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9.ハナミズキの香水

 カラオケが終わった帰り道、みんなで歩いて帰った。

「喉からからー。歌いすぎたー」

 五十嵐悠也がそう言うとみんなも「俺もー」「私もー」と言った。

 みんな同じ気持ちかよ。そう思い苦笑した。


「あれ、友花もこっちの道?」

 みんな住んでいるところがバラバラなため、家が近い。というのは少し珍しいらしい。

「うん。そうだよ! 悠也と同じだ〜!」

 友花はまるで子犬のように言った。なんかいつも子犬みたいに俺のあとをついてくる。


「あれ、友花なんか違う匂いがする」

 くんくんと友花の服をかいだ。


「えっ! 気づいてくれたの! ゆうやは鼻がいいね。犬みたい!」

 なんだよ、お前は子犬で俺は犬か?

 髪をくしゃくしゃしている俺に向かって友花が微笑みかけた。


「ふふ、私、実は香水かけているの。香水をかけるとモテちゃうんだよー」

 友花が嘘っぽく笑う。

「んなわけないだろ」

 そう言うと友花が近づいてきた。

「私に騙されてみてよ。一緒に買いに行かない?」

 俺の手首を掴みながらニヤーっとする友花の顔に思わずドキッとしてしまう。


「ね、行こ。二人で」

「え、う、うん」


 一体何考えているんだ。そう思ったがとっさに答えてしまった。この答えはあっていたのか間違っていなのか分からない。でもそんな気にすることないとこの日は思っていたのだ。



「おはよー」

 いつものように教室に入るとクラスのみんなが「おはよー」「カラオケ楽しかった!」と言ってきた。俺はみんなに笑いかけ、ふと自分の席を見た。その席の隣に目を向けるといつものように相澤が今日も一人で座っている。本当にこっちに来ればいいのに。


「悠也、今日、楽しみだね」

 友花は俺の腕を引っ張りみんなに聞こえないくらいの声でこそっと話した。

「おう」

 この一言だけを言い、自分の席へ向かった。


「相澤さん、おはよ」

「あ、悠也……。おはよ」

 それだけを言ってそっぽを向いてしまった。

 嫌われているんだろうか。


「相澤さーん」

 俺はわざとっぽく話しかけた。

「何?」

 相澤が冷たい目で俺を見つめた。

 あ、逆効果だ。


 しょぼんとまるで飼い主に怒られ、餌をくれない犬のように落ち込んだ。

 クスクスと隣から笑い声が聞こえた。

「悠也、犬みたい」

 相澤が笑っている。


「おい、笑うなよ!」

 それでも止まらないクスクスと笑う相澤をずっと見つめていた。


「あ、その消しゴム」

 俺はある消しゴムに気付いた。その消しゴムは確か、俺が転校するときに相澤にプレゼントで渡したやつだよね……。まだカバーが外れていない新しい消しゴムのようだ。

 相澤はさっと隠した。


「使ってくれないの?」

「ち、違うの。消しゴム使ったらなくなっちゃうじゃん。だから、お守りみたいに使っているの」

 相澤は下を向きながら言った。


 お守りか。

 ちょっとドキッとした。

「どんどん使って。また新しく、買ってあげるから」

「お願いね」

 その相澤の言葉がなんか嬉しかった。


「ちょうど今日、消しゴム忘れてたから」

「なんだよ、そういうことかよ!」

 俺と相澤は笑った。だんだんとあの時間に近づいていった。


「悠也ー!」

 もう下校の時間になり、友花が手を振りながらこっちに近づいてきた。

「行こ!」


 友花はぐいっと俺の腕を引っ張った。

「なんかあの二人、最近ずっといるよなー」

「しかも、一緒に帰っているらしいよ!」

「二人とも付き合っているんじゃね?」


 その声を聞きながら教室を出た。友花はなんとも思ってないらしく、黙って教室を出ていた。だけど、なぜか俺はその言葉にムカついた。


「ここだよー!」

 友花がモールを指さして言った。

「へー」

 俺はそのモールを見上げて言った。


「とにかく行こ!」

 またまた引っ張られ、そのモールへと足を運んだ。


「いろんなお店があるねー」

「そうなんだよ!」

 ここのモールには数々の店があり、どれも有名なブランドのお店が揃っている。中学のときもここに来たことがあるような感じがする。

 そして、香水が売っているところへ向かった。


「うわー。いろんな匂いがする」

「でしょ? ちなみにこれは、私がつけている香水だよ」

 友花がつけている香水を手に取り、香りを嗅いでみると、海のような香りがした。でもちょっとキツイ感じがした。


「いや……」

「買ってよ!」

 俺が言いかけたとたん、友花が頬を赤らめて言い出した。


「一緒にしようよ! だって……」

 友花がなにか言いかけた途端、友花のスマホから着信音がした。友花がスマホの電源をつけた後、うっすらと微笑んだ。俺はその顔を見逃さなかった。なにか怪しい。そう思い、ちらっと友花のスマホの画面を見た。送信者は――ありさだった。


「ねぇ、写真を撮ろうよ」

「え。急にどうした?」

「はいはい、笑ってー」


パシャ


「撮れたー!」

 友花はスマホを操作し、その後友花のスマホに誰からかの着信音がした。

「オッケー、じゃあ、買って同じ香水」

 友花はスマホをカバンにしまい、話をもとに戻した。


「いや、あの香水は俺には合わないなー」

 俺は相澤を思いだした。そしてある香水を手に取った。ハナミズキだ。

「ハナミズキ?」

 友花がぼそっと言った。


「それより私と同じ…」

「いや、俺はこれかな?」

 ハナミズキはとてもいい匂いがした。

「何? 好きな人でもいるの?」

「え、うん。いるよ」

「誰?」

 友花は前をまっすぐ向いて言った。

 言うわけ無いじゃん。そう言おうとした。しかし――。


「相澤玲奈」

 俺はまっすぐ友花を見つめながら言った。

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