと前を見ているが、精神(こころ)ではシェダのあまりに眩しすぎる笑顔に顔を背けつつ、


「それでは……じゃなかった。それじゃ、その、私のことはシアと……」


 ドキドキしているのを悟られないよう、苦笑混じりに答えるシア。


「では、私のこともシェダと呼んでくださいね」


 それにまたしてもにっこりと、素敵笑顔で答えるシェダなのだった。


 なんとも和やかな空気が流れる。


「と、良い感じに和んだところで、本題なんですが」


 と思えば席に戻り、さくっと切り替えて来るところなんかは流石、としか言いようがない。


(……和んでたのかなぁ、アレ……)


 それにあははと笑ってシアが応じると、


「シア。貴女にですね、ある試験を受けて頂きたいのですよ」


 にっこり笑顔のまま、とんでもないことをさらりと告げてくるシェダなのだった。




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