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プロローグ


(はぁ〜〜まぁた、最下位、かぁ)


 美しい赤レンガ造りの小路を歩きながら、深々とため息を付く少女がひとり。


 彼女の名前はシアリート・ウィリス・テルテ。つい先程、17歳の誕生日を迎えたばかり。


 だが、誕生日を迎えたことを喜ぶ前に、逃れ難い現実を突き付けられてしまったシアリート──シアは、肩を落とし、盛大にため息を付くしかなくなった。


(……別に、誕生日を心待ちにしていたわけじゃないけど……。祝ってくれる人もいないし。でも、それにしたってこの誕生日プレゼントは、ないよね……)


 またひとつ、大きなため息。


(……まぁ、もぅ恒例といえば恒例なんだけど……)


 胸中で文句を言いつつ、握り締めた左手を見やる。


 手の中には、くしゃくしゃになった紙切れが1枚握られている。


「………………」


 忌々しそうにその紙切れを見やり、勇気を出してもう一度中を確認しようと力を緩めた途端。


「あぁっ!?」


 びゅう、と悪戯な風が吹き、紙切れを空高く舞い上げてしまう。


「ま、待って──」


 慌てて追いかけようとしたが、


「うわっ!?」

「きゃ……!」


 手前の角を曲がって来た人物に気付くのが遅れ、ぶつかって一緒に尻餅をつく。


(あ、あれ……?痛くない……)


 確かに、ぶつかって突き飛ばされたはずだ、と不思議に思っておそるおそる瞼を開けると、


「いてて……。おい、大丈夫かチビっ子。余所見してるとあぶな──おわぷ!?」


 頭上から男の声が聞こえ、妙な声を発して止まる。


「…………?」


 シアが怪訝に思いながら顔を上げると、


「なんだこりゃ!?──て、こりゃまた、随分個性的な……」


 紙切れの内側を、しげしげと眺める男の顔があった。


「っ!?」


 それが飛ばされた自分のものだと悟ると、取り返そうとシアが手を伸ばすが、


「ん?なに、コレお前のなの?」


 などと言いながら、男は軽く手を上げ、紙切れを更に高いところに持っていってしまう。


「な………!」


 それでも諦めず手を伸ばすシアだが、先程の事があり、がっちりと抱き止められたままなのでそれ以上手を伸ばすことが出来ない。


「返してください!それはっ」


 とうとう我慢出来なくなってシアが声を上げるが、


「それは?」


 紙切れを持った手を上げたまま、シアの身体も抱き止めたまま、面白いものでも見るような顔で男が続きを問うてくる。


(っっ!な、なんなのこの人〜〜〜っっ!!)


 胸中で怒りをあらわにするが、怒った所で返してくれなさそうなのはありありとわかるので、ふぅと息を吐き、仕方なく正直に答える方を選ぶ。


「……そ、れは……、それは、私の…………成績表、ですっ、だから」


 返してください──と続けようとしたシアだったが、


「ア〜ル〜ド〜?よっくも撒いてくれましたねぇ?それだけじゃなく、白昼堂々公共の面前でナンパですか。──当然、覚悟は出来ているんでしょうね?」

「…………っ!?」


 背後からの冷やかな声音にビクリとその身を震わせ、口ごもる。


「おーシェダ。もう来たか。随分早かったな」


 が、どうやら事の当事者であろうアルドと呼ばれたこの男は、平気な顔でそう告げ、


「早かったな、じゃないでしょうっ!!どれだけ私が心配したと──」

「決めたぜ」


 怒りを隠すことなくぶつける相手(どうやらシェダというらしい)に、臆することなく言葉を続ける。


「は?決めたって、一体なにを……」


 怒りを引っ込め、怪訝そうに聞き返す男、シェダに、にやりとした顔で告げるアルド。


「だから、こいつにしたんだって」


 それと同時に肩を掴まれ、くるりと後ろを振り向かされるシア。


「は?え?え?」


 いきなり引き合いに出されて、わけがわからないって顔のシア。


「き、決めたって……まさか……」

 ひくり、頬を引きつらせるシェダに、さらりとアルドが告げる。



「そ。こいつ、今日から俺の影武者ね」



 まるで、ちょっと街にでも行ってくる、くらいの気軽さで。




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