第二十話・帰郷の猫と心エネルギーの初鳴き
——最初の温かなピース、ここに落ちる——
【開場】待ちきれない優しさと自らの手による約束
夜の帳が下り、平心湯は雪の夜に灯りで温かく照らされていた。
「今すぐにでもあの子を迎えに行く!」
夕食が終わるとすぐに、阿楽は「ホッ」と立ち上がり、揺るぎない決意を瞳に輝かせた。
「はい、先輩。私も一緒に行きます。」
琪琪は即座に応じ、相変わらず落ち着いた口調だが、瞳を流れるデータの瞬きがわずかに速くなっていた。
「ふん、真夜中に大阪まで猫を迎えに行くだなんて……さすがは低レベルプレイヤーがする非効率な行動ね。」
加美は口では愚痴りながらも、素早くスマホで夜行バスの時刻表を検索していた。「最終バスは23時15分よ。あと45分で準備しなさい。遅れたら自分で歩いて大阪まで行くことになるわよ!」
猫バスの抱き枕に埋もれている天神は、アニメの画面から視線を外し、二人を温かく見つめた。
「道中気をつけて。」
彼は阿楽に手を振り、「阿楽、こっちへ来なさい。」
天神の手には、いつの間にかコスプレの残り布で作られた厚手のコートが握られており、襟元には柔らかな猫耳の形が丁寧に縫い付けられていた。「あんな薄着で雪が降る外に飛び出すつもりだったのか?早くこれを着なさい。」
阿楽はすぐにこの心のこもったコートを着ると、一股の暖流が全身を包み込んだ。彼は顔を上げ、感動の星を瞳に輝かせて言った。
「ありがとうございます、老板様!この温もり……コートそのものより、ずっと心に染み渡ります。」
天神は優しく微笑み、作業場を指さした。「まだ残り布が少しある。猫ちゃん用の寝床を作るのに使える。」
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【第一幕】夜行バス・初めてのときめきと香り
雪は相変わらず細かく降り続けていた。阿楽と琪琪は雪を踏みしめ、バス停へ急ぎ、大阪行きの最終夜行バスに乗り込んだ。
車内の灯りは薄暗く、数人の乗客がぽつりぽつりと座っているだけだった。阿楽は温かい新しいコートに身を包み、心中は感動でいっぱいだった。彼は少しも眠れず、ずっと窓の外を流れる夜景を見つめていた。彼の隣には、琪琪が座っている。
奇妙な感覚が阿楽の心中に広がっていった。これは初めて、琪琪と二人きりで、景色を楽しめる温かい空間で時間を共に過ごす瞬間だった。車窓の外は寒さが厳しいが、車内は春のように暖かく、窓ガラスには次第に白い霧が立ち込めていた。
「先輩。」
琪琪が突然声をひそめて口を開き、瞳のデータの流れが微かに光った。「ネットで見た行動を試させていただけませんか?」
阿楽の許可を得ると、彼女は人差し指を伸ばし、曇ったガラスに完璧なハートの形をそっと描いた。そのくっきりとしたハートを通して、窓の外の雪の夜の景色がたちまち目の前に飛び込んでくる。
「ネットの情報によると、これはロマンチックを表現する方法の一つだそうです。」
琪琪は真剣に説明したが、周囲の霧を拭い去る際、わざと隅っこに小さなハートの形を残しておいた。
阿楽の鼓動は一瞬止まりそうになった。彼は窓の外の広い雪景色を楽しみながら、時折ガラスの隅にある輝く小さなハートをちらりと見て、頬が思わずほんのり熱くなった。その小さなハートは、琪琪の無言の寄り添いのように、景色全体を格別に優しいものに変えていた。
彼の腕が時折琪琪に触れることがあった。触れるたびに、彼は電流が走ったように微かに震え、慌てて少し離れ、相手に自分の緊張がばれるのではないかと心配した。
「先輩、あなたの心拍数と体温に軽微な異常な変動が見られます。猫ちゃんのことが心配なのですか?それとも他に不快なところが?」
琪琪が振り返り、瞳の青い光が微かに揺らめき、専門的な分析を始めた。その澄んだ瞳は薄暗い光の中で一層明るく輝いていた。
「ああ?い、いいえ!たぶん…たぶん車内が暑いからでしょう!それに……それにちょっと緊張してるだけです!」
阿楽は慌ててごまかし、頬が熱くなっているのを感じた。
彼はこっそり琪琪を一目見たが、琪琪はとっくに阿楽がこっそり自分を見つめていることに気づいていた。琪琪はおそらく初めて阿楽と遠出するので、窓の外の雪景色を見つめながら、実は阿楽をしっかり見つめていたのだ。
突然、琪琪が主動的にそっと頭を阿楽の肩にもたせかけ、二人だけに聞こえる声でささやいた。
「先輩……こんな風に充電したら、もっと早くならないか試してみませんか?」
阿楽は全身が瞬時に硬直し、心臓は喉から飛び出そうなほど速く鼓動したが、心の中はとても温かくて温かかった。彼は無意識のうちに心の中で祈った。「天神様、ありがとうございます!」
体は素直に、微動だにせず、琪琪にもたれさせた。
遠く平心湯にいる天神は、まぶたを軽くピクッと動かし、口元にひとさしの理解と微笑みを浮かべて、声を潜めて呟いた。「無邪気な恋の駆け引きは、本当に甘いものだね……」
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【第二幕】再会・遅れて訪れた温もり
午前3時過ぎ、数時間のバスの旅を経て、彼らはついに大阪駅で降りた。
「もうすぐそこだ!」
鮮明な記憶を手掛かりに、阿楽は琪琪を連れて駅近くの馴染みの路地へ急いだ。
ごみが積み上がった隅っこにある、ボロボロの段ボールの巣で、あの三毛猫は相変わらず丸まっていた。聞き覚えのある足音を聞くと、警戒して顔を上げたが、阿楽だと認識した瞬間、猫の瞳の警戒心は巨大な悔しさと喜びに溶け、長い「にゃー~~」という鳴き声をあげた。それは「なぜこんなに遅くまで来なかったの」と問いかけているようだった。
その右前脚には、今でも当初の歪んだ蝶結びの包帯の跡がかすかに見て取れた。
「猫ちゃん!ごめんね!お迎えに来たよ!」
阿楽はすぐに駆け寄り、慎重にしゃがみ込み、声を詰まらせた。猫ちゃんはためらいもせず、力いっぱい彼の手のひらに擦り寄せ、響き渡るゴロゴロ音が最高の慰めとなった。
琪琪は静かに記録した。
「対象生物を確認。生命徴候は安定。感情分析:極度の喜悦とリラックス。絆の深さは、通常のデータモデルを超えている。」
阿楽が猫ちゃんを優しく抱きしめ、天神からもらったコートで風雪から守ったその瞬間——
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[システム・サイレント記録]
「家園守護・受け入れ計画」実行中...
初の非人間メンバー:「猫ちゃん」登録完了。
絆認証:「阿楽」にバインド。
地球愛エネルギー総量変動:+0.001% (源泉:純粋な守護と再会の喜び)
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【第三幕】「家」への入門儀式・默契の創造
最も早い列車に乗って飛騨に戻り、平心湯に到着した頃には、空はもうぼんやりと明るくなり始めていた。
温かくも現実的な「入門儀式」が始まった:
第一歩:健康確認。
琪琪が穏やかにスキャンする。「健康状態は良好。亜空間への進入を推奨。」
第二歩:実用的な支援。
加美が猫用の皿とトイレ砂の容器を持って来て、淡々とした口調で言う。「ほら、最低限の物資よ。」
阿楽は加美を感動した様子で見つめ、心から一言、「ありがとう、加美姉さん。」
加美は返事もせず、ただ軽く「ふん」と一声漏らして振り返り去っていったが、目尻でさりげなく猫ちゃんを一目見て、ほとんど見えないほどの微笑みを口元に浮かべた。
第三歩:身を落ち着ける場所・默契の共同創造。
阿楽は休憩も取らず、すぐに作業場に駆け込み、天神が準備してくれたコスプレの残り材料を手に取り、一心不乱に猫ちゃんのための温かい猫の寝床作りに没頭した。
琪琪は何も言わず、ただ静かに彼のそばに立った。手を繋ぐ必要もなく、ただ近くにいるだけで、目に見えない絆が築かれたかのようだった。
彼が必要とする時、彼女は正確に適切な工具を手渡し;布を固定する時、ちょうど良い力加減で押さえ込み;次の一手を考える時、彼が必要とするかもしれない材料を既に手元に準備していた。
二人に余分な会話はなかったが、動きはダンスのように流暢だった。阿楽は裁断と縫製に集中し、心中に溢れる愛と優しさを一針一針、猫の寝床に縫い込んでいった。そして彼が気づかないうちに、一種の温かい波動が、彼が全身全霊で没入する胸元から自然と発せられ始めた。
この温かい波動は優しく彼を包み込み、彼のそばにいる琪琪にも及び、その場にいる全員がその没頭の温かさを感じ取った。
「温かい波動を検知。」
琪琪は声を潜めて言い、瞳のデータの流れが穏やかに滑っていく。「先輩の心に満ち溢れる『創造的愛エネルギー』が自然に発散されている現象です。この波動は、私のシステムに顕著な安定効果をもたらします。」
加美が作業場の前を通りかかり、この無言の默契と阿楽の身から放たれる温かい波動を目にすると、小声で呟いた。
「ふん……猫の寝床を作るだけで、こんなに温かいオーラを放つなんて……天神様があなたを選んだのも納得だわ。」
そう言うと、またしても天神のそばにすり寄り、骨抜きになったようにぴったりくっついた。「天神様~あの人たち、本当に子供っぽいですね~でも、なかなか温かい光景です~」
天神は遠くからそれを見つめ、口元に一片の理解と喜びの微笑みを浮かべた。
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[システム・サイレント更新]
温かい波動現象「創造的愛エネルギー」を検知。
エネルギー性質:極度に純粋、安定、親和力あり。
効果:範囲内の味方ユニットに持続的なプラス影響を与える。
絆の同期率が共同創造により小幅に上昇。
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阿楽はそばで静かに支援する琪琪を見つめ、心の中が巨大な満足感と幸福感でいっぱいになった。彼は何も言わず、ただ琪琪に輝くような笑顔を見せ、そしてさらに心を込めて作業に打ち込んだ。
第四歩:名前・縁の確認。
猫ちゃんが彼の手作りした温かい猫の寝床で好奇心旺盛に探検する様子を見て、阿楽は思わず口をついた。
[こうじ]!彼女に出会えて、再会できたことが、僕の最大の幸運だから!」
猫ちゃんは理解したかのように、そっと「にゃ」と一声鳴くと、阿楽の指を舐めた。
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[システム更新]
家族成員ファイル作成完了。
命名者:阿楽。
居所:阿楽手作り温かい猫の寝床。
状態:「阿楽」にバインド済み。「家」の概念の祝福を受ける。
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【第四幕】静かな朝と目覚める知覚
翌朝、ピーターは異常なほどの静けさと心地よさの中で目を覚ました。彼は畳の上に横たわり、すぐには起き上がらず、ただ静かに感じていた。彼は気づいた、ここではどんどん深く眠れるようになり、目覚めた後の頭もかつてないほど冴え渡っている。長年にわたって彼を悩ませてきた、形のない不安感と緊張感が、いつの間にかこの場所の空気によって薄められているようだった。
「なぜ……ここではどんどん静かで、心地よくなっていくのだろう?」
彼は障子から差し込む朝の光を見つめ、声を潜めて呟いた。この感覚は、彼が大金をかけて作った防音睡眠キャビンや、雇った最高級の心理カウンセラーがもたらす効果よりも、ずっと真実で深く感じられた。彼は少し理解し始めた、なぜ従業員たちがここを「家」と思うのかを。
同時に、彼の枕元に置かれた皮の紐のブレスレットには、水晶が朝日の光に照らされ、内側に温かな光彩がゆっくりと流れているかのようだった。
平心湯の新たな日常が始まった:
・阿楽は施設を修理しながら、温かい猫の寝床で眠る小幸運を時々見つめる。
・琪琪はデータ処理の合間に、足元を通り過ぎる猫ちゃんをそっと撫でる。
・加美は「しぶしぶ」小幸運がカウンターの隅に専用の昼寝スペースを持つことを認める。
・山田師匠は黙って味付けされていない猫飯を準備する。
・天神は相変わらずアニメを見ているが、手元には熱いお茶が添えられ、時折猫ちゃんにウインクする。
劇的な溺愛などなく、ただ細く長く流れるような、優しい受け入れと默契があるだけだった。
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[地球愛エネルギー総量安定更新:16.501%]
[受け入れ計画 - 段階的成果:1/???]
[温かさ指数:安定上昇中...]
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(魔法もなく、近道もない。ただ一晩中の汽車の旅があり、家族のために忙しく動く一対の手があり、言葉を必要としない默契の共同創造があり、次第に温もりで溶かされていく氷結した心がある——これこそが、「家」というものが最も人を感動させる奇跡なのである……)
最後に、ここまで読んでくださった全てのあなたに、心から感謝を申し上げます。「平心湯」のこの温もりが、言葉を介して、少しでもあなたの心を温めることができますように。私たちがそれぞれ自分の人生で、真夜中を奔走してでも迎えに行きたい「こうじ」を見つけ、また他人の世界において、黙って温かいコートを手渡す「天神」となれますように。
物語はまだまだ長い。温かい奇跡は、これからも飛騨の雪の夜に、静かに育ち続ける。




