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落ちこぼれ少女の災難12


「……いい加減、学習したらどうなんですか」


 例によって例のごとく、シェダの邸の一室で。


 やれやれと肩を竦め、ため息混じりに告げるシェダの眼前には、


 頬を腫らして不貞腐れているアルドと、赤面したままの顔を俯かせて黙秘を続けるシア


 の2人が、テーブルを挟んだ対面のソファーに並んで鎮座していた。


「〜〜〜っっ!言っとくけどなぁシェダ!俺は!寝てるこいつを!ただ、起こしてやっただけなんだからなっ!?」


 シェダのあまりの言い草に、被害者はこっちだと言わんばかりに腫れている頬を指差してアルドが喚き、


「だっ、だからって!あ、あんなっ……あんな起こし方、しなくたっていいじゃないっ!」


 スカートの裾を握り締め、俯いたままシアが声を上げる。

 その表情は見えなかったが、余程恥ずかしかったのだろう、耳まで真っ赤に染まっていた。


「何時までたっても起きねぇお前が悪いんだろが」


「なっ!〜〜っっ、じ、自分が人のこと、勝手に抱き寄せたくせに〜〜!それに、相手が私だったからよかったものの、私じゃなかったら通報されててもおかしくないんだからねっ!」


「あぁ〜?言うね、お前も。それならお前こそ、そんな相手の隣でぐーすか寝てんじゃねぇよ。襲われても文句言えねぇぞ?」


「っ!ぐーすかなんて寝てないもんっ!」


「……………(やれやれ)」


 またしても言い合いを始めてしまったアルドとシアを見やり、肩を竦めるシェダ。


 ふぅと息を吐き、にっこりと告げる。


「その辺にしといてくださいね、アルド、シア。時間は有限なんですから。これ以上無駄に出来ません」


「………。わーったよ」


「っ!……ご、ごめんなさい……」


 それに渋々アルドが告げ、シェダの笑顔に不穏なものを感じたのか、びくっとしつつ慌ててシアが謝る。


 暫しの沈黙が訪れた後、いたたまれなくなったのかシアがおずおずと訊ねる。


「……それで、あの……なんで私、また連行されたのかなぁ?それに、2人ともこんな時間から私と会ってて、大丈夫なの?お仕事とか……」


 小首を傾げて訊ねるシアに、


「それを言うならお前だって、学校あるだろ?それなのに今日は、やけにあっさりついてきたじゃねぇか。昨日の今日だってのに」


 シアを指差し、アルドが告げる。


「……アルド、人を指差すのはやめなさい。それに、また何も言わずに連れてきたんですか……」


 それにため息を付きながらシェダが告げ、


「……私達は、そういつも忙しくしてる訳じゃないんですよ。見ての通り、近年の世界は国と国との戦争も殆どなく、昔ほど魔物が街や村を襲うなんてこともなく。少々の小競り合いはありますが、今までの事を思えば、概ね平和と言えますよね?」


 苦笑して、続ける。


「──ですから、『大魔導師』と『その幹部』が出向く程のことは起こらないので、こんな時間から貴女と会っていたとしても、怒られることはないわけです」


「……はぁ……」


 にっこり告げるシェダに、微妙な顔で返事を返すシア。


「それで、今日貴女を呼んだのは、昨日の試験結果の報告と、その時の色々なことを解消しとこうかと思いましてね」


「!」


 試験結果の言葉に、どきりとする。


「も、もう結果が出たんですか!?」


 あまりに驚きすぎて、口調が敬語に戻ってしまう。


「戻ってんぞ、敬語」


 シアを指差していたままの指で、そのままそのふっくらした頬をつつきながらアルドが告げる。


「──アルド、横やり入れないでくださいよ」


 どうあってもシアを構いたいアルドにため息でシェダが告げる。


「いいですそんなのは!ほっときますから!──そ、それで結果はっ!?」


 それにずずぃっと身を乗り出してシアが続きを問う。アルドのことは宣言通り放っとくようだ。


 シアにしてみればそれは至極当然で、この試験結果の合否で、自身のこの先の行く末が決まってしまうかもしれないのだから。


「……まぁ、シアがそれでいいならいいんですが。──でもいいんですか?アルドも言ってましたが、学校ありますよね?言動から察するに登校途中だったのではないですか?」


 そんなシアに肩を竦めて答え、シェダも訊ねる。


「……うーと、えーっと……」


 その質問に視線を泳がせつつ頬を掻き、もごもごと答えるシア。


「……休暇中のことで、ちょっと色々あって……今日は自主学習ってことにしたから……。あ!でもそーゆーことにさせた本人が、その辺は上手くやってくれてると思うから、晩御飯までに帰れれば大丈夫だから!」


 苦笑しながら告げるシアの言葉を、(色々追求したいのは山々だが)取り合えず素直に受け取っておくシェダ。


「──そうですか。では、結果を発表しようと思いますが、その前に」


 にっこりしながらシェダが言葉を切ったと同時に、



 ぐうぅぅ〜……



 と、アルドの腹の虫がお昼を告げるかの如く鳴き出し。


「お昼にするとしましょうか」


 くすくす微笑む(わらう)シェダの提案に、


「──はい」


 シアも笑って、答えるのだった。




 ……*……*……*……




「……で、色々ってなんなんだよ?」


 蒸し鶏のチョコレートソースがけを豪快に口に放り込みつつ、訊ねてくるアルド。


「……それ、今訊くのっ!?も、もっと別の話でいいじゃないかなぁ?」

 それに焼き立てパンをちぎりながら、アルドから目線を外して答えるシア。


「──と言うことは、こんな席で話せるような、軽い出来事じゃなかったんですね?」


「えぇっ!?」


 そんなシアに焼き立てパンの甘い香りを楽しむ間もなく、シェダからの鋭い追撃が加えられる。


(〜〜〜っっ!まさか、シェダ様まで乗ってくるなんて──)


 てっきり止めてくれるかも、と思っていたシアはビックリして、まじまじとシェダを見つめてしまう。


 にっこり、張り付けられたその笑顔はそれこそ絵画のように美しく、絶壁のように、崩れることはないように思われた。


 そこから自分が、転げ落ちることはあったとしても。


「……そんなに、気にすることでもないと思うけどな……」


 ため息しつつポツリと呟くシアに、


「私達の……というかアルドの勝手で、こんなことになっているのですから、気になるのは当然ですよ。大いに関わってますし。今の段階では貴女はまだ、ただ付き合ってくれているだけ、ですからね」


 ナイフとフォークを置いて、苦笑し告げるシェダ。


 一応、心配してくれているようだ。


 それにちょっぴり心が温かくなったシアだったが、続けられた言葉に少なからず、ショックを受ける。


 そんなもの、受ける資格もないのに。


 本来ならそれこそ、自分が望んでいることなのに。


(……流されちゃ、いけない。この人達だってきっと──)


 ざわついた心を落ち着け、ひとつ息を吐いてから、シアはなんてことないように告げる。


「……ちょっと、幼馴染みに不審がられたってだけだよ。隠してることは……いけない事かもしれないけど、言えるワケないし。なんでも言い合えるような、仲でもないし。──ただ、それだけ」


 言ってちぎったパンを口に放り込み、静かに食事を再開する。


「──ふぅん?そんだけじゃないのがありありな気もするが、まぁいい。つまり、真っ当な理由がありゃいいんだろ?」


 厚切りステーキのひと切れをむっしゃむしゃとしつつ、クルクルとフォークを回してあっけらかんとアルドが告げ、


「まぁ、そうですよね。追々、ホントの事を言わなければならないでしょうが、いつまでも隠し通せるとは思えませんし。それだとシアが大変ですしね。最もらしい理由のひとつふたつ、でっち上げますか」


 にっこりとして、形の良い顎を絡めた手の上にのせ、続けるシェダ。


「………………………」


 それをただただ、ぽかんとした顔で見つめるシア。


(……しんみりするどころの話じゃないっ!なんか知らないけど、2人して悪巧み始めちゃったよっ!?)


 食事が不味くなるからこんな話はしたくなかったのに、不味くなるどころか、それすら最良のスパイスとでも言うように、悪巧みを始めるアルドとシェダ。


 当事者であるシアを放って、あーだこーだと言い合っている。


 シアなんてもう、置いてけぼりなのもいいところだ。


「…………………ふふっ」


 それがなんだか可笑しくて、笑みが溢れる。


 さっきまで悩んでた自分が、バカみたいに思えてくる。


「何笑ってんだよ?それよりお前、どれがいい?」


 笑うシアに一瞬小首を傾げたアルドだが、直ぐ様人の悪いにやりとした笑みを浮かべ、訊ねる。


「見初められた説」


「人助け説」


「借金返済説」


「修行説」


 まだまだ案は上げられていたが、そのどれもが可笑しくて。


「あははははっ!もぅ、なんなのよそれ〜」


 ついに声を上げて笑い出す。


「なんで笑うんだよ?俺は真剣にだなぁ」


「あはははっ!……も、やだぁ。こ、こんなこと真剣にって……」


 突然笑い出したシアに訝しげに首を傾げて告げるアルドだが、それさえ面白いのか目元に涙を溜め、腹を抱えて笑うシア。


 先程までの悩みは、今やきれいさっぱりなくなって、シアの心はいつの間にか、温かいもので満たされていた。


 そんなシアにつられて、アルドとシェダもふわりと微笑み。


 柔らかな心地好い空気が、周囲を満たし、流れる。


 今まで感じたことの無いような、柔らかな心地好い空気を、シアは静かにその胸に抱くのだった。






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