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魔王の真実

放置していた話をとりあえず。





 ロディスは自らの考えでもって魔王軍に対立していた。


 今の王のやり方には同意できない。


 そう考えたからこその行動だった。

 最近になって同じような考えを持つ者達が増えてきたことに気付いていた。

 ロディスは目の前に立つメティアをじっと見つめる。

 彼女もまた、対立側の一人であるはずなのだが、何故かメティアは会うたびに幾度となく剣をこちらに向けてくる。

 だがそれはどこか試すようなもので、ロディスの腕を確かめているようにも感じられていた。


 幾度目かの対立。


 どれ程そうしていただろうか。

 しばらくすると、メティアは剣を収めロディスに言った。

「どうやらお前もまた真剣に考えての行動のようだな」

 言われた言葉の意味が理解出来なかったが、付いて来い、とでも言うように視線を向け歩きはじめたメティアにただ付いて行った。

 付いていくと、そこには移動陣が。

 どこに行くのか疑問に思いながらも、メティアの後を付いて行った。



 一瞬にして移動した場所を確認した瞬間、驚き以上に愕然とした。

 移動した場所が魔王城の、それも玉座の間である。

 その上、目の前にいたのはロディスが倒すべき相手と目指している魔王その人だったからだ。

「騙したのか!!」

 そう激昂してメティアに詰め寄る。

 だが問いに穏やかに答えたのは玉座に座るその人だった。

「いや、違う。私が頼んだのだよ」

 白銀の流れる髪に赤い瞳。そして誰もが魅了されるような美貌。この魔王城から一歩も出る事は無く、その存在が一部では疑問視されながらもその恐ろしいまでの力を持つと言われている者。

 歴代の王の中でも最上の力持つ者ともいわれた現在の魔王。

 現在の魔王城において、力持つ上位に位置する者達は全てこの王に力を与えられと言われていた。


 周りに敗者が転がる、とまで噂される程の実力者でもある。

 恐ろしい方だとも噂されていたが、そんな噂が想像できないような穏やかな雰囲気を持つ者がそこにはいた。




   ―――――― ※ ――――――




「何でこんな回りくどい方法を取るんだ!あんたは曲がりなりにも神の祝福を受けた者だろうが」

 ロディスの目には偽りの赤い瞳では無く、真実、神の祝福を受けた証の色が見えていた。

 その言葉に、魔王は少し驚いたような表情を浮かべ、次には何か納得したように笑みを浮かべた。

「やはりお前は私の思った通りだったな。全ての偽りを看破するシャリオの瞳。お前はその瞳の持ち主だったのだな」

 恐ろしい存在と言われているはずの魔王が、優しく目を細める姿に違和感を隠せずにいた。と同時に、辺境で聞いたかつて魔王と呼ばれる以前の姿が思い出されていた。

「あんた、なに者なんだ?」

「現在は魔王だよ。傀儡の、ね」

 あっさり返された答えに信じられない思いでその姿を見返すが、魔王は視線を逸らすことなくただこちらを見つめていた。

 あまりにも真剣な表情に、思わず聞いていた。

「一体、何を考えているんだ」

 その言葉に、魔王は目を細め言った。


「私を確実に殺してもらうための道筋を作り出してもらうこと。ただそれだけだ」


 何の迷いも無く言いきられた言葉に、逆にロディスがうろたえた。

「何の冗談……」

「冗談などではない。これは私一人が考えて決断した事。メティアたち誰一人として知らないことだよ」

 睨みつけるように魔王の目を見返しても、その瞳はそらされること無くじっとこちらに視線を捉えたままだった。

 そのあまりにも真剣な表情に、相手が偽り無く真実を語っているのだと悟った。

「何故、そんな事を……」

 信じられないという思いのままの言葉に、魔王は苦笑を浮かべ言った。


「何もしなかったことへの償い、かな」


「なに!?」

「私は何も知ろうとしなかった。それゆえにこんな状況になってしまった。知る機会はいくらでもあったというのに。私はただ望まれるままに力を与え続け、そして彼らは強大な力を持ったがゆえに慢心し、結果暴走を止めることも出来ないこの絶望的な状況を作り上げてしまった。だからこそ私はこの状況の早期解決を望んだのだ。それには私が討たれ倒れるのが一番手っ取り早い解決策だった」

「……」

「幸いな事に、神によって勇者も見出された」

「…………」

「ほかの者達では難しいだろうが、同じ神の祝福を受けた勇者であれば私を討つことも可能だろう。後は私が討たれるのを待つばかり。だが状況は刻々と進み続ける。勇者達だけでは全てを守りきる事が出来ない。だからこれ以上被害が拡大しないようにメティア達に動いて貰っているのだ」

 その言葉には、さすがのロディスも激昂した。

「勝手な、話しすぎる!」

「身勝手は承知の上。だがこれ以上魔物たちも人も苦しむ状況は見ていられないのだ」

「あんたが作り上げた状況だろうが!!」

「そう。私が作ってしまった。結果的に私が作り上げてしまった状況だ。けれど私自身、この城から動くことは出来ない」

「どういう、事だ?」


「配下の一人にね、呪われてしまったんだ。だから私はこの城から出て行く事は不可能なのだよ」


 さすがにこの言葉は聞き捨てならなかったため、思わず言い返していた。

「だがあんたの力を使えばそれは容易い事だろうが!」

 魔王が持つのは至高の祝福、神と同じ色を持つ『紫の瞳』。

 それは神に順ずる力を持つと同義だ。その力を使えば、どのような実力を持つものであっても、跳ね返すのは容易い事のはず。

 だが魔王は、緩やかに首を横に振る。

「そう言われると思っていたよ。けれどね、私はこの呪いをかけた相手も私が憎くてこんな事をした訳では無い事を知っているからこそ、何もしようと思わないんだ」

「どういうことだ?」

「彼は私がここから去る事を恐れていた。だからこの地から離れられないように呪いを掛けたのだ。……何故だろうね。私はそんな事を望んでもいなかったのに、何故か私を慕う者達がいる。アヴィドはその感情を逆手に取り、彼をそそのかした」

「…………」

「彼もまた、私を思って故の行動を起しただけなのだ。それを責める謂れは無い」

 呪いを解くという事は、呪った相手に返すという事。だが目の前の魔王は一切それをする気も無いと言うのだ。

「他の者達に負担がいく事を考えれば、あまりいい考えとは言えないが、これが私自身が動くよりも一番穏便な方法なのだよ」




 本来の力を振るえば、全てが容易く片がつくだろう。

 どの神が与えた祝福なのかは定かでは無いが、例えどの神の祝福であろうとも、神と同じ瞳を持ちえるものというのはそれほどまでに常識外れの代物なのだ。だがそれゆえに、その希少性は計り知れない。

 穏やかに笑みを浮かべる魔王の姿に、思わず思い出していた。


 神の祝福を得た者達の末路を。


 歴史を紐解けば、神の祝福についてはいくつもの話がある。

 だがどの歴史を見ても、神の祝福に関わった者で穏やかな終焉を迎える事の出来たのはほんの一握り。


 あと多くの者達は、悲惨な結末を迎えていた。


 例を挙げるとするならこんな話がある。

 祝福を受けた武器を使い騒乱を治めた人間は、後にその仲間の手によって殺された。武器の強大な力に魅せられたが故の凶行という話だったのだが、その後、武器を奪った男はその強大な力を扱いきれず平定した筈の大地を不毛の大地へと変貌させた。その大地の傷跡は、数百年経った現在でも呪いを受けたかのように未だ枯れ果てたままだ。

 力を望んで得たわけでも無いのに、その力を持つが故に崇められ、最後には心を病んで没した人間もいたという話が残っている。

 また、力を得たことを知られたばかりに一族を滅ぼされ、後にその強大な力を振るって一国を滅ぼしたと言われる獣の話もある。

 強大な力を恐れられ、排斥された者達もいた。

 善意で行うも、復讐するもされるも、力で以って力をねじ伏せるも、神の祝福という絶対的な力から齎されるものは常に悲劇がつき纏っていた。




「これは本当に自分勝手の願いなんだよ、ロディス。私は私の後顧の憂いを残さないためだけに、今こうして動いているのだ。憂うことなく、私はこの命を散らす事を望んだ。それだけなのだよ」


 真剣に、自分の死で以て全てを償う。


 そんな風に考えている目の前の存在を怒鳴りつけてやりたい気になった。だがこの時点で、もうすでにたとえ相手を怒鳴りつけても何も変わらない状況にまで進んでしまったのだ。


 力で以てねじ伏せ終わらせられる時は、もう既に過ぎ去ってしまっていた。


 その場にしばし沈黙が流れたが、ロディスは溜息を一つ落として言った。

「分かった。協力してやるよ」

 その言葉に、魔王はよかった、と小さく呟いた。

 王という立場であるのであれば、全てを支配することも容易かったはずだ。さらに言えば、神の祝福を得ているのだから、その力を振るえば支配する地域の拡大も容易かったに違いない。

 だが目の前の魔王は、そんな大きなものを望みそうには無かった。

 ゆるりと笑みを浮かべる美麗な魔王は、今の状況を見て、全てを魅了するかのような外見に影を落とすばかり。

 だからか、と思った。

 メティアが魔王の指示で動いているという事は、彼女と共に行動をしていたあいつらも同じく魔王の指示で動いているのだろう。

 他の追随を許さないほどの実力者ぞろいのメティアたち。

 そのメティアたちが心酔する主人は、決して表に出てくることがなかったし、一度は面会をと乞われても決して頷く事の無かった理由がこれなのだ。

 彼らは皆、真実の王の願いのために動いているだけなのだ。



 話は終りロディスも用は済んだとばかりに扉に向かって足を向けた時だった。

「あ、そういえば」

 魔王の声の変化に、ロディスはおや、と内心首を傾げた。

 声にはどこか楽しそうな、それでいて何かを期待するかのような雰囲気が込められていたからだ。


「君はメティアに求婚しているそうだな」


 その言葉を聞いた瞬間、扉に向けていた足が止まりぐらりと体が傾ぐ。

「な、な、な……!?」

 うろたえながら振り返ると、魔王はにっこり笑って言ったのだ。

「メティアは一見するときつそうに見えるのだが、とても優しい女性だ。私は大いに応援するぞ。頑張れ」

 何を言われたのか理解しようと必死に頭を働かせるも空転する。だがそれでも一つだけはっきりと理解出来たことがあった。


 うん。

 これは最強天然だ。


 そんな感想を抱きながら、ロディスはその場を後にした。

 ただ、あまりの衝撃にこの時になんと返答したのかは、覚えていない。







 後に彼は語る。




 見た目は最上、力も極上。なのに中身は天然。


 周りに敗者が転がる、と言われた最大の理由はあれだったのか、と。






気付けば一年以上経過しておりましたョ(-_-;)

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