始まりのその場所で4
バチバチバチッ!
魔力と魔力がぶつかり合う音が響く。
黒壁が出現した不意を突いてのアタックだったが、流石にそれはチェイリルにもわかったらしい。
拳を突き出した状態で、ニヤリとした笑みを浮かべている。
互いに突き出した魔力を纏った拳が、スパークを起こす。
しかし、アルドの攻撃はこれだけではない。
狙いは最初っから、その傍らにいるシアなのだから。
突っ込んで行った反動を殺さず、くるんと身体を反転させてそのまま、チェイリルとシアの間に降り立とうとするが。
「うぉっとぉ!」
弧の軌道を描いて飛んできた、チェイリルの鋭い足蹴りを回避すべく、急遽反転を横っ飛びに切り替える。
ズザザザザッ、ブーツの底が地面をガリガリと削り、砂埃を上げながら後退していくアルド。
「ちぃっ」
それを見つめながら、手応えのなかった事に舌打ちするチェイリル。
「や〜っぱ、初手で触れさしてはくんねぇか」
キュッと踵を鳴らして後退を止め、すっくりと立ち上がりながら、やれやれと告げるアルド。
その顔にはニヤリとした笑み。
「当ったり前でしょ〜? 大体、私を差し置いてなんて、随分失礼なんじゃないかしら、ねっ!」
それに、言いながら今度はチェイリルがアルドに突っ込んでいく。
距離を詰めつつ詠唱。
「流るる流れは時と移ろい。操るは、枝分かれした房より降り立った一枚葉。弾となって彼の者を貫けっ! 流弾枝葉っ!」
唱えると共に振り切られる手。そこに流れるようにして現れる、枝葉のように無数の数の魔力弾。再び振られた手により、それらが光速でアルドへと飛び被弾する。
ズドドドドッ!
一瞬のもと爆竹のように、無数の爆発音に加えて、もうもうと黒煙が立ち上がる。
アルドの姿は黒煙の中。だが、チェイリルの足は止まらない。
続けざまに、先唱してストックしておいた、一詠唱で起動する魔法を連発する。
「石硝散槍」
「球水凝塊」
「風刃嵐檻」
言の葉が紡がれる度、無数の石の槍が、水球の塊が、風の刃が、嵐のようにアルドを襲う。
そこへ、勢いもそのままに風を切り、突っ込んでいくチェイリル。
だが――、立ち昇る黒煙を切り裂いて、此方へと一目散に突っ込んで来るモノを目に捉え、咄嗟にその手を閃かせる。
ガキイィィンッ!
一瞬遅れで響く衝突音。
間近で交錯し合う、黒と緋の瞳。
両者の手には、剣。
アルドが振り下ろした斬撃を、抜刀ざまにチェイリルが受け止めた状態。
そのまま呟く。
「嫌になるわねぇ。あれだけの攻撃食らいながらに無傷、ですって?」
それに、ニヤリとしたままアルド。
「俺様だからな。――そう言うお前こそよくもまぁ、あれだけポンポン出せるもんだ。感心するぜ」
「あら。それはどうも、ありがとうっ!」
ニヤリとしたままアルドに告げて、つばぜり合いの最中、その横っ腹にチェイリルは蹴りを放つ。
「ぐぇっ!」
その蹴りは読めていなかったのか、魔力の乗った重い蹴りにより、盛大に吹っ飛ばされていくアルド。
断崖に激突し、地面に落ちる。
「………………」
蹴りを放った状態のまま、砂塵の舞う方を見つめるチェイリル。
暫しすると、ムクリと起き上がる人影。
断崖に激突した影響はなさそうだ。
「……げほ、ごほっ。ったく。さっきもそーだが、足癖悪ぃなぁお前。嫁の貰い手なくなんぞっ」
「おおっきなお世話よっ! 梁裏炎弾!」
頭に降り積もった砂塵や小石を払いながら告げるアルドに吠え、火球を見舞う。
座り込んだままのアルドに直撃するコース。
しかし。
不可視の防壁に阻まれ、アルドに届く寸前でその動きを止める火球。
その身体を一つも傷付ける事無く、込められた魔力を消費し尽くし、白煙を上げて消え失せる。
「防壁か〜。まぁ、張るわよねぇ普通は」
それを見つめ、やれやれとチェイリル。
先程連撃した魔法も、全て防壁に阻まれたと見ていいだろう。
やはり魔法戦は無意味と考え、チャキッと剣の柄を握る手に力を入れる。
(四素を全て弾く防壁か〜。流石は、゛大魔導師″なだけはあるって事か。一戦交えた時は、炎系だと思ったんだけどな〜。さて、どうしよっかなぁ)
「戦場で余所事かよ。随分と余裕だなぁ?」
「っ!」
思考を巡らせていたチェイリルのすぐ耳元で声。
一気に距離を詰め、横一線に払われた剣撃を、剣を立てて間一髪で受け止める。
響く高響音。
すかさず返す手でアルドの剣を押し返し、後方に飛んで一旦距離を取る。
アルドからの追撃魔法も、綺麗に避けて危なげもなく地面に着地。
ふふんとした顔を向け、アルドを見据えるチェイリル。
アルドもニヤリ、余裕の笑み。
「やるなぁ、お前」
「あんたもね。でも、こうでなくちゃ面白くないわ。折角、邪魔が入らないようにしたんだし〜♪」
「わざわざ、別れさせたのはこの為、ってワケか」
「そうよぉ〜? あの時のお礼、まだしてなかったしね〜」
それになるほど、と納得するアルド。
この前の一戦は、決着をつける前に強制的に、終わらさせられてしまった状態だ。
血気盛んなチェイリルには、物足りなかったのだろう。
最もそれは、アルドとて同様ではあったが。
久方振りの――、゛自身とマトモに渡り合える相手″に、高鳴る高揚感で自然と浮かんだ笑みを向けつつ、互いを見つめる二人。
視線が絡み合う中、ふとアルドは告げる。
「こんな状況でなけりゃ、さぞ良い気分で戦えたんだがなぁ」
「あ〜ら、そんな事ないと思うけど〜? 生きるか死ぬか、なんて。これ以上にないってくらい、最っ高のスパイスだと思うけどなぁ〜♪」
それに、ニヤリとした笑みを深めてチェイリル。くすくすと含み笑いが溢れる。
命のやり取りではなく、まるで遊戯を楽しんでいるかのような、純粋な微笑み。
「……゛一回逝きかけた″だけで、そこまで堕ちたってのかよ、お前は」
「!」
笑みを消し、静かに前を見据えて告げられたアルドの言葉に、チェイリルの眉がぴくんと上がる。しかしそれは一瞬の事で、その顔に直ぐ様笑みを浮かべて、チェイリルは告げる。
「私のこれは゛正常″よ? 努めの為だもの。私達は、互いさえいればそれでいいんだから。それに何より――、負けるのは私じゃないしねん♪」
「言ってくれる。――そうかよ。ならもう、何も言わねぇよ。俺だって、シア(あいつ)さえ取り戻せれば、それでいいんだからな」
それにやれやれと告げて、アルドはいつもの、飄々とした笑みを向ける。
再び、ニヤリとした笑みを帯びた視線同士が絡み合い。
チェイリルとアルドは砂塵を巻き上げ、そこから消え失せるかのように、弾丸の如く駆け出した――……
自身のすぐ側で、激戦が繰り広げられている事などまるで夢であるかのように、王座のような豪奢な椅子に座したまま、シアは静かな寝息を立てていた。
その後ろには、引っ張り出された過去によって出来た、空間の歪みがぱっくりと口を開け、力と力同士がぶつかり合い、ぐるぐると渦を巻いている。
この場に漂う様々な力と、戦いを繰り広げる者達の力によって出来た魔力を帯びた豪風が、その緋色の髪を、ドレスの裾を弄ぶが、感じてすらいないかのように。
静かに、閉じられている瞳。
シアの目覚めの刻は、まだ遠い――……




