表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/63

その時の、こと9




「そこは、結界の膜が張ってあるかのような所でさ。初めは何しても入れなかったんだが、いきなりその膜がたわんで、その後、なんの抵抗もなくすんなりと、腕が膜を越えちまったんだよ」


 今思えばそれも納得なんだけどな、と呟いてアルドは続ける。


「ま、自分で突破出来なかったのは悔しいが、これ幸いと、俺は膜の内側に入り込んだ……。内部(なか)のその景色に、正直驚いたぜ」


 アルドのその言い方に、ふとシェダが訊ねる。


「……今のような、荒廃した断崖絶壁の峡谷……ではなかった、と?」


 それにご名答〜♪ とニヤリと笑って、アルドが告げる。


「本来は゛そう″なんだろうが、俺が踏み込んだその時は、一瞬自分が何処にいるのか忘れるくらいの、絶景が広がってたんだよ」


 四季折々の花が咲き乱れ、野山の草木は、古の時代の時のような黄金色の光を放ち……まるで幻想(ゆめ)の中にいるみたいな、そんな不思議な場所だった……と、アルドは苦笑する。


「あれはたぶん、あの頃のシアが見てた夢を媒介にして、そこに造り上げてたんだろうな。――シアの為に。アイリとティアが二人で、さ」


 良い両親してたんじゃねーか? と呟き、続ける。


「……二人には、俺が来るのがわかってたんだろ。だから、内部に入れたんだ。聞いてねぇけど、少なくともアイリは、俺に話があったみたいだったしな」


 今となっちゃ、ホントかどうかわかんねぇけどな、と続ける。


「それで……アルドは、アイリードとリーティアに会った、んですか……?」


 そう、囁くように問われたそれに、アルドは苦笑いを浮かべる。


「……会った、と言えば会ったんだが……。卒業式以来の懐かしさに浸る余裕なんか、ありもしなかったっての……」


 頭をガリガリ掻いて唸りながら答えるアルドに、意外そうな顔をして驚くシェダ。


「そうそう、動じたりなんかしないでしょうに。珍しい事もあるものですね……。そんなにも、その幻想的な世界は素晴らしかったのですか?」


「……いや、まぁな。素晴らしかった、なんて言葉じゃ言い表せないくらい、凄かったけど。――えぇといや、そうじゃなくて、だな……」


 また頭をガリガリして、暫しうんうん唸ってから、アルドは盛大にひとつ、大きなため息を吐いて。


「……内部(なか)に入ってすぐ、わかってたらしいアイリとティアが、出迎えてくれたんだが……」


「……だが?」


 小首を傾げて聞き返してくるシェダに、更にため息を吐いて、ふいっと顔を逸らして続ける。


「……ガラにもなく、狼狽えたんだよっ……! 二人が連れてたモノ見て、な……」


 あーくそっ! 俺様一生の不覚だぜ……と言って、頭を抱えてテーブルに突っ伏すアルド。


「……アイリードとリーティアが連れていた……? あ。シアの事、ですか」


 アルドの言葉から推測して、そう結論を出すシェダ。

 それに、項垂れたままもごもごと呟くアルド。


「……なんて言うか……、今でもシアは特殊な魔力波動してんだけど、その時は、もっとこう、なんか凄かった……んだよ……」


 あれ一身に受けたら、お前だって腰抜かすぞ……とぼやいて、渋々続けるアルド。


「……まぁ、王族と四季の者との間に生まれてんだから、特殊なのは当然なんだが……。生まれたて特有の溢れる生命力っていうか、無垢であるが故の無邪気さというか……」


「……つまり、新たな魔力の存在に戦いたのに加えて、その時のシアに、何か核心的な事でも言われた……と。……ふふ。さすが、アイリードとリーティアの子供ですね」


 にっこりしたまま、ぐっさりくる言葉を浴びせてくるシェダをジロッと見やって、


「……まぁ、簡単に言ったらそうなんだが……。お前、これリドとかリューオにゆーんじゃねぇぞ」


 声音低く凄むアルドだが、


「まさか。そんな勿体ない」


 それをさらりと交わして、笑顔で告げるシェダ。


 その顔には、暫く私だけで楽しむに決まってるじゃないですか、というのが滲み出ていて、しゃべる相手間違えたかな、とアルドが思うが、もう遅かった。


 うへぇという顔をして、テーブルに頭を預けたまま、アルドが続ける。


「内部で初めて、あいつ(シア)見た時――。四、五才のガキだった筈のシアに俺は、十七歳(今)のシアをダブらせたんだよ」


「……容姿、は……四、五才の時と然程変わっていないのでは……?」


 アルドの言わんとすることが分からず、小首を傾げるシェダ。

 それに理解はしなくていい、と手を振ってアルドは続ける。


「……ヒトの魔力波動は、そうそう変わるモンじゃねぇから、ここまで言ったらシェダ(お前)ならもう、わかんだろ?」


 それ以上言う気はないのか、そう締め括るとアルドはまた菓子に手を伸ばす。


「……まぁ、そうですね。外見うんぬんではなく、魔力そのもの……つまり、源の部分でシアをシアだと言っているのですから、疑う余地などありませんし。それなら、信じない訳にはいかないでしょう」


 それが、本来アルドにしか判別出来ないものだとしても、と付け加え苦笑するシェダ。


「……しかし、諸々をシアに聞かなければ分からない、となると……かなり時間がかかりそうですが……」


 一口紅茶を口に含み、やれやれとため息を吐くシェダに、


「――そうか? そう時間はかからねぇと思うがな。あちらさん、気の長い方じゃないっぽいし」


 アルドは菓子を頬張りつつ、さらりと告げる。

 それに、訝しげな顔をしてシェダが訊ねる。


「どういう、ことです?」


「ん? あぁ。昨日な、秘密基地(ここ)に影送って来た四季のガキと、ちょいーとヤり合ってだなぁ。目当てはシアだったらしいけど。アルビノのガキまで出てきて、ちょっとびっくりしたなぁ、アレは」


 あはは〜と笑って、さらりと告げたアルドだったが。


「……………………」

「っ!?」


 眼前から流れて来た冷ややかな冷気に、びくっと身体を震わせる。


「………………」


 恐る恐る、頭を上げるアルド。すると、眼前ににっこりとした笑顔を張り付けた状態で、どす黒いオーラを振り撒くシェダがいて。(オーラ)で、銀の髪が波うっている。


「……誰が、誰と、ヤり合った……んですって?」


 ふふふ……と、笑顔でそうアルドに訊ねるシェダだが、その目は全然、笑ってはいなかった。

 慌てて弁解を試みるアルド。


「いや、あっ、あのな、シェダ? 俺は別に、最初(ハナ)からヤり合おうと思ってたワケじゃ」


「当たり前です!」


 が、ぴしゃりと切り捨てられる。

 そのままゆらりと席を立ったシェダは、腰の剣へと滑らかに指を走らせ。柄飾りの宝玉が、鮮やかに光り輝き出す。


「いっ!? お、おいシェダ、ま」


 それを見て取って、後に起こるであろう自分の無惨な状況を悟って、なんとかそれを止めようと声を上げるアルドだが、後ふた呼吸程、遅かった。


「貴方と言う人は〜〜っっ!! 情報の! 共有が! どれだけ重要か! ちゃんとっ! わかってるんですか〜〜っっ!!」


「ぐっ! が!? ぎ? ご! げふっ!?」


 シェダの気に誘われて舞い降りてきた雷精が、アルドに良く聞こえるよう区切られたシェダの声に合わせて、(いかずち)をアルドに撃ち落としていく。


「………………」


 しゅうぅぅ〜、煙を上げながら黒こげのアルドがバタリ、と椅子から転げ落ち床に伏す。


「ふんっ」


 それを冷徹に見下ろすシェダ。その周りを雷精が楽しげにくるくると舞い、ふわっと溶けるように消えていく。


「……わ……、悪かった……ての……」


 口から黒煙を吐き出し、謝罪するアルド。身体がまだびりびりとしていて、暫く起き上がれそうになかった為、倒れたままではあったが。


「色々と言いたい所ですが、まぁいいでしょう。……それで、シアの安全確保と敵の状況は?」


 椅子に座り直し、先程の事などまるてなかったかのように切り返すシェダに、いつか覚えてろよ……と呟いて床に寝転がったままアルドが告げる。


「……取り合えず、俺のコートとリングを置いてきたから、何かあったとしても、一瞬で行ける。あのガキどもは、あいつ(シア)を今すぐどうこう、って感じじゃあなかったし……。片方はどうにか出来そうだが、アルビノのガキの方は、ちょっと骨が折れそうだな……」


 ふう、と息を吐き出しながらそう告げるアルドに、首を傾げつつシェダが問う。


「四季の者のアルビノって……ただの゛色無し″では、ないんですか?」


 現代(いま)となっては、古い文献を漁らないと虹光髪、もとい四季の者の情報は得られない。それに得られたとしても、それは極小なであり、四季の者の中のアルビノとは、その白の見た目から分かるように、゛色を与えられなかった者″即ち、四季の者でありながらにして四季の者である能力ない、能力無し、色無しと言われている者達の総称だった。


「……ん〜……」


 シェダのその問いに、難しい顔をするアルド。痺れの治まった身体をむっくりと起こして胡座をかき、ポリポリと頭を掻く。


「……俺から聞くより当人に直接聞いた方が、早いと思うぞ。どうせまたすぐ、お目にかかる事になるんだからさ」


 どうやら教えてはくれなさそうなアルドに、ため息してシェダは続ける。


「どうしてそう、言い切れるんです? 一度退けられたのでしょう? なら次は確実に仕留める為に、ある程度時間を置くのでは?」


 私だったらそうします、と言うシェダにニヤリと不敵に笑って、アルドは言った。


「奴等には、あまり時間は無いと思うぜ? 俺がシアと一緒にいる時に、わざわざ姿を見せたんだ。それでシアは、もう絶対に動かざるを得なくなったからな。奴等にしてみりゃ、それは計算通りなんだろうがな。それにな、退けられたのは奴等じゃない」


 そこまで言って言葉を切り、アルドはへらっと笑って言った。


「゛俺が、退けさせられた″んだよ。即席魔法だったにしろ、あのアルビノのガキ、もう一人の四季のガキが形成してた結界ごと、俺の炎を消しやがった」


「なっ……!?」


 アルドから告げられたその衝撃的事実に、声を無くし驚愕するシェダ。

 信じられない、という顔でアルドを凝視する。


「――ま、次はこうはいかねぇけどな」


 それに、いつものようにニヤリとするアルドだが、シェダは驚愕した顔のまま、それに答える事が出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ