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忍び寄る影4


「……ちょっ、アルドってば!いきなりなにっ」


「しゃべんなって。舌噛んでも知らねぇぞっと」


「えっ?……ひ、やああぁぁっ!?」


 魔方陣から垂直に移動するだけかと思いきや、それをねじ曲げて更に転移を行うアルド。


「…………っ!」


 高速で流れていく光の洪水に、思わずぎゅっと目を閉じる。


 暫くすると身体の抵抗がなくなり、


「とーちゃくぅ!」


 アルドの間抜けな声と共にすとんと、何処かに下ろされたのがわかる。


「これ被ってけ」

「ひゃ!?」


 すると目を開ける間もなく何かを被せさせられ、ついでぐいっと乱暴に引き寄せられたと思えば、耳元でひそりと囁かれる。


「入り口までしか遅れねぇけど、一人で帰れるな?家に着くまで、顔出すんじゃねぇぞ。わかったな?──あぁ、それと。袖口見せりゃ、通行料は払わなくて大丈夫だから。それに、ある程度までは護ってもらえる」

「ちょっ……」


 アルドの囁きに何事か言おうとしたシアだったが、それより早くそんじゃあな、と言ってアルドがそこからかき消える方が早かった。


「………………」


 疾風だけを残してアルドが走り去った方を呆けた顔で見やっていたが、やがてため息と共に息を吐き出し、シアはフードを少しだけずらして恐る恐る周囲を見渡す。


 真ん中に据えられた魔方陣、十二の柱に支えられた乳白色の壁、高い天井──…間違いない。ここはシェダの邸に行くために使った、転移塔の中だった。


「………………(ほわぁ〜〜)」


 何度見ても、圧巻のため息が溢れてしまう。


 流石、転移塔というだけあって、室内は巨大な円形のホールになっている。

 人がまばらなせいもあって、余計大きく見える。

 勿論、中心には複雑な文字配列と幾何学模様、それから計算された魔鉱石の配置によって描き出された、巨大な魔方陣が据えられており、仄かに光を発している。


(……こんなに綺麗な魔方陣、一体誰が考えたんだろう……)


 まるで絵画のように美しい魔方陣に魅入っていたシアは、近付いてくる二つの人影に気付かなかった。


「──君、ちょっといいかな?」

「受付、済ませてないよね?」

「えっ?あ、あのっ……」


 突然、青色の公員服に身を包んだ男性二人に話しかけられ、慌てる……というか、後退るシア。


 ただでさえ小柄な……もとい子供丈な身長のシアには大人のしかも男性なんて、側に立たれただけで巨大な熊かと思える程に威圧感を感じてしまうというのに、高低差がありすぎて前のめりな体勢のせいで、熊がこれから獲物を仕留める図にしか思えなくて、恐怖心が三倍増しになっている。


 アルドとシェダと少ししゃべれるようになったとはいえ、慣れたワケではない。


(あわわわわ……ど、どうしようどうしようっ!?)


「……取り合えず、ちょっと奥までお願いできるかな?」

「あっ……!」


 黙りなシアにしびれを切らしたのか、男性の一人がシアの手を掴む。


(──────っ!!)


 パニック寸前の頭で考え考え、このままでは控え室に連れていかれて色々問い質されてしまう──と、何とか正常な答えを導き出すも、どちらも結果的にあまり変わりはないような……と絶望的な思いにかられているシアの耳に。


「あ。いたいた!ほんとに先に行っちゃってたよ」


 聞き覚えのある声が届く。


「えっ…………」


 それに驚いた顔で、声のした方を見やる。


 すると光輝く魔方陣の中から、勢い良く金髪の少女が飛び出して来るのが見えた。


「シアリートっ!もぅ!離れちゃダメっていったじゃないのっ!!」

「えぇっ!?」


 そのまま、金髪の髪をなびかせ碧眼に涙を溜めて駆け寄ってきた少女──エレミアにがばっと抱き締められる。


 なにがなにやら、さっぱりわからない。


「まったく。エレミアは心配性なんだから」


 その光景を苦笑しつつ見やりながらカラミスが告げ、


「あの子がそうなのかい?」


 カラミスの隣に立っている、こちらも公員服を身に付けた老齢な男性が訊ねる。


「あ、はい。あれが探してた『妹』の、シアリートです」


 にっこり告げるカラミスの言葉に、目が点になるシア。


(…………は?え?──い、『妹』…………?)


 誰が?と小首を傾げそうになるシアの耳に、妹との再会を喜ぶ姉、のフリをしているエレミアがひそっと囁く。


「……話を合わせておいた方がいいですわよ?──連行されそうになっていたのでしょう?」


(うっ………)


 くすり、ほくそ笑むエレミアにイヤなものを感じつつも、ここは便乗した方が楽そうだと結論付け、


「……っ、……ふえぇっ……お、お姉ちゃああぁんっ!!」


 はぐれた妹、のフリをするシア。


「これからは、一人で先に行っちゃダメなんだからね。わかった?」

「──っ、ごめんなさいぃ〜〜!」


「……………(くす)」


 盛り上がっている二人に苦笑し、傍らに困り顔で佇む公員の男性二人に歩み寄って、


「──すみません。もしかして、妹がなにか、ご迷惑をおかけしたのでしょうか?」


 丁寧な口調で、さも申し訳なさそうに上目使いで告げるカラミス。


「あ、いや──。ただ、突然この場所に現れたように見えたので……」

「……どうやら我々の勘違いだったようだ、すまなかったね」


 それに口々に苦笑して男性達は呟くと、そそくさと出入口に戻っていった。


「……ふぅ」


 彼らが完全にいなくなったのを確認してから、息を吐き出すカラミス。


 くるり、まだ演技を続けているエレミアとシアに歩み寄り、にっこりと告げる。


「もういいよ。ありがとう、エレミア。悪かったね、こんなことに付き合わせて」


「これくらい、お安いご用ですわ。楽しかったですし。また機会があったらいつでも言ってくださいな」


 カラミスのその言葉に、シアから身体を離しながら答え微笑むエレミア。


「……………………」


 そんな二人をじっとりした目で見やりながら、すすす…と距離を取るシア。しかしすぐさま声がかけられる。


「シアリート?」

「っ!」


 ヒヤリと、冷気を帯びた低い声――……


 声の主は勿論カラミスだ。


(……なんでまだ怒ってるの〜〜っ!?)


 その声にびくっと身体を震わせ、側にいた老齢な男性の後ろにぱっと隠れる。


「……まだ、怒ってるの……?……っ、お兄、ちゃん……?……ごめんなさい、したよ……?」


 こそり、伺うようにしてカラミスを見やりながら、勝手に作られた設定をフル活用する。


 許してもらえないことに不満と、ちょっとした不安を織り混ぜて、心細い思いをしている『妹』を。


 カラミスのことだ、折角設定した関係を、こんな人目のつく所で台無しにしたりはしないだろう。


 二人の男性は去ったが、ここに来るために同行してもらったのであろう老齢な男性の方が、まだ残っているのだから。


「………………っ」


 それでも、何かしらの文句は言ってくるだろうと覚悟していたシアだったが、何やらカラミスの様子がおかしいことに気付く。いつもならすぐさま浴びせられるお小言が、一向に来ないのだ。


「……おにい、ちゃん?」

「っっ!」


 こそり、影から伺い見ていたシアは、見た。

 カラミスがよろりと、よろめいたのを。


(……?なんか、変だよねカラミス)


 しかし、何故そんな反応をするのかなんてシアにわかるわけもなく。


「…………?」


 小首を傾げるシアなのだった。





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