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始まりのその場所で5




 少女はただ――、終焉(おわり)だけを望んでいた。


 青年と少女は二人――、この先の終わりだけを望んでいた。


 ある少女は一人――、努めを果たす(その)事だけを望んでいた。


 ある少年は一人――、共にいられる事だけを望んでいた。






 じわりじわり、今も尚、徐々に゛過去″が、時空の裂け目から゛現在″へと進み出て来ている。


 元々不安定なこの場所は、それ故に更に不安定になっていた。


 しかしそれは――……

 ある意味、好機だった。


 歪みのその奥にいる筈の、ある存在を探す為には。


 キィン、ガキン、ズドドドッ……


 眼前で繰り広げられる三者の攻防を見据えながらリーティアは、゛ただの入れ物″と化しているカラミスと、その傍らにいるアイリードを、守るようにして二人の眼前に立っていた。


(……頼むわよ。シグ(あっち)はまだ気付いてないみたいだけど、これは時間との勝負なんだから……)


 後方の二人にちらりと視線を投げ、リーティアは思う。


 アルドから示されたのは、たった二つの事だけだった。


 ――死なない事、と。

 ――時間稼ぎをする事だけだと。


 最も、カラミスには他に探し物の事が付け加えられていたようだけれど。


(……こっちも時間稼ぎ。あっちも時間稼ぎなんだから……先に達成出来なきゃマズい。――アイリ。お願い、早く……)


 祈るように胸中で呟きながら、リーティアは眼前の三人に意識を向けるのだった。




 ぶつかり合う魔力が、ザラリと精神(こころ)を撫でていく。


(……うぅっ……。やっぱり、この感覚は慣れないなぁ……)


 ザラザラする不快な感覚をなんとかやり過ごし、更に先へ、更に奥へと゛意識″を飛ばすカラミス。


 アイリードの協力の元、せめぎ合う三つのモノ以外の存在(モノ)を――、゛シアリート″を探し見つける為に、精神(こころ)を空に漂わせる。


 精神は、その全てが感覚気管だ。だからこそ、その魔力(ちから)を直に受けやすい。

 しかし初めの頃の事を思えば、今はもはや、肉体にいた時より精神(こちら)の方が、随分と楽なくらいだった。


 初めの頃はそれこそ、渦巻く三つの力に加え雑多に存在するモノ達、シェダにエレミア、リーティアにアイリード、白の少年、壁向こうにいるアルド、シア、緋色の少女の魔力全てを感知してしまって、意識が切れそうになった程だが、今はなんとか、余分なモノを排除する事に慣れてきていた。


 それもこれも、ちょっとだけ゛繋がっている″アイリードの力のおかげ、ではあるが。


 探し物である゛シアリート″に専念出来るよう、力を貸し与え、尚且つ余計な魔力(モノ)の大部分を、遮断してくれているのだ。


 それに感謝しつつ、初めの頃に垣間見た各々の魔力の事について、色々と聞きたい事があったカラミスだったが、その事は今聞くべき事ではないと胸中に秘め、精神を研ぎ澄ませて前へと進む。


 元々の力と、現在の魔力と、過去の魔力達は、渦巻きぶつかり合い、互いを飲み込んだりしながら、衝突を繰り返している。


 その度に空間が歪み、大気が魔力が濁り、傷口を徐々に広げていく。


 空間の、歪みの裂け目。


 カラミスの探し物は、裂け()の先にある。


(歪みの底に、゛シアリート″は取り残されたんだと、彼女(シアリート)が言ったんだ。――なら、この底に゛シアリート″は、必ずいる!)


 確かな確信を持って、カラミスは裂け目を見据え続ける。


 うねり、ぶつかり合う三つの魔力のその先に、歪みの裂け目がぱっくり口を開けている。

 三つの力がぶつかり合うそこは、まるで嵐のようで。迂闊に近付けば、一瞬で飲み込まれてしまうだろう。


 だから、カラミスは待っていた。

 魔力と魔力がぶつかり合い、互いに退く、その瞬間を。

 その時に出来た隙間を、突破するより他ないと踏んだのだ。


 ――意外に、凄いこと考えるよね、カラミスって

(……仕方ないじゃないですか! これ以外に無傷で、あの壁を越える手立てはないんですから。僕だって、出来ればやりたくないですよっ)

 ――でも、゛シアリート″の為なんだから

(――わかってます! それより、しっかりサポートお願いしますよ。――いきますっ)


 直接響いてくるアイリードの声になんとか言葉を返し、三魔力が同時に退いた隙を一瞬たりとも逃さずに――……カラミスはその合間を縫って、たった一つの存在目指して、裂け目の中へと飛び込んだ。




 どんどん、どんどん――沈んでいく。

 沈んでいる? と思った時には、ふわふわと浮き上がり浮上している。

 右に行けば左へ。左に行けば右へ。


 そんな不安定な状態の中、アイリードに送り出され、たった一つ、゛シアリート″だけを目指して歪みの中を進んでいくカラミス。


 暫くすると、歪みの底に、キラリとした輝きが見え始める。


 儚げに見えるのに強い、その小さな光を見つけ。


(……あれだ!)


 カラミスはそっとそれに手を伸ばす。


 温かく、柔かな光。

 儚げながらも、全てを包み込み慈しむような、大きな存在(モノ)

 懐かしい――゛シアリート″の輝き。


(――捕まえ、たっ!)


 その輝きを落とさないようにしっかりと胸に抱えて。


 引力に引かれて、カラミスは肉体(じぶん)へと瞬時に舞い戻った。




 それより、少し前。


 ガキィン!


 剣と鎧が、ぶつかり合うかん高い音が響く。

 ざっ! と後方に飛ぶシェダとエレミア。


「……いい加減、諦めれば?」


 そんな二人を一蹴して、ナシグは抑揚もなく淡々と告げる。

 未だ不可視の鎧は突破出来ておらず、ナシグは当初と変わらずの無傷。


 対してシェダとエレミアの方は、切り傷や擦り傷などが、身体のあちらこちらに出来ていた。

 最も、ナシグから直接的に攻撃を受けた、という訳ではない。


 ナシグが纏っている鎧は、不可視な上に変幻自在らしい。

 魔力で構成されたものなのだから、ある意味それは、当然といえば当然だった。

 しかしそれ故にどんな攻撃をするにしても、その全てにおいて、気を抜く事が出来ないのだ。


 魔法などならまだいいが、剣撃を放った後なんかは、特に注意しなければならない。


 鎧が変化する様は、その瞬間でないと分からないのだから。


 リーティアからの付加魔法は、自身を防護してくれるもの゛ではない″。


 それ故二人は、その時々の咄嗟の判断と行動により、致命傷になるのを、なんとか回避しているのだった。


 アルドから時間稼ぎをしてくれと言われ、それを悟られないように、最大限まで精神を研ぎ澄ませて戦っているのだ。

 このままでは、ただ精神を摩耗させ、悪戯に体力を消耗させるだけだ。


 それでは、(きた)る゛その時″に彼を、ナシグを制する術が使えない。

 それだけは、避けなければならなかった。


 シェダはふっと笑みを浮かべ、ナシグに訊ね返す。


「――貴方こそ。いい加減、守るばかりに徹するのは止められたらどうですか? それじゃあいつまでたっても、私達からは逃れられませんよ?」

「……ふぅん。まだ、そんな事が言えるんだ? 僕に、傷一つ負わせられていないのに。まぁ君達の事なんて、どうでもいいんだけど」

「っ!」


 シェダの言葉に、特に何かしら感じた訳でも無く、さらりと告げるナシグ。ナシグのその態度に、初めこそ恐れを感じていたものの、なんだか段々腹が立ってきていたエレミアは、ついに吠えた。


「ちょっと貴方! 仮にも命のやり取りをしている相手に、その態度はあんまりなんじゃありませんのっ!?」

「えっ!?」

「…………」


 それにシェダは驚いた顔をしてエレミアを見やるが、眼前のナシグを見つめたままのエレミアは気付かず、更に言葉を続けようと口を開くが、その前にナシグがぽつっと呟いた。


「……だからこそでしょ。僕に傷一つ、負わせられない相手に。僕が負けるなんて有り得ないのに。なら、殺すだけだよ? ただ殺すだけの相手を、何故気にかける必要があるの?」

「――ですからっ!」


 ナシグの言葉に、更にエレミアが何か言い募ろうとした所で。


 クゥワアアァァン……


 空間がたわみ、大きく揺らぐ。


 ズンッと、周囲全体に圧力をかけられたかのような、感覚。


 流石にそれは、この場にいる全ての者に、感じ取る事が出来た。


「……なっ、なんですのっ!?」


 エレミアが驚きの声を上げると同時に、ぐるんっとナシグの標準が後方のカラミスに定められ。

 ざわり、溢れる感情。


「……おっ、ま、えええぇぇっ!!」


 大地を震わせるかのような絶叫を上げ、


「…………かはっ!」


 息を吹き返したばかりのカラミスに、


「なにしたああぁあああぁぁっっ!!!」


 ナシグは容赦無く疾駆する。感情の赴くままに。


 しかしそこに――……隙が生まれた。



 一瞬の後。


「……けほけほっ。もう、なんなんですか一体……」


 咳き込むカラミスの目と鼻の先で、もうもうと土煙が上がっていた。

 極力吸い込まないようにしながら、眼前に目を凝らすと。


 キラリ、銀の糸が見え。


 一陣の風のもと、開けた視界に現れたのは。


「…………っ!」


 前と後をシェダとエレミアの剣に、がっちりと固められているナシグの姿だった。


 その顔が、苦悩の表情を浮かべていた事にカラミスは勿論驚いたが、それ以上に驚いていたのは、他ならぬナシグ自身だった。


 シェダに向けられた剣の切っ先が、肌を傷付け血を滲ませる。


「……どうして。僕の鎧は、完璧な筈なのに」


 ナシグのその呟きに、シェダが続けるように告げる。


「そうですね。確かに完璧でしたよ。リーティアの付加魔法が、私達にかけられるまでは、ね」

「どういう事ですの?」


 目線はナシグを捉えたまま、エレミアがそう訊ねる。

 それにシェダは苦笑し、告げる。


「リーティアが私達にかけた魔法――支片舞装は、私達を防護するものではない事は、わかりますね?」

「ええ。初めの時は防護魔法なのかと思っていましたが、この方からの魔力攻撃、普通に通してましたもの。私慌てて回避しましたのよ?」


 おかげで膝を擦りむきましたわ、と付け加える。


「支片舞装は、いわば片鱗、欠片の集合体なんですよ。集束させる事が出来れば盾として使えるかもしれませんが、コレの真の用途は、そうじゃないんです」


 苦笑しつつ告げるシェダに、ハテナを浮かべるエレミアとカラミス。


 それに答えたのは、ナシグだった。


「――魔力防壁の、破壊」


 その言葉ににっこりして、シェダが続ける。


「ご名答です。欠片が破壊対象に触れれば触れる程、その防壁に徐々に取り付き、一番多く触れた所に集まって、いつの間にか穴を空ける――それが、この支片舞装の正しい使い方なんですよ。更に怖い事にこの欠片、取り付いた箇所の魔力壁を食べて変換流用するので、防壁を張った本人には、気付かれにくいんですよねぇ〜」


 ふふふ、と笑って言うシェダに、エレミアとカラミスは一瞬ぞくっとしたものを感じるが、首を振って追い払い。


「さて。こんな状況では、貴方に勝ち目はありませんよ? それでもまだ、抵抗しますか?」


 その間に、シェダはナシグににっこりと告げる。


「…………」


 それを暫しナシグは見つめ。


「……裏切り者が考えそうな、ほんと嫌な魔法だね。こうなったら仕方ない。この状況から立て直すのは、かなり疲れそうだしね」


 元の人形のような表情に戻って、ため息と共に淡々と告げるのだった。





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