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始まりのその場所で1




「…………っ!」


 あまりに大量の光の洪水にぎゅっと目を閉じ、光の筋と浮遊感が無くなったと共に、そっとその瞳を開くと。


 景色の変わりように、転移が成功したのだと悟る。


「はっ!」

「……っ!」


 途端に急激な疲労感に襲われ、ガクンと膝をつきそうになる。


 高度融合魔法である転移魔法を六人、いや、四人と二体で行ったのだから、それも無理はない。

 移動、固定、召喚。その三つを組合わせた魔法(もの)を、若干六名で成し遂げたというのだから。


 本来なら、オーバーヒートして移動中に昏倒していてもおかしくない。

 しかし、それをせずに今なんとか立っていられるのは、大部分をカバーしてくれた大人達(存在)がいたからだ。


 カラミスとエレミア(自分達)はまだ学院を卒業もしていないひよっこで、此処にはただ、運良く連れてきてもらえただけに過ぎないのだと思い留めながら、そうっと周囲をうかがう。


 先程までの、木々の緑とシェリティリアの花々が風に揺れる白の景色とはうって変わって、剥き出しの土色に、まるで大剣に穿(うが)たれたかのように切り裂かれた、峡谷の景色が目の前に広がっていた。


「……こ、こが……空白地帯、だった場所……」


 たまらず絞り出すように呟かれたカラミスの声に、周りを見回しつつ、ごくりと息を飲むエレミア。

 二人がこの地に足を踏み入れたのは、今日この時が初めてだった。


「……本当に、深く長い谷、なのですね……」


 それはどうやらシェダも同じようで、驚いたように辺りを見渡している。


 一目見た時には、広大な荒野にしか思えなかったのだが、土埃が舞う中暫し目をこらすと、双方とも先に行く程狭くなっているのがわかる。

 それに、時間的にはまだ日も昇りきっていない時間帯の筈だが、妙に薄暗い周囲の景色に頭上を見やると、絶壁のように直下立つ断崖の遥か先に、青の空を仰ぎ見る事が出来た。


 ここが彼の地なのだと、改めて認識する。


 ――わたし達が、゛隠れみの″にしてた時は、コレとは違ってたんだけどね〜


 フワフワ、空を漂いながらリーティア。それに呟くようにシェダ。


「幻惑の、魔法をかけていた時ですか?」


 その言葉に、驚いたように声を返すのはアイリード。


 ――へぇ。アルドがここでの事、しゃべったんだ


「成り行き上、ですけどね」


 苦笑してシェダはそれに答え、続ける。


「四季折々の花が咲き乱れ、野山の草木は、古の時代の時のような黄金色の光を放ち……まるで幻想(ゆめ)の中にいるような、そんな場所だった、と」


 ――まぁ、この場所自体が普通の場所とは違うしね〜

 ――おかげで、隠れみのに使うには、調度よかったんだけどね。こんな不安定な場所を、拠点にしているだなんて、誰も思いはしないだろうからね


 シェダの言葉に、リーティアとアイリードが声を返す中、呻くような声が届く。


「程度……ってモンを知らんのか、てめぇらはっ!? 遠慮ないにも程があるだろうがっ」


 その声に、そちらをくるりと振り返る面々。

 するとそこには、皆の代わりにへばっているアルドの姿があった。

 かがんだまま呻くアルドに、くすくすとリーティアは告げる。


 ――大口叩いてたわりに、アルドでも流石にこれだけの人数、転移させ(つれ)て来るのはキツかったかしらね〜?


「てめこらティア! どの口がンな事ほざけんだよっ! 橋渡し役が、一番キツいっての、お前わかってんだろが!」


 ――だからこそ、あんたを要にしたんだけどねぇ〜?


 ふふんと言い切るリーティアに、このやろう……と呟いて、


「大事なトコでヘマったら、てめぇらのせーなんだからなっ……!」


 ぽそりと告げて、ため息を吐くアルド。

 その、戦場に来ているというのにそれを全く感じさせない二人のやりとりに、周囲からは苦笑が洩れる。


 ――なんだかなぁ……。緊張感がまったくないね

「まったくです。まぁ、アルドらしいといえば、らしいですが」

「……だ、大丈夫なのかな、本当に……」

「気負っていても仕方ありませんわよ。逆にこれくらいの方が、調度良いのではないかしら?」


 そうして程よく各々の緊張が解れた所で、先程へばっていた事など嘘のように、一息の元に立ち上がるアルド。

 その口元にニヤリとした笑みを浮かべ、先を見据える。


「――さぁて、そろそろお出ましかぁ?」


 と、アルドが呟くと共に、土色剥き出しの峡谷の景色に、コマ送りのような四季折々の絶景が写し出され。


 途端に、゛あか″の風景(せかい)へと切り替わる。


 ふとした時には、赤々と燃え盛る業火が、荒野を赤一色に染め上げていた――……



『なっ……!?』



 その目まぐるしい程の景色の変容に、息を飲む面々。


 煙の臭いが鼻をつく。炎の熱で喉が渇き、流れ出る汗が、頬をつうと伝っては地面に滑り落ちていく。


 ただでさえ、神がおわす聖地なのではないか、霊が徘徊する死者の国なのではないか等々、噂話に事欠く事無い地でのこと。


 ある程度の事は予想出来ていたし、何より、先にこの地に降り立った四季の者である彼女達が、何もせずただ座して待っている、だなんて事は考えられない。

 それが直接的であれ間接的であれ、何かしらあると考えていくのが普通である。


 ――だが。

 今目の前で起こった現象を、正確に理解している者が、はたして何人いることか。


 周囲の物質から、それまであった事を読み取るような、映像(ビジョン)としてのものでもなく。

 意識を飛ばして時を渡り、その時その場所であった事を、過去視()る等といったものでもない。


 むせ返る程の魔力密度の中、ただ事ではない事が起こったのは、かろうじて理解出来た、といった所か。


「前もそーだったが、登場からしてハデだなぁ、おい?」


 先程眼前で繰り広げられた景色の移ろいなど、さして興味もないといった感じで、さらりと問いかけるアルド。


 アルドが問うている相手が誰か、等と言わずとも知れていたが、先程のショックから他の者達はまだ立ち直れていないのか、微動だにすらしない。

 しかしそれを咎めるでもなく、アルドはただ悠々と前だけを見つめる。


「――あら。登場の仕方って、かなり重要だと思うわよぉ? それがどう働くかによって、その後の展開に大きく差が出るんだもの♪」


 と、含みを帯びた声でそんな事を言いながら、赤に塗り替えられた世界の奥から、緋色の髪をなびかせ同じ色の目を楽しげに細める少女、チェイリルが姿を現す。


『っ!』


 それには流石に反応したようで、シェダ、カラミス、エレミアの三人ははっとして我に返り、臨戦体勢へと移る。


 そんな中、チェイリルはゆっくりと彼らを見回し。リーティアとアイリードの姿を捉えると、にこりと笑んで呟いた。


「ティアとアイリ(二人)がいるなら、此処まで辿り着けるのも当然よね。待っていたわ、二人共。――そしてようこそ、招かれざる者達のみなさん♪」


 言うが早いか、優雅に腰を折って礼をしてみせるチェイリル。

 さらり、二つに結われた緋色の髪が流れる。


 下げられた顔が、どういう表情をしているのかわからなかったが、アルドはニヤリとしたままチェイリルを見やり。

 他の五人は、ごくりと唾を飲み込み、眼前を凝視するのみ。


 視線が注がれる中、ゆっくりとチェイリルがその顔を上げる。

 その顔に浮かんでいるのは、やはり余裕の笑み。


 その笑みには何か、うすら寒いモノを感じずにはいられかなった面々だが、


「――で。シアともう一人はどうしたよ? 揃わねぇと、意味ねぇんだろうが?」


 いつものように飄々と、アルドはさらりと言ってのける。

 それに、笑みを浮かべたままのチェイリルがやれやれと肩を竦める。


「せっかちねぇ〜。そんなに急かさなくっても、すぐに会わせてあげるわよ」


 そう言って、チェイリルの身体が構えを取るようにすうぅと引かれる。

 そうして、再び開かれる笑みを含んだ唇。



「貴方達だって、同じ末路を辿る事になるんだから♪」


 高揚か快楽か。

 恍惚に歪んだその表情(かお)で、楽しげにチェイリルはそう呟いた。

 その口元に、ニヤリとした笑みを浮かべたまま。





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