始まりのその場所で2
「同じ、末路……?」
うわ言のように、呟かれる言葉。
それに、反応したかのようにリーティアが叫ぶ。
――あの子を……、シアリートをどうしたのっ!
リーティアのその叫びに、チェイリルは口角を上げてくすりと嗤う。
「まだ、何もしてないわよ? やる事はひとつ。わかっているでしょう?」
くすくすくす。
笑い声が、周囲に満ちる。
――くっ、この……
――ティアちゃん抑えて。まだ、ダメだって
今にも飛び出して行きそうなリーティアをアイリードが押さえる中、チェイリルの声が響く。
「あの子は、私の手の内にあるんだから。――なら、先に貴方達を葬った方が、後が楽でいいじゃない♪」
「――なるほど」
チェイリルのその言葉に、納得したように頷くアルド。
「どーりで、こんな悠長にやってるワケだ。あわよくば俺達も――って魂胆か? どーするよ。彼方さんはヤル気だぜぇ?」
ニヤリとして呟き、後半は傍らにいるシェダ達に向けて話すアルド。
「やはり、話し合いで解決……とはいきませんか」
その声にひとつ呟いてシェダは腰の剣に手を伸ばし、エレミアも魔法で作り出した細剣を両の手に握り、ぐっと身構える。
リーティアとアイリードは言うまでもなかったが、カラミスは。
「…………っ!」
ガクンとその場に膝をついた。
それに、ニヤリとしたままアルドはちらりと目線を送っただけで、また眼前のチェイリルに視線を戻し。
「カラミスっ!?」
驚いたエレミアの声に、傍らにいたシェダがカラミスに振り返ろうとした所で、カラミスが静かに言葉を紡ぐ。
「……いいですから。僕に、構わず前……、据えててください。エレミア、君も、気にしてる余裕……、なんてないでしょ」
「カラミス、ですがっ」
尚も何事か言い募ろうというエレミアに、カラミスは微笑を返し。
それに虚を突かれ、二の句が告げないエレミア。
その間に、するりとアルドが口を挟む。
「――お前は、゛感じ″られてんだな。どんな感じだ? 言ってみろよ」
それに、こんな時に何を悠長な、という視線が投げられるが、アルドは此方を見向きもしない。あくまで、視線はチェイリルを据えたまま。
それに一つ息を吐いて。
「……なん、なんですか、この場所。流石、いわく付きなのも頷けますよ……。色んな力が、混ざり廻っていて……はっきり言って、物凄く気持ち悪い、です。それに……さっきのアレのせいで、余計……っ」
はぁ、と吐息を吐き出し辛そうに、途切れ途切れ告げるカラミスに、アルドは満足気に口角を上げて。
「――そこまで感じられてんなら、やっぱお前で決まり、だな。後は、予定通り頼むわ。あぁ、そうそう。因みに、アレってーのは何かってゆーと、だな」
さらりとそんな事を決定づけて、先程起こった゛切り替え″を、聞いてもいないのに教えてくれる。
「持ってきやがったんだよ、過去から。現在の筈の今のこの場所に。儀式をやり直す為に、過去トコから、舞台を引っ張り出しやがったんだ」
「……そんな、……無茶苦茶な……」
と呟きながらも、カラミスにはそれが、真実なのだと確信している。
多種の高魔力密度に加え、なんとも形容し難い、゛不可思議な力″が漂う中。そこに更に、゛異物″をねじ込まれたかのような――気味の悪い、感覚。
感覚機能をもみくちゃにされただけでは収まらず、尚且つそこに、更なる揺さぶりをかけられたかのような、激しい目眩と嘔吐感。
゛魔力酔い″だ。
多すぎる魔力を感じ取りすぎてしまうが故に起こる、魔力感知器官不全――
本来なら、皆無意識に選り分けて感じている筈のモノだが、些か場所が特殊すぎた事と、転移なんて学生の時分ではかなりの大仕事を成し遂げた後で、危機感よろしく、その一つひとつを、敏感に察知し触れてしまったのだろう。
元々この場所にあった不可思議な力と、現在、この場所に漂っている魔力と、過去から引っ張り出された、ある筈の無い過ぎ去った筈の魔力を。
どちらかと言えば文系のカラミスに、他の者達程のタフさはない。
そんな、ある意味異質な魔力密度が荒れ狂っているこんな場所で、一人膝を折ることになったとしても、それは仕方のない事だった。
踞るカラミスに、リーティアとアイリードが心配そうに寄り添う中、シェダがアルドに囁く。
「゛持ってきた″……って、言葉通りの意味、ですか」
「あぁ、そーだよ。さっきティアが言ってたろ? 世界を傷付けちまったから、代償を支払わなきゃならねぇってさ。それは、四季のガキ共も同じなんだよ」
そこで一端言葉を切って、続ける。
「何が起こっていようと、世界は変わらずに巡り、廻る。今この時も同様にだ。そしてそれは、あのガキ共にも言えんだよ。現在も゛喰われ続けて″んのを回避する為に――、゛世界を傷付ける前″の、過去を引っ張り出してきやがったんだ。一時的にでも、力の流出を防ぐために、な」
「と、言う事は……彼女達の代償は、その魔力、だという事ですね」
呟くシェダに頷くアルド。
一度やり合った時の感覚を伝える。
「あぁ。シアもそうだが、みょ〜に安定してなかったからな。まぁでも、アイツら゛上手い事″してるよ。今となっちゃ、もう元に戻ってるだろうが」
だかそれも――、と続けようとした所で、
「……そろそろ、心の準備は出来たかしらぁ? ま、待っててあげてもいいんだけどね〜。長引けば長引く程、不利になるのはアンタ達なのよ?」
待っているのもそろそろ飽きた、といった感じでチェイリルが口を挟む。
その傍らには、いつの間にかシアを抱いたナシグが、ひっそりと寄り添っていた。
「――いよぅ。やっとお出ましかよ。随分な重役出勤だなぁ?」
それを特に気にするでもなく、軽口を叩くアルド。
しかし、当のナシグはそれに答えるでもなく、パチリ、指を弾いて出現させた豪奢な赤布張りの椅子に、目を閉じたままのシアを座らせる。
ちらちら揺らめく周りの業火と、同色の髪がさらり、風に流れる。
着ているドレスのような服も、地は白なのだろう、火の色を照り返して緋色に煌めく。
その光景と真逆のソレに――、アルドやリーティア達以外の者達が息を飲む。
先程は唐突だったせいか特に注視していなかったのだが、ソレは、あまりにも異質だった。
周りの炎など、まるで存在していないかのように――、白。
゛あか″の世界にあっても尚、その白は、全てを拒絶するかのように、汚れる事無き白磁だった。
まるでこの場所そのものかのように――、その白は常軌を逸していた。
「……あ、れが……四季の……」
「……色、無し……」
喉から絞り出された言葉は、掠れて風にさらわれていく。
無理もない。
四季の者が表舞台から退いて久しく、彩髪を目にする事すら稀だという時代に、それより更に稀少な、゛色無し″を見る機会などある筈もない。
彩髪や白色の者達がいる、と知識として知っていたとしても、実際に目にするのとではワケが違う。
その印象、存在、纏う空気は、刻み付けられたかのように、強烈だった。
目の前のモノから――、目が離せなくなる。
半ば呆然と、眼前のナシグを見やるシェダ、カラミス、エレミア。
それはただの驚きか、はたまた異様、異質な存在に対する、防衛としての恐怖(本能)か。
面々が判断を付けかねている中、すぅ、とナシグが此方を向き直ったのを合図とでもするように。
「さぁ――、はじめましょうか?」
一声の元、戦線の火蓋は切って落とされた――




