とある日の息子達
以前UPしていたのを改訂して投稿です。
久方ぶりに兄弟達が集ったのもあってか、昔話に花が咲いた。
「いやー、ベランドルウォズの一件もびっくりしたけど、バグズーの群れに追いかけられたって話しもびっくりしたよな。それを笑って話しているし」
「ああ。それを聞いた母さんにガッツリ怒られてたんだよな。そんなところは子供を連れていくところじゃない、って。俺達の事を想ってくれているその言葉にちょっと感動してたら、もうちょっと大きくなってから連れて行きなさい、っていってたのにはさすがに父さんの相手をしていただけはあるなと思ったよ」
その会話を聞きながら兄弟の何人かは怒るところそれ?と疑問を抱いたが、誰も突っ込みはしなかった。
話の対象は、かつて勇者と共に旅をした一行の事だ。話を聞いていた弟達はただ、憧れがガラガラと音を立てて崩れていく音を聞くだけだった。
「それにしても色々と連れて行ってくれたのはいいんだが、それが原因で私はトラウマが出来てね。その後、巨大魔物を見た時に恐怖で体が固まるんだよ。だから私は冒険者にはならなかったんだ」
「ああ、それ分かるわ。うっかりすると、あれ、かなりひどいトラウマになるからな」
うんうん、と頷き合う二人。
「父さん基準に考えたら、そこら辺の人間も簡単に思えるよ。だから私は城勤め希望したんだけどね」
「あ、そうだったんだ。私は別段トラウマになる事も無かったんだけど、こっちは給料がよさそうだったから選んだんだ」
「へー。そうだったんだ。俺は、魔物の一件は別段そんな事は無かったがな」
感心したような弟の言葉に、兄はあきれたように言った。
「あのなぁ。一番の元凶が他人事のように言ってどうする」
「へ?」
「ベランドルウォズを見て一番喜んでいたのはお前だぞ」
今明かされる驚愕の事実。
「き、記憶に無いぞ!?」
本人が一番驚いていた。
「ああ、そうか。確かに結構幼い頃だったからな」
「そんな危険な生き物のいる場所に、幼い弟を連れて行くなんてなに考えてるんですか!って怒ったら、そしたら危険じゃないって事を証明してやるよ、って一緒に連れてかれたんだよな。弟の一大事って事で、何とか付いて行ったんだけど……」
「そうそう。お前、手を叩いてはしゃいでいたよな。『べーどーうぉーずーー!!』って。あれを見て、こいつ大物になるな、と思ったものだ」
「ああ。それは私も思った。けどそれが原因で以下弟達の教育内容に『世界の魔獣見物ツアー ~ついでに討伐もしてみよう~』(兄命名)が組み込まれたんだよな」
(爆笑)
次々と明かされる事実に、彼は愕然とした表情でいたが最終的に、
「も、もう時効だ。そんな記憶に無い事まで掘り返さないでぇぇぇ」
そう叫びながら、耳をふさいでしゃがみこんだ。
しばらくそうやって兄達は弟を弄って楽しんでいたが、しばらくするとひとまず収拾がついた。
端で頭を抱えてブツブツ呟く弟の一人を除いて。
とりあえず話題がひとまず収束したので、新しい話題を振った。
「そういや、山消滅事件っていいやもう一つあったよね。確か……何だっけ?」
その言葉に、後ろでやり取りを控えめに見ていた弟の一人が思い出すように言った。
「マルカ連山……いや、今では双子山って言われてたっけ?」
「おいおい。親父、まだそんなこともやってたのか?」
何も知らない弟達は呆れた表情を浮かべたが、それを庇うかのように一人が事情を語り始めた。
「いや。問題を起こしたのはまったく別の人物だよ。で、そいつが異界から強大な力を持った生物を呼び寄せてしまったんだ。それを解決するために父さんが出張って、そいつを山ごと消滅させたんだと。出てきたばかりだったから簡単だった、って言ってたな」
「あ。その話、俺は知らねぇ。へー、そんな話だったんだ」
何も知らない下の兄弟達が楽しそうに会話している後方で、当時を知る上の3兄弟がその事について小声で会話をしていた。
「え?あれってそんな話だった?」
「確か剣ってあの最後の戦いに使った、とか言っていた剣の事だよな」
「たぶんそうだろう。けどあの剣って母さんが『とあるバカがバカな勝負を仕掛けて、馬鹿馬鹿しい勝負の結果に出来た剣なのよね』、ってあきれたように言っていたのを聞いた事があるぞ」
「あ、それ聞いた事がある。『あっちのバカは単純大バカ者だったけど、こっちのバカはただのバカと思っていたら、果てしなく救いようの無いバカだったわ』って」
「え?そっちそんなこと言ってたの?」
「ん?そっちは違うのか?」
「確か『変なところで凝り性を発揮する変なヤツとは思っていたけど、何だってあそこまで極めたのかしら。どっかねじが取れてたとしか思えないわ』……だったかな」
「言っている内容、あまり変わらないと思うぞ、それ」
どちらにしてもとにかく、バカと言っているも同然だった。
「それにしてもあの剣、父さんも作った後愛着が沸いたんだろうって言ってたな」
「ああ。だから空いた時間を使って色々改造してた、って聞いた事がある」
聞いた言葉に、揃って呆れた表情を浮かべた。
「それにしても魔王を倒すほどの剣を作るなんて、何処まで規格外で行く気なんだろう……」
その言葉に三人揃ってハ~、と深いため息を吐いた。
「そうだよな。神の祝福受けてたにしても、何処まで普通に人外魔境を突き進むんだろう」
「それに呪われたせいで外見年齢止まってるし」
「あ、それ父さんの前で言わないでくれよ。あれ、うるさいんだよ」
兄弟の共通禁止事項1。年とらない話は禁句。
「当然だろ。あれで人生設計狂った~~!!ってよく叫んでたんだからな」
「それにそれが原因で斜め方向に暴走してたし」
「ああ。何があったのかほとんど知らないけれど、知らない方が幸せなんだよな」
兄弟の共通禁止事項2。父親の所業に関して突っ込みは無用。
「それにしてもあの山の事件って俺が聞いたところでは、自分の作った剣の効果が分からなかったからいい機会だとばかりに試しに全力で振るったら、結果何故か山が消えたって聞いたぞ」
「ああ。確か魔王を倒した後、剣が予測もつかない程パワーアップしたせいで使いどころが見つからなかった、ってぼやいていたのを聞いた事が……。あの一件で泣きつかれたとき、嬉々として出かけて行ったのを今でも覚えてるよ」
「え?そのとき初めて全力で振るったのか?何時だったか、その前になんか試しに使ってみたら軽く死に掛けた、とか言っていたのを聞いた事があるよ」
…………。
「なあ」
「何だ?」
「あの後、あの剣をどうしたか知ってるか?」
しばしの沈黙の後に聞かれた言葉に、兄弟揃って頭を捻った。
………………。
三人とも昔の記憶をたどってみたが、やはり記憶に無かったため首を横に振る。
「いや、知らねぇ」
「そういや、気付いたら持ってなかったな」
「家の何処にも置いて無かったよな」
……………………。
先ほどよりも長い沈黙の後、どこか引きつった表情で顔を見合わせ言った。
「「「あの危険物、何処に捨ててきたんだろう……」」」
一方。
つい最近、この家族会議に参加した弟達は……。
「オレ……、今度常識って言葉、辞書で引いてみるよ」
「おれもそうするわ」
そう言って肩を寄せ合いながら、皆から少しはなれた後方で兄達の賑やかなやり取りを眺めつつしみじみとそんな言葉を呟いていたそうだ。