車と食事
『もしもし、アオイ?』
「なに、紫苑?あんたなんかと話してる時間ないのよ」
『わかった~。じゃあ今日奢るのは無しか・・・』
「待ちなさい。何時からなの?」
『8時にリョウが車出すよ~』
「わかったわ」
電話を切る。
「はぁはぁはぁ…」
少年が瓦礫を押し退けながら走っている。
辺りには血が飛び散り、炎で赤く照らされている。
「ナターシャ!!ジン!!どこにいるんだ!!」
叫ぶと煙が肺に入り咳が出る。腰に下げた剣が音をたてる。
「何で?」
通りのひび割れたレンガに足をとられて倒れ込む。
うつ伏せの状態から立ち上がりもせず、地面を殴る。
「何でだよ!?何があったんだよ!?みんな・・・どこにいるんだよ・・・ナターシャ!!ジン!!・・・くっそ・・・」
煙を吸ってむせかえす。流れる涙が顔についた煤を流し、筋が二本できる。
「ただいま~」
部屋の玄関を開け紫苑が入ってくる。
「ちょ、え?」
「あり~?なんで?」
紫苑がピアスをいじりながら首をかしげる。
「ボクの台詞だよ!!ここはボクの部屋なんだけど!?」
「あっちゃ~。間違えちった~、ばいば~い」
踵で回って出ていく。
「なんだったんだよ・・・だいたいどうやって入ったんだろ」
イラストを再開する。
ガチャッ
「そういや今日飯奢るよ~。迎えに来るから~」
ガチャッ
鍵をかける。チェーンを かける。
「何時に来るんだよ・・・」
「あ、遼車出しはぁ?」
「紫苑が来なきゃ始まらないだろ」
「紫苑おせぇなぁ…」
「たしかに。泥棒は時間を守るって言ってたくせにな」
「あいつなにしてんだぁ?」
「・・・紫苑、呼んだか?」
「遼が呼んだんじゃないのぉ?」
「・・・はぁ」
「ふぅ、で?どれ盗ればいいの?」
「あの黒いやつ」
道をわたった先の違法駐車の車を指差す。
「りょ~かい」
紫苑は黒革の手袋をはめながら道を渡っていく。まるで自分の車かのように近寄っていき堂々と鍵をあける。それ専用の道具を作ったらしい。
5分でエンジンがかかる。俺も零怨と小走りで道を渡る。紫苑が運転席からでて後部座席に移る。零怨がバンパーを乗り越えて助手席に乗った。
「起きろ~。アカネ、迎えに来たぞ~」
目の前で眼鏡が揺れている。
「おはよう。ここボクの家だよね?」
「そうだぞ~。寝ぼけてんのか~?」
「とりあえず降りてくれない?」
体が自由になる。
頭を撫でられる。
「君、プライバシーって知ってる?」
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
みんなが手を合わせる。
遼は車を止めにいっている。イタリア料理店のテーブルを二席占領している。テーブルにはピザが三枚並んでいる。
「おかわり自由だぞ~」
紫苑がピザを同時に2ピースとりながら言う。
「リョー、遅くない?」
「ここらへん駐車場無いからなぁ」
「「「いらっしゃいませ」」」
ドアが開いて店員の声が重なる。
「紫苑、わざと駐車場がないところ選んだろ?」
「あ、ばれた~?」
「当たり前だ。ここにいるやつらの考えぐらいはわかる」
「お腹一杯ですね」
「そうね、紫苑の奢りのときには遠慮しなくていいからいいわ」
「紫苑の奢りじゃなかったら遠慮するのかお?」
「・・・・・・・・・」
「まぁいいさ。俺の金じゃないし~」
「さっさと乗らないと置いてくぞ」
「レオ、車遠いよ…」
「文句は紫苑に言えよぉ」
「無理だ!!」
「「「「「へたれめ!!」」」」」
「ですね」
「みんなが悪魔に見える…」
「しょうがないよ」