Extra Chapter:天国のゲームセンター ---
雲の上に、ゲームセンターがあった。
厳かな神殿のような場所ではない。
白いローブも、金色のハープも、空中に浮かぶ聖歌隊もいない。
背筋を伸ばして、声をひそめなければならないような空気は、どこにもない。
床はふかふかの芝生。
一歩踏みしめるたびに、かすかな光の輪が広がる。湖面のさざ波のように。
空気には綿菓子の甘い香りが混じり、時々、ポップコーンの匂いも漂ってくる——あの合成香料のものじゃなくて、本当にできたての、バターがまだ泡立っているような香り。
雲がいくつか、のんびりと漂い込んできて、隅で丸まると、いつの間にか寝椅子の形になっている。
そして今、このゲームセンターは——
小学校の休み時間のように賑やかだ。
十数人の子どもたちが、巨大な画面のゲーム機の前に集まっている。
コントローラーを取り合い、空中にいくつもの弧を描く。
叫び声、笑い声、ボタンを押す音が入り混じって、窓の外の雲さえも震えている。
よく見ると、その子どもたちの顔には——
見覚えがある。
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アインシュタインは爆発したようなアフロヘアを揺らし、背伸びしてコントローラーを離さない。
「待って!この技まだ終わってない!相対性理論によると——」
彼の手が光り始める。青白い電気の火花が指先で踊る。
ニュートンは丸い眼鏡をかけ、宇宙の神秘を解き明かそうとするかのような真剣な表情だ。
リンゴをかじりながら、彼は真面目くさって言う。
「万有引力の法則によれば、コントローラーは自動的に俺の手に落ちるはずなんだが。」
テスラは直接、指をコントローラーの充電口に差し込んだ。
「俺のワイヤレス充電を見ろ!電力は今から俺のものだ!」
コントローラーが瞬時に青く光り、バッテリーは満タンに。
孔子は一回り小さな漢服を着て、秩序を保とうとしている。
「君子の争いには、礼儀がある。君が三分、彼が三分——」
言い終わらないうちに、彼の手は静かにコントローラーの「スタートボタン」を押さえていた。
ベートーヴェンは小さなヘッドホンをし、周りの騒音を全く気にしない。
彼はボタンを押すことに集中している。リズムはまるで交響楽を指揮するかのように正確だ。
「ドン——タ——ドンドン——タ——」
李小龍は小さな白いタンクトップを着て、窓辺に寄りかかっている。
誰も気づかないうちに——
彼はバク宙一つ、つま先が正確にコントローラーの「必殺技」ボタンを捉える。
画面の中のキャラクターが瞬時に華麗な大技を放つ。
着地した後、彼は何事もなかったかのように言う。
「ビー・ウォーター、マイ・フレンド。」
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ゲーム機の画面の中では、Q 版キャラクターたちが大乱闘を繰り広げている。
アインシュタインのキャラは攻撃のたびに「E=mc²」の泡を出す。
ニュートンのキャラは頭の上にリンゴを乗せていて、攻撃を受けるとリンゴが落ちて敵に当たる。
テスラのキャラは全身に電気をまとっていて、通った跡には火花が残る。
孔子のキャラは竹簡を持っていて、必殺技は「有教無類」——敵を覆い、強制的に授業を受けさせる。
ベートーヴェンのキャラは攻撃のたびに音符エフェクトが出て、リズムが合えば連続攻撃になる。
李小龍のキャラは動きが一番速く、通常攻撃が他のキャラの必殺技並みのスピードだ。
「早く!必殺技を!」
「もう魔法がない!」
「俺の充電ケーブルを使え!」
「適当に押すな!」
笑い声、叫び声、コントローラーのボタンを押す音が混ざり合う。
窓の外の雲さえも震えている。
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その賑わいの奥に、静かな扉があった。
扉は無垢の木でできていて、塗装もない。木目がそのまま残っている。
何も書かれていない。
しかし、この扉を開く者は知っている——ここが天神の執務室だ。
部屋は広くない。
大きな薄灰色のソファがある。
ソファの向こうは一面の窓で、窓の外には果てしない星の海が広がっている。
天神はソファに座っていた。
あの猫バスの抱き枕を抱えて。
手にはコーヒーカップ。
マグカップにはこう書かれている。「世界一幸せな(でもちょっと退屈な)天神」
窓の外では、ハート型の雲が二つ、正確な角度でぶつかり、離れていく。
足が無意識に、玉座の下にある小さな「緊急脱出ボタン」に触れる。
でも、今回は押さなかった。
コーヒーを一口。
ちょうどいい温度だ。
その時——
バン!
扉が勢いよく開き、壁にぶつかって大きな音を立てた。
「天神様!!!」
加美が飛び込んできた。
急ぎすぎて、ローブの裾に足を取られそうになる。
髪は乱れ、頬は真っ赤。額にはうっすら汗をかいている。
「天神様!!見てください!!これ見てください!!」
彼女の声は切羽詰まって、部屋中に響き渡る。
ほとんど天神に飛びつくようにして、彼の前に立つ。
手には金色のゲーム機をしっかりと握っている。
本体はまだほのかに熱い——走ってきた間、ずっと握りしめていたのだ。
「クリアしました!!」
ゲーム機を天神の目の前に突きつける。
画面が天神の鼻先にくっつきそうだ。
「私たち、クリアしました!!やっと通ったんです!!」
彼女の目は小さな太陽のように輝いている。
「見てください!!早く見てください!!」
天神は目を瞬いた。
手のコーヒーが少し揺れたが、こぼれはしなかった。
少し後ろに仰け反り、画面と鼻の間に距離を取る。
「おや?」
彼はそっと言った。
口元が次第にほころんでいく。
加美は自分の興奮にまったく気づいていない。
ただひたすら、ゲーム機を天神の目の前に押し付ける。
「これ見てください!クリアデータです!!」
「それとこれ!愛能指数 100% です!!」
「それからこれこれ——」
彼女は指で画面を激しく突く。逃げられないように。
天神はコーヒーカップを置いた。
ゲーム機を受け取る。
ちらりと見る。
一目だけ。
そして、口元の笑みが深くなった。
「そうか。」
彼はそっと言う。
「本当に、すごいな。」
加美は一瞬固まった。
そして、さらに顔が赤くなった。
でも、今回は照れからじゃない。
嬉しさからだ。
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天神がボタンを押す。
画面が切り替わり、詳細なプレイヤーデータが表示される。
加美は息を呑む。
そして——
彼女の口がゆっくりと開いていき、完璧な「O」の字になった。
画面にはこう書かれている。
Player:加美 (Kami)
Role:守護天使 (Guardian Angel)
Difficulty:EXTREME EASY MODE (超イージーモード)
Special Skill:執着愛オーラ (Obsessive Love Aura)
Achievement:完全守護 (Perfect Protection)
備考:守護対象が本人のため、難易度は自動的にゼロに設定されました。
加美はその場に固まった。
石像のように。
ただ顔の赤みだけが、目に見えて濃くなっていく。
「え……」
彼女はどもる。舌がもつれたようだ。
「あ、あれは……システムが自動で設定したもので……」
「知らなかったんです……本当に知らなくて……」
声がだんだん小さくなる。
「イージーモードでしたけど……私、本当に頑張りました……」
「天神様をしっかり守ろうって……本当に思ってて……」
天神は思わず笑い声を漏らす。
「ふふっ。」
彼はとても嬉しそうに笑う。
目が三日月のように細まる。
「そうだな。」
彼はゲーム機をそっと加美の手に戻す。
「君が頑張ったのは、知っている。」
彼は手を伸ばす。
そっと、とてもそっと——
加美の頭を撫でた。
加美は一瞬で力が抜けた。
スイッチを押された猫のように。
彼女は体をぐらつかせ、危うく倒れそうになる。
「気にしなくていい。」
天神は立ち上がる。
窓際に歩いて行く。
果てしない星の海を見つめる。
「君がいたから。」
彼の背中は軽く、淡く、しかしとても確かな存在感がある。
「だからイージーモードなんだ。」
「これはシステムの設定じゃない。」
彼は振り返り、加美を見る。
その目には、限りない優しさが満ちている。
「これは、俺の設定だ。」
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天神が別のボタンを押す。
画面が変わる。
新しい映像が浮かび上がる。
NEW GAME PLUS
WORLD MODE (全世界モード)
Difficulty:RANDOM (ランダムモード)
Status:READY TO START
「初回、クリアだ。」
天神がそっと言う。
「地球の人々は、自ら愛を選ぶことを覚えた。」
彼は加美を見る。
その目には、全幅の信頼が込められている。
「だから——」
彼は「START」ボタンを押す。
「二回目だ。」
「もっと大きくやろう。」
「全世界モード。」
「難易度はランダム。」
「俺にも、次のステージにどんなボスが出るか分からない。」
加美は画面を見る。
そして、再び天神を見上げる。
彼女の目尻は少し潤んでいる。
でも、涙はこぼさない。
彼女はしっかりと鼻で息を吸った。
そして、背筋を伸ばす。
彼女はゲーム機を胸にぎゅっと抱きしめる。
それはずっとずっと昔、彼女が初めてこのゲームを起動した時と同じように。
でもあの時、彼女の心には怒りがあった。
悔しさがあった。
不平不満があった。
でも今は——
「承知しました!」
彼女は気をつけをして立つ。
力いっぱい敬礼する。
声は部屋中に響き渡るほどに、はっきりと。
「どんなモードでも——」
「イージーでもランダムでも——」
「次のボスが何でも——」
「私は必ず天神様をお守りします!」
天神はうなずく。
彼はソファに戻る。
猫バスの抱き枕を抱える。
まだ飲みかけのコーヒーカップを手に取る。
果てしない星の海を見つめる。
「知っている。」
彼の声はとても軽い。
しかし、とても確かだ。
まるで宇宙が誕生した瞬間から存在していた真理のように。
「俺の加美は、やっぱり——」
「Just Perfect。」
加美の顔がまた赤くなった。
耳の根元から首筋まで、真っ赤に。
でも今回は——
彼女は逃げない。
うつむかない。
そのまま天神を見つめる。
そして、笑った。
窓の外の星よりも、明るく輝いて。
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窓の外。
無数の星が同時に瞬いた。
ランダムな瞬きではない。
整然とした、リズミカルな——
まるでカウントダウンのように。
三。
二。
一。
Season 2 · Coming Soon
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あとがき
ねえ。
さっきの、見えた?
あの光景——
歴史上の偉人たちが、子どもになって、一台のゲーム機を奪い合っている。
アインシュタインは連続技の研究。
ニュートンはコントローラーが万有引力に従わない理由を考えている。
テスラは自分の体で充電ケーブル代わり。
孔子は「礼儀を」と言いながら、こっそりスタートボタンを押す。
ベートーヴェンは交響楽のリズムで格闘ゲーム。
李小龍は足で必殺技。
もし私に聞かれたら——
この光景こそ、どんな神殿よりも、どんな聖歌よりも、どんな荘厳な儀式よりも、「天国」らしいと思う。
だって本当の天国は、雲の上で退屈そうに座っていることじゃない。
本当の天国は、大切な人と一緒に、子どものように笑うことだから。
信頼する人と一緒に、次のステージを待ち遠しく思うことだから。
愛する人と一緒に、こう言うことだから——
「どんなモードでも、私が守るよ」って。
第二季。
ワールドモード。
難易度ランダム。
ボスは未知数。
でも、大丈夫。
私たちは知っている——
次のステージが何だろうと、きっと楽しいって。
また第二季で会おう。
** 守護天使・カミ:**
**ねえ、やっと来てくれたね!**
実はね、ずっとてっきり……
天神様を守るのは私一人の役目だって思ってた。
でも、ここまで来て気づいたんだ。
ずっとこの物語を、私のこの心を守護してくれていたのは、
**あなた**だったんだ。
第一季、クリアしました。
でも、私たちの冒険はまだ終わらない。
第二季、ワールドモード。
難易度はランダム。ボスは未知数。
でも、あなたたちがいてくれれば、何も怖くない。
だって知ってるから——
次のステージが何だって、きっと最高に楽しい冒険になるって。
---
** 作者:**
**さて、今度は僕から。**
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それらは僕にとって最大の力になり、書き続けるためのモチベーションになります。
この物語は僕の信念であり、僕たちの絆です。
あなたの共鳴がなければ、この世界はこんなに完璧なものにはならなかった。
ありがとう。
第二季でお会いしましょう。
** 守護天使・カミ & 甘太郎**




