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始まりのその場所で6




 クゥワアアァァン……


 空間がたわみ、大きく揺らぐ。


 ズンッと、周囲全体に圧力をかけられたかのような、感覚。


「あ〜らら。どうやら゛核″、取られちゃったみたいねん♪」


 ブンッと剣を振りながら、そう呟くチェイリル。しかしその表情(かお)は、取られたと言うわりには楽しげで。くすくすと笑みが溢れている。


「これだけ出てきてたら、もう核なんて必要ないでしょうけど♪ ナシグ(あの子)が私以外の人の前で、感情を顕にしたのは久々だわぁ〜♪ それについては、感謝すべきなのかしらね?」


 右に、左に。アルドの剣撃をスレスレの所で避けつつ、微笑するチェイリル。それは弟を思う姉のそれであったが、何しろ状況が状況ゆえに直ぐ様、穏やかな笑みをニヤリとした不敵なモノへと変えると、勇んで反撃に転じる。


 剣に魔力を帯びさせてみる。防壁に弾かれる。

 斬撃を放ってから、風圧に乗せていた魔力を開放。

 これも身を捻って避けられるが、服一枚裂く事は出来た。


(……随時展開式魔防壁、かしらぁ? まぁ、何にしろ物理防護、はかけてないみたいだけどねぇ……)


 等と思案していると、すぐ側をアルドの剣身が掠めていき。緋色の髪が数本、風に舞う。


「――っと!」


 ととん、後方に跳んで距離を取るチェイリル。

 体勢を立て直して反撃に出ようとするが、


「!」


 足に違和感。がっちりと掴まれている感覚により、物質系罠魔法と悟る。その時には、既に詰められている距離。斬撃が閃く。


「はぁっ!」

「――くぅっ!」


 それをなんとか回避しようとするが――、引きが甘く、腕を浅く切りつけられる。鮮血が飛ぶ。


「――ったい、わねぇっ!」

「ぐほっ!」


 お返しとばかりに、罠もろとも力任せに振り抜いた足で、横っ腹を蹴りつけるチェイリル。それにより斜め後方へ、蹴り飛ばされふっ飛んでいくアルド。黒壁の寸前で踏み留まり、なんとか激突は免れる。


 もうずっと――、こんな戦いが続いていた。


 魔法攻撃は、互いに防壁が弾き。

 ただ攻めるだけの斬撃は、避ける、受ける、流すかされ。

 移動しながら物質系魔法の種(罠)を、各々が各所に張り巡らし。

 痛み分けをするかのような攻撃でしか、互いに傷を付けられず。


 長期で行われる戦闘では、魔力の温存は必須だ。

 周囲に魔力が満ちているとはいえ、ただでさえ、チェイリルは儀式の為に魔力を残しておかなければならず、無駄玉を打ち過ぎて、ここぞという時に使えないのでは目も当てられない。

 魔力の枯渇は、そのまま死を意味する――……


 それは、アルドもよくわかっているのだろう。

 だからこそ、永続的な防護壁ではなく単発での防護であるし、魔防片方しかかけておらず、たまに魔力彈を飛ばす以外は、ずっと剣を振るっているのだから。


「――さっすが。王宮に仕えているだけあって、魔法だけじゃなく剣技もお手の物、ってワケ」


 ニヤリと笑みを浮かべて告げるチェイリルに、同じくニヤリと笑んで立ち上がりざまに告げるアルド。


「お前こそ、たいした腕じゃねぇかよ? 四季の系統はその殆んどが、魔法戦だって話だったんだがなぁ?」


 アルドの言葉に、くすりと微笑んで。


「何時の時代の、話をしているのかしらね? それに……魔法使いが、剣術を使う事なんてない――とでも?」


 貴方も、随分な手練れのようだけど? とスラリ、剣を構えながらに呟くチェイリル。それに笑って、とんっと剣を肩に担いでアルド。


「ま、そーだな。何も、一つの戦法に拘る必要は――」

「ないわねぇっ!」


 ギィンッ! 音が響く。


 剣が振られる。受けられる。返す刃を横なぎに払う。避けられる。その軌道上に、瞬時に鋭い蹴りを放つが。


「っあ!?」


 足首を掴まれ、バランスを崩した所を、ズルリと引き摺り倒される。


(……慣れてきてる?)


 早さには自信があるチェイリルだが、それはどうやらアルドも同じらしい。

 自身という障害物があったにも関わらず、剣を合わせてきたのだから。


「…………」


 口元に笑みを浮かべつつ、完全に引き摺り倒される前に、剣を持つ手を閃かせるチェイリル。


 ザッ……


 砂埃が舞う中、両者の動きがピタリと止まる。


 地に倒れたチェイリルに、覆い被さるような体勢のアルド。

 互いの喉元には、剣の切っ先。


 この瞬間を――、待っていた。


 ゼロ距離での魔力散弾。


 剣(物質)が喉元に切っ先を向けている為、魔防壁を張ることなど出来ないのだから。


 たとえ――自身も同様に深手を負うのだとしても。

 アレが成功するなら、安いモノだ。

 この男に、アレを傷付ける事など出来ないだろう。

 チェイリルの口角が上がり。


「――爆雷散砂!」


 一詠唱での起動魔法を、チェイリルが唱えたと共に。


 カカッ! と雷撃が(ほとばし)り、爆発が起こり。

 轟音が、爆音が砂塵を巻き上げる。


 一瞬の後、もうもうと立ち上がる黒煙の中から、左右に別れるかのように、黒煙を引く帯が走る。


「――ああぁあぁっ!」


 あげられるチェイリルの悲鳴。キラリ、銀の光が反射する肩口。その悲鳴に被さるようにして、紡がれる詠唱の言葉。


「我、望むは鎖の断絶。因果の破壊。眠らざる彼の者達を、本来在るべき眠りの環へ――」

「――――」


 最後の、その言葉が紡がれる前に。

 微かに響いた一詠唱。


 途端に。


「――――っぐ、ぅ……っ!」


 ずしゃり、脇腹から肩へ、貫かれるアルドの身体。

 その黒の目に映るのは、ふわりとなびく緋色の髪と、同色のドレスのひらりとした裾。

 ボタボタと鮮血が流れ落ち地に染み込んでいく中、゛それ″を逃がさぬよう抱き締めて――


 策が上手くいったとほくそ笑むチェイリル同様、ニヤリとその口元を上げて。

 アルドは、最後の言葉を呟いた。


「――剣昇、炎舞」


 すると。


 チェイリルの肩に刺さったままのアルドの剣が、熱をおび。

 内部(なか)から、チェイリルを焼き尽くす。

 周囲の魔力を喰い尽くしながら、膨れ上がり荒れ狂う業火が、チェイリルの身体を瞬く間に炎内に呑み込む。


「ぎぃゃああぁああああああ――っ!!」


 チェイリルの絶叫が轟く。


 それと時を同じくして。


「いやあああぁぁ――っっ!!」


 ゛正気に戻った″シアからも、悲痛な叫び声が上げられた――……





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