頑張れ、息子達
息子達の悪巧み(?)なお話。
不発に終わってますが……
最終改訂12/18
「さて。第486回、家族会議を始めます」
その声に苦笑しながら応じるもの、そしておお、と威勢良く返事をするもの、反応は様々だったが声を発した人物はそんな事を気にした風も無く、話を続けた。
「さて、今回の議題は……」
「そんなもったいぶった言い方をせずとも、いつもと同じだろ。あのくそ親父をどう叩きのめすかだ」
その声にそうだそうだ、と同意する声。
息巻く年若い三人を、そばで見つめる一回り年代の違う三人は苦笑と共に見つめていた。
「何であそこまで父さんを敵視するんだろうね」
「気持ちは分からなくは無いが……」
「だがあの父親を敵に回そうなんて怖いもの知らずな……」
そんな年長三人組の呟きを、一人が聞きつけた。
「怖い物知らずってどういう意味だ?」
「あ、聞こえた?」
「あのなぁ。聞こえるように話してたとしか思えないんだが」
その言葉に、彼はそういえばそうだな、と笑った。
こんなところはあの親父そっくりだ、と思っていたがあえていわなかった。当人はその辺を自覚しながら行っている節があったからだ。
「で、どういう意味なんですか、兄さん」
「あー、と。その前に一応確認して置くが父さんがかつて魔王を討った勇者だった、って話は知っているよな」
その言葉に、三人が三人とも不満そうに「知っている」と答えた。
そもそもあの父親が気に入らない一番の原因は、その『勇者』という事だった。
かつて魔王を討った勇者。
それは強大な力を持ち、そして魔王を打ち倒したといわれる皆があこがれる存在。
現在では学校の教科書にもその勇士は称えられているのだが、その憧れの存在があの出鱈目な存在とは認めたくなかったからだ。そもそも名前も違う。ついでに言えば、某学校には勇者の肖像画なるものが飾られているのだが、その絵の人物ともまったく違うのだ。
おまけに、うっかり間違えると自分の兄弟と間違うほどの若さを保ったままのプチ詐欺に等しい存在だ。
ついでに言えば、彼の出鱈目教育のせいで彼らが世間一般に初めて出た時、世間と自分の一般常識の幅広い差にショックを受けた思い出も一役買っていた。
いや、基準オーバーな教育のおかげで現在色々と役に立っている部分はあるのだが、それは彼らの中では別問題なのである。
―――――― ※ ――――――
「で、ここからが本題だ。お前達は学校でしっかりと習ってきたと思うが、ジヴラ山の事を知っているか?」
何の関係も無いような話だったが、彼らは真面目に記憶を掘り起こす。
「ああ。確か景観がすばらしいといわれた山だったんだよな。今はキレイさっぱり無いけど」
「そう言えば突然その姿を消した、とかいわれてたよな。その後、平地になった場所に立派な街が出来たって。そういやその街の名産に、確かものすごく美味い酒があるって聞いた事があるな」
「あの山には貴重な薬草があったのにぃ~~!!って叫んでる研究者を見かけた事があったぞ。今は別流通で以前よりは安価に手にはいるから、そういった声は減ってきているって聞いた事があるな」
「よろしい。それだけの認識があれば十分だ」
その言葉に揃って首を傾げた。
「どういう意味なんだ?」
「あの山の消滅に関わっているのが父さんなんだ」
「「「は!?」」」
茫然自失とはこのことだろう。3人はその言葉を聞いて立ち尽くしてしまっていた。
「いやー、あの一件はもうすごい騒動だったな」
「母さんもあの一件は仕方の無い事とは思うけどやりすぎよ、って言っていたからな。相当激しいものだったんだろうね。私達は8歳ぐらいだったけ?」
「あ、自分は9歳になった頃だよ」
「私は10歳の誕生日を越えた頃だったね。あの記憶は鮮やか過ぎてなかなか忘れられないよ」
ほのぼの、といった感じで会話を交わす一回り年上の兄達の姿に、弟一同は口を挟めず、ただその内容に耳を傾けていた。
「詳しい話を聞いたわけじゃないからはっきりとは言えないんだけどね。でも一応話を聞いた限りだと、まあ、その……」
言いよどむ二人目の兄の言葉をさえぎるように、三番目の兄が言った。
「確かに言いにくいよな。あの山を消滅させたのが八つ当たりだなんてな」
「や、八つ当たり!?」
「八つ当たりで消滅させるなんて出来るのかよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
「ん?なんだい」
「あの山には貴重な薬草があったんだろ。それも丸ごと消滅させたって事なのかよ」
「ああ、それか」
「ははは……。それなぁ…………」
そう言ってどこか遠い目をする次兄とその下の兄。長兄の方を振り返ると、彼もまた視線が微妙に泳いでいた。
「え?まだ、何か……あるのか?」
「あ、あれはね。えーと…………。うん。これははっきり言っておいた方がいいだろう」
「いいのか?」
「兄弟に隠し事をするなんておかしいだろ」
そう言って振り返った長兄は満面の笑みだった。あまりのさわやか過ぎる笑顔に、彼のその真意を二人は悟る。絶対道連れのつもりだ。だが確かにこれほどまでに極悪な現実は共有するに限るだろう。
「という訳で、はっきり言おう」
その言葉の続きを待つ。
「……この家の裏の崖下に群生しているよ」
………………。
一同沈黙。
「冗談だよな、兄ちゃん」
「冗談だったらどれほど良かったか」
末っ子の言葉に、三男はしみじみ返す。
「裏ってあの時折謎の突風吹き荒れるあの裏か?」
「あの突風の結界を抜けた下に群生しているよ」
末っ子から2番目の言葉に、次男は軽ーく返した。
「群生ってどういう意味だ!?」
「あの薬草の束を10束作ってもまだ有り余るぐらい、かな」
4番目の弟の言葉に、長男は頭の中で計算しながら答えた。
………………。
下の弟三人組は呆然と、上の兄三人組はやっぱりな、と苦笑い。
話しの中の薬草が貴重と言われるのには訳があった。
群生している、と言われていたジヴラ山でさえ束なんてものを3つ作ったら限界、と言うほどの規模で群生していたと言われていたのである。さらに言えばあの山は危険なため、その付加価値は莫大なものとなっていた。だが危険を超えて取ってくる価値はあるものなのである。いくつか確保すればしばらく遊んで暮らせるだけの金が手に入るからだ。
「以前から非常に気になっていたんだが、あの親父の資金は……それから出てるのか?」
「あー、うん。それもある」
どこまでも歯切れの悪い言葉に、あの父親についてまだ何かある事は三人とも嫌でも気付いた。
「おい。俺、これ以上聞きたくないんだけど」
「今聞いておかないと後々まで後悔する気がする」
半ば泣きの入った末っ子二人の言葉を無視し、四男は勇気を振り絞って聞いた。
「あの親父の事で、まだ聞いておかなきゃいけないことは……何だ」
「……本当にそれを聞く覚悟はあるのか?」
長兄の真剣な表情に三人は顔を見合わせ、うなずいた。
「聞かせてくれ」
その言葉に、上の三人はやれやれ、といった感じで視線を合わせた。
なんだかんだと言っていても、やはり彼らも父さんの息子だな。覚悟を決めた表情がそっくりだよ。
そんなことを考えながら、口を開いた。
「とりあえず、絶対口外しないことを約束してくれ」
その言葉に、戸惑いながらも頷く三人。
「じゃあ話すぞ。父さんは…………」
……………………。
話を一通り聞き終わった後、一つの教訓を得た兄弟達は家訓を一つ残した。
父親の所業は、後に続く弟達にはしばらく内緒にしておこう。
その真意は唯一つ。
自分達と同じ思いを抱いてもらうためだけに。
もっとはっきり言うならば、自分達だけそんな貧乏くじを引くのは嫌だった。
それだけの話である。
そうしてまた一つ、兄弟達の家訓は増えていったのだった。