弟達から見た、長兄と
今回は弟達から見た長兄について?の話。
盗人さんの名前変更。本名不詳にしました。
最終改訂4/12
「そういやこの間、兄さんに息子が生まれたんだって」
今回の家族会議はそんな一言から始まった。
「へー。そういやそろそろだって聞いた事があったな」
「それじゃ今度、何かを持って祝いに行こうか」
「それにしてもめでたいな。甥っ子か。かわいいんだろうな」
そんな風に和やかな会話をしていたとき、一人が唐突にある事に気付いた。
「なあ。今気付いたんだが、あの親父……これで孫が出来たって事じゃね?」
…………!!
「か、考えて見ればそういう事になるな」
一同、自分の兄と言っても納得出来るほどの若さを保ったままの父親を思い浮かべた。
「あの外見で……孫」
「どう考えても詐欺としか……」
そんな会話をしていると、いつの間にか長兄の屋敷について話しが進んでいた。
「そう言えば一番上の兄貴って有名な屋敷に住んでるんだってな」
「そうそう。あの屋敷近隣でも有名で、確か石屋敷って呼ばれていたかな」
「それ、聞いた事がある。たしか家の周りを取り囲むかのように大小さまざまな石が設置されているとか」
「それにしても変わった趣味だよな」
「え?あれって趣味なの?」
「知らなかったのか?兄さんの趣味、石集めなんだよ」
どうやらそのことを知らなかったのが何人か居たらしい。へー、と感心したような微妙な表情で相槌を打っていた。
「それにしても、あの家だったら盗みに入られる心配は無いよな」
その一言に皆が注視する。
「何でだ?」
「ただの石だろ。わざわざそんなものを盗みに入るやつなんて……」
そう言いかけたとき一人が、
「そうでもないぞ。あの屋敷に挑むやつらは結構いるぞ」
その言葉に、一斉に発言した方を振り返った。
「え?」
「でも一切心配は要らないんだ。あの屋敷は恐ろしいほどまでのセキュリティがあるからな」
「え!?本気であの石屋敷に盗みに入るヤツなんて居るのか!?」
「お前、何も知らないんだな」
どこか呆れを含んだような言い方に、逆に疑問を覚える。
「何を?」
「あのな。誤解しているみたいだが、あの屋敷の中にあるのはほとんど宝の山だぞ」
「は?」
「ただの石だろ?そんなものを盗みに入る物好きなんて居ないだろ?」
その台詞に、彼も詳しく説明する必要がある事に気付いた。
「ああ、そうか。石って説明されたら、まずそこいらに転がっている石を想像するわな。違う違う。石全般が種類様々収拾されてんだよ、あの屋敷には」
さっぱり意味が理解できず首を傾げる一同。
「はっきり言えば価値あるものから価値の理解出来ないものまで色々さ。最大級の見所というか最上級の品はやっぱりあれだな。魔石柱」
!?
「ま、魔石!?そんなものがあるのか、あの屋敷!!」
「柱ってどういう事なんだよ。いや待て。裏をかいて柱の形をしたミニマムサイズと言うんだな」
そう言って片手でこのぐらいか、と形を作る。
「いや。俺の身長の軽く2倍ぐらいのでかさだ」
その言葉に、驚愕のあまり固まる。
「市場に出回っている魔石の最大サイズなんて、こぶし大がせいぜいだぞ。それに、そんな巨大な物が存在していたなんて今まで聞いた事が無いぞ!!」
「おいおい、冗談にしたって笑えないぞ」
「誰だって最初はそう言うよな。俺だって最初は笑い飛ばしたぞ。冗談だと思って聞いていたんだ。……実物見るまでは」
しみじみ語られる言葉に、一同しばし沈黙。そして彼の顔をじっと見て冗談では無い事を悟った。
「「「マジなのか!?」」」
目を丸くして聞き返す。
「おいおい。そんな天然記念物並みの代物、一体何処で見つけてきたんだよ」
「確かにそう思うよな。俺も実際見ているものが信じられなくてな。それで俺は聞いたんだ。それを何処で見つけたのか、と」
その後をゴクリ、と生唾を飲み込み待った。
「そしたら兄さんは遠い遠い目をして、しみじみとたった一言。……『拾った』と」
「はあぁぁぁ??」
「いや、ちょっと待て。どう考えたってそんなもの拾えんだろ。柱だぞ。聞くからにどう考えても巨大だぞ。そんなものをそこら辺の道端で拾ってきました、みたいな説明で納得出来るはずが無いだろ」
「そう思うよな。俺もそう思った。そんな事を考えているのが分かっていたのか、その言葉には続きがあってな」
え、という皆の言葉を聞きながら続けた。
「その一件にはどうやら親父も同行していたらしい」
…………。
「皆までいうな。なんとなく分かった」
そう言って一同は頷いた。
そう。父親が関わっているのならなんらおかしくないだろう。遠い目をした理由も。
皆はこう考えた。
おそらく奇跡的な偶然と悪夢的な偶然が重なって、その果てに見つけたものだと。
皆、大正解である。
「そんなものがあるなんてどんな屋敷なんだよ」
もう色々と驚くところがありすぎて疲れてきたようだ。
「一言で言いあらわすなら……」
と、どこか遠い目をしながら言葉を切った。そんな彼の様子に、どうも普通の返答が返ってきそうには無い事は予想できた。
「超絶ぶっ飛んだ極悪セキュリティーの完備された魅惑と恐怖の館だ」
最悪の予想は出来ていても、さすがに返ってきた内容に皆もどうコメントをすればいいのか困惑する。
「えと。どういう意味、なんだ?」
「その前に、兄さんの嫁さんが魔女だって事は知っているな」
「ああ。確か山奥で捕まえた、とか言っていたよな」
「え?俺は捕獲した、って聞いたぞ」
どちらもあまり聞こえは良くないが意味は一緒である。
「確か相当天然だ、と聞いた事があるな」
「そうそう。有望株の兄さん捕まえたってことで、未婚のお嬢様方が恐ろしい目でにらみつける場面があったとか聞いた事があったな」
「お。それ知ってる。でもその後確か、義姉さんの天然っぷりが大いに発揮されて、一部のお嬢様方の中に信奉者が出来たとか聞いた事があるぞ」
「なんか余計な情報まで混じっているが理解しているようだな。あとは、兄さんが魔術の腕が立つことも理解出来ているな」
「それはもちろんさ」
皆一様に力強く頷いた。一部の者は半ば涙目だったが。
「もう一つ知っておかなければならないのが、兄さんの屋敷に勤めるとある人物だ」
「どんな人なんだ?」
「セバスチャン(仮)という人だ」
その名前を聞いた瞬間、兄弟達の間に微妙な空気が流れた。
「セバスチャン(仮)って……」
なんとも言えない名前である。
「まあ、その名前については色々と思うことがあるだろうが、人をおちょくるための偽名だそうだから、それでいいらしいんだ」
あっさり言われた言葉に一同なんとも言えない顔で思った。
おちょくるためって……。それに堂々と偽名って……。
色々とツッコミどころが満載の予感はしたが、続きに耳を傾けた。
「そうだな。始まりは彼の前職は盗賊だった、というところからかな。それも凄腕の」
話の内容はこうだった。
裏の世界では、兄の屋敷に眠る宝の山の噂は有名な話なのだそうだ。『魅惑の』という部分はこれに起因するのだろう。簡単に聞いた話の内容だけでも、非常に貴重な品々が飾られているのだろうから。
そしてもう一つ。
この屋敷にある厳重なセキュリティに関してだ。
というのも、この屋敷のセキュリティを基に現在の王城の魔術が組まれているらしいのだ。そんなものを一個人が持っている事もすごいのだが、それを作り出した兄自身が恐ろしいまでの実力を秘めているといえた。
逆に考えれば、この屋敷を攻略することが可能ならば、城に侵入することも容易い。そして今まで誰一人、この屋敷を攻略した者が存在しないのだ。
それほどまでに厳重で強固な防犯対策の成された屋敷だが、それを挑戦と取り挑む者達が絶えずいたというのだ。
どれだけの物好きだよ、と思わず突っ込みそうになったのが何名かいたが、あえて口を開くことなく話の続きに耳を傾けた。
今ではこの屋敷を攻略することが、裏の社会では一種のステータスになっているのだそうだ。
そうして幾人もの人間がこの屋敷に挑み、敗れて行った。そんな中、ある一人の人物が立ち上がった。それがかの有名な通称レクレスと呼ばれる人物である。
彼が有名なのには理由があった。
数多くの屋敷が彼の手によって盗まれていたからだ。それもほとんどが不可能に近いとされる堅固なセキュリティに守られた屋敷ばかりを狙って。
そして、そんな彼が次に選んだのが兄さんの屋敷だった。
「ちょっと待て。その名前は聞いた事があるぞ。難攻不落、鉄壁の防御と言われたものばかりを狙っていたって有名なやつじゃないのか?」
「そういや、最近名前をまったく聞かなくなったな、と思っていたが……」
「おいおい、マジかよ」
呆然としたような呟きに、誰一人として何も言わなかった。
それもそのはず。同じような事を考えていたからだ。
彼は後一歩の所まで辿り着いていたらしい。だが、やはり兄さんの方が一枚上手だったそうだ。
「さすがですね。ここまで防衛網をかいくぐるなんて、噂以上の実力です」
にこやかに笑い掛ける男に、レクレスは小さく「完敗だ」と答えた。
「ここまですごい物を見れただけでもう満足だ。さあ、俺を突き出すがいいさ」
これほどのものに挑んで敗北したのだ。レクレスにとっても満足のいく結果と言えた。
だが驚いた事に、レクレスの予想に反した返事が返ってきた。
「ああ。そのことですが、あなたを突き出す気はまったくありませんよ」
「なに!?」
「ところで一つ提案があるんですが、聞きます?」
笑顔で提案をしてくる男の態度に、戸惑いが隠せなかった。
「うちで執事として働きませんか」
「はあ?」
意味が理解出来ない。
「いやー。うちってセキュリティが完全すぎて色々と問題があったんだよね。そんなところへあなたが丁度良いタイミングで来てくれた。もうこれは神の思し召しってやつなんだろうな」
あまりにも軽い言葉に呆然としてしまう。
「いや、あの……どういう意味…………?」
「その腕を見込んで私の補佐をしてもらいたいんですよ」
盗みに入った人間を雇うなんて、普通の神経では無い。だが、彼は冗談を言っているようには見えなかった。
「本気で、言っているのか?」
「こんな冗談は誰にも言った事無いですよ。いやー、良かった良かった。これでもう少し凝った仕掛けが作れるぞ」
承諾した覚えは無いのに、いつの間にかこの家で仕事をすることが決定しているようだ。
彼はさらに喋り続けていたが、その内容に最初は唖然と、そして次には破顔した。
そして、これには完全敗北だ、と思いつつ言った。
「給料はしっかりと出るんだろうな」
「ええ。破格の待遇で雇わせてもらいますよ」
そうして男に差し出された手を、レクレスはしっかりと握り返した。
「と言うわけで、彼は兄さんの屋敷に雇われるに至ったという訳だ」
唖然呆然の体で皆沈黙。
「ど、何処までが作り話なんだ?というか捏造された話だよな」
一人が呆然としたまま、どうか嘘だと言ってくれ、と思いながら聞いた。
その問いに、
「いや。一片の捏造も入っていないぞ。むしろ控えめに話しているから話していない方が多いぐらいだぞ」
同情するような目で真面目に答えられた。
「で、だ。その後、二人して名前をどうしようと考えたんらしいんだが、本人としては本名は避けたいとか何とかで最終的にセバスチャン(仮)で良いだろう、という事で落ち着いたらしい」
「それで良いのか!?」
「俺にも理解出来んが、本人達がそれで納得しているみたいだからそれで良いんだろうさ」
「ええ、と」
何処からどう突っ込めばいいのか分からずうなる。
「それに兄さんが言ってたんだが、この程度で文句を言うようでは自分との付き合いは難しいだろ、ってさ」
「確かに」
その一言に、兄の人間関係を知っている皆が頷き合う。
兄の人間関係は、はっきり言って一癖も二癖もある良く言えば個性的な集まりだった。中には常識的な人間もいるにはいるのだが、色々文句を言いながらも付き合えているのだから、その人もどこか相通ずるものがあるのだろう。
「色々と突っ込みたい気分なんだが、それよりもそれがどう屋敷に関わっているんだ?」
「ここからが本題だ。お前達も昔の格言はいくつか知っているだろ」
「は?そりゃ当然だろ」
「昔の人は言った。『三人寄れば文殊の知恵』と」
「はあ?」
幾人かは理解できずに首を傾げていたが、その一言に察しのいい者は何かに気付いたようだ。顔を青ざめさせていた。
「兄さん、セバスチャン(仮)、義姉さん。この3人が頭をつき合わせて編み出したセキュリティだぞ。そんな実力派3人組みの考え出すものが普通で済むと思うか?」
その言葉に、気付いてなかったものもさすがに彼が何を言いたいのかようやく気付いた。
「そ、それは……」
「つまり……」
「そう。つまり三人揃えば無敵無双敵うもの無しの最強チームだ」
その言葉に、皆が顔を青ざめ沈黙。
「た、確かに、それは恐怖の館だ……」
一人が呆然と呟いた言葉が、部屋の中によく響き渡った。
そしてその日。
兄弟の会話は、微妙な沈黙で終わった。
―――――― ※ ――――――
―――数日後。
「俺、あの屋敷に行ってきたんだ」
その一言に挙手して「俺も行ってきた」と次々と返事をするものが。
どうやらあの話の後、事実が非常に気になったらしく、皆それぞれがあの屋敷に出向いたそうだ。
「おれ、兄さんだけは常識人だと思っていたけど……」
少し涙目で語っている。
結果は、無事にあの屋敷から出られたもの、そして興味本位で手を出し痛い目を見たもの様々である。
だが教訓として得たものは共通して、やはりあの父親の息子だ、と言うことだった。
「横に訓練場とか作っている時点で色々と間違えている気がする」
「あ、それ見たよ。子供も遊べる、って歌い文句の軽いものから上級者向けの恐ろしい物まで色々あったよな。ってか、入って見たんだが、上級者向けだけは止めておけよ。実力つけてからいかないと、命がいくつあっても足りないからな」
「あそこ屋敷の給料って破格に良いらしいんだってさ。だから仕事の希望者が多いって聞いたぞ」
「それにしても義姉さんが普通にはたきで石の埃を払っていたのには驚いたぞ」
石にはそれぞれ術が掛けられているので、さわった瞬間それが発動するのである。普通の人間では掃除は出来ない、と彼女が掃除をしているのだった。
「一抱えあるほどのアダマスなんて初めて見たよ」
「俺は巨大な宝石をはたきで掃除しているの見て微妙に悲しくなってきた」
「俺、盗賊たちの気持ち、少しだけ分かった気がするよ」
皆が長兄の屋敷での体験談を語り合っていたとき、一人がつい最近仕入れた情報を皆に知らせる。
「そういや、親父。また子供が生まれたって言っていたな」
「え?初耳だぞ、それ」
「おいおい。何人目だよ」
またある事に気付いたものがいた。
「…………おい」
「ん?何だ?」
「兄さんも、子供がこの間生まれたんだよな」
!!!
「ま、まさか」
「同い年の……甥、か」
「うわぁ……辛いわ、それ」
自分の立場でなくて良かった。
しみじみそんな事を考えながら、今回の兄弟会議は幕を閉じたのだった。
軽ーく書くつもりが、まさかの5千文字。
予定では次男三男の情報も入れておくはずだったのに……
追記。加筆したら6千字。
本編ですらそこまで書いた事無いのに……