殻の檻11
「は?」
「え?」
「――足りない?」
アルドの言葉に、カラミスとエレミアはきょとんとした顔で聞き返し、シェダはというと小首を傾げて、訊ね返す。
「そ。足りねんだよ。ま、他にも色々面倒臭ぇ事があるんだが、幸運にもその事に、あの四季のガキ共は気付いてねぇみたいだからな」
ニヤリとした笑みを浮かべたまま、続けるアルド。
「……で、その……足りないものって、なんなんですか?」
もっと良く聞けるようにと、エレミアと共に近寄ってきたカラミスが遠慮がちに訊ねると。
「それは……んーまぁ、俺が言うより当人に、言ってもらった方が早ぇかな」
呟くように言って、ニヤニヤしたまま告げる。
「いー加減、出てきたらどうなんだよ?」
それはまるで、此所にいる筈なのにいない誰かに、向けているかのようで。
『!?』
はっとしてシェダ、カラミス、エレミアの三人は、周囲に視線を走らせる。
サワサワ、木々の葉が風になびく音だけが、周囲に響く。
ごくり……唾を飲み込み、周囲を警戒するかのように見渡す三人とは対照的に、飄々とした態度を崩さずにある一点を見つめるアルド。
暫し、周囲に沈黙が満ち。
――隠れてたつもりは、なかったんだけどね〜
――ま、アルドなら気付いて当然だよなぁ
心に直接響くような、二つの声が発せられる。
「っ!?」
「えっ!?」
「なっ……!?」
突然聞こえた声に驚く三人を他所に、しゃらりと澄んだ音を響かせながら、周囲に撒き散らされた分のリングと、シアが落としたブーツの中に入っていたリングがふわり、浮き上がり。
仄かな光を明滅させながら、四人の頭上をくるくると回る。
「え、なっ、なに」
「あれって……、シアリートの?」
「……一体なにが……」
各々声を上げる中、アルドはその口角をニヤリと引き上げる。
そうこうしている間に、四十強のリング達は二つに分かれ、顔、身体、腕……と、人の形なる形を形成していく。
そうしてリングの人形が出来上がると、ふわり、リングの骨組みを覆うかのように白い霧のようなものが人形を包み。
その姿が、露になる。
『えぇっ!?』
その姿を見て、カラミスとエレミアの二人は驚きの声を上げ。
「なっ……!?」
シェダはその緑翠の瞳を見開いて、言葉を無くし佇む。
三人にとって……いや四人にとってあまりにも、あまりにも懐かしい人達の姿が、眼前に浮かび上がっていた。
アルドやシェダにとっては、昔の旧友として。
カラミスやエレミアにとっては、大切な幼馴染みの両親としてのその姿が。
「……まさか、こんな事が……」
呟くシェダの頬を、一筋の雫が滑っていく。
しかし、直ぐ様はっとしたような顔をしてぐりんとアルドに向き直り、ずかずかと詰め寄って、声を荒げる。
「一体、どういう事なんですかっ!? あの時貴方、もう二人はいないって……!」
「言ってねぇよ?」
シェダの剣幕をものともせず、アルドはさらりと告げる。口角は勿論、ニヤリとさせたままで。
「は?」
その言葉に、呆けた顔をするシェダ。そんなシェダを見やり、くくっと笑ってアルドは続ける。
「お前の、思ってる通りだよ、とはいったがな」
「…………〜〜〜〜っっ!!」
飄々としたまま言い放たれたその言葉に、なんとも言えない顔をして、わなわなと身体を震わせるシェダ。
拳を握り締めてなんとか怒りを押さえ込み、深々とため息を吐く。
「……あぁもぅ! そうですね、貴方はそういう人でしたねっ! この事の考えに至らなかった私が、ただ愚かだっただけなのでしょうねっ!」
しかし、嫌味は満載に毒づく。
そんなシェダにニヤリとしたまま、アルドは告げる。
「嘘を言ったつもりはないぜ? 俺だって、こーゆー形で再び会えるとは思ってなかったしなぁ。まぁでも、個(人)としてはいないのは分かってたが、体(精神)として存在のは知ってた、ってだけの話だっての」
「同じ事ですっ!!」
叫んでから額を押さえ、はあぁ、と盛大にため息を吐くシェダ。
――あらあら。相変わらず、アルドに振り回されてるのねぇ
――ま、この関係はもう修復不可能だろ。なんせ年期が違うからなぁ
「怖いこと言わないでくださいよ、アイリードっ!」
二つの声の内の1つに、物凄く嫌そうに声を返すシェダ。
振り向いた先には、苦笑しつつ頷く旧友の姿。
――ははっ、すまんすまん
そう言って笑うのその顔は、昔と何ひとつ変わっていない。
あぁ、本当に彼らなのだな、と懐かしさに浸りそうになるシェダ達だったが、
――って。こんなことやってるバアイじゃないんじゃないの? あなた達、シアリート(あの子)助けに行くんでしょう?
ふわり、白い髪をなびかせて訊ねる女性、リーティアにそう言われ、はっと我に返る面々。
「そうだったっ!」
「浸っている場合ではありませんでしたわっ!」
「そうです、早く助けにいかなければっ!」
「まぁ待てって」
しかしそれを、アルドが制する。
「言ったろうが。すぐどうこうされたりしねえって。ちょっとくらい、話す時間はあるだろうよ」
「しかし……」
「そんな事言ってる間に、彼女に何かあったらどうするんですかっ!?」
「そうですわ! 一刻を争うのですからっ」
と、尚も否を唱える三人に、アルドはさらりと告げた。
「だぁから。足りねえんだって言ったろ。それに、状況把握と作戦会議は必要だろが。あと、アイリとティア(コイツら)に二、三聞きたい事があんだよ」
――それで、聞きたい事ってなにかしら?
円形に、草地の上にそのまま座り、その真ん中に置かれた石の上に腰掛けながら、リーティアが問う。その傍らには、アイリードが付かず離れず寄り添っていた。
「色々あるが、そうだなぁ。まずは……」
リーティアの問いに、ふぅむと顎に手を添え考えるアルド。
そんなやり取りを、シェダ、カラミス、エレミアの三人は作戦を立てつつ、聞き漏らさぬよう耳をそば立てている。
「確認といくか。お前らも含め、だが。あのガキ共は、゛過去の再現″をしようとしてんだよな?」
「は? どういう事ですかそれ?」
「過去の……再現、って。なんなんですの?」
アルドの言っている事の意味がわからず、驚き聞き返すカラミスと、頬に手を添え小首を傾げるエレミア。
「はぁ。……アルド。もう少し、順を追って確認してください。貴方にはわかっていても、私達にはわからないのですから」
そんな二人を見つめ、シェダがやれやれとため息しつつ告げる。
「んあ? あぁ、そっか。悪りぃ」
シェダの指摘に気付いて、へらへら笑って謝罪するアルド。そんなアルドを見やってリーティアはやれやれとため息を吐いて呟く。
――アルドがいるとホント、話が早くて助かるんだけど、ま、いいわ。わからない子達もいるようだし、順を追って説明しましょうか
呟いて石の上に立ち上がり。こほん、と咳払いしてから続ける。
――まず、今回の事についてだけど。肝にあるのは、゛十二年前の事故″っていうのは、判るわよね?
リーティアの言葉に、コクリと頷くアルド以外の三人。それに頷き返し、
――わたし達にしてみれば、襲撃された形になるけど、あの事故……いえ、゛儀式″は、不完全な状態で終わってしまっているのよ……
言いながら、当時の場面を思い出してしまったのか、悲しげな表情をするリーティア。リーティアのその肩に、アイリードがそっと自分の手をかける。
「儀式……って、なんなんですか?」
三人を代表して、カラミスが挙手して訊ねる。二人のその睦まじい姿に水をさしてしまうのを、悪いなぁと感じながら。
そんなカラミスに苦笑しながら、リーティアは告げる。
――今では、ただ髪の色が変わるだけだと言われているけれど。四季の者には、遥か古の時から継承されている役目があるの。それが何か、くらい知ってるわよね?
その問いに、エレミアが挙手し答える。
「確か……四季を巡らせて年を導き――、力を循環させて均衡を保つ、でしたわよね?」
――そうね。そして、循環した力を世界に返す。それが、四季の者としての役目
エレミアの回答に、にっこりと満足気に頷き告げるリーティア。しかし、それにすかさずアルドが口を挟む。
「だが……゛勿論″、それだけじゃねぇよな?」
その、わかってて言っている言い方に苦笑いを浮かべ、リーティアは続ける。
――そう。今エレミアが言ってくれた事は、表面上での事で、四季の者なら、誰しもが無意識にやれるような事なのよ。でも……それ以外に、何処にも語られていない、四季の者ですら知っている者が稀少な、゛真の努め″が存在する
「……その、努めとは――?」
驚きつつそう告げるのは、ぱちくりと目をしばたいているシェダ。
カラミスとエレミアも、固唾を飲んでリーティアを見返し。
そんな三人に苦笑し、リーティアは静かに告げた。
――゛世界″を癒し、護る。言葉通りの意味でね。それが、最も優先されるべき事柄であり、何を途しても守らねばならぬ、絶対のもの
「何を……途しても……?」
――そう
訝しげに訊ねてくるカラミスに頷いて、リーティアは呟く。
――゛命に変えても″、という事よ
悲しげな、微笑みを浮かべたその表情で。




