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永遠の歴史  作者: 匂宮 爆人
第一章:永遠の物語
3/3

脱出劇

 俺達だけ牢屋の中で違う空気の中に存在していた。何故ならば、既に出れることを前提にゼクスと話をしていたからだ。しかし、ゼクスは出れる気満々で話しているが、俺には全然出れる確信が無かった。

「なぁ、ゼクス」

「なんなのだ?」

「この牢屋、鍵閉まってるけど出れるのか?」

 そう尋ねると、ゼクスは腹を抱えて肩を小刻みに震わせた。顔は見えないし、声も聞こえないが、どうやら笑っているらしい。

「この程度の牢屋開けられないで、神殿騎士が務まるか……なのだ」

 震えた声でそう言って、ゼクスは牢屋の入口へ向かって歩いて行った。当然の事ながら鍵は閉まっている。

 ゼクスは鍵が閉まっている事を確認すると、どこからともなく大きく湾曲した剣を取り出した。その刃も不思議な形だが、何より奇妙なのはその持ち手の部分だ。持ち手はまるで鍵の様で、刃も全て合わせれば、その形は完全に鍵であった。

「ゼクス、その剣は?」

「この剣は『鍵』なのだ」

「かぎ……?」

 そう問い掛けると、ゼクスはまぁ見ていろと言わんばかりの表情を浮かべて、こっちを一瞬だけ見てきた。そして、その『鍵』を右手に持ち、扉の前に立った。

 そして有無を言わせずその鍵を振り上げ、思いっ切り扉に向けて振り下ろした。鉄格子の扉と剣の刃がぶつかり、鈍い音が響いた直後、扉は砕け、崩れ落ちた。

「見るのだ! 見事に開いたのだ!」

「思いっ切り力任せじゃねぇかよっ!?」

 そして、開け放たれた入口から勢いよく人が出ていく。俺とゼクスはそれを無視して牢屋の中で向かい合っていた。

 数秒後、牢屋の外のランプが光り、それと同時に警報が鳴った。

「了也殿……ここが最後のチャンスなのだ。神風殿と同じく戦いの中にその身を置く覚悟が無いのなら警備隊に捕まれば良いのだ。戦いの中にその身を置く覚悟があるのなら、我と一緒にアイリス女王国を目指し、神殿騎士になるのだ」

 鳴り響く警報を聞いた警備隊がぞろぞろと集まってきた。それでも俺とゼクスは慌てずに牢屋の中で向かい合っている。

「親父と同じってのは気に入らないが……どうせここに残ったら死ぬし、さっき乗り掛かった船だ。一緒に行かせて貰う」

 ゼクスはぼそりと良い返事なのだ。と言って、さらにもう一本どこからともなく剣を出した。そして、右手に持っていた剣を石畳に突き刺し、その上に横にしたもう一本の剣を器用に乗せた。

 ゼクスはその近代アートとも呼べそうな剣のオブジェの上に腰を下ろしてこっちを見た。そして一言。

「警備隊も倒せない者がどうして神殿騎士を目指そうと思うのだ! さぁ、警備隊を倒すのだ!」

「――なっ!?」

 ゼクスのその声とほぼ同時に警備隊が牢屋の中に流れ込んできた。扉が完全に破壊されていたので、閉じ込め直すことを諦めて、捕縛しに来たのだろう。

 警備隊の中の一人が俺の胸元を掴んできた。こんな喧嘩紛いの事なんて本当に小さい時に近所の奴らとやり合って以来だ。こんなの勝てるはずが無い。

 そう思いながらも、取り合えず交戦を試みた。胸倉を掴んできた警備隊の顎に肘を押し込み、引きはがしてから腹に蹴りを入れて吹き飛ばした。その様子を見たゼクスが後ろの方でおおーとかなんとか言ってるがそんな事を気にしている暇は無い。次から次へと襲い掛かって来る警備隊を殴ったり、蹴ったりで無理矢理引きはがしていく。

 しかし、思いの外警備隊はあっさりと吹き飛んで行く。これはもしかしたら勝てるかも知れない。だから俺は必死に警備隊を丁寧に1人ずつ引きはがしていった。

 だが、一向に数が減る気配がしない。まるで無限に相手が存在している様な……。


 ――そして、俺は気付いた。


 警備隊が弱くて簡単に吹き飛ばせているのでは無い。もともと警備隊は自ら後ろへと飛び退いて居たのだ。

 数自体も実はそこまで居なかった。空間を把握仕切れていなかった俺はただただ数が多いのだと思っていたが、吹き飛ばされた警備隊が立ち上がりひたすらに襲ってきていたのだ。

「あー……了也殿。もう良いのだ」

 そんなゼクスの声を俺は聞き流し、相変わらずワンパターンに交戦する。相手のちゃんとした目的も知らずに。

「了也殿ー、了也殿ー。もう良いのだ、我の後ろに下がるのだー」

 警備隊も警備隊で相変わらずワンパターンに襲い掛かって来る。それを俺はひたすらに蹴飛ばし、殴り飛ばし……。

「いい加減にするのだっ! 下がれと言ったら下がるのだっ!」

 ゼクスが叫んできて、始めて俺は手を止めた。手を止めた直後に襲い掛かってきた警備隊は、ゼクスが一瞬の内に俺との間に割り込んできて蹴り飛ばした。

「戦場で命令を無視するとそれは死に繋がるのだぞっ! 何を血迷っているのだっ! 我に従え! まだ了也殿は神殿騎士では無い! 一般人なのだ!」

 そう言いながらゼクスは次に襲い掛かって来た警備隊を掴み、持ち上げた。そしてあろう事か、その警備隊で他の警備隊を殴打した。

「相手の目的を考えるのだ。数であっちが上回っているのなら別に戦う必要は無い。了也殿を疲れさせればそれだけで終わりなのだ。だから相手はわざと飛び退いていたのだ」

 ゼクスは解説をしながら、1人の警備員で全員を奥へと追いやり、直ぐにいつの間にか二本とも石畳に突き刺さっていた剣を引き抜いた。右手に1本、左手に1本。それぞれを一振りずつして警備隊全員を気絶させた。

「安心しろ、ミネウチなのだ……」

 そう言ってカッコつけたゼクスの両手には、両刃の剣が握られていた。

「強いんだな」

「伊達や酔狂で神殿騎士をやっているわけじゃないのだ」

 ゼクスはそう言いながら直ぐに牢屋の外へと踊り出て、俺にも脱出を促した。

「説教はこの後脱出してからなのだ! さぁ、行くのだ!」

 そして走り出すゼクス。それを後ろから追い掛ける俺。しかし、そのスピードは余りにも違いすぎて、出口までの道筋で通る必要のある大広間で見事に振り切られそうになってしまった。

「まっ! ゼクスッ! 早いって!」

「あ〜ん? 大分スピード落としてるのにこれでも追いついてこれないのか?」

 そう言ってゼクスは立ち止まった。そう言われて俺は本気で走った。そして、大広間には重低音が響いた。

 薄っぺらく表現してしまえばガタン、ガタンと言うまるで機械が歩いて来るような音。まさか巨大兵器など無いだろうと思いながら走っていた俺とゼクスの間に割り込んできたソレによって俺の楽観的思考は崩れ去る事となった。

「うわぁーお、巨大兵器なのだ」

「うわぁーおじゃねぇよ!?」

 巨大兵器……大広間はもともと天井が異様に高い所だ。軽く10メートルはあると言うのに、その巨大兵器はその天井にぶつかりそうな程大きな人型の兵器だった。しかしなによりも恐ろしいのはその兵器の大きさでは無く、その頭部にあからさまに存在している銃口……それが俺の方に向いている事だ。

「あちゃー、標的は了也殿なのかー」

「そんな言葉で済まそうとするなぁぁぁぁぁっ!」

 俺は咄嗟の機転で巨大兵器の左側へと身を翻し、そのままゼクスの方へ行くつもりだった。しかし、足には足で何かが発射されそうな穴があったので、素直に止めた。

「了也殿ー! 多分足からミサイルが出るから気をつけるのだーっ!」

 うん、止めて良かった。

「神風殿から預かった、風夢家に伝わる武器を投げるからこれで応戦するのだー! 行くのだーっ!」

 その言葉の意味を理解して、ゼクスの方を見た時には既にゼクスは野球の投手よろしく全力投球のフォームをしていた。

 武器って言うのは物によるが、大体が大体相手を殴ったり斬ったりするために存在している物であって、ソレを投げて飛ばしてきて俺に当たったら死ぬ訳で、そして人間の反射神経は決して性能は良く無くて、この距離で投げられたらなかなかの確率で直撃は免れないわけであって。

 そして俺は考えるのを止めて身体を丸めた。

「馬鹿ーっ! そんなもん投げるなーっ!」

 とかなんとか暴言を吐きながら。

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