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『魔王と勇者』のその前は……  作者: 白樺 小人
勇者と旅の裏側
9/12

価値が高いと危険も高い

短いながらも投稿します。

アマルさんとの会話に出てきた神器をゲットした時の話。





 ようやく……ようやくお宝を目にできるところまで来た。


 長かった。




 それが仲間達の胸の内にまず沸きあがった感情だった。

 互いの顔を見合わせ、薄っすらと涙混じりに言葉無く肩を抱き合う。


 もう言葉は必要ない。


 目の前には厳粛な雰囲気を持つ祭壇。

 そしてすぐ手が届きそうな場所には豪奢な宝箱が。

 噂によると特別な宝物が収められているという話だった。

 何でも神器の一つが収められている、という噂まであった。

 その噂の信憑性を高めるかのように設置されていた罠もこれまた凶悪で、何人もの冒険者や探索者などが敗北を喫したというのはもう有名な話だった。

 噂だけは旅の最中で聞いてはいたのだが、場所が目的地とは真逆だったために放置していたのである。

 平穏が戻り、暇を持て余していた時にふとこの洞窟の事を思い出したのが今回の発端だった。

 仲間達4人でこの洞窟に挑んだのは、ただの興味本位。

 だが入った瞬間、気楽な考えは即座に撤回する羽目に陥ったのである。

 この最奥に至るまでには、汗と涙と流血沙汰に究極の罠の数々やそれに付随する出来事があった。

 特に、ここに至るまでに設置されていたトラップの数々は、どう考えてもこの最奥に到達させないことにこそ重きを置かれていた。

 最初であれば簡単な落とし穴からスイッチ仕掛けなどといったありふれたものだったのが、次第にトラップ(嫌がらせ)はエスカレートしてゆき、足元に落とし穴があるのに気を取られている隙に頭上から何かが降って落ちてきたり、スイッチが反応しないと思ったら強制猛ダッシュ障害物競走になったり、二重三重にも及ぶトラップに心休まる瞬間が来るのかと本気で心配したりと色々あったのである。

 あまりのトラップの酷さに道の半ばで挫折しそうになったが、ここまで来て帰れるかという半ば意地でようやく終着点である最奥に辿り着いたのだ。

 数々の涙と血の滲むような苦労を越え、ようやく目的の物である宝箱に至ったのだから感激も一入である。

 仲間達もこれまでの数々の試練の中でボロボロの姿となっていたが、何とか無事に最奥に辿り着いた感動でむせび泣く者もいた。


 そして、期待に胸を膨らませつつ宝箱を開けた。



 カパッ







 パタン



「…………なあ」

「…………なんだ?」

 一度は開いたはずの宝箱を、中身を見た瞬間再び閉じ顔を見合わせた。

「幻、かな?」

「見間違いかもしれないじゃないか」

 きっとそうだよな、と乾いた笑い声を上げ再び宝箱に手をかける。



 カパッ



 再び宝箱の中身とご対面し、何度も瞬きを繰り返しても、中に入っているものは何も変化を見せることは無かった。

「……これ」

「…………ああ」

 信じられない思いのままに宝箱に手を伸ばし、中身を取り出し改めて眺め、ポツリともらした。


「木杓子、だよな」


「どこからどう見ても……そう、だよな」

 手に取ってみても、返し見ても、その形状になんら変化なく、


 状況・唖然呆然、心境・複雑怪奇、現状・微妙、物・奇天烈。


 怒るべきか、泣くべきか、はたまた別の感情を爆発させるべきか。

 怒るにしても何に八つ当たればいいのか、泣くのもなんだか悔しい。







 少しの休憩の後、帰途につく事になった。

 目的の物を獲得できたにもかかわらず、帰りに向けた足取りは軽快とは言いがたかった。

 それもそのはず、神器といわれた品のはずなのに物がアレなのである。

 喜びよりもなによりも、もう脱力感と共に惰性で足を動かしているような状態だった。

 そんな最中。


 ギャオオオォォォ


 魔獣の群れが襲いかかってきたのである。

 満身創痍な上に精神的疲労が極限状態の戦闘に、だが男達は剣を振るう。

 皆の心の中にあるのはただ一つ。


 こんなアホな物をゲットして死ねるか!!


 だが疲労は確実に仲間達の中に積もっており、必死に剣を振るってもいささか精彩にかけるものがあった。

 そのため、次第に魔物に追い詰められていったのである。

 劣勢に追い込まれた状況と、とやけくそ半分。

「こなくそおおぉぉぉ!!!」

 勢いよく手に持っていた杓子を振り下ろした瞬間、ジリジリと追い詰めていたはずの魔物の頭上から無数の槍が降り刺し貫いたのである。

 目の前に広がる光景に誰もが言葉を失い立ち尽くす。

 なにより振り下ろした当人が一番呆然としていた。

 絶命した敵に警戒を解こうとした瞬間、追い討ちをかけるかのように金ダライが落ちて止めを刺していた。

 この場に似つかわしくない“くわ~ん”という音が何とも情けなさに拍車をかけていた。

 それだけで済めばよかったのだが、どういう訳かついでとばかりに、仲間の上にも金ダライは降っていた。


「ぶへっ」

「ふごぅ」

「がふっ」


 突然のことに、直撃を受けた仲間達は力無く地に倒れこんだ。



 …………。


 ………………。



 痛々しい沈黙がしばらく続いた後。

「おい」

「なんだ?」


「…………泣いていいか?」


「…………好きなだけ泣け」



 問いかけの言葉がすでに涙声だったのは、無視するのが武士の情けだろう。




 帰還した後、彼らはこの神器の入手に関しての話を決して口にしなかったが、彼らの中に深く刻まれた思い出の一つとなったのは蛇足である。




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