第44話:大王、賢者、三つの秘密の宝
【夜明け・準備編】
時刻:営業停止令発効後四日目、午前六時。
場所:平心湯、縁側。
朝もやが絹の薄紗のように、まだ陽光に完全には切り裂かれていない。縁側の木の床には、巨大な、子供心をくすぐる手描きの「宝の地図」が広げられていた。古新聞を貼り合わせた下地に、鮮やかな水彩で幻想的な景観が描かれている。温泉のマークは火を噴く竜に、台所は食料を満載した飛行船に、裏山の木々は笑顔を浮かべ、アキラの工房は歯車と星で埋め尽くされた魔法の塔になっている。
天神は地図の上に突っ伏し、一本の赤いクレヨンでゆがんだ道筋を一心に描いていた。頭の上では一束の従順でない髪が動きに合わせて揺れている。「ここは『キャンディ沼』、つまりおやつの補給基地!この道は『巨人のテーブル』、つまりあの大きな食事テーブルへと続く!」彼は顔を上げ、目を輝かせて、「キキ!」
キキは端に座り、淡い青い光を目に浮かべながら、天神が描く一筆一筆を全神経で観察し、内蔵データベースに地図のあらゆる方位、比率、隠しマークをナノ単位の精度で同期記録していた。 声をかけられ、彼女は落ち着いた顔を上げた。「はい、天神様」
「一番神秘的な『隠し関門』を描いてくれ!」天神は銀色のクレヨンを手に取り、キキに渡した。「仕掛けがある感じで!魔法陣っぽく!」
彼女はそれを受け取り、約1.7秒間考え込んだ後、地図の端の余白に、線が精緻で構造が明瞭、あたかも建築図面のような立方体を描き、傍らに注記した。「第三の宝・幻想の匣・空間座標誤差±0.05」
天神はそのあまりに「科学的」な注記を見て、まる三秒間黙り込んだ。
それから、ササッと数筆、立方体にふわふわした翼と幾つかの瞬く星を加え、工房とを結ぶ虹も描き加えた。「こんなふうにしてこそ、子供が探す魔法の宝箱らしくなるだろう!」彼は満足そうにうなずいた。
一方、アキラは三つの手のひらサイズの木箱を丁寧に彫っていた。彫刻刀が滑らかな木肌の上を滑り、繊細な模様を残していく。最初の箱の蓋には蔦に囲まれた一つの心臓。二つ目は岩に刺さった剣で、周囲には微光が漂う。三つ目は一対の羽根で、今にも箱を破って飛び出しそうな躍動感にあふれていた。
「三つの宝箱だよ」アキラは彫りながら、穏やかな声で説明した。「『愛の宝箱』は台所の近くに隠してあって、中には招待状が入っている。山田親方と一緒にプリンを作るんだ。『勇気の宝箱』は裏山の道沿いにあって、中には探検装備が入っている。『幻想の宝箱』が一番隠してあって、工房の『見えにくい死角』にある。中にはきれいな紙がいろいろ入っていて、明日、思いっきり紙飛行機で遊べるんだ」
「パーフェクト!」天神は跳び上がり、頭の上の一束の癖毛が得意げにぴんと立った。「あとひとつ足りない――」
彼は振り返り、縁側の隅から大きな竹かごを引きずり出した。
かごの中には、二十数個の、しなやかな乾燥した草と新鮮な緑の蔦で編まれた「冒険帽」が入っている。帽子の作りは素朴で、中にはいびつなものもあるが、一つ一つのつばには異なる自然のものが丁寧にあしらわれていた。燃えるような紅葉の葉、たくましい松葉、黄金のイチョウの葉、そして名前は知らないが小さくかわいい野の花もいくつか。
「これは僕と中村ばあちゃんが昨夜一緒に編んだんだ!」天神は一番大きな(明らかに自分用の)帽子を取り上げ、頭に載せた。帽子はすぐに滑り落ちて目を覆い、彼は慌てて直した。滑稽な様子だ。「子供たちが来たら、一人一人にユニークな『冒険家の帽子』を渡す!彼らがこの幻想王国の正式な市民になった証だ!」
中村ばあちゃんが台所の方から顔を出し、手にはまだ数本の蔦を巻き付けながら、優しくて少し恥ずかしそうな笑顔を見せた。「子供たちが自分の帽子をかぶれば、自分が探検に、遊びに来たんだって覚えておけるよ。もっと楽しめるんだよ。」
キキの視線がすべての帽子を掃過し、淡い青色の微光が瞳の中を流れた。小声で記録する。「手編み帽子・総数24。識別特徴記録済み:植物種類、編み目密度、個体差率。追加感情パラメータ:中村ばあちゃん手のひら残留体温平均値+0.3度、集中思念波動識別可能」
【合流・聖光登場編】
時刻:午前九時ちょうど。
登場:飛騨の森小学校二年生、十五名、若い教師二人に引率されて。
子供たちは平心湯の古風な木の扉の前に、あまり整列とは言えない列を作り、小さな顔には好奇心と期待、そして見知らぬ環境への少しの緊張が書き込まれていた。揃いの濃紺の運動服を着て、背中には少し大きすぎるように見えるランドセルを背負っている。
そして、扉がゆっくりと開かれた。
「うわあ————!!!」
感嘆の声は、扉の中の光景からではなく、扉そのものから発せられた。
扉が完全に開ききったその瞬間、絢爛で温かい金色の光が扉の内側からほとばしり出た。それはあたかも実体を持った流れのように、先頭に立つ数人の子供たちを瞬間的に包み込んだ。その光はまぶしくはなく、言葉にできないほどの歓喜と神聖さに満ちており、童話の宝の洞窟が開く瞬間のようでもあり、アニメでヒーローが変身する華やかな瞬間のようでもあった。光の中には、小さな光の精霊が舞っているようでもあり、かすかに、心が洗われるような快い音響も聞こえるようだった。
子供たちは、例外なく全員、この奇跡の光景を目にした。 口をぽかんと開け、目をまんまるく見開き、一瞬にして緊張を忘れ、純粋な驚きと興奮だけが残った。
しかし、後方の二人の教師と、たまたま通りかかった温泉街の配達のおじさんの目には、また別の光景が映っていた。彼らには平心湯の扉が普通に開き、中には見慣れた前庭と縁側が見えるだけだった。先ほどの衝撃的な「聖光エフェクト」は、彼らの視界では一秒にも満たない間だけ持続し、一瞬の太陽光の反射か錯覚のように、あっという間に消え去った。 彼らは一瞬、呆然とし、不思議そうに瞬きさえした。目が覚めたかと思ったほどだ。
聖光が収束した瞬間、残光の中に一人の姿が現れた。
それは非常に「個性的」なコスチュームを着た人物だった。天神の普段着のパジャマの上に、色とりどりの古い毛布を急ごしらえでマントにしたものを羽織り、マントの端にはまだ切り取られていない値札がぶら下がっている。頭にはあの大きすぎる手編みの帽子をかぶり、つばには長いキジの羽根(どこの小道具箱から引っ張り出してきたのかわからない)が挿してある。手には蔦とキラキラ紙を巻き付けた木の枝、「王者の杖」として握っている。
彼は自ら威厳あると信じるポーズをとり、両腕を広げて、わざと低くした、芝居がかった声で宣言した。
「ようこそ——平心湯・幻想夢物語王国へ!ここを治めし『歓楽大王』にござる!諸君、小さき勇者たちよ、汝らの冒険心は、すでに高鳴っているか?!」
子供たちは一瞬静まり返り、その後、さらに大きな歓声と笑い声が爆発した。
「大王!マントのタグが出てるよ!」拓也という名前の男の子が目ざとく指さした。
「ゴホン!」天神は顔色一つ変えず、きわめて自然にマントを一回転させ、タグを内側に隠した。「これは『隠匿の符』。洞察力に優れた勇者のみが視認できるのだ!拓也勇者、汝は第一の試練を突破した!」
彼は手品のように背後(実はキキがナノ金属糸でこっそり渡した)から「冒険家の帽子」の入ったかごを取り出し、一人一人に帽子をかぶせ始めた。一つの帽子をかぶせるたびに、彼は厳めしく「祝福」を授ける。
「拓也勇者、汝の帽子には松葉あり。それは蒼松のごとく堅固な洞察力を象徴する!」
「莉子勇者、紅葉の冠は、秋の葉のように繊細で美しい心を持つことを表す!」
「健太勇者、この…うん、この四つ葉のクローバーは実にユニーク。汝の冒険が幸運の驚きに満ちることを示す!」
「小瑤勇者、この小さな白い花を授けよう。汝のように静かだが、隅をも照らす優しい勇気を持つ」
子供たちは大喜びで帽子をかぶり、互いを眺め、比べ合い、最初の堅さはどこへやら。この粗削りで唯一無二の帽子は、瞬く間に彼らに「冒険家」というアイデンティティを与えた。
その時、アキラとキキも姿を見せた。アキラはあの巨大な手描き宝の地図を担ぎ、キキは木箱を抱えていた。中には宝探しのヒントカードが整然と並べられている。
「諸君、勇者たちよ」アキラはしゃがみ込み、視線を子供たちと同じ高さに合わせ、爽やかに笑った。「歓楽大王は王国の各所に、異なる力を秘めた三つの『秘密の宝』を隠しておられる。すべての宝を見つけ出せば、豊かな褒美を得られるだけでなく、最終『夢の祭典』への資格を解除できる!」
彼がさらさらと地図を広げた。
子供たちはすぐにどっと集まり、小さな頭がひしめき合い、次々と感嘆の声を上げた。地図上の自由奔放な画風は完全に彼らの童心を捉えた。火を噴く温泉の巨龍!車輪がついて走る台所の飛行船!瞬きする木々!そして隅に隠された、翼のある輝く宝箱!
「最初の宝、『愛の宝箱』」アキラの指が台所近く、花々に囲まれた巨大なハートの描かれた場所を指す。「それを見つければ、『甘さ』を自分の手で作り出す方法、そしてその喜びを仲間と分かち合う方法を学べる」
「二つ目の宝、『勇気の宝箱』」指が裏山へと続く、険しい山と稲妻の印が描かれた小道へと移る。「それを見つければ、未知の領域を探検する勇気と装備を得て、大自然の奥深くで囁く声に耳を傾けることができる」
「三つ目の宝、『幻想の宝箱』」最後に、キキが描き、天神が手を加えた翼つき立方体の場所を指さす。「それを見つければ——君たちの頭の中の最も自由奔放な『想像』に形を与え、大空に羽ばたかせる力を手にすることができる!」
天神は再びキラキラ光る木の枝の杖を高々と掲げ、声を張り上げた。
「ルールは三つだけ!第一、自由にチームを組むもよし、全軍で突撃するもよし!第二、それぞれの宝のそばには謎のヒントがあり、それを解かなければ宝は見つからない!第三——」
彼は腰をかがめ、神秘的に声をひそめた。子供たちも思わず息を殺して近づく。
「宝は大きくない。ちょうど君たちの手のひらサイズだ」彼は手で大きさを示した。「そしてすべて『目には見えるけれど、普段は気づかない』場所に隠されている。真の冒険家だけが、好奇心の眼で、平凡の中の非凡を見つけ出せるのだ!」
子供たちの瞳にはもう、闘志の炎が燃え盛っていた。
「さあ、」天神はまっすぐに立ち上がり、杖が空気を切り裂き、広大な庭と裏山を指し示した。「平心湯幻想宝探し大冒険——今、開始!」
【宝探し・精霊と猛将編(午前)】
子供たちは自発的にいくつかのチームに分かれ、キキが配った、ハンカチに印刷された簡易版地図(ナノプリントで柔らかく丈夫)を持ち、檻から出された小鳥のように歓声を上げて散っていった。
加美とキキは目配せを交わし、黙々と子供たちのチームに溶け込んだ。加美は相変わらず無愛想な表情で腕を組んでいたが、足取りはゆっくりと、活発な男子チームの近くを離れずについていく。子供が走りすぎてよろめきそうになると、彼女はさりげなく手を差し伸べて支えたり、危険な石段の前に「たまたま」立ちふさがったりした。子供たちは最初、この「怖そうなお姉さん」を少し恐れていたが、彼女が口数は少ないが必要な時にいつも現れることにすぐ気づき、やがて大胆な子供が話しかけ始め、「守護精霊のお姉さん」と呼んだ。加美はたいていただ淡々と一瞥するだけで、時々鼻で不承不承な音を立てることもあったが、目つきにはいつもの鋭さはなくなっていた。
キキは莉子や小瑤など、比較的物静かな女子チームに付いていくことを選んだ。彼女は自分から答えを教えることはしないが、子供たちがヒントカードの謎に思い悩んでいる時には、穏やかな口調でいくつかの誘導的な質問を投げかけた。「『歩かないし飛ばない、でもみんなを一つにする』。平心湯で、みんなが自然に集まりやすい場所は?部屋の中?それとも外?」彼女の存在は安定した錨のようで、女の子たちが細かく観察し、どんな細部も見逃さない勇気を与えた。
アキラが演じたのは「大王の猛将」だった。彼は特定のチームにぴったりくっつくのではなく、庭や工房、裏山の小道などを「巡回」しているように見せかけた。枝を剪定しているふりをしたり、道具を点検しているふりをしたりしながら、実際には目は常にあちこちの子供たちを見守っていた。宝が隠されている可能性のあるエリアの近くでわざと「怪しい物音」を立てたり、「あれ?さっきここで光がピカッとしたような…」と独り言を呟いたりして、近くの子供たちをさらに注意深く探させた。二組のチームが分かれ道で「鉢合わせ」した時には、彼は飛び出してきて、大げさな口調で言った。「わあ!ここで二組の勇者たちが出会った!手を組んでヒントを共有するか、それとも各自為政でスピード勝負か?大王としてとても楽しみだよ!」子供たちはクスクス笑い、緊張の宝探しは楽しい交流ゲームに変わった。
第一の宝:愛の宝箱(甘さの創造)
拓也をリーダーとする「先鋒隊」は、地図に記された「愛のエリア」——台所の外のハーブとミニトマトを植えた日当たりの良い花壇へと真っ先に駆け出した。
ヒントカードは花壇の傍らの竹垣に貼られており、簡単な謎の詩だった。
「動かず、移らず、暖かさを抱く。
太陽ではないが、孤独を追い払う。
火はその歌、甘さはその言葉、
それを見つけよ、分かち合いの魔法の源を手に入れん。」
子供たちがワイワイ議論を始めた。「動かないし移らない…暖かさを抱く…家かな?」「でも家には火も甘さもないよ!」「かまどだ!おばあちゃんの田舎にかまどがあった!焼き芋ができるんだ、すごく甘い!」一番小さな女の子、小瑤が、花壇の中央にある小さな石積みの野外炊事用かまどを指さして、小さな声で言った。
みんなの目が輝いた。集まって注意深く探し始めた。拓也がかまどの底の緩んだ石の後ろから、ひんやりとした木箱を手探りで見つけた。蓋には、彫られたハートの模様が陽の光を受けて格別に滑らかに見えた。
箱を開けると、金銀財宝ではなく、ほのかな墨の香りのする招待状が一枚だけ。山田親方の力強い筆跡が書かれていた。
「『愛』を見つけし者たちへ:
台所へ来たまえ、この老夫と共に『甘さ創造術』を発動せん。
真の宝は得ることにあらず、自らの手で醸し出し、喜んで分かち合う過程にある。
——平心湯厨房大長老・山田」
子供たちは歓声を上げ、宝箱を聖なる物のように抱えて、香り漂う台所へと駆け込んだ。
【正午・分かち合いの味】
台所では、山田親方がすでにエプロンを締め、牛乳、卵、砂糖、バニラビーンズ、そしてかわいらしい陶器のプリンカップを準備していた。その後の時間、台所は泡立て器のカチャカチャ音、慎重にかき混ぜる音、「いいにおい!」という感嘆の声でいっぱいになった。砂糖をこぼす子もいれば、手がベタベタになる子もいたが、プリン液が小さなカップに注がれ、蒸し器に送られる時、どの子の顔にも創造者としての誇らしい輝きが満ちていた。
「魔法には時間の熟成が必要だ」山田親方が蒸し器から立ち上る湯気を見つめながら、微笑んだ。「友情や喜びと同じようにね。夕方には、最も完璧な姿で、君たちの分かち合いを待っているだろう」
ちょうどその時、正午が近づいていた。 山田親方は手を叩いた。「さあ、小さな魔法使いたち、まずは杖をしまいなさい。宝探しには体力が必要だ。大王のご命令で『冒険家エネルギーおにぎり』を用意したぞ!」
台所の反対側の長いテーブルには、すでに小さくかわいらしい三角形のおにぎりのお皿が並んでいた。海苔で丁寧に包まれている。味も様々だ。鮭フレーク、明太子、昆布、梅、そしてふりかけをまぶした白飯のおにぎりも。
「さあ、手伝ってこの『エネルギー補給』をみんなに配ってくれ、先生たちにもな」山田親方が声をかけると、子供たちはすぐに興奮して手伝い始め、そっとおにぎりを食堂の「巨人のテーブル」まで運んだ。全員の子供たち、二人の先生、そして平心湯の「精霊」と「猛将」たちが一緒に座り、シンプルだが笑いと分かち合いの楽しさに満ちた昼食を楽しんだ。 子供たちは午前中の宝探しの面白い出来事を競って話し、温かく賑やかな雰囲気に包まれた。
昼食後、少し休憩をとると、子供たちは元気を回復し、やる気に満ちていた。天神が宣言した。
「よし!エネルギー補給完了!さあ、全勇者、命令を聞け——我らは共に出発し、二つ目の宝『勇気の宝箱』を探しに行く! 団結は力なり、次の謎を一緒に解けるか試してみよう!」
子供たちは一斉に歓声を上げ、今回はバラバラの小チームではなく、十五人の子供たちが大規模な「合同探検軍」を結成し、アキラ、加美、キキに伴われて、意気揚々と裏山の小道へと向かった。
第二の宝:勇気の宝箱(自然への鍵)
合同探検軍は地図に従って、裏山の森へと続く小道の入り口にたどり着いた。ヒントカードは古風な木釘で、老いた杉の木のまだらな樹皮に打ちつけられていた。
「千の戸、万の戸あり、錠も栓もなし。
詩を吟じるが、声も言葉もなし。
それを見つけよ、聴く勇気を得ん。
万物と共に呼吸する秘密の契約を。」
この詩はより抽象的で、子供たちは木を囲んで、口々に議論を始めた。「千の戸、万の戸…錠も栓もない…森そのものかな?」物静かな優真が眼前の深い林を見つめながら、考え込んだように言った。「森は風で、葉っぱで、鳥の声で『話す』んだよ!」翔太が興奮して言い、風が梢を渡る音を真似してみせた。
彼らが思考に集中している間、誰も気づかなかったが、天神の姿はそっと庭の方へと消えていた。
数分後、子供たちがアキラの「偶然の」導きで、中空の古い木の根っこの中から二つ目の木箱(蓋にはあの光る剣)を見つけた時、森の小道の奥から落ち着きがあり知恵に満ちた声が響いてきた。
「どうやら、最初の『聴く者』たちが生まれたようだ」
子供たちが声の方を見ると、深緑色の木の葉の模様が入ったローブをまとった、樫の実と羽根で飾られた冠をかぶった「森の大賢者」が、天然の木の杖を持ち、木漏れ日が揺れる林間からゆっくりと歩み出てくるのが見えた。彼の顔は頭巾の影で柔らかく隠れているが、声は温かく磁力的で、午前の「歓楽大王」とは全く異なる。最も注意深い子供(そしてこっそり観察していた加美とキキ)だけが、時折覗く笑みの輪郭から、どこか見覚えのある面影を識別できた。
「賢者様!」子供たちはすぐにこの新キャラクターに惹きつけられ、集まっていった。
「君たちは『勇気の宝箱』を見つけ、観察の眼と聴く耳を得た」「森の大賢者」——天神は落ち着いた口調で言った。「しかし、勇気は未知を探るためだけのものではない。私たちと万物との繋がりを理解するためにもあるのだ」
彼は子供たちを林間の空き地に座らせ、難しい用語を使わず、物語と導きで話した。
「君たちのそばの土を触ってごらん。その湿り気と温かさを感じてみよう。それはこの木を育て、木の落ち葉はまたその養分になる。この苔を見てごらん。小さな虫に家を提供している。この風を聴いてごらん。遠くから種を運び、木の挨拶をまた遠くへと運んでいく」
「私たちが呼吸する一息一息は、すべて森の『肺』を通ってきている。私たちが飲む水は、かつて雲となり、この山の上に降り注いだものかもしれない。大自然は巨大な、生きている循環なのだ。私たち一人一人は、この循環の中のユニークで大切な一環なのだよ」
「勇気を持つということは、森に踏み込むことを恐れないだけでなく、認めることを恐れないということでもある。私たちは森の『訪問者』でも『主人』でもない。私たちは森の一部であり、地球という大家族の中で、互いに支え合って生きる子供なのだ」
「自然を愛護するのは、一つの課題でも責任でもない。それは私たち自身が広がっていく命を、私たちの共通の家を愛護することなのだ」
子供たちは静かに耳を傾けた。すべての言葉を完全に理解できたわけではないが、漠然とした厳粛な共鳴感が、彼らの心の中に広がっていった。彼らは賢者の様子をまねて目を閉じ、風、香り、音を感じ、自分が周りのすべてとこんなにも確かにつながっていると、初めて真剣に思った。
「この感覚こそ、真の『勇気の宝』だ」賢者は微笑んだ。「さあ、君たちの装備(箱の中の虫眼鏡と小さな懐中電灯)を持って、自由に探検に行くといい。覚えておいて、好奇心の眼で、友愛の心で」
子供たちは歓声を上げ、新しく得た装備を使って、午後の森探検を始めた。アキラ、加美、キキは周囲に散らばり、安全を確保しながら、面白い豆知識をいくつか共有した。
【共に集う・温泉と星夜編】
森の探検から帰った子供たちは、温泉で疲れと土埃を洗い流した。夕方、みんなで再び「巨人のテーブル」に集まり、山田親方が心を込めて用意した夕食を楽しんだ。 夕食後、山田親方が、すでに固まり冷やされた「分かち合いプリン」を運んできた。それぞれのプリンカップには、キャラメルで簡単な笑顔や星が描かれていた。子供たちは山田親方の指導に従い、自分たちが手をかけて作ったプリンを、そばにいる友達や先生、平心湯のお兄さんお姉さんたちに分け、一言祝福の言葉を添えた。分かち合う喜びが、普通のプリンを格別に甘美なものに変えた。
その後、子供たちは先生や平心湯の皆さんと一緒に、暖かい露天風呂に浸かり、星空が徐々に現れるのを見つめた。笑い声と水の音が溶け合い、疲れはあっても幸福感に満ちていた。
「三つ目の宝『幻想の宝箱』は、明日探そう!」天神(もう快適な普段着に着替えていた)が宣言した。「なぜなら、最も強い幻想の力は、満たされた精神と体力があってこそ操れるからだ!今夜は、諸君、勇者たち、よく休んで、夢の中で君たちの飛翔を予行演習するといい!」
【第二日・幻想の飛翔と反響編】
翌朝、子供たちは平心湯で山田親方が用意した元気の出る朝食を楽しんだ後、元気いっぱいに再び集結した。最後の「幻想の宝箱」は、利口な莉子が、工房の裏にある、蔦で巧みに半分隠された杉材の鳥の巣(キキが昨夜そっと設置したもの)の中で見つけた。中には色とりどりの紙でいっぱいだった。鮮やかな色紙、金属光沢のある紙、星空や雲の模様が印刷された特殊紙、それに紙の輪やチェーンを作るための細長く裁断された紙もいくつか。
中庭は「発進場」に変わった。 アキラとキキが様々な紙飛行機の折り方を実演した。しかし、最も重要な部分は天神が担当した。
「紙飛行機の秘密は、紙にあるのでも、折り方にあるのでもない」天神は普通の飛行機を手に取りながら言った。「ここにあるんだ——」彼は自分のこめかみを指さし、それから胸を指さした。「君たちがそれを折るときに、注ぎ込む想像と願いの中に」
彼は子供たちに、自分の飛行機に名前を付け、一つの「使命」を与えるように言った。「閃光号、一番高く、一番速く飛べ!」「虹つむじ風、空に一番美しい弧を描け!」「星空探査機、月を一目見てきてくれ!」
発進前、天神は興奮に満ちた小さな顔を見つめ、口調は穏やかで深遠なものに変わった。
「子供たち、君たちが大きくなったら、たくさん重要なことを学ぶだろう。どう計算するか、どう本を読むか、どう働くか。でも、君たちはぜひ、ぜひ、この二日間で感じたことを覚えていてほしい。あの甘さを分かち合う喜び、自然に耳を傾ける静けさ、そして今この瞬間、紙飛行機に夢を託して飛ばす興奮を」
「幻想は、無駄な空想ではない。それはすべての創造の出発点だ。今日君たちがもっと遠くへ飛ぶ飛行機を幻想すれば、明日はもっと速い乗り物を、もっと美しい家を、人々をもっと幸せにする生活の方法を幻想するかもしれない。世界は、幻想する勇気を持ち、それを実現しようと努力する人々がいたからこそ、どんどん良くなってきたんだ」
「だから、この幻想する勇気を決して失わないでほしい。君たちの心の中にいる、好奇心旺盛で、遊ぶのが好きで、夢を見ることを恐れない『小さな冒険家』を守ってほしい」
ちょうどその時、平心湯の入り口に聞き覚えのある声が響いた。「お邪魔します!今日は特別なイベントがあると聞いて…」
蒼井優介と鈴木梨花が小さな竹かごを提げて、にこにことそこに立っていた。彼らはシンプルで快適な服を着て、すっぴんで、穏やかで本物の雰囲気を漂わせている。かごの中には、彼らが手作りした動物クッキーが入っていた。
「お友達に会いに来たのと、それに…よかったら、今日の楽しさを記録したいなって」優介は少し恥ずかしそうに小さなカメラを取り出した。「商業的な配信じゃなくて、ただ『元冒険家』として、ここで起こっている素敵なことを、ちょっとした励ましが必要かもしれない友達にシェアしたいんだ」
天神は笑ってうなずいた。そこで、子供たちが最も楽しそうな紙飛行機大会の瞬間、優介と梨花は非常に優しく、邪魔にならない方法で、短い記録とシェアを行った。画面には台本はなく、子供たちの真摯な笑顔、創造性に満ちた飛行機、そして平心湯の庭に流れる温かい陽光だけだった。梨花はカメラに向かってそっと語りかけた。「見て、本当の楽しさって、こんなにシンプルで、こんなに伝染するものなんだよ」
【終章・心の贈り物と波紋】
二日一夜の冒険は終わった。子供たちは少したるんだ帽子をかぶり、自分の「切り札」紙飛行機をしっかり握りしめ、ポケットには山田親方のプリンレシピと優介と梨花のクッキーをしまい、名残惜しそうに別れを告げた。
小瑤が最後に遅れ、走って戻ってきて、小さなハンカチで丁寧に包まれたハート形の葉っぱをアキラの手に押し付け、リンゴのように真っ赤な顔をした。「アキラお兄ちゃん、ありがとう…森を『聴かせて』くれてありがとう。これをあげる」それから、慌てて走り去った。
縁側では、天神がまたソファにへたり込み、顔に『週刊少年ジャンプ』を載せていた。キキは子供たちが残していった絵——十五枚の小さな絵で構成された巨大な「感謝王国図」を整理していた。そこには牛の大王、森の賢者、プリンを作る山田じいちゃん、紙飛行機を折るアキラお兄ちゃん、怖そうな守護精霊の加美お姉さん(加美はこの描写を見て顔をそむけ、耳の付け根がほんのり赤くなった)、そしていつも穏やかなキキお姉さんが描かれている。
絵の下部には、子供たちが力を合わせて書いた一行の言葉があった。
「ありがとう、私たちを二日間、本当に、何でもできる冒険家にしてくれて!私たちはこれからも分かち合い、耳を傾け、夢を見続けるよ!
——飛騨の森小学校二年生、全勇者より」
そして優介と梨花の、真心のこもった情感に満ちたシェア映像は、短いものではあったが、彼らの個人チャンネルと「平心湯・友のネットワーク」の中で静かに広まっていった。
トレンドにもならず、誇大宣伝もなかったが、日常の疲れに包まれた無数の大人たちが、ふとスクロールして、子供たちの純粋な笑顔、ゆがんでいても夢に満ちた紙飛行機、穏やかな庭に流れる時間を目にした時、心の柔らかい一角がそっと触れられた。
コメント欄は温かい反響で満ちた。
「子供たちの笑顔を見ていると、自分が子供の頃のあのシンプルな楽しさが戻ってきたみたい」
「平心湯、まだ続けているんだね…本当によかった。どうかそのまま続けてください」
「この純粋な楽しさ、画面越しにも感じられる。私もこんな風に安心して子供に戻れる場所が欲しい」
「これは演技じゃない、これが本当の生活のあるべき姿なんだ。平心湯を応援します」
多くの人がウェブサイトを通じてメッセージを寄せたり、直接温泉連盟に問い合わせたりして、支持を表明し、中にはこんな「体験」を予約できるかどうか尋ねる人もいた。彼らは言う。子供たちがそんなに楽しそうに遊んでいるのを見て、自分の中に忘れられていた、遊びと幻想についての渇望も、そっと灯された、と。
こうして、気づかないうちに、平心湯の庭から生まれた、「分かち合い」「耳を傾ける」「夢見る」ことの純粋な楽しさは、無形の暖流となって、ネットワークの糸を通じ、そっとより多くの人々の心へと流れ込んでいった。この温かい共鳴と伝播そのものが、すでに最も完璧な成果だった——ジャスト・パーフェクト。
天神は漫画本をどけ、庭に戻った静寂の中で、まだ笑い声がこだましているかのような老松を眺め、口元にはあの特徴的な、だらりとしていながらもすべてを見通す笑みを浮かべた。
「明日も、新しい冒険が始まる」
「私たちの『心』の王国は」
「永遠に開店中だ」
陽射しは温かく、微風が中庭のまだ片づけられていない紙飛行機の残骸をそっと揺らし、細かいサラサラという音を立てた。それはこの完璧な子供時代の冒険のために、そっと拍手を送っているかのようだった。
そして、あの巨大な子供らしい感謝の絵は、平心湯の大堂の最も目立つ壁に丁重に貼られ、その傍らには、そっと、優介と梨花が子供たちと陽射しの中で撮った一枚の写真が添えられていた。裏にはこう書かれている。「役者から、証言者へ、そして分かち合う者へ。ありがとう、平心湯」
【第44話・完】
皆さま、いつも応援してくださり本当にありがとうございます。
第44話を楽しんでいただければ嬉しいです。
この物語を通して、皆さんにも純粋な楽しさや幸せを感じてもらえたらと思います。




